26 / 30
6章 花子さんのいるトイレ
ようこそ
しおりを挟む
委員会が長引いて、すっかり夕陽も沈みかけていた。教室に戻って自分の席に座ろうとして見慣れないものを見つけた。本、だった。小説だろうか。こんなもの借りた覚えはない。誰かが間違えて僕の机の上に置いたんだろうか。本の裏表紙を開くと貸出カードが入っている。一々誰のものか聞いて回るより図書室へ返しに行った方が早そうだった。
一年A組の教室を出てすぐ目の前の階段を二階分上がって、右手に曲がって進んだ突き当たりに図書室がある。見慣れない両開きのドアを開けて中へ入った。期末テストまでまだ時間があるのに居残って勉強している生徒もいる。熱心だなと思った。けれど他にはもう一人本を読んでいる生徒がいるだけで、図書室の中は寂しいというかすたれている印象だ。
僕は貸出カウンターの前に行って本をカウンターの上に置いた。当番をしているはずの図書委員はいない。カウンターの奥の部屋に向かって声を掛けようとしたその時。
「そうか、“また”出てきてしまったのか」
聞きなれない声がすぐ隣で聞こえてさっと振り返る。誰だろう……。それは全く知らない人だった。襟に三年生の学年章をつけている。
「いや、これはまた違うものだね。なるほど面白い」
そう言って彼は僕の目の前でパラパラと本をめくってみせた。するとページとページの間から封筒が落ちてきた。僕はかがんでそれを拾い上げる。表には「○○くんへ」と書かれていた。封筒を裏返したけれどこっちに名前は書かれていない。
「そうか、届かなかったラブレターか」
と先輩。封筒はだいぶくたびれている……というか風化していた。黄ばんでいるけど元々は白かったのかもしれない。ペンで書かれた宛名もだいぶかすれている。少なくとも、つい最近書かれたものじゃないことは確かだ。どうしてこんなものが僕の机の上にあったのだろう。まるで隠すように本の中に挟んだ状態で。彼は何故か嬉しそうに言った。
「その手紙が君の元に届いたのは何かの縁だ。ついておいで」
「え、でも……」
「知らないのかい? この学校に伝わる噂の『届かないラブレター』」
なんだそりゃ。そんな話は聞いたことがない。それに、どうしてそんなものが噂になるんだ?
「そのラブレターを受け取った人は差出人の願い通り、思い人に手紙を届ける必要がある。もしそれができなかったら……手紙を受け取った人は死ぬ」
何を言ってるんだこの人は。そう反発したかったけれど、僕は言い返せなかった。彼が冗談を言っているようには見えなかったからだ。まるで死刑宣告された人を見るような、神妙な面持ちをしている。
「一年A組の結城航(ゆうきわたる)くん」
突然フルネームを言い当てられて僕は息を呑んだ。ドキリと心臓の跳ねたような錯覚を覚える。
「僕はこの学校のことならなんでも知ってるよ。部長だからね」
「部長?」
「ついておいで。それにしても、航と書いてわたる……か」
部長と名乗った彼はどこか愉快そうな顔をしながらすたすたと図書室を出て行った。思わずその後ろを追いかける。どこへ行くんだろう。彼は階段を昇って行った。
「この学校には不思議なことばかり起こる。でも『不思議』なだけではすまされないことも多い。君も三年間を無事に過ごして学校を卒業したいなら気を付けること。たぶん、君はもうあいつらに目をつけられているからね」
「あいつら?」
僕がおうむ返しに尋ねても部長さんは答えてくれなかった。僕たちがたどりついたのは四階の北校舎にある部屋だった。何かの部室だろう。学校にこんな場所があったのか。全く人気のない廊下は異様で独特の雰囲気がある。校庭から運動部の掛け声が聞こえてくるけど、どこか別世界の出来事のように思えた。彼は、部室の扉に手を掛ける。
「僕は“三年D組”の保科佑。怪異体験クラブの“現”部長だ。今の君にはまだ分からないだろうけど、きっと“君も”この部活へ入ることになるよ」
それは不思議な確信を持って告げられた言葉だった。彼は扉を開けて、僕に部室へ入るように促す。わずかに夕陽の差し込む部室の中で、部員らしき人たちが僕の方を振り返った。戸惑った僕は保科先輩を見つめたけど、彼は愉快そうにこう言うだけだった。保科先輩の声が、放課後の部室に響く。
「ようこそ、怪異体験クラブへ」
了
一年A組の教室を出てすぐ目の前の階段を二階分上がって、右手に曲がって進んだ突き当たりに図書室がある。見慣れない両開きのドアを開けて中へ入った。期末テストまでまだ時間があるのに居残って勉強している生徒もいる。熱心だなと思った。けれど他にはもう一人本を読んでいる生徒がいるだけで、図書室の中は寂しいというかすたれている印象だ。
僕は貸出カウンターの前に行って本をカウンターの上に置いた。当番をしているはずの図書委員はいない。カウンターの奥の部屋に向かって声を掛けようとしたその時。
「そうか、“また”出てきてしまったのか」
聞きなれない声がすぐ隣で聞こえてさっと振り返る。誰だろう……。それは全く知らない人だった。襟に三年生の学年章をつけている。
「いや、これはまた違うものだね。なるほど面白い」
そう言って彼は僕の目の前でパラパラと本をめくってみせた。するとページとページの間から封筒が落ちてきた。僕はかがんでそれを拾い上げる。表には「○○くんへ」と書かれていた。封筒を裏返したけれどこっちに名前は書かれていない。
「そうか、届かなかったラブレターか」
と先輩。封筒はだいぶくたびれている……というか風化していた。黄ばんでいるけど元々は白かったのかもしれない。ペンで書かれた宛名もだいぶかすれている。少なくとも、つい最近書かれたものじゃないことは確かだ。どうしてこんなものが僕の机の上にあったのだろう。まるで隠すように本の中に挟んだ状態で。彼は何故か嬉しそうに言った。
「その手紙が君の元に届いたのは何かの縁だ。ついておいで」
「え、でも……」
「知らないのかい? この学校に伝わる噂の『届かないラブレター』」
なんだそりゃ。そんな話は聞いたことがない。それに、どうしてそんなものが噂になるんだ?
「そのラブレターを受け取った人は差出人の願い通り、思い人に手紙を届ける必要がある。もしそれができなかったら……手紙を受け取った人は死ぬ」
何を言ってるんだこの人は。そう反発したかったけれど、僕は言い返せなかった。彼が冗談を言っているようには見えなかったからだ。まるで死刑宣告された人を見るような、神妙な面持ちをしている。
「一年A組の結城航(ゆうきわたる)くん」
突然フルネームを言い当てられて僕は息を呑んだ。ドキリと心臓の跳ねたような錯覚を覚える。
「僕はこの学校のことならなんでも知ってるよ。部長だからね」
「部長?」
「ついておいで。それにしても、航と書いてわたる……か」
部長と名乗った彼はどこか愉快そうな顔をしながらすたすたと図書室を出て行った。思わずその後ろを追いかける。どこへ行くんだろう。彼は階段を昇って行った。
「この学校には不思議なことばかり起こる。でも『不思議』なだけではすまされないことも多い。君も三年間を無事に過ごして学校を卒業したいなら気を付けること。たぶん、君はもうあいつらに目をつけられているからね」
「あいつら?」
僕がおうむ返しに尋ねても部長さんは答えてくれなかった。僕たちがたどりついたのは四階の北校舎にある部屋だった。何かの部室だろう。学校にこんな場所があったのか。全く人気のない廊下は異様で独特の雰囲気がある。校庭から運動部の掛け声が聞こえてくるけど、どこか別世界の出来事のように思えた。彼は、部室の扉に手を掛ける。
「僕は“三年D組”の保科佑。怪異体験クラブの“現”部長だ。今の君にはまだ分からないだろうけど、きっと“君も”この部活へ入ることになるよ」
それは不思議な確信を持って告げられた言葉だった。彼は扉を開けて、僕に部室へ入るように促す。わずかに夕陽の差し込む部室の中で、部員らしき人たちが僕の方を振り返った。戸惑った僕は保科先輩を見つめたけど、彼は愉快そうにこう言うだけだった。保科先輩の声が、放課後の部室に響く。
「ようこそ、怪異体験クラブへ」
了
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる