3 / 3
3. 残響
しおりを挟む
東京都某区。栞がかつて勤めていた如月物産では、今日も元同僚たちが噂話に花を咲かせながら、社員食堂でランチを取っていた。
「なんか、部長も最近元気ないわよね。」
「そりゃ目をかけてた子が、あんな辞め方したら気を病むわよ。」
「山岡さんのこと?退職代行使ったんでしょ?発想がいまどきよね。」
「新しい企画書もよく書けてたし、新しい社長になってうちも実力主義だから、もう少し頑張ってれば、高卒でもいいポジション狙えたのに。」
「部長が厳しくし過ぎたのよ。だってあの子、毎日0時過ぎまで、サービス残業していたらしいわよ。期待されるっていうのも大変よね。」
「まあでも、私たち時短で早く帰っても、その分、家で家族のために働いているから、トータルの労働時間は似たようなものじゃない?」
「確かに~!」
「しっ!部長が来たわよ。」
栞がいなくなった部署では、栞がこなしていた仕事を誰に任せるかで、部長が頭を悩ませていた。だって、彼女以上に真剣に仕事に取り組む人はいなかったから。
一方、その頃――
「しおり、しおり、お願い。お願いだから生きていて。」
栞の母親は、警察に連れられて、工事現場の森の中にいた。栞の揃えられた靴と、ロープがかけられた場所で、母親は膝をがくっと落として、泣き崩れた。
死体がない、遺書もない。――でもスマホ、運転免許証、銀行のキャッシュカード、クレジットカード、そしてマイナンバーカード。この世界を生きるために必要な全てのものが、鞄の中に残されていた。違和感しかないこの"自殺"現場に警察も首をひねった。
「お母さん、落ち着いて。お嬢さんから、何か気になるお話を伺ってませんか?」
「いいえ。あの子は、私に心配かけまいとして、子どもの頃から悩み事を相談してくれないんです。」
「そうですか。では最近、様子がおかしいということは、ありませんでしたか?恋人にフラれたとか。」
「いえ、あの子の交友関係については何も分からないんです。東京に出てから仕事が忙しいみたいで、最近は全く連絡も取ってなくて。」
「――全くですか?」
「ええ、全く。」
「――失礼ですが、あなた、本当に母親ですか?」
警官は、半ば呆れ、半ば苛立ったように言った。
「まあ、事件性はないですかね?署で行方不明届の提出をお願いします。」
「栞は……、栞はたった一人の私の娘です。女手一人で育てたんです!別れた夫とも連絡をとって、あの子の二十歳の誕生日は、盛大に祝おうと約束していたのに、どうして、どうして、こんな。こんな。」
栞の母親の泣き声が、もぬけの殻になった稲荷神社に響いた。
この神社跡地での神隠しは、全国ニュースにこそならなかったが、地元では面白おかしく噂された。同窓会で顔を合わせた栞の同級生たちも、皆不思議だ、不思議だと、口を揃えて言った。
「山岡さん、ちょっとミステリアスな感じが俺はかわいいと思っていたんだよね。東京なんて行くから……。」
「でも、不思議よね。明らかに自殺したみたいなのに、死体も遺書も残ってないなんて。」
近所の人も好き勝手なことを言った。神社を取り壊そうとするから罰が当たったんだとか、今度は工事で怪我人が出るとか。
――それと狐にさらわれたとか。
「なんか、部長も最近元気ないわよね。」
「そりゃ目をかけてた子が、あんな辞め方したら気を病むわよ。」
「山岡さんのこと?退職代行使ったんでしょ?発想がいまどきよね。」
「新しい企画書もよく書けてたし、新しい社長になってうちも実力主義だから、もう少し頑張ってれば、高卒でもいいポジション狙えたのに。」
「部長が厳しくし過ぎたのよ。だってあの子、毎日0時過ぎまで、サービス残業していたらしいわよ。期待されるっていうのも大変よね。」
「まあでも、私たち時短で早く帰っても、その分、家で家族のために働いているから、トータルの労働時間は似たようなものじゃない?」
「確かに~!」
「しっ!部長が来たわよ。」
栞がいなくなった部署では、栞がこなしていた仕事を誰に任せるかで、部長が頭を悩ませていた。だって、彼女以上に真剣に仕事に取り組む人はいなかったから。
一方、その頃――
「しおり、しおり、お願い。お願いだから生きていて。」
栞の母親は、警察に連れられて、工事現場の森の中にいた。栞の揃えられた靴と、ロープがかけられた場所で、母親は膝をがくっと落として、泣き崩れた。
死体がない、遺書もない。――でもスマホ、運転免許証、銀行のキャッシュカード、クレジットカード、そしてマイナンバーカード。この世界を生きるために必要な全てのものが、鞄の中に残されていた。違和感しかないこの"自殺"現場に警察も首をひねった。
「お母さん、落ち着いて。お嬢さんから、何か気になるお話を伺ってませんか?」
「いいえ。あの子は、私に心配かけまいとして、子どもの頃から悩み事を相談してくれないんです。」
「そうですか。では最近、様子がおかしいということは、ありませんでしたか?恋人にフラれたとか。」
「いえ、あの子の交友関係については何も分からないんです。東京に出てから仕事が忙しいみたいで、最近は全く連絡も取ってなくて。」
「――全くですか?」
「ええ、全く。」
「――失礼ですが、あなた、本当に母親ですか?」
警官は、半ば呆れ、半ば苛立ったように言った。
「まあ、事件性はないですかね?署で行方不明届の提出をお願いします。」
「栞は……、栞はたった一人の私の娘です。女手一人で育てたんです!別れた夫とも連絡をとって、あの子の二十歳の誕生日は、盛大に祝おうと約束していたのに、どうして、どうして、こんな。こんな。」
栞の母親の泣き声が、もぬけの殻になった稲荷神社に響いた。
この神社跡地での神隠しは、全国ニュースにこそならなかったが、地元では面白おかしく噂された。同窓会で顔を合わせた栞の同級生たちも、皆不思議だ、不思議だと、口を揃えて言った。
「山岡さん、ちょっとミステリアスな感じが俺はかわいいと思っていたんだよね。東京なんて行くから……。」
「でも、不思議よね。明らかに自殺したみたいなのに、死体も遺書も残ってないなんて。」
近所の人も好き勝手なことを言った。神社を取り壊そうとするから罰が当たったんだとか、今度は工事で怪我人が出るとか。
――それと狐にさらわれたとか。
11
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
番など、今さら不要である
池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。
任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。
その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。
「そういえば、私の番に会ったぞ」
※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。
※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
番が1人なんて…誰が決めたの?
月樹《つき》
恋愛
私達、鳥族では大抵一夫一妻で生涯を通して同じ伴侶と協力し、子育てをしてその生涯を終える。
雌はより優秀な遺伝子を持つ雄を伴侶とし、優秀な子を育てる。社交的で美しい夫と、家庭的で慎ましい妻。
夫はその美しい羽を見せびらかし、うっとりするような美声で社交界を飛び回る。
夫は『心配しないで…僕達は唯一無二の番だよ?』と言うけれど…
このお話は小説家になろう様でも掲載しております。
君が僕の番なんだと言いながらサンバカーニバル。
あかね
恋愛
獣人その他がいる日本で、番に選ばれた私。テレビのインタビューに答えたら、運悪く発見され、特定されるって何のホラー? ヒエラルキーの下層の純人なので、断れない、攫われると思ったらなんか違った。なんで! 踊るの! サンバの陽気なリズムが早朝の住宅地に鳴り響く!
番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。
そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。
お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。
愛の花シリーズ第3弾です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる