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元ダンジョンマスター、最初の一歩でつまずく。
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――――唐突だが、俺は無職である。
前職はダンジョンマスターをしてました。
ダンジョンマスターというのは、魔王様からいただいたダンジョンコアを守るために、ダンジョンと魔物を管理する職業である。なんで守るかは知らない、いつまで守るかも知らない、ただ守るだけというやつ。
願書も送ってないのに、ただ魔王にやれと言われたのでいつの間にか、である。
給料は無給で、休みはほとんどない。日がな一日いつ来るか分からない大金を得ようと夢を見ている冒険者とかの相手をするために頭を悩ませ、さらには自分の配下である魔物を従わせるためにどうしようかなぁと考えて――――まぁ、そんな感じ。そんな毎日を10年も続けると飽きが来てくる。
これが可愛らしい美少女だったり、忠実だったりしたら話は別なのかもしれないけれども、残念ながら俺の配下は可愛くもないし、忠実でもない。本能に関しては忠実なのだが。
まぁ、頭が良かったり、才能があったりしたら話は別なのかもしれない。
頭が良ければコミュニケーションとかでなんとかなるだろうし、もしかしたら報酬とかがなくても従えられるだろう。才能があれば従順で強力な魔物とかも呼び出せるし、あるいは強さで屈服させるのも出来るかも知れない。
生憎と、俺はそこまでの頭の良さと才能はなかった。
正直、自分がダンジョンマスターとして向いているかと言われれば、まず向いてなかったのだろう。
だからと言って仕事を放り投げるほどの度胸と、止めるための手段を持ち合わせていなかった俺は、ながーい時の中をただただ仕事を行うだけの機械と化した。
来る日も来る日も、ただただダンジョン運営に精を出して――――
気が付いたら、はい。無職です。
特に大きな失敗はしてなかったと思う。
けれども俺は魔王様、つまりは上司様から「新人のてんせ……ダンジョンマスターが来たので、お前クビね」と言われてしまって、今日から無職である。ちなみに退職金とか、手土産とかも何もない。ただ、すぐ出ていけである。
いやはや、森の中にいきなり置き去りとか勘弁だわぁ……。
せめて、もう少し人通りが多い所が良かったよぉ。いやはや……元、うちが管理してたダンジョンがこんな辺鄙な所にあるのが悪いんだけどね。けれどもわりと人来る人気ダンジョンなんだよ、初心者用ダンジョンとしてだけど。
「……あぁ~」
……いやぁ、アレだね。
常日頃から休み欲しいとは思っていたけれども、いきなりこんなに休みを貰っても困惑するわな。
子供の頃って「強くなって姫と結婚したい!」とか、「めっちゃ凄い武器を手に入れたい」とか思っていたけれども、今は何も思いつかない……。
ただ漠然とお金がないと生きていけないというのは分かる、けれどもそれくらいしかないのだ。
いやぁ、本当にどうしよう。何も思いつかないんだけど。
あっ、そうだ。とりあえず城、欲しいよな。
自分だけの家、自分だけの城、つまりは一国一城の主……憧れるわぁ。
それと、可愛らしい魔物も欲しいな。やっぱりさ、容姿って重要だと思うんだよ。うん。
強さも必要だけどさ、見ていてほほえま~とか、かわいい~ってなるのって必要だと思うし。
「――――なんだ。一応望みというか、夢もあるじゃないか」
家。
可愛い魔物。
ごくごく平和な日常。
――――うん、そうだな。とりあえずまずは、ステータスの確認である。
これからどうするにしろ、自分の強さを知っておかなければならない。元ダンジョンマスターって事で、餞別をものではなく、ステータスやスキルという形で貰ってるかもしれないからな。うん。
=====
名前;マスティス・タウスト
職業;元ダンジョンマスター
保有スキル;魔物使役 剣術Lv.2 猛毒耐性
評価;D-(最大Sー最低F)
=====
「うん、なんだこれ」
もっと頑張ろうよ、ステータスさん。
名前と職業とか、それ以外に書くこといっぱいあるでしょ? 知性とか、攻撃力とか、レベルとかさ。それをなんでこんな雑に『評価』と言う項目でひとまとめにしてるの? 最近の素人小説でももっと頑張って、色々と書くのにさ! マイナスってなに、マイナスって!? 普通にマイナスとかプラスとか、そう言う表記って要らないよね?!
後、結局元上司は餞別をなにもくれてない事が判明した。……ちょっと凹んだ。
「……まぁ、なんだな。とりあえず《魔物使役》はあるみたいだから、あったら便利だろう」
《魔物使役》は色々と、便利なスキルである。
ないとね、どうやって魔物を従えるのとか聞かれるからさ。面倒だからね、いちいち説明とかさ。これからダンジョンから出て暮らす以上、人間と会う事もあるだろうし。
別に魔物を使役するのにはこのスキルがなくても良いんだけれども、あったらあったで「俺、《魔物使役》あるんだよ?」と言えるし、魔物連れててもなんら不思議じゃないし。俺、自分で戦うのとか嫌だから、出来ればこっちが良い。
「さーて、まずはなにか使役しとかないとな。元ダンジョンマスターだから、やっぱりなにか使役しとかないと」
決して、自分で戦うのが嫌だとかそう言う理由じゃないからね。
本当だよ、本当だよ? 本当だからね? 信じてないかもしれないけれども、本当だからね?
と言う訳で、まずは魔物である。何事もさ、配下とかって大事だよね。
この年になるとね、1人で居る事がツラい。
誰も帰っていない家。
自分1人だけしか居ない家。
仕事が終わって疲れてるのに、風呂掃除やら冷たいご飯の温め直しとかツラいよ?
だからね、誰かお友達だったり、仲間だったり、家族だったりが欲しいと思うのは悪くないと思うんだよ。
うん、可笑しくない、可笑しくない!
「よしっ、じゃあ《魔物使役》して行くか」
そう言って、俺は目に付いた魔物を使役して行く。こう言うのは強さも大事かも知れないけれども、やっぱり数が居ないと仕方がないからね。
さぁ、パパッとやっていこう!
「まずは1発目~」
――――ポン!
《スライムを使役しました》
「2発目~」
――――ポン!
《スライムを使役しました》
「またスライムかよ……気にせず、次々行っておこう!」
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――結果として、10匹のスライムの使役に成功しましたぁ~。やったぁ~。
「……って、バカぁ!」
スライム、魔物の中でも最弱の部類。液体状の身体を持っており、自然発生する魔物。
物理攻撃が効かないとか、魔法攻撃が効かないとか、無限に進化するとか……そう言うのも一切なくて、ただただ弱いだけのスライム。
……仕方ないよなぁ、初心者用ダンジョンの近くにそんな強い魔物は居ないよねぇ……。
「まぁ、仕方がないかぁ。
よしよし、何事も最初の一歩は大事だよね。うん、よしっ! 頑張りましょうか!」
そう言って、俺はテイムした10匹のスライムと共に一歩踏み出して――――
「――――見つけたぞ、まおうめぇ!
異世界転生第一日目にして魔王を倒すという偉業を成し遂げる勇者! それがこの俺、タクト・クルスの偉業を為す人生の第一歩だぜぇ!」
――――初っ端から、変なのに絡まれてしまったんだが……初めから幸先悪いなぁ、うん。
俺の目の前に現れたのは、不摂生な黒髪の男。
腹はどっぷりと出てるし、目の下には黒いくまやニキビとかもあるし……けれども着ている物は何故か豪華。派手さを強調するような黄金の鎧に、それと同じく豪華そうな銀色の剣を持って、こちらに向けていた。
「えぇ~、なにこれ……」
いきなり現れた、黄金の鎧と銀色の剣のでぶっちょ勇者。
かたやこちらは、スライム10匹引き連れた元ダンジョンマスター。
――――どう考えてもこちらが負けそうなんだけど。
(と言うか、今こいつ俺のことを魔王とか言ってたよなぁ……。
俺、あんな化け物なんかじゃないんだけどなぁ……)
魔王ってのは、自分の力を用いてダンジョンマスターをまとめ上げる存在。1人1人が世界を変革できるほどの力の持ち主。
――――あんな化け物達と、俺はまったく違うんだけどなぁ。
けれどもそんな事を聞きそうにないんだよなぁ、この男。
ただただ自分の想いが絶対正義だと信じており、実は違うんだよと教えても信じないタイプの男。
初めに聞いた情報を絶対のものとして、間違ってても可笑しいと感じていてもプロット通りに話を進める、厄介なタイプの男だった。
「ステータスは最弱! レベルはまだ1! けれども、アイテムだけはチートばかり!
最初のモンスターにボスモンスター! すっげぇ憧れるよねぇ! これこそこの俺、タクト・クルスの生き様って奴だぜぇ!」
なにを言ってるのかは全く分からなかったけれども、とりあえず俺と戦うのは確定みたいである。
俺はまったくそんな気分ではないのだけれども……。
「いくぞ、魔王よ!」
そう言って、勇者と名乗ったでぶっちょ男はこちらへと向かって来る。
いざとなったらスライムを連れて敵前逃亡を考えていた俺だったが、意外と速い男にびっくりして反応が遅れた。
「俺のハーレム人生のために経験値になってし、ねぇぇぇぇ!」
フォームもめちゃくちゃ。
剣の持ち方も雑。
けれども言い知れぬ速さを誇るその勇者の一撃は、
「――――がはっ」
勇者の目論見通り、確かに命を奪っていた。
――――ただし、自分のな!
「がはっ……な、なぜ、俺が死ぬんだ……」
いや、当たり前でしょ。
フォームがめちゃくちゃなんだから。俺に向かって振り下げた剣が、何故あらぬ方向に飛んで行って自分の腹をぶっ刺してるのか意味が分からないのはこちらだし。
「ハーレム人生を……送りたかった……だけなのに……。
あと……内政チートとか……俺tueeeeとか……なでぽとか……がくっ……」
意外と長かったな、遺言にしては。
後どうでも良かったな、うん。
「さて、と。早々に変なのに当たってしまったが、俺の人生プランに変更なし!
一国一城の主となって、可愛い魔物に囲まれて、安全平和な自堕落ライフを――――」
《勇者を初めて倒しました。
あなたを魔王として認定し、【混色】の力を与えましょう》
……うん、今聞こえたのは無視しよう。
《あなた、魔王ですからね》
《頑張って勇者倒してね》
《力与えたんだから結果出せよね》
《できるよね?》
《はいしか求めてないから》
《はい、は?》
《はい、って言えよ》
《言えよ》
《言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ――――》
……う、うぜぇ! なんかすっげぇうぜぇのに巻き込まれた感びんびんするんですけど!?
前職はダンジョンマスターをしてました。
ダンジョンマスターというのは、魔王様からいただいたダンジョンコアを守るために、ダンジョンと魔物を管理する職業である。なんで守るかは知らない、いつまで守るかも知らない、ただ守るだけというやつ。
願書も送ってないのに、ただ魔王にやれと言われたのでいつの間にか、である。
給料は無給で、休みはほとんどない。日がな一日いつ来るか分からない大金を得ようと夢を見ている冒険者とかの相手をするために頭を悩ませ、さらには自分の配下である魔物を従わせるためにどうしようかなぁと考えて――――まぁ、そんな感じ。そんな毎日を10年も続けると飽きが来てくる。
これが可愛らしい美少女だったり、忠実だったりしたら話は別なのかもしれないけれども、残念ながら俺の配下は可愛くもないし、忠実でもない。本能に関しては忠実なのだが。
まぁ、頭が良かったり、才能があったりしたら話は別なのかもしれない。
頭が良ければコミュニケーションとかでなんとかなるだろうし、もしかしたら報酬とかがなくても従えられるだろう。才能があれば従順で強力な魔物とかも呼び出せるし、あるいは強さで屈服させるのも出来るかも知れない。
生憎と、俺はそこまでの頭の良さと才能はなかった。
正直、自分がダンジョンマスターとして向いているかと言われれば、まず向いてなかったのだろう。
だからと言って仕事を放り投げるほどの度胸と、止めるための手段を持ち合わせていなかった俺は、ながーい時の中をただただ仕事を行うだけの機械と化した。
来る日も来る日も、ただただダンジョン運営に精を出して――――
気が付いたら、はい。無職です。
特に大きな失敗はしてなかったと思う。
けれども俺は魔王様、つまりは上司様から「新人のてんせ……ダンジョンマスターが来たので、お前クビね」と言われてしまって、今日から無職である。ちなみに退職金とか、手土産とかも何もない。ただ、すぐ出ていけである。
いやはや、森の中にいきなり置き去りとか勘弁だわぁ……。
せめて、もう少し人通りが多い所が良かったよぉ。いやはや……元、うちが管理してたダンジョンがこんな辺鄙な所にあるのが悪いんだけどね。けれどもわりと人来る人気ダンジョンなんだよ、初心者用ダンジョンとしてだけど。
「……あぁ~」
……いやぁ、アレだね。
常日頃から休み欲しいとは思っていたけれども、いきなりこんなに休みを貰っても困惑するわな。
子供の頃って「強くなって姫と結婚したい!」とか、「めっちゃ凄い武器を手に入れたい」とか思っていたけれども、今は何も思いつかない……。
ただ漠然とお金がないと生きていけないというのは分かる、けれどもそれくらいしかないのだ。
いやぁ、本当にどうしよう。何も思いつかないんだけど。
あっ、そうだ。とりあえず城、欲しいよな。
自分だけの家、自分だけの城、つまりは一国一城の主……憧れるわぁ。
それと、可愛らしい魔物も欲しいな。やっぱりさ、容姿って重要だと思うんだよ。うん。
強さも必要だけどさ、見ていてほほえま~とか、かわいい~ってなるのって必要だと思うし。
「――――なんだ。一応望みというか、夢もあるじゃないか」
家。
可愛い魔物。
ごくごく平和な日常。
――――うん、そうだな。とりあえずまずは、ステータスの確認である。
これからどうするにしろ、自分の強さを知っておかなければならない。元ダンジョンマスターって事で、餞別をものではなく、ステータスやスキルという形で貰ってるかもしれないからな。うん。
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名前;マスティス・タウスト
職業;元ダンジョンマスター
保有スキル;魔物使役 剣術Lv.2 猛毒耐性
評価;D-(最大Sー最低F)
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「うん、なんだこれ」
もっと頑張ろうよ、ステータスさん。
名前と職業とか、それ以外に書くこといっぱいあるでしょ? 知性とか、攻撃力とか、レベルとかさ。それをなんでこんな雑に『評価』と言う項目でひとまとめにしてるの? 最近の素人小説でももっと頑張って、色々と書くのにさ! マイナスってなに、マイナスって!? 普通にマイナスとかプラスとか、そう言う表記って要らないよね?!
後、結局元上司は餞別をなにもくれてない事が判明した。……ちょっと凹んだ。
「……まぁ、なんだな。とりあえず《魔物使役》はあるみたいだから、あったら便利だろう」
《魔物使役》は色々と、便利なスキルである。
ないとね、どうやって魔物を従えるのとか聞かれるからさ。面倒だからね、いちいち説明とかさ。これからダンジョンから出て暮らす以上、人間と会う事もあるだろうし。
別に魔物を使役するのにはこのスキルがなくても良いんだけれども、あったらあったで「俺、《魔物使役》あるんだよ?」と言えるし、魔物連れててもなんら不思議じゃないし。俺、自分で戦うのとか嫌だから、出来ればこっちが良い。
「さーて、まずはなにか使役しとかないとな。元ダンジョンマスターだから、やっぱりなにか使役しとかないと」
決して、自分で戦うのが嫌だとかそう言う理由じゃないからね。
本当だよ、本当だよ? 本当だからね? 信じてないかもしれないけれども、本当だからね?
と言う訳で、まずは魔物である。何事もさ、配下とかって大事だよね。
この年になるとね、1人で居る事がツラい。
誰も帰っていない家。
自分1人だけしか居ない家。
仕事が終わって疲れてるのに、風呂掃除やら冷たいご飯の温め直しとかツラいよ?
だからね、誰かお友達だったり、仲間だったり、家族だったりが欲しいと思うのは悪くないと思うんだよ。
うん、可笑しくない、可笑しくない!
「よしっ、じゃあ《魔物使役》して行くか」
そう言って、俺は目に付いた魔物を使役して行く。こう言うのは強さも大事かも知れないけれども、やっぱり数が居ないと仕方がないからね。
さぁ、パパッとやっていこう!
「まずは1発目~」
――――ポン!
《スライムを使役しました》
「2発目~」
――――ポン!
《スライムを使役しました》
「またスライムかよ……気にせず、次々行っておこう!」
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――ポン!
《スライムを使役しました》
――――結果として、10匹のスライムの使役に成功しましたぁ~。やったぁ~。
「……って、バカぁ!」
スライム、魔物の中でも最弱の部類。液体状の身体を持っており、自然発生する魔物。
物理攻撃が効かないとか、魔法攻撃が効かないとか、無限に進化するとか……そう言うのも一切なくて、ただただ弱いだけのスライム。
……仕方ないよなぁ、初心者用ダンジョンの近くにそんな強い魔物は居ないよねぇ……。
「まぁ、仕方がないかぁ。
よしよし、何事も最初の一歩は大事だよね。うん、よしっ! 頑張りましょうか!」
そう言って、俺はテイムした10匹のスライムと共に一歩踏み出して――――
「――――見つけたぞ、まおうめぇ!
異世界転生第一日目にして魔王を倒すという偉業を成し遂げる勇者! それがこの俺、タクト・クルスの偉業を為す人生の第一歩だぜぇ!」
――――初っ端から、変なのに絡まれてしまったんだが……初めから幸先悪いなぁ、うん。
俺の目の前に現れたのは、不摂生な黒髪の男。
腹はどっぷりと出てるし、目の下には黒いくまやニキビとかもあるし……けれども着ている物は何故か豪華。派手さを強調するような黄金の鎧に、それと同じく豪華そうな銀色の剣を持って、こちらに向けていた。
「えぇ~、なにこれ……」
いきなり現れた、黄金の鎧と銀色の剣のでぶっちょ勇者。
かたやこちらは、スライム10匹引き連れた元ダンジョンマスター。
――――どう考えてもこちらが負けそうなんだけど。
(と言うか、今こいつ俺のことを魔王とか言ってたよなぁ……。
俺、あんな化け物なんかじゃないんだけどなぁ……)
魔王ってのは、自分の力を用いてダンジョンマスターをまとめ上げる存在。1人1人が世界を変革できるほどの力の持ち主。
――――あんな化け物達と、俺はまったく違うんだけどなぁ。
けれどもそんな事を聞きそうにないんだよなぁ、この男。
ただただ自分の想いが絶対正義だと信じており、実は違うんだよと教えても信じないタイプの男。
初めに聞いた情報を絶対のものとして、間違ってても可笑しいと感じていてもプロット通りに話を進める、厄介なタイプの男だった。
「ステータスは最弱! レベルはまだ1! けれども、アイテムだけはチートばかり!
最初のモンスターにボスモンスター! すっげぇ憧れるよねぇ! これこそこの俺、タクト・クルスの生き様って奴だぜぇ!」
なにを言ってるのかは全く分からなかったけれども、とりあえず俺と戦うのは確定みたいである。
俺はまったくそんな気分ではないのだけれども……。
「いくぞ、魔王よ!」
そう言って、勇者と名乗ったでぶっちょ男はこちらへと向かって来る。
いざとなったらスライムを連れて敵前逃亡を考えていた俺だったが、意外と速い男にびっくりして反応が遅れた。
「俺のハーレム人生のために経験値になってし、ねぇぇぇぇ!」
フォームもめちゃくちゃ。
剣の持ち方も雑。
けれども言い知れぬ速さを誇るその勇者の一撃は、
「――――がはっ」
勇者の目論見通り、確かに命を奪っていた。
――――ただし、自分のな!
「がはっ……な、なぜ、俺が死ぬんだ……」
いや、当たり前でしょ。
フォームがめちゃくちゃなんだから。俺に向かって振り下げた剣が、何故あらぬ方向に飛んで行って自分の腹をぶっ刺してるのか意味が分からないのはこちらだし。
「ハーレム人生を……送りたかった……だけなのに……。
あと……内政チートとか……俺tueeeeとか……なでぽとか……がくっ……」
意外と長かったな、遺言にしては。
後どうでも良かったな、うん。
「さて、と。早々に変なのに当たってしまったが、俺の人生プランに変更なし!
一国一城の主となって、可愛い魔物に囲まれて、安全平和な自堕落ライフを――――」
《勇者を初めて倒しました。
あなたを魔王として認定し、【混色】の力を与えましょう》
……うん、今聞こえたのは無視しよう。
《あなた、魔王ですからね》
《頑張って勇者倒してね》
《力与えたんだから結果出せよね》
《できるよね?》
《はいしか求めてないから》
《はい、は?》
《はい、って言えよ》
《言えよ》
《言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ言えよ――――》
……う、うぜぇ! なんかすっげぇうぜぇのに巻き込まれた感びんびんするんですけど!?
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