33 / 81
エピソード.2 heath
2-17 条件
しおりを挟む
「……やっぱり、伝えるべきではないのね」
「違う! 違うんだよ、蕪木」
項垂れる蕪木の言葉を自分は否定するのだけれど、言葉が続かなかった。
揺れる瞳を抑えるために蕪木を支える腕に力を入れようとするのだけれど、動揺が上手く力を伝わらせなかった。
くそっ。どうしてこんな事になったんだよ。
これまで仕事をしてきた中で、蝶が羽化しなかったことはなかった。全ての蝶がその透明な羽を緋色に染めて、想いを、言葉を過去へと届けてくれたっていうのに。どうして蕪木の時に限ってこんなことが起こるんだよ。
「……まさか」
本当に蕪木の想いは届けるべきじゃないのか?
「……馬鹿野郎っ」
下唇を奥歯で噛み、弱音を吐こうと自分を責める。
自分が折れそうになってどうする。自分まで諦めてしまったら、蕪木はもう二度と部長に言葉を届けられなくなる。部長は唯一無二の親友の言葉をもう二度と受け取れなくなる。
それを防ぐために自分は今ここに居るんだ。
だから、考えろ。想像しろ。理由を、原因を出し得る限り全て頭の中に浮かべるんだ。
祝詞は間違っていなかったし、今が黄昏時だと言うことは間違いないだろう。それなら他に何か理由が。
と頭の中で考えている時、少しくすんだ白色の地面の上で艶やかに輝いていた繭が、輝きを失っていることに気づいた。
「っ! まさか」
自分は蕪木の顔から、茜色に染まる空へと視線を向ける。
今日の空は土居原先生が過去へ想いを届けた時よりも雲が多く、夕日を遮っていた。
「そういうことかよ!」
蕪木を支える手に力が入る。
うかつだった。少し考えれば分かることだったのに。
夕日の光が足りていなかった。つまり、条件が整っていなかったんだ。
手紙を、想いを過去へ飛ばす条件は夕日が見えていること。原理は分からないが、条件が整っていないんじゃ、飛ぶはずがない。だから、あの神様はわざわざ雲が天照様がお疲れだなんて発言をしたんだろう。
……だけど、そうなのだとしたら引っかかることがある。
神様はスタンプを押した。つまり、過去へと手紙を届ける準備をしたということ。
人の心を察することができないほど合理的で完璧主義な神様が、わざわざ飛ばせない手紙を用意するはずがないのだ。
つまり、方法や場所さえ変えれば飛ばすことは可能なんじゃないのか?
方法や場所。
「っ! 行くぞ、蕪木!」
「……行くって、どこに?」
「良いからおれの言うこと聞け!」
無理矢理蕪木を起こすと左手を取って、そのまま駐輪場へと向かう。
下足に履き替えることもせず、校舎を飛び出した自分たち。下校中の他の生徒たちの注目の的だったが、その視線を振り切り自分は自転車の荷台に蕪木を座らせ、サドルにまたがった。
「時間ねえから飛ばすぞ。だから、しっかり掴んどけ」
「…………」
蕪木は何も言わない。しかし、しっかりと自分の腰に腕を回すと脇腹に痛みが走るほど力を込める。
その痛みを確認すると、自分は足に力を込めて自転車を走らせた。
二人乗りをしている自転車が勢いよく学校の敷地外へ飛び出す姿を見て、静止させようとする生徒指導の先生の怒鳴り声が背中に届く。だけど、風の神様が守ってくれているのか自転車を漕ぐ自分の耳には風が寄り添っていて、今はどんな声も耳には入らなかった。
※ この物語はフィクションであり、現実の人物・団体と関りはありません。
また、道路交通法および法令違反を推奨するものではありません。
「違う! 違うんだよ、蕪木」
項垂れる蕪木の言葉を自分は否定するのだけれど、言葉が続かなかった。
揺れる瞳を抑えるために蕪木を支える腕に力を入れようとするのだけれど、動揺が上手く力を伝わらせなかった。
くそっ。どうしてこんな事になったんだよ。
これまで仕事をしてきた中で、蝶が羽化しなかったことはなかった。全ての蝶がその透明な羽を緋色に染めて、想いを、言葉を過去へと届けてくれたっていうのに。どうして蕪木の時に限ってこんなことが起こるんだよ。
「……まさか」
本当に蕪木の想いは届けるべきじゃないのか?
「……馬鹿野郎っ」
下唇を奥歯で噛み、弱音を吐こうと自分を責める。
自分が折れそうになってどうする。自分まで諦めてしまったら、蕪木はもう二度と部長に言葉を届けられなくなる。部長は唯一無二の親友の言葉をもう二度と受け取れなくなる。
それを防ぐために自分は今ここに居るんだ。
だから、考えろ。想像しろ。理由を、原因を出し得る限り全て頭の中に浮かべるんだ。
祝詞は間違っていなかったし、今が黄昏時だと言うことは間違いないだろう。それなら他に何か理由が。
と頭の中で考えている時、少しくすんだ白色の地面の上で艶やかに輝いていた繭が、輝きを失っていることに気づいた。
「っ! まさか」
自分は蕪木の顔から、茜色に染まる空へと視線を向ける。
今日の空は土居原先生が過去へ想いを届けた時よりも雲が多く、夕日を遮っていた。
「そういうことかよ!」
蕪木を支える手に力が入る。
うかつだった。少し考えれば分かることだったのに。
夕日の光が足りていなかった。つまり、条件が整っていなかったんだ。
手紙を、想いを過去へ飛ばす条件は夕日が見えていること。原理は分からないが、条件が整っていないんじゃ、飛ぶはずがない。だから、あの神様はわざわざ雲が天照様がお疲れだなんて発言をしたんだろう。
……だけど、そうなのだとしたら引っかかることがある。
神様はスタンプを押した。つまり、過去へと手紙を届ける準備をしたということ。
人の心を察することができないほど合理的で完璧主義な神様が、わざわざ飛ばせない手紙を用意するはずがないのだ。
つまり、方法や場所さえ変えれば飛ばすことは可能なんじゃないのか?
方法や場所。
「っ! 行くぞ、蕪木!」
「……行くって、どこに?」
「良いからおれの言うこと聞け!」
無理矢理蕪木を起こすと左手を取って、そのまま駐輪場へと向かう。
下足に履き替えることもせず、校舎を飛び出した自分たち。下校中の他の生徒たちの注目の的だったが、その視線を振り切り自分は自転車の荷台に蕪木を座らせ、サドルにまたがった。
「時間ねえから飛ばすぞ。だから、しっかり掴んどけ」
「…………」
蕪木は何も言わない。しかし、しっかりと自分の腰に腕を回すと脇腹に痛みが走るほど力を込める。
その痛みを確認すると、自分は足に力を込めて自転車を走らせた。
二人乗りをしている自転車が勢いよく学校の敷地外へ飛び出す姿を見て、静止させようとする生徒指導の先生の怒鳴り声が背中に届く。だけど、風の神様が守ってくれているのか自転車を漕ぐ自分の耳には風が寄り添っていて、今はどんな声も耳には入らなかった。
※ この物語はフィクションであり、現実の人物・団体と関りはありません。
また、道路交通法および法令違反を推奨するものではありません。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる