生きる世界と冒険譚

ハイエルフの少女

　村のバリケードは三段階、現在一つ破壊されておりウィリアム達が入ったのは第ニ籠城中の地点であった。
　「現在の状況では勝てるのは確定してるが...被害は確実に出る、君たちには村の中に残ってる人の保護だ、戦う必要は全くない」
　兵士隊長であろう、テーブルの上にはチェスのコマが地図の上に並んでおり、隊長は他の人間にも指示をして忙しそうであった。
　(チェスの駒で遊んでんのかこれ？)
　ウィリアムは戦略図をまともに考えたことがなかった。
　
　「それで今回保護に向かうのはウィリアム、そしてフェイルに行ってもらいたい」
　そういうとひとりの少女が立ち上がる、それは街で助けたあのハイエルフであった。
　上腕を隠すほどの短いマントに身軽さに特化した革の防具に身を包み紫色の髪が風になびく
　「あ、あの時の！！」
　ウィリアムは思い出しフェイルに指を指す。
　「あぁ、あの時確かに助けて貰ったわね」
　フェイルは何処となくぶっきらぼうと言うかあまりこちらに好印象はないようだ。
　「まあ、ここで会ったのも何かの縁だし、よろしくな！」
　ウィリアムは笑顔で握手を手を出す。
　「それじゃ早く行きましょ」
　ウィリアムの出した手は無視され素通りされてしまった。
　「もうちょっと仲良くしても...」
　フェイルに聞こえないくらいの声でボソッと言うとフェイルは振り返る
　「聞こえてるわよ」
　目に殺気がこもり、ウィリアムは背筋が凍る
　「あ...ごめんなしゃい...」
　ウィリアムは恐怖で口が震え、小さな声で言った。
　
　(はあ...すげえ怖い...俺もしかしたらここでこいつに殺られるかもしれない...)
　ウィリアムは恐怖を抱きながらフェイルの後ろについて行く
　そして盗賊の侵入してる区域に入った。

　村は閑散としており焼け落ちた民家や村人の死体など、さまざまな情報が脳に迫ってくる
　ウィリアムはかなり警戒をしつつ進む
　フェイルは魔術師であり、普通は後衛なのだが、前を進む
　敵がどこから奇襲を仕掛けてくるかわからない状況では近接戦闘をできる人間は後ろにいることで襲ってきた時にすぐに対応できる、当たり前だが後ろに振り向く時間すら、戦闘に関わってくる。

　常に警戒しつつ周りを確認していると、民家から悲鳴が聞こえてくる
　「誰か！　誰か助けて！」
　ウィリアムは家の外から中を確認すると中におそらく盗賊の仲間の男とおそらく村人のカルダー人の女がいた。
　既に女は裸同然の姿であり、手足は縛られ今にも犯されそうであった。
　男が武器を下ろすまで待機しようとナイフを取り出し周りにも警戒をする。

　しかしフェイルが先に飛び出してしまった。
　(バッカおまえ！)
　ウィリアムは動揺で反応が遅れる
　フェイルがナイフを取り出し盗賊に音を立てずに近づく、しかし盗賊はフェイルに気付いたのか振り向きざまに剣撃を浴びせようとしてくる。
　「死ねヤァ！！」
　フェイルは後ろに飛ぶことで避けると左手に杖を取り出す
　「バースト！」
　杖の先端に大気が渦を巻きながら収束しビー玉ほどの大きさにまで収束すると杖が差してる方向に一直線に向かう。
　盗賊はこれを紙一重で避けると剣をフェイルに投げ飛ばす。
　ウィリアムはようやく脳が状況を理解し背中に背負っている盾を掴むとそのままフェイルの目の前にいくように投げる。
　
　投げられた剣は上手く盾に当たり防御の成功に胸を撫で下ろすと盗賊がこちらに向かってくる
　ウィリアムは剣を構え迎撃の態勢をとる。
　盗賊は左手を前に出しウィリアムの剣を奪おうとする、ウィリアムは姿勢を低くし盗賊の左手前腕を突き刺す、しかし盗賊は止まらずに低くなったウィリアムの頭を蹴り上げる
　「が......！！」

　ウィリアムは意識が飛び、刺さったままのウィリアムの剣を捻りウィリアムの手から剣が離れる
　
　盗賊はウィリアムの背後に回り、首に腕をまわしてウィリアムを盾にする形でフェイルの前に立つ
　「動くな！　俺の言う通りにしろ...」
　ウィリアムは宙吊りになり足が地面につかず息もまともにできなかった。
　フェイルは動きを止めると数秒の静寂が起こる
　「......まず武器を捨てろ、そして手を頭につけて跪け」
　盗賊の言うことを聞きナイフと杖を地面に捨てると両手を後頭部に当てて膝をついた。
　「これでいいかしら？」
　フェイルは殺気を隠すことはせず盗賊の目を見ている。
　盗賊は息を呑むとゆっくりと後ろに下がり始める
　盗賊はウィリアムが持っていた剣を拾おうとする、しかしウィリアムの足が地面についた瞬間に意識を取り戻すと後ろに跳ぶ形で盗賊に全体重をかけて盗賊が尻餅をつく
　「フェイル！！」
　フェイルは落としたナイフを拾い走り出す。
　盗賊は立ち上がることをやめウィリアムの首をものすごい力で締める
　(まず.....い.....死ぬ.....！！)
　首の骨を折るような勢いで力を絞められフェイルがナイフを盗賊の上腕を突き刺すと、盗賊の力が抜け、ウィリアムは腕から離れると勢い余って倒れてしまった。
　フェイルは盗賊の左胸をナイフで刺すとその場所に杖を押し込み詠唱する
　「バースト！」
　盗賊の左胸が膨らむと破裂し内臓や血がそこらへんに飛び散り、盗賊は絶命した。
　

　「お前....結構殺し方えぐいな...」
　ウィリアムは若干引き気味に顔についた血を拭いフェイルに近づく
　「人を殺すのに殺し方を気にするの？　だったら殺さないのが一番の選択じゃないの？」
　フェイルの声には蔑みの感情が混ざっておりウィリアムの嫌味に対して正論で返し、ウィリアムはため息をついた。
　「ため息をするくらいなら最初から言わなければいいじゃない....それと！！」
　フェイルはウィリアムのマントを奪うと女に渡した。
　「女の子が裸なのに衣服も渡さないの！？　アンタの馬鹿でかいマントはこういう時に使いなさいよ！！」
　フェイルはウィリアムを叱りウィリアムは軽く謝罪をした
　「あの、ありがとうございました！」
　女はフェイルに感謝し、マントを羽織る
　ウィリアムとフェイルは女を防衛地点まで連れて行った。