2 / 67
こんなはずでは
2. 卒業と帰還
しおりを挟む
婚約者のダミアン様に振られたので、学園の卒業パーティーは一人で参加する羽目になった。気まずさと虚しさが胸を刺す。周りは卒業後すぐ結婚する子、一、二年相手の領地で花嫁修業をして嫁ぐ予定の子ばかりだ。完全に浮いてしまった。
思い返せば、初めての王都暮らしは刺激的だったし、学園生活は悪くなかった。魔法は魔力自体が弱くて、少し残念な成績だったけど。ブロワ家の嫡子として、剣術の授業を取ったのは正解だった。こちらの方は"氷の騎士"と恐れられている父に似たのか、貴族令息に交じってもクラスで上位の成績を収めることができた。
ちなみに、父が“氷の騎士”と呼ばれるのは、その魔力が氷属性だからだ。魔力には火・氷・水・風・土・光・闇の七属性があるが、現代魔法理論では氷と水は同一の属性とされている。生まれつき魔力が強ければ、高い攻撃力を誇る氷魔法を扱えるが、私の魔力は弱く、使えるのは最弱の水魔法だけだ。
「ブロワ領に帰ったら、新しく婚約者を探さないとなあ。」
侯爵領だけあって領土はデカいし、領民に重税を課しているわけでもないのに常に黒字収支だ。これは防衛費として、国から毎年援助があるのも大きい。割と私、優良物件なのにな。
一つ懸念は、隣国だ。隣国は皇帝が変わってから、政権への不満をそらすために侵略戦争を繰り返している。とても健全な統治法とは思えない。ブロワ領とも、ここ数年は武力衝突と停戦を繰り返してきた。実はこの隣国との関係性が影響し、私の婚約者選びはすごく難航した。誰も紛争地域に婿入りしたがらないのは当然だろう。
さあ、名残惜しいが、王都も最終日だ。そう思っていると実家から早馬で連絡がきた。
――父負傷、至急戻れ
なんと魔獣のスタンピード制圧で父が右腕を落としたらしい。転移魔法は属性に関係なく使える魔法なので、私に強い魔力があれば王都からブロワ領まで一瞬だ。でも、私のよわよわ魔力では、飛べて寮から学園の玄関までだ。馬車に頼るしかない。辺境のブロワ領まで馬車だと普通は五日はかかる。少し危険な道だが最短になるルートを選び、できる限り休む時間を減らし、なんとか三日で実家に戻った。ブロワ城はゴシック調の外観を持ちながら、実用性を重んじた堅牢な古城だ。
「エリカお嬢様、お帰りなさいませ。どうぞこちらに。ブロワ侯爵ガストン様がお待ちになっております。」
家令のフィリップに出迎えられた。私の祖父の代からここに勤めている彼は手厳しい人だが、実はブロワ領のことを一番よく考えてくれている使用人だ。彼のアドバイスはいつも的を射ている。
フィリップに連れられて父の居室に向かうと、怒り狂った母に出くわした。
「お母様、エリカただいま戻りました。」
一応、カーテシーで挨拶する。
「ふん。あんたなんかもう娘じゃないわ!!言われなくても出て行ってやるわよ、こんなド田舎!」
……相変わらず感情の起伏が激しい。母は若い頃それはそれは見目麗しかったと聞くが、今は見る影もない。私の出産後体重が倍に増えたと聞いたからそのせいもあるだろうが、なんせ厚化粧が顔から浮いている。そのまま行ってしまった。
「何かあったんでしょうか?」
私が聞くと、フィリップが少し言いにくそうに答えた。
「奥様が絵師のドナを離れに住まわせて、私財を投げうって彼に投資していたことが侯爵様にバレたんです。ついに離縁を言い渡されたんでしょう……。」
「えっ?」
思わず口がへの字になってしまった。こういうところが貴族令嬢としてよくない。どうしても顔に出やすい。なんとか心の平静を保ち、父の部屋に入った。
――こんこん
「エリカです、ただいま戻りました。」
「入りなさい。」
ドアを開けて驚いた。報告は受けていたが、右腕を失った父は、足もうまく動かせないようで、ゆっくりベッドの上に腰掛けた。ベッドの上に座る父の姿は、かつての“氷の騎士”の威厳をかすかに残しつつも、あまりに痛々しかった。
「お、お父さま!」
「……エリカよ、今回の魔獣のスタンピードは自然発生のものではない。魔獣の生息マップと明らかに矛盾している。おそらくこれは人為的なものだ。」
「だ、誰がそんな!」
「おそらく隣国の罠だろうな。」
「…そんな……あまりにも無茶苦茶です。」
涙が目にあふれ、とめどなく零れ落ちた。
「私はもうこの通り剣を振ることはできない。だから王都の騎士団に援軍要請をした。じきに彼らがここに来る。お前はブロワ侯爵代理として、彼らに応対してくれ。」
「わ、私がですか?!」
「…お前しかおらんのだ。しくじれば領土を失うことになる。心して挑め。」
「は、はい。」
思い返せば、初めての王都暮らしは刺激的だったし、学園生活は悪くなかった。魔法は魔力自体が弱くて、少し残念な成績だったけど。ブロワ家の嫡子として、剣術の授業を取ったのは正解だった。こちらの方は"氷の騎士"と恐れられている父に似たのか、貴族令息に交じってもクラスで上位の成績を収めることができた。
ちなみに、父が“氷の騎士”と呼ばれるのは、その魔力が氷属性だからだ。魔力には火・氷・水・風・土・光・闇の七属性があるが、現代魔法理論では氷と水は同一の属性とされている。生まれつき魔力が強ければ、高い攻撃力を誇る氷魔法を扱えるが、私の魔力は弱く、使えるのは最弱の水魔法だけだ。
「ブロワ領に帰ったら、新しく婚約者を探さないとなあ。」
侯爵領だけあって領土はデカいし、領民に重税を課しているわけでもないのに常に黒字収支だ。これは防衛費として、国から毎年援助があるのも大きい。割と私、優良物件なのにな。
一つ懸念は、隣国だ。隣国は皇帝が変わってから、政権への不満をそらすために侵略戦争を繰り返している。とても健全な統治法とは思えない。ブロワ領とも、ここ数年は武力衝突と停戦を繰り返してきた。実はこの隣国との関係性が影響し、私の婚約者選びはすごく難航した。誰も紛争地域に婿入りしたがらないのは当然だろう。
さあ、名残惜しいが、王都も最終日だ。そう思っていると実家から早馬で連絡がきた。
――父負傷、至急戻れ
なんと魔獣のスタンピード制圧で父が右腕を落としたらしい。転移魔法は属性に関係なく使える魔法なので、私に強い魔力があれば王都からブロワ領まで一瞬だ。でも、私のよわよわ魔力では、飛べて寮から学園の玄関までだ。馬車に頼るしかない。辺境のブロワ領まで馬車だと普通は五日はかかる。少し危険な道だが最短になるルートを選び、できる限り休む時間を減らし、なんとか三日で実家に戻った。ブロワ城はゴシック調の外観を持ちながら、実用性を重んじた堅牢な古城だ。
「エリカお嬢様、お帰りなさいませ。どうぞこちらに。ブロワ侯爵ガストン様がお待ちになっております。」
家令のフィリップに出迎えられた。私の祖父の代からここに勤めている彼は手厳しい人だが、実はブロワ領のことを一番よく考えてくれている使用人だ。彼のアドバイスはいつも的を射ている。
フィリップに連れられて父の居室に向かうと、怒り狂った母に出くわした。
「お母様、エリカただいま戻りました。」
一応、カーテシーで挨拶する。
「ふん。あんたなんかもう娘じゃないわ!!言われなくても出て行ってやるわよ、こんなド田舎!」
……相変わらず感情の起伏が激しい。母は若い頃それはそれは見目麗しかったと聞くが、今は見る影もない。私の出産後体重が倍に増えたと聞いたからそのせいもあるだろうが、なんせ厚化粧が顔から浮いている。そのまま行ってしまった。
「何かあったんでしょうか?」
私が聞くと、フィリップが少し言いにくそうに答えた。
「奥様が絵師のドナを離れに住まわせて、私財を投げうって彼に投資していたことが侯爵様にバレたんです。ついに離縁を言い渡されたんでしょう……。」
「えっ?」
思わず口がへの字になってしまった。こういうところが貴族令嬢としてよくない。どうしても顔に出やすい。なんとか心の平静を保ち、父の部屋に入った。
――こんこん
「エリカです、ただいま戻りました。」
「入りなさい。」
ドアを開けて驚いた。報告は受けていたが、右腕を失った父は、足もうまく動かせないようで、ゆっくりベッドの上に腰掛けた。ベッドの上に座る父の姿は、かつての“氷の騎士”の威厳をかすかに残しつつも、あまりに痛々しかった。
「お、お父さま!」
「……エリカよ、今回の魔獣のスタンピードは自然発生のものではない。魔獣の生息マップと明らかに矛盾している。おそらくこれは人為的なものだ。」
「だ、誰がそんな!」
「おそらく隣国の罠だろうな。」
「…そんな……あまりにも無茶苦茶です。」
涙が目にあふれ、とめどなく零れ落ちた。
「私はもうこの通り剣を振ることはできない。だから王都の騎士団に援軍要請をした。じきに彼らがここに来る。お前はブロワ侯爵代理として、彼らに応対してくれ。」
「わ、私がですか?!」
「…お前しかおらんのだ。しくじれば領土を失うことになる。心して挑め。」
「は、はい。」
47
あなたにおすすめの小説
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ストーカーから逃げ切ったつもりが、今度はヤンデレ騎士団に追われています。
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる