年下のユニコーン獣人が私の婚活の邪魔をしていたって本当ですか?!

志熊みゅう

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第一章 5度目の婚約破棄

3. 童話

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 自室に戻ると、机に置きっぱなしにした童話の翻訳が目に入った。そうだ、内容をまだ確認できていなかった。

 童話の多くは、テリソート王家の血を引くロレンシオに頼んで、翻訳してもらっている。ロレンシオはアルバ公爵家の嫡男だ。本来なら、公爵家のご子息である彼が、私のような下級貴族の娘と親しくするなどあり得ない話だけど、幼い頃に開かれた王宮の茶会で、珍しい蝶を追いかけて、森に迷い込んだ彼を、私が見つけ出したことをきっかけに、不思議なご縁ができた。ロレンシオは私のことを「姉様、姉様」と呼び、実の姉のように慕ってくれている。

 アルバ公爵家はもともと先王の弟が臣籍降下して起こした家で、隣国との友好のため、王弟はテリソートの王女を妻に娶った。だからロレンシオも、獣人のクォーターだ。年は5歳下で最近学園卒業した。学生時代はまだしも、卒業した今は自領の仕事を任せられているはずなのに、この前頼んだユニコーンの童話も、あっという間に翻訳してくれた。私が婚約破棄されるたびに、揶揄ってくる以外は、とってもいい子である。

「"ユニコーンとお姫様"か。」

 翻訳の原稿の一枚目をめくる。物語は、冷遇されたお姫様が森の中の塔に幽閉されるところから始まる。好奇心旺盛なお姫様は、こっそり塔を抜け出しては裏の森を散策していた。ある日、群れからはぐれ衰弱したユニコーンの子どもと出会う。お姫様はユニコーンを塔に連れ帰り、懸命に看病して、やがて元気になった彼を仲間のもとへ送り届けた。

 年月が流れ、大人になったユニコーンは、魔法で人間の姿になって、政略結婚のため隣国に嫁がされそうになったお姫様を助け出す。そして彼女にユニコーンは、自分の番だと告げ、プロポーズする。彼女を冷遇していた王と王妃を倒し、二人は共に王位に就く――そんなおとぎ話だった。

 これは絶対に売れる!

 そうだ絵は、最近仲良くなった絵師のマヌエルにお願いしよう。彼の幻想的なイラストはきっとこの話に合う。わくわくしながら、マヌエルに童話の写しを添えて、依頼を送った。

 もちろん、ロレンシオにも、お礼の手紙をしたためた。そういえば彼とは彼が学園を卒業したお祝いに、王都で会ったきりだ。久しぶりにあった彼は、ぐっと身長が伸びて、すっかり大人の男性になっていた。さらさらの白に近い銀髪がキラキラしていて、澄んだ菫色の瞳によく映えて美しかった。

 子ども時代は、とにかくやんちゃで、よく悪戯しては周りを困らせていたのに、ちょっと不思議な感じがした。――大抵私がそういう昔話をすると、「姉様はもう僕は子どもじゃありません」って怒られてしまうのだけど。

 確かあの時は、5人目の婚約者が決まったという報告をした。私が、やっとまとまった婚約を嬉々として伝えると「……姉様も懲りないですね」といって、彼はうっすら微笑んだのをよく覚えている。そういえば、ロレンシオが婚約したって話、聞かないんだよなあ。イケメンの次期公爵なんて、毎日のように釣り書が押し寄せるだろうに。

 さてと、夜会のドレスはどうしようか。もうこうなったら、みじめな行き遅れ令嬢に見えないように、精一杯着飾ってやろう。私の何の変哲もない焦げ茶の髪と青い瞳だって、盛りに盛ればそれなりに華やかにみえる。ありったけの宝石と、王都で流行の仕立て屋のオートクチュールを身につけてホールで一番目立ってやる。そう心に決めた。

 ――コンコン

「フロレンシア様、ローズヒップティーをお持ちしました。」

「入って」

 侍女のブランカが部屋にハーブティーを差し入れてくれた。彼女は使用人の中でも年が近くて、どこか友達のような存在でもある。

「――クラウディオ様にも婚約破棄されてしまったわ。貧乏伯爵なら、金の力で押せば、浮気も不倫もされないと思ったのに。」

「お嬢様、お話は伺っております。今回の件もお嬢様には全く非がないかと。」

「そう!私には非がないと思うの。でも、こう何度も何度も婚約が破談になると、私の側に問題があるんじゃないかと噂する人もいるのよ。」

「……お嬢様。」

「三人目の方のお母様が、懇意にしていた祈祷師とやらには悪霊がついているって言われたし、私もご祈祷してもらったほうがいいのかも。」

「あれは、悪質な詐欺だと思いますよ。」

「さすがに冗談よ。あの家、祈祷師へ寄進しすぎて財政傾いてるって聞いたし、まあ間違いなく詐欺よね。」

 5回連続で婚約破棄される確率ってどのくらいなんだろう。この身に起きた"不幸"は、呪いか悪霊じゃないと、説明がつかないのでは?20代も後半になるといよいよ貰い手がいなくなる。でももう婚活で疲弊するのはうんざりだと思った。

 ――私は奮起した。見てなさいよ、今までの婚約者たち!結婚相手がいなくても、私は自力で輝いてみせるんだから。
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