混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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吸血鬼妹の戦! 乱用の戦乙女(ドーピング・ヴァルキリー)!

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「「降参しよう」」

 吸血鬼ファイターと吸血鬼アサシン、その両者の敗北宣言による降伏。
 2人が降伏したことにより、吸血鬼キャスターと吸血鬼パラディンも負けを認めていた。
 元より、吸血鬼ファイターと吸血鬼アサシンという前衛がいなければ、戦いにならないだろうし。

「吸血鬼アサシン、敗北を認めざるを得ないな! ははっ、強いな!
 これはもう、仲間になったら心強くて仕方がないぜ!」
「……了解。それ、納得」

 吸血鬼ファイターは豪快に笑い、吸血鬼アサシンも満足したような顔をしていた。
 後ろに控えていた吸血鬼キャスターはというと、あの黒い力を使う俺のゴーレムが気になるらしく、なんかバラバラにしそうな勢いだった。流石にこの後、吸血鬼のダンジョンマスター妹、サンブレッドとの戦いがあるので控えて貰ったが。

「で、リーダー。いや、吸血鬼パラディン。
 俺とゴーレムはこのまま通っていいんだよな?」
「えぇ、勿論。なにせ、我々は敗北を宣言した身。通って構いませんよ」

 と、吸血鬼パラディンさんはどうぞと道を譲ってくれる。
 ありがたいことである。実を言うと4人全員で来られた今回の戦い、俺にとっては非常に都合が良かった。

(なにせ、策を見せるのが少なくて済むからな)

 もし仮に、吸血鬼4人組がそれぞれ別に攻めてきていたら、2,3戦目でゴーレムのコアを破壊しても黒い力によって自己修復することはバレていただろう。
 そうなればこのゴーレムへの対処が破壊ではなく、妨害に切り替わってきたことだろう。

「そう、か。じゃあ、ゴーレム。一緒に行くとするか」

《グォォォン!》

 俺の言葉に、ゴーレムが一緒についてくる。
 今、ゴーレムはこういう形になっている。


======
名前;シルバ
種族;アイアン・ゴーレム
職業;仮配下 魔王(仮)の配下 三色を与えられし者 混色の黒
保有スキル;リセット 《赤の力》 《青の力》 《黄色の力》 《黒の力》 【黒】の修復機構
評価;?
======


 ちなみに、シルバと言うのはこのゴーレムにつけた仮の名前である。
 名前がないからという理由で仮につけた名前なのだけれども、案外気に入っている。この名前はソラハさんが付けてくれたため、由来は分からないのだが、何となく良い。
 名付けって、その程度の面持ちで良いと思うんだ。うん。

「シルバ、【黒】の修復機構は大丈夫か?」

《グォン?》

 小首を傾げて疑問符を浮かべている様子の、アイアン・ゴーレムのシルバ。
 俺としてはあの、黒の力での自己修復機構にはなんらかの副作用があると思っている。リスクもなく、あんなにも強力な修復スキルが使えることを考えるほど、俺は前向きな考えを持っていない。
 けれども、今のところは、問題ない……ようである。

「ともあれ、これでようやくサンブレッドのところにいけるか」

 ダンジョンマスターの、サンブレッド・ブラッドレイ。この最後の、5戦目をクリアできれば、俺は無事に《魔物の強さ自慢》を突破できる。
 とは言っても、サンブレッドは一筋縄ではいかないだろう。仮にもダンジョンマスターである者なのだ、なんらかの奥義的なものを1つか、2つくらい持っていてもおかしくはない。
 それを全部出して、戦ってくるかは別だけど。

「まぁ、シルバ。お前は恵まれている」

 《赤の力》と《黄色の力》によって身体を鋼よりも硬い身体として構築できるし、《青の力》によって相手の行動を遅くする。
 さらに《黒の力》によって、ゴーレムの心臓部分たるコアを破壊されても、常に修復される。
 今のシルバを倒すには、なんらか秘技が必要だろう。まぁ、それがなにかは分からないけれども。

「シルバ、頑張るぞ」

《グォッ!》

 ……シルバも調子が良いみたいだ。
 この調子で、頑張っていってもらいたいものである。



 吸血鬼パラディン達と別れて、しばらく後。
 西洋風の白くて、綺麗な城風のダンジョンを淡々と歩いていると、遂に最奥へと辿り着いていた。

「……どうやら、配下の4人を突破できるだけの力はあったみたいですね」

 鏡の部屋。そのような豪華な椅子に座って、こちらに来るのを待っていたサンブレットは、椅子から立ち上がると、腰にある《栄光の杖》を取って、ゴーレムと向き合う。

「ファイター、アサシン、キャスター、それにパラディン。4人ともこの《吸血鬼の双冠城》では猛者として、中ボスクラスの実力者なのですが……それにしては、ゴーレムは傷ついていないようですね」

「あぁ、そうだな」

 なにせ、修復したからな。傷もなにもない。

「認識を改めましょう、確かに魔物を強くするだけの技量をお持ちである事を。
 あなたを同盟に迎え入れれば、《吸血鬼の双冠城》はさらなる力を得ると」

「嬉しい話だ。だったらもう《魔物の強さ自慢》は終了で良いか?」

 だがっ! と、彼女は否定して。

「実際にあの素体ゴーレムがどれほど強くなったのか。それはダンジョンマスターとしての責務も兼任している、このサンブレッド・ブラッドレイが確かめます。
 ‐‐‐‐よろしいですね?」

 そう語る彼女の瞳には、一瞬の迷いもなかった。
 ただただ、強者と戦えるかもという喜びしかなかった。
 俺は彼女を見て、そのまままぶたを閉じる。

《グォン!》

 同時に、シルバがその大きな腕をサンブレッドに向かって殴りつけた。勿論、《赤の力》と《黄色の力》の二重掛けによる、強力な一撃だ。

 しかし、サンブレッドには当たっていなかった。
 ゴーレムの鈍重な動きでは、サンブレッドには当たらなかったみたいである。

(無理もないか、大事な同盟の会議の最中に訓練に向かうタイプの、戦闘好き。
 そう簡単に、当てさせてもくれないか)

 彼女はシルバの腕、厳密には2つの力によって赤と黄色に色付けされている部分を見ていた。

「なるほど。原理は分かりませんが、その色が力の源ですね」

 となると、とサンブレッドは顔部分、ブラックドラゴンを思わせる黒き龍の顔に着目する。

「あちらの黒い顔にもなにか能力が秘めている。そういう所ですか」

 観察し、相手の能力を分析する。
 サンブレッドの戦いは、至極まっとうだ。恐ろしく、基本に忠実だ。

「(今のところ、あの《栄光の杖》を使うそぶりはないか。
 てっきり、あれで魔法をぶっ放すキャスターの類かと思っていたのだが)」

 それにしては、動きが機敏すぎる。


「‐‐‐‐なるほど、私と似たタイプですね」


 サンブレッドは冷静に、そう分析して《栄光の杖》を構える。

「《栄光の杖よ! 我に猛き栄光の恩恵を授けたまえ! 筋力強化!》」

 彼女が呪文を唱えると共に、彼女の身体を赤い光が包み込む。

強化呪文バフか」

 強化なら、バフ。
 弱体化なら、デバフ。
 自分の力を強めたり、相手の力を弱めたり。そうすることによって戦いを有利に進める戦法がある。
 サンブレッドはその類の、どうやら魔術師タイプの吸血鬼らしい。

「まずは、一。参ります」

 サンブレッドは拳を強く握りしめ、ゴーレムの、色がついていない部分を拳で殴りつける。

「(うわっ、痛そう!)」

《グゴォン!》

 殴りつけられたゴーレムの方には小さなヒビが入り、逆にサンブレッドの方の拳は赤く腫れあがっていた。

「ゴーレムなんて、鈍重さを除けば硬いのが当然の魔物。
 そんなのに、ただバフを1回かけただけで、殴ればそうなるでしょうが!」

「ふむ、至極当然の摂理ですね」

 納得、サンブレッドはむしろ嬉しそうだった。

----なに、こいつ。傷を負って嬉しいタイプ?
 逆に、俺の方はドン引きしていたが。

「これなら、"8回"で良いですね」

「ん?」

 そう言うと、彼女は長い服の腕の裾をぺろりと捲る。
 すると陽に当たっていない綺麗な白い肌と共に、くっきりと生々しい噛み跡がしっかりと刻まれていた。
 そして、俺にはなんとなく分かっていた。あれは1回でついた跡ではない、何十、何百回と噛むことで着いた傷であると。

「(自分の腕に、噛み跡? なんだ、なんで噛み跡が?)」

 吸血鬼は血を吸うために噛む種族ではあるが、噛まれる種族ではないはずである。

 俺が困惑していると、彼女はいつものように、"ガブリっ"と。
 そう、なんの躊躇いもなく、ガブリっと。彼女は腕を、"噛んでいた・・・・・"。

「はっ……?」

 なんで、ここで自傷行為?

 噛んでいたのは数秒ほどだったが、呆気に取られて仕掛けていいか分からない。
 そして、パッ、と噛むのを止めて、サンブレッドは再び拳を握りしめる。

「いきますよぉ!」

「おいおい、またっ!?」

 ぶるん。また1つ、ぶるんっ、と大きく腕を回し、彼女はさっきと同じように、ゴーレムの色がついていない部分を殴るっ。

 どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!

《グギャルォォォー!》

「えっ……?」

 先程と同じように、ヒビが少し入るだけ。
 そう思っていたのに、ゴーレムの殴られた脚は、まるで砂山のように脆く崩れる。

「……ふむ、良い感じですね」

 殴った方、サンブレッドはニコリと笑う。

「強化魔法、バフ。
 これには強化制限があるのはご存知ですか?」

 問いかけるように、教えるように、サンブレッドは俺にそう尋ねる。
 それに対して、俺はコクリと頷く。

「バフは、無限にかけ続けることが出来る訳ではありません。精々、3回程度でしょうか?
 それ以上は魔法の欠陥か、あるいは神のご意思か、はたまた魔術の仕様か。なにかは分かりませんが、それ以上は強くなれません。勿論、デバフも一緒。3回、それを越えても弱くならない」

 そう、だからバフやデバフを使う者は少ない。
 あくまでも補助、その意味合いしかないからだ。極めてもせいぜいが効果範囲を広げるか、1回で上げられる力の幅を増やせるか程度。
 ‐‐‐‐それが強化魔法、バフのはずだ。

「‐‐‐‐でも私のスキル、《|乱用の戦乙女(ドーピング・ヴァルキリー)》はその壁を越える。
 自身の血を、強化した血を呑むことで、吸血鬼としての能力により、さらに身体が強化される。そして強化された能力は血となり、全身を駆け回り、また吸われる」

 自身を強化。
 血を吸血。
 吸血鬼の力によって、さらに強化。
 その血をまた吸血。

 自分の尾を食べることが出来る巨大な蛇、ウロボロスを思わせるような循環を持って、彼女はバフで強化できる限界を超えることが出来る。

「‐‐‐‐100回強化、それが私の吸血鬼としての血の限界。
 けれども、日々鍛え続けているこの自慢の肉体から繰り出される一撃、甘く見ないでくださいよ?」

 そう言って、またサンブレッドは自身の腕に噛みついた。
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