20 / 81
エピソード.2 heath
2-4 隠し事
しおりを挟む
休日だけあって店内は中々の賑わいを見せている。自分たちが席に座ってからも何組かの客が席へと通されていたところを考慮すると、満席に近いと言って良いのかもしれない。しかし、今日の蕪木さんはとことん天に愛されているのだろうか、注文から五分ほどしたところで目的のロールケーキが届いた。
運んできてくれたのは先ほど自分たちを席へ案内してくれたウエイトレスの子。緊張した面持ちで蕪木の手前にロールケーキを置いた時、桜の花弁ほど僅かだったけれど口角を上げ、「ありがとう」。と蕪木がお礼を言うものだから、頭の先までボイルされたタコのように真っ赤になってキッチンの中に消えていった。
あの様子なら自分は眼中にもないだろう。
結果、目の前のロールケーキに集中することができるようになり心を躍らせる自分は、珍しくも素直に蕪木に感謝の言葉を伝え、掌サイズのロールケーキの四分の一を切り出すと豪快に頬張った。
「うまい!」
雲のように軽い口触りだけれど質量はしっかりと感じられるスポンジケーキ。そこに合わさる少し甘さを控えた生クリームがスポンジケーキの甘さを邪魔するどころか引き出している。
まさに至福の一品と言って良いのだろう。目の前に蕪木が居ると分かっていても頬が綻ばずにはいられない。
そんな自分を見届けてから蕪木はフォークを手に取った。そして、形が崩れないようきれいに切り取ってから口に運ぶ。
「っ! ……本当ね。存外あなたの舌も侮れないわ」
おそらく自分の味覚を内心疑っていたのだろう蕪木は、予想外のおいしさに驚きの声をあげた。
その反応に自分は手柄を誇るように鼻を鳴らす。すると蕪木は癪に障ったのか自分を一睨みしたあと、ピンっと伸ばした右手の人差し指で自分の左頬を差した。
「ちなみに、口元にクリームを付けてかわいさをアピールしても、取ってあげないわよ」
「っ! 期待していないし、素直にクリームが付いているって言ってくれれば自分で取るわ!」
「あら、それは失礼」
急いで白いナプキンを使いふき取る自分に悪戯っぽく笑う蕪木。
その蕪木さんの口元にクリームが付いているのはボケなのか天然なのか判断に困るが、普段見られないものなので、バレた時怒られると分かっていてもしばらく黙っておこう。
そんなトラブル? が起こりながらも自分たちの会話は予想にも反してスムーズで、元々の関係を知らない他人から見れば、普通の仲の良い高校生たちに見えただろう。
対して自分たち。いや、蕪木の内心は外から見たイメージとかなり違っていたようだ。
「こう見えてわたし、少し心配していたのよ」
「心配?」
「あら、おかしいかしら?」
「いや、まあ、正直言えば自分もこんな話せるものとは思っていなかったよ」
蕪木と自分学校の外でまともに話した時といえば、土居原先生の想いを過去へ飛ばした日の夜、コンビニに立ち寄った時が最後であり、それ以外の日はいつも図書室で話をしていた。だから心配になる気持ちは自分も理解できるし、図書室を離れても同じように話せているのは素直に嬉しい。
二度目はまずないだろうって分かっていても、次を期待してしまうくらいにだ。
だけどあくまで今日の目的は、くどいようだが蕪木の後悔について聞くことにある。
「…………」
聞きたくは、なかった。
くどいようだけれど、今が本当に楽しい。少しきつい冗談を言われることはあるけれど、後で万次郎にこの時間のことを尋ねられたなら、ひねくれた回答にはなるかもしれないけれど、楽しかったと伝えるだろう。
そんな時間だから、終わりにはしたくない。
だけど、終わりにしなければ前には進めない。
「蕪木」
「何かしら?」
「自分に隠していることがあるんじゃないのか?」
「…………」
蕪木の表情と手が凍る。そして、こちらに向ける視線が鋭くなった。
踏み込むな。ということだろう。だけど、友だち(仮)である蕪木のために、自分は踏み込まないといけない。
「自分と蕪木は友だちじゃねえよ。(仮)だし、正直変な関係だって自覚している。だけどな、こう明確に隠し事されているって分かるとむず痒くなるんだわ」
もちろん、必要ならいくらでも待つのだが、わざわざデート? と言う形で喫茶店に来ているのだ。今日蕪木が話そうとしていることは火を見るより明らかだろう。
もはや黙っているわけにはいかないと覚悟したのだろう蕪木は、
「本多、あなた探偵に向いているわ」
と言うと蕪木は目を閉じ、深呼吸をした。
「勘弁してくれ。トリックの仕掛けなんざ、小説を読んでいて一度も解けたことないぜ」
「解けない、というより解こうとしてないだけだと思うけれど」
三回ほど深呼吸をすると地獄の鬼すら見惚れてしまいそうなその瞳を、真っ直ぐにこちらへ向ける。
「本多、ついてき……ついて来なさい」
「………」
素直について来て。と言えないのか、お前は。
ため息を吐いて応える自分に、了承と受け取ったのだろう蕪木は伝票を持って立ち上がる。
宣言通りこの場のお代を支払うつもりのようだ。
まあ、それは良いことなのだが……
「蕪木」
「なにかしら」
「クリーム、付いているぞ」
「…………」
本当に今日は蕪木の珍しい表情が見られる日らしく、よく熟れたリンゴのように頬を染めた蕪木。思わず見惚れてしまった自分だったのだが、次の瞬間目にもとまらぬスピードで自分の脇腹を小突かれ机に伏せる。
「お会計をしている間、そこで反省していなさい」
「ふぁい」
痛みでまともな返事が出来ない自分。そんな自分にざまあみろ。とでも言うようにこちらを見ることもなく、蕪木は早足でレジへと向かっていった。
運んできてくれたのは先ほど自分たちを席へ案内してくれたウエイトレスの子。緊張した面持ちで蕪木の手前にロールケーキを置いた時、桜の花弁ほど僅かだったけれど口角を上げ、「ありがとう」。と蕪木がお礼を言うものだから、頭の先までボイルされたタコのように真っ赤になってキッチンの中に消えていった。
あの様子なら自分は眼中にもないだろう。
結果、目の前のロールケーキに集中することができるようになり心を躍らせる自分は、珍しくも素直に蕪木に感謝の言葉を伝え、掌サイズのロールケーキの四分の一を切り出すと豪快に頬張った。
「うまい!」
雲のように軽い口触りだけれど質量はしっかりと感じられるスポンジケーキ。そこに合わさる少し甘さを控えた生クリームがスポンジケーキの甘さを邪魔するどころか引き出している。
まさに至福の一品と言って良いのだろう。目の前に蕪木が居ると分かっていても頬が綻ばずにはいられない。
そんな自分を見届けてから蕪木はフォークを手に取った。そして、形が崩れないようきれいに切り取ってから口に運ぶ。
「っ! ……本当ね。存外あなたの舌も侮れないわ」
おそらく自分の味覚を内心疑っていたのだろう蕪木は、予想外のおいしさに驚きの声をあげた。
その反応に自分は手柄を誇るように鼻を鳴らす。すると蕪木は癪に障ったのか自分を一睨みしたあと、ピンっと伸ばした右手の人差し指で自分の左頬を差した。
「ちなみに、口元にクリームを付けてかわいさをアピールしても、取ってあげないわよ」
「っ! 期待していないし、素直にクリームが付いているって言ってくれれば自分で取るわ!」
「あら、それは失礼」
急いで白いナプキンを使いふき取る自分に悪戯っぽく笑う蕪木。
その蕪木さんの口元にクリームが付いているのはボケなのか天然なのか判断に困るが、普段見られないものなので、バレた時怒られると分かっていてもしばらく黙っておこう。
そんなトラブル? が起こりながらも自分たちの会話は予想にも反してスムーズで、元々の関係を知らない他人から見れば、普通の仲の良い高校生たちに見えただろう。
対して自分たち。いや、蕪木の内心は外から見たイメージとかなり違っていたようだ。
「こう見えてわたし、少し心配していたのよ」
「心配?」
「あら、おかしいかしら?」
「いや、まあ、正直言えば自分もこんな話せるものとは思っていなかったよ」
蕪木と自分学校の外でまともに話した時といえば、土居原先生の想いを過去へ飛ばした日の夜、コンビニに立ち寄った時が最後であり、それ以外の日はいつも図書室で話をしていた。だから心配になる気持ちは自分も理解できるし、図書室を離れても同じように話せているのは素直に嬉しい。
二度目はまずないだろうって分かっていても、次を期待してしまうくらいにだ。
だけどあくまで今日の目的は、くどいようだが蕪木の後悔について聞くことにある。
「…………」
聞きたくは、なかった。
くどいようだけれど、今が本当に楽しい。少しきつい冗談を言われることはあるけれど、後で万次郎にこの時間のことを尋ねられたなら、ひねくれた回答にはなるかもしれないけれど、楽しかったと伝えるだろう。
そんな時間だから、終わりにはしたくない。
だけど、終わりにしなければ前には進めない。
「蕪木」
「何かしら?」
「自分に隠していることがあるんじゃないのか?」
「…………」
蕪木の表情と手が凍る。そして、こちらに向ける視線が鋭くなった。
踏み込むな。ということだろう。だけど、友だち(仮)である蕪木のために、自分は踏み込まないといけない。
「自分と蕪木は友だちじゃねえよ。(仮)だし、正直変な関係だって自覚している。だけどな、こう明確に隠し事されているって分かるとむず痒くなるんだわ」
もちろん、必要ならいくらでも待つのだが、わざわざデート? と言う形で喫茶店に来ているのだ。今日蕪木が話そうとしていることは火を見るより明らかだろう。
もはや黙っているわけにはいかないと覚悟したのだろう蕪木は、
「本多、あなた探偵に向いているわ」
と言うと蕪木は目を閉じ、深呼吸をした。
「勘弁してくれ。トリックの仕掛けなんざ、小説を読んでいて一度も解けたことないぜ」
「解けない、というより解こうとしてないだけだと思うけれど」
三回ほど深呼吸をすると地獄の鬼すら見惚れてしまいそうなその瞳を、真っ直ぐにこちらへ向ける。
「本多、ついてき……ついて来なさい」
「………」
素直について来て。と言えないのか、お前は。
ため息を吐いて応える自分に、了承と受け取ったのだろう蕪木は伝票を持って立ち上がる。
宣言通りこの場のお代を支払うつもりのようだ。
まあ、それは良いことなのだが……
「蕪木」
「なにかしら」
「クリーム、付いているぞ」
「…………」
本当に今日は蕪木の珍しい表情が見られる日らしく、よく熟れたリンゴのように頬を染めた蕪木。思わず見惚れてしまった自分だったのだが、次の瞬間目にもとまらぬスピードで自分の脇腹を小突かれ机に伏せる。
「お会計をしている間、そこで反省していなさい」
「ふぁい」
痛みでまともな返事が出来ない自分。そんな自分にざまあみろ。とでも言うようにこちらを見ることもなく、蕪木は早足でレジへと向かっていった。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる