ねえ殿下、私に堕ちてきて~ポンコツと噂の廃嫡王子を籠絡したい

志熊みゅう

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こんなはずでは

2. 卒業と帰還

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婚約者のダミアン様に振られたので、学園の卒業パーティーは一人で参加する羽目になった。気まずさと虚しさが胸を刺す。周りは卒業後すぐ結婚する子、一、二年相手の領地で花嫁修業をして嫁ぐ予定の子ばかりだ。完全に浮いてしまった。

思い返せば、初めての王都暮らしは刺激的だったし、学園生活は悪くなかった。魔法は魔力自体が弱くて、少し残念な成績だったけど。ブロワ家の嫡子として、剣術の授業を取ったのは正解だった。こちらの方は"氷の騎士"と恐れられている父に似たのか、貴族令息に交じってもクラスで上位の成績を収めることができた。

ちなみに、父が“氷の騎士”と呼ばれるのは、その魔力が氷属性だからだ。魔力には火・氷・水・風・土・光・闇の七属性があるが、現代魔法理論では氷と水は同一の属性とされている。生まれつき魔力が強ければ、高い攻撃力を誇る氷魔法を扱えるが、私の魔力は弱く、使えるのは最弱の水魔法だけだ。

「ブロワ領に帰ったら、新しく婚約者を探さないとなあ。」

侯爵領だけあって領土はデカいし、領民に重税を課しているわけでもないのに常に黒字収支だ。これは防衛費として、国から毎年援助があるのも大きい。割と私、優良物件なのにな。

一つ懸念は、隣国だ。隣国は皇帝が変わってから、政権への不満をそらすために侵略戦争を繰り返している。とても健全な統治法とは思えない。ブロワ領とも、ここ数年は武力衝突と停戦を繰り返してきた。実はこの隣国との関係性が影響し、私の婚約者選びはすごく難航した。誰も紛争地域に婿入りしたがらないのは当然だろう。

さあ、名残惜しいが、王都も最終日だ。そう思っていると実家から早馬で連絡がきた。

――父負傷、至急戻れ

なんと魔獣のスタンピード制圧で父が右腕を落としたらしい。転移魔法は属性に関係なく使える魔法なので、私に強い魔力があれば王都からブロワ領まで一瞬だ。でも、私のよわよわ魔力では、飛べて寮から学園の玄関までだ。馬車に頼るしかない。辺境のブロワ領まで馬車だと普通は五日はかかる。少し危険な道だが最短になるルートを選び、できる限り休む時間を減らし、なんとか三日で実家に戻った。ブロワ城はゴシック調の外観を持ちながら、実用性を重んじた堅牢な古城だ。

「エリカお嬢様、お帰りなさいませ。どうぞこちらに。ブロワ侯爵ガストン様がお待ちになっております。」

家令のフィリップに出迎えられた。私の祖父の代からここに勤めている彼は手厳しい人だが、実はブロワ領のことを一番よく考えてくれている使用人だ。彼のアドバイスはいつも的を射ている。

フィリップに連れられて父の居室に向かうと、怒り狂った母に出くわした。

「お母様、エリカただいま戻りました。」

一応、カーテシーで挨拶する。

「ふん。あんたなんかもう娘じゃないわ!!言われなくても出て行ってやるわよ、こんなド田舎!」

……相変わらず感情の起伏が激しい。母は若い頃それはそれは見目麗しかったと聞くが、今は見る影もない。私の出産後体重が倍に増えたと聞いたからそのせいもあるだろうが、なんせ厚化粧が顔から浮いている。そのまま行ってしまった。

「何かあったんでしょうか?」

私が聞くと、フィリップが少し言いにくそうに答えた。

「奥様が絵師のドナを離れに住まわせて、私財を投げうって彼に投資していたことが侯爵様にバレたんです。ついに離縁を言い渡されたんでしょう……。」

「えっ?」

思わず口がへの字になってしまった。こういうところが貴族令嬢としてよくない。どうしても顔に出やすい。なんとか心の平静を保ち、父の部屋に入った。

――こんこん

「エリカです、ただいま戻りました。」

「入りなさい。」

ドアを開けて驚いた。報告は受けていたが、右腕を失った父は、足もうまく動かせないようで、ゆっくりベッドの上に腰掛けた。ベッドの上に座る父の姿は、かつての“氷の騎士”の威厳をかすかに残しつつも、あまりに痛々しかった。

「お、お父さま!」

「……エリカよ、今回の魔獣のスタンピードは自然発生のものではない。魔獣の生息マップと明らかに矛盾している。おそらくこれは人為的なものだ。」

「だ、誰がそんな!」

「おそらく隣国の罠だろうな。」

「…そんな……あまりにも無茶苦茶です。」

涙が目にあふれ、とめどなく零れ落ちた。

「私はもうこの通り剣を振ることはできない。だから王都の騎士団に援軍要請をした。じきに彼らがここに来る。お前はブロワ侯爵代理として、彼らに応対してくれ。」

「わ、私がですか?!」

「…お前しかおらんのだ。しくじれば領土を失うことになる。心して挑め。」

「は、はい。」
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