生きる世界と冒険譚

死のファーストキス

～第二籠城地点～
　「まさか顎の骨が折れてたとは....」
　ウィリアムは自分の顎をさすろうと少し指が触れただけで痛みが走り手を離してしまう。
　「意識飛ぶほどの蹴りを喰らって骨折しないほうがおかしいわよ」
　「痛ったいなぁ....」
　ウィリアムは水を顎にかける、若干痛みが引いている気分にはなるが治っているわけではない、治療師は現在も治療をしておりもう少し時間がかかりそうだ。
　
　とりあえず簡易のベットロールの上に座ると剣の手入れをする
　「そういえばフェイルはどうして冒険者になったんだ？」
　
　「そうね....まあ家出して成り行きでね、アンタはどうなのよ？」
フェイルは魔法書を読みながらウィリアムの質問に答えた。
　「あー...俺は冒険者になるのが子供の頃から夢だったってだけだな」
　ウィリアムはほんの一瞬表情が暗くなるがすぐにいつもの笑顔を見せる
　「ふーん...」
　フェイルはウィリアムの話に空返事をしながら本を読み続けていた。
　「まあありがとうな、マジで死ぬかと思ったし...」
　少し照れくさそうにウィリアムは言うがフェイルは相変わらず表情は変わらず無表情のままだった。
　

「あの！」
　突然の声に振り向くと、助けた女がいた。
　「ああ、もう大丈夫な——」
　次の瞬間に女はウィリアムにキスをした。
　「え？　ちょっとアンタ何やって！」
　女は舌を入れウィリアムの口の中にどんどん侵攻してくる、突然のキスに脳がショートするが、ウィリアムは落ち着きを取り戻すと、すぐに女を突き放す。
　
「急に何を....」
　頬を赤らめつつも冷静を装い、口に垂れた唾液を拭くと急に口に激痛が走りそのまま全身にも痛みが走りし、地面に倒れ伏す。
　女はニヤリと笑うゆっくりとウィリアムに手を伸ばす

　「おい！　大丈夫か！？」
　兵士が急にウィリアムが倒れたことでこちらに向かってくる
　(なんだ....？　毒を......そうか.....カルダー人は確か毒が効かなかったって聞いたことがある......まじかよ.....)
　女はウィリアムのナイフを奪うと兵士に襲い掛かる
　「逃.....げろ.....報告を.......！」
　掠れた声でフェイルに言うがフェイルはウィリアムをに肩を貸す形で逃げる
　兵士は剣を抜き、女の左肩に向かい剣を振るうが、女は上体を後ろに反らし、剣撃を避けると、女は足を引っ掛け兵士を転ばすと兵士の首を切り裂き、兵士が死ぬと、女は頬を赤らめ、血を舐める
　「ああ....綺麗、とっても！！」
　女が興奮し、騒ぎを聞いた兵士が何人か来る
　

　「俺は....大丈夫だ....それよりも.......」
　「大丈夫じゃないし！　それよりも早く足を動かしなさい！」
　視界が薄れ始め、足にも力が入らなくなり始める、歩くことすらままならずウィリアムは自らの無力感に舌を噛んだ。

　
　
　「はぁ...はぁ...」
　お互いに息を切らし、ようやく兵士達の元へ辿りつくとそのまま気を失いお互い倒れてしまった。
　



　ウィリアムが目を覚ますとベッドロールの上に寝ていた、顎の痛みは消えたが全身が痛いままである、助かったと思いたいが実際どうなのかわからない状況であり、体をまともに起こすことができなかった。

　寝返りを打つと横にフェイルがウィリアムに背中を向ける形で眠っていた
　息が荒く、自分よりも何故か体調が悪そうである
　よく見るとフェイルの下のベットロールは血で汚れており、おそらくフェイルはナイフで刺されたのだろう
　苦労をかけたことを知り、自己嫌悪に陥りそうにもなるが、一旦考えるのをやめて寝ることにした。

　「.......さん....！ウィリアムさん...！」
　ウィリアムが目を開けるとそこにはフォルトがいた。
　「ああ...フォルトか......どうした...？」
　相変わらずウィリアムはいつもの笑顔でフォルトに話しかける。
　「よかった....」
　フォルトの目には涙が滲み安堵で片方の目だけ涙が流れた。
　「そもそも.....死んでたら息を....してないしな....」
　「本当によかったですよ....」
　フォルトは安心するとそのまま横になり眠ってしまった。
　
　ウィリアムはすっかり目が冴え、上を見ていた。


　俺はただ上を見ていた、それなのに———

涙が溢れていた、それはウィリアムの涙だ、何に涙をしているのかわからない、フォルトの優しさ？　フェイルが助けてくれた感動？　それとも.....無力感.......？
　涙を必死に拭うが、何故か止まらない、受け止めようとしても、他のことを考えようとしても、全然止まらないんだ。
　

　そうして数分ほどウィリアムは、泣き続けた。