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7章 私の親友、香ちゃん
いつだって友達
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私の頭の中にある一番古い記憶は香(かおり)ちゃんと一緒に人形遊びをした時のことだった。幼稚園に上がるかどうかという頃のことだと思う。香ちゃんは熊のブラウンというぬいぐるみがお気に入りで、いつもブラウンと一緒に私の部屋へやってきた。
実は私の家にもブラウンがいたけれど香ちゃんのブラウンとはリボンの色が違う。私のが赤で香ちゃんのはピンクだった。けれど見た目はほとんど同じだったから「お揃いだね」と言い合って笑った。ブラウンはその時やっていたアニメのキャラクターで大人気だったのだ。
似ているのはブラウンだけじゃなくて私と香ちゃんもそうだった。年が同じで背格好もほとんど同じ。服の好みは少し違ったけれど、私は香ちゃんが着ているフリルのついた服をかわいいと思った。香ちゃんも私の着る動きやすそうな服がよく似合っていると言ってくれた。似た者同士は顔も似るのか、それとも小さい子どもなんてみんな似たような顔なのか。なんとなく顔だちもよく似ていた。服を取り換えてもお母さんたちは気づかないんじゃないかと言って、私たちは笑いあったりした。
思えば小学校に上がってからも私の記憶は香ちゃんと共にあった。学校から帰ってくると香ちゃんが私の家にやってくる。そしてコンコンと私の部屋のドアを叩く。私は彼女を部屋へ招き入れて、今日学校であったことを話したりした。ブラウンで遊ぶことはもうなかったけど、画用紙に絵を描いたり外へ出て公園でブランコをこいだりして遊んだ。小さい子どものする遊びなんて毎日同じようなものだけど不思議と飽きたりしなかった。あの頃の私は「明日は香ちゃんとどんなことをして遊ぼうかな」と次の日を楽しみにして眠りにつくのだった。
香ちゃんはどちらかといえば物静かな子だったと思う。他に友達らしい友達が出来なかった私にとって、彼女はかけがえのない親友だった。私の話を聞いて頷いて、時々笑ってくれる私の親友。
香ちゃんは絵を描いたり本を読んだりする方が好きだったかもしれないけど、私は彼女とおままごとをしたり着せ替えショーをしたりして遊ぶのが好きだった。いつだったか、私の部屋のタンスにある服を引っ張り出して香ちゃんが着ている服と交換したことがある。私が取り出した服はお出かけ用の服で、その時一番気に入っていたものだった。わざわざ一階のリビングまで下りて行って、服を交換こした私たちを母に見せに行ったりした。母はしばらく私たちを見比べて、ふと笑いながら「あなたたち本当に仲がいいのね」と言ってくれたのを今も覚えている。
その日も学校が終わってすぐ香ちゃんと遊びに行った。公園の滑り台で遊んでいると知らないおじさんが近づいてきた。はた目にはこぎれいな恰好をした中年男性だけれど変質者だったのだと思う。けれど私はお母さんの「知らない人について行っちゃだめ」という言いつけをすっかり忘れて、話しかけてきたおじさんの相手をしてしまった。「どこの学校なの?」とか「どんなおもちゃが好き?」とか、おじさんは本当に聞きたいと思っていなさそうなことをつらつらと並べ立てた。なんでもいいから話をして子どもの警戒心を少しずつ解こうとしたのだろう。
そしておじさんが「おうちに遊びにおいで」「お菓子もあるよ」と言うので私はつい「香ちゃんの分もあるの?」と聞いた。香ちゃんは私の後ろにある砂場で山を作っていた。するとおじさんはきょとんとして「香ちゃん?」と言う。私は振り返って香ちゃんを指さす。そこには一人黙々と砂を積み上げる香ちゃんの姿があった。おじさんは黙って香ちゃんを見つめている。しばらくそうしていたかと思うと私に視線を移して「ごめん、用事を思い出したから帰るね」と言って、いそいそと公園から立ち去った。突然誘っておいてやっぱり帰るなんて変な人だと思った。私たちは他に誰もいない公園で日が暮れるまで砂遊びを楽しんだ。私にとっては、いつも通りの放課後だった。
おかしい、と気づいたのは一緒に買い物へ行った時だった。香ちゃんとお揃いのノートを買おうとして近所の文房具屋へ行くと、店番をしているおばあちゃんが出迎えてくれた。せっかくだからとお店の奥にある茶の間に通してくれて、お茶とお菓子を用意してくれた。けれど出してくれたのは私の分だけだった。
「香ちゃんの分もいい?」
私は当然のようにそう聞いたけど、振り返ったおばあちゃんのぽかんとした表情は忘れられない。口を開けようとして、けれど何かためらったようなおばあちゃんは取り繕うように笑顔を見せた。
「香ちゃんってお友達?」
私は頷く。おばあちゃんはじっと私を見つめていたけどすまなそうに眉根を寄せて言った。
「ごめんね、今度は香ちゃんの分も用意しておくよ」
こんなことが何度かあったけど私は何とも思っていなかった。そう、あの日が来るまでは。
実は私の家にもブラウンがいたけれど香ちゃんのブラウンとはリボンの色が違う。私のが赤で香ちゃんのはピンクだった。けれど見た目はほとんど同じだったから「お揃いだね」と言い合って笑った。ブラウンはその時やっていたアニメのキャラクターで大人気だったのだ。
似ているのはブラウンだけじゃなくて私と香ちゃんもそうだった。年が同じで背格好もほとんど同じ。服の好みは少し違ったけれど、私は香ちゃんが着ているフリルのついた服をかわいいと思った。香ちゃんも私の着る動きやすそうな服がよく似合っていると言ってくれた。似た者同士は顔も似るのか、それとも小さい子どもなんてみんな似たような顔なのか。なんとなく顔だちもよく似ていた。服を取り換えてもお母さんたちは気づかないんじゃないかと言って、私たちは笑いあったりした。
思えば小学校に上がってからも私の記憶は香ちゃんと共にあった。学校から帰ってくると香ちゃんが私の家にやってくる。そしてコンコンと私の部屋のドアを叩く。私は彼女を部屋へ招き入れて、今日学校であったことを話したりした。ブラウンで遊ぶことはもうなかったけど、画用紙に絵を描いたり外へ出て公園でブランコをこいだりして遊んだ。小さい子どものする遊びなんて毎日同じようなものだけど不思議と飽きたりしなかった。あの頃の私は「明日は香ちゃんとどんなことをして遊ぼうかな」と次の日を楽しみにして眠りにつくのだった。
香ちゃんはどちらかといえば物静かな子だったと思う。他に友達らしい友達が出来なかった私にとって、彼女はかけがえのない親友だった。私の話を聞いて頷いて、時々笑ってくれる私の親友。
香ちゃんは絵を描いたり本を読んだりする方が好きだったかもしれないけど、私は彼女とおままごとをしたり着せ替えショーをしたりして遊ぶのが好きだった。いつだったか、私の部屋のタンスにある服を引っ張り出して香ちゃんが着ている服と交換したことがある。私が取り出した服はお出かけ用の服で、その時一番気に入っていたものだった。わざわざ一階のリビングまで下りて行って、服を交換こした私たちを母に見せに行ったりした。母はしばらく私たちを見比べて、ふと笑いながら「あなたたち本当に仲がいいのね」と言ってくれたのを今も覚えている。
その日も学校が終わってすぐ香ちゃんと遊びに行った。公園の滑り台で遊んでいると知らないおじさんが近づいてきた。はた目にはこぎれいな恰好をした中年男性だけれど変質者だったのだと思う。けれど私はお母さんの「知らない人について行っちゃだめ」という言いつけをすっかり忘れて、話しかけてきたおじさんの相手をしてしまった。「どこの学校なの?」とか「どんなおもちゃが好き?」とか、おじさんは本当に聞きたいと思っていなさそうなことをつらつらと並べ立てた。なんでもいいから話をして子どもの警戒心を少しずつ解こうとしたのだろう。
そしておじさんが「おうちに遊びにおいで」「お菓子もあるよ」と言うので私はつい「香ちゃんの分もあるの?」と聞いた。香ちゃんは私の後ろにある砂場で山を作っていた。するとおじさんはきょとんとして「香ちゃん?」と言う。私は振り返って香ちゃんを指さす。そこには一人黙々と砂を積み上げる香ちゃんの姿があった。おじさんは黙って香ちゃんを見つめている。しばらくそうしていたかと思うと私に視線を移して「ごめん、用事を思い出したから帰るね」と言って、いそいそと公園から立ち去った。突然誘っておいてやっぱり帰るなんて変な人だと思った。私たちは他に誰もいない公園で日が暮れるまで砂遊びを楽しんだ。私にとっては、いつも通りの放課後だった。
おかしい、と気づいたのは一緒に買い物へ行った時だった。香ちゃんとお揃いのノートを買おうとして近所の文房具屋へ行くと、店番をしているおばあちゃんが出迎えてくれた。せっかくだからとお店の奥にある茶の間に通してくれて、お茶とお菓子を用意してくれた。けれど出してくれたのは私の分だけだった。
「香ちゃんの分もいい?」
私は当然のようにそう聞いたけど、振り返ったおばあちゃんのぽかんとした表情は忘れられない。口を開けようとして、けれど何かためらったようなおばあちゃんは取り繕うように笑顔を見せた。
「香ちゃんってお友達?」
私は頷く。おばあちゃんはじっと私を見つめていたけどすまなそうに眉根を寄せて言った。
「ごめんね、今度は香ちゃんの分も用意しておくよ」
こんなことが何度かあったけど私は何とも思っていなかった。そう、あの日が来るまでは。
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