混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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勇者、異世界に降り立つ。

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「ようこそ、【  】高校の2年生の皆様!
 突然ですが、あなた達は全員まとめて死んでしまいました!」

 その人物は、神々しい雰囲気を放っていた。染み一つない純白のドレスを着たテレビでも見た事がないようなその美女は、4本の腕と真っ白な翼という現実離れした姿の彼女は、そこに集まった高校生――――124人にそう告げた。
 そのドレスを着た女は自らを神と自称して、真っ白でなにもない空間の中――――私、天上院空葉は自分が死んでしまったという事を、遅ればせながら理解した。

 異世界転生。休みの日は携帯で無料で読める小説サイトからいくつもの小説を読み漁っている私には、それがどういうものか良く知っていた。
 大抵は神様の不祥事かなにかで、それを補うために神様がいくつかの超すごーい能力……いわゆるチートっていう奴をくれて、異世界という剣と魔法なファンタジーな世界とかで楽に過ごすとか、そう言う感じの。
 人間って大抵が苦しみを感じているし、その上で現実世界になんらかのトラウマとか悩みとかを抱えている者が多いので、頭空っぽにして全ての苦しみや悩みを吹き飛ばす異世界転生作品が人気の理由だと私は思っていて……まぁ、それはともかく私は異世界転生が好きだった。色々と異世界転生作品を読み漁って、月に20作品は毎回新しいのを読んでるくらいである。まぁ、そう言った異世界転生好きは私の他にも沢山居るみたいで、隣のクラスのデブでオタクな来栖くんなんかは「異世界転生チートだぁ、ひゃっほぉぉぉぉい!」と喜んでいた。

「――――さてさてなーんとなく話を理解している方も居るでしょうが、訳が分からずに緊張している人も居るでしょうし、ちょーっとばかり説明しておきましょうかねぇ」

 そう言って純白のドレスを着た神は簡潔に、私達の状況を説明してくれた。
 そこから得た情報が――――こんな感じである。

 修学旅行に行く最中だった、私達2年生組。旅行でどんな事をしようとか、どうやって楽しもうかと、人によって思っていた事は違うだろうけれども、それでもみんな、旅行に対してワクワクしていた。
 バス3台にそれぞれ組毎に分かれて搭乗して、順当に行けば目的地へと向かっていたはずだった。
 しかし、そのバスは目的地に辿り着く事はなく――――そのまま事故に巻き込まれた私達は死んだ。全員、即死だったみたい。
 けれども、異世界転生のお約束だとでも言うべきなのだろうか、私達の死は間違いだったという事らしい。そして元の世界にすぐさま戻る事は神様の都合上出来ないらしく、このまま異世界に行くしかないみたい。

「――――これは私達の、神様側のミス。君達の死は本来あるべきではなくて、若いみそらで死ぬだなんて本当に可愛そうだろう? だから君達にはこちらが出来る限りの協力は惜しまないつもりだよ?」

 そして神様は、私達が転生する世界についてもちょっとばかり教えてくれた。
 私達が転生するその世界にはいくつもの大陸があり、そこには人や獣人、エルフやドワーフと言った、いわゆるファンタジーっぽい種族が暮らしているんだとか。

 一番重要なのは――――"魔王"の事について。
 この世界にはこれまた異世界転生とかでよくありがちなんだけれども魔物と魔族と呼ばれるものが居り、今挙げた人間やらエルフやらなどの種族に対して害を為しているみたい。主に見つけたら殺すくらいの勢いで。
 その魔物や魔族の頂点に君臨する王が魔王であり、その異世界には沢山の魔王が存在している。魔王達は配下などを用いて大陸の一部を自らの国土としてそれぞれ支配しているみたい。この世界の大陸を領地として支配している領主みたいな存在が、この世界での魔王の立ち位置みたいである。

 魔王の力は絶対的で、強力である。

 ダンジョンと呼ばれる洞窟を管理する、ダンジョンマスター。
 強力な力を持ちつつも従順に従う、魔物達。
 彼らが持つ固有スキルの中には、世界のことわりすら捻じ曲げるというとんでも可笑しなものもあるらしい。
 ――――私達が行く異世界を支配する、支配者。それが魔王。

「まぁ、君達に目的があるとしたならば、その魔王をやっつけて欲しいって事くらいかね。
 世界はね、魔王によって支配されているんだよ。人間とか、エルフとか、獣人とか、ドワーフとか……一応なんだけれども、普通に街で暮らしているんだけれども、彼らには自由がないんだからね。その自由を取り戻すために、勇者として君達には頑張って貰いましょうじゃないですかぁ。
 魔王はね、力を持っているからかは分からないんだけれども、最近ちょっとばかり調子に乗っていてうざいんだぁ。神様に刃向おうという輩もいるし、世界中の今いった種族を殺そうと言う者も居るしね、それを何とかして欲しいと言う気持ちはあるよ。君達に力を与えるのもその辺りが理由だったりします」

 まわりくどく言っているようなんだけれども……要するに「力を与えるから魔王を倒して欲しい」と、魔王が言っているのはそういう事らしい。

 それに対して、私達の中では多少のいざこざはあった。
 いざこざとは言っても、それについて受け入れるか否かと言った事である。魔王を倒して欲しいという神の考えを受け入れて勇者として戦うか、そんなの関係ないと笑って跳ね除けるのか、そんな事よりも家に帰りたいと願う者とか、だいたいの生徒はその3パターンに分かれた。
 反応は様々だが私が驚いたのは、意外にも勇者として魔王と戦う選択をした者が多かった事だろうか。異世界転生もののほとんどは勇者なんかになりたくなく、ただ平穏に生きたいと言う者が多かったので、結局は皆もそんな風なのかなと思っていたので、勇者になりたいという英雄願望な生徒が多かったのは予想外だった。

 ……私? 私はごくごく平凡に、平穏に生きたいだけだった。死んだのは残念だが、異世界に転生して貰えるなら悪くはないかもとは思っていたし、かと言って神様が言う通りに戦うのも、それから魔王などと戦うのも嫌だった。

 最後にあげた異世界に行きたくないと嘆いていた生徒達。
 彼らは嘘だとばかりに嘆いていたり、こんなはずじゃなかったと悲しんでいたり、神様の言葉の全てを疑わしいと決めつけていたり……色々と理由はあるみたいなんだけど、彼ら全員が共通しているのは異世界なんかには行きたくないという所みたいである。
 それに対して神様はちょっとばかり困った顔はしていたけれども、「異世界に行きたくないなら仕方ないね、ちょっとばかり時間はかかるけど元の世界に戻る輪廻の輪に乗せて上げるよ」と言って彼らを別の場所に連れて行った。どこに連れ怒れたのかは分からないけれども、今の異世界に行きたい感マックスな私にはあまり関係ない問題だった。

「じゃあ、異世界に行く事を決めた君達には私からスペシャルな、いわゆるチート能力をプレゼントしちゃうよ!」

 と、そう言って神様が手をすーっと掲げると、私達の身体が真っ白な光に包まれる。
 その光に包まれる中で、誰かが言った。

 ――――おい! チート能力はどうしたんだよぉ!
 ――――そうだ、そうだ! チートだよ! 詫びてるんだろぅ! くれよぉ!
 ――――説明不十分だろうがよぉ、おい!
 ――――なんなんだよぉ、この光は!

「大丈夫ですよぉ、神はあなた方の全てを理解しています。
 あなた達が心の奥底から望んでいる願望、その夢をチート能力として再現いたしました。さぁ、異世界に行ってらっしゃい。 
 ――――願わくば、魔王の脅威から異世界を救う事を願っていますよ」


 そして、100名近くの彼ら【  】高校の生徒達は異世界の大地へと降り立った。




 異世界に降り立った私はまず、"ステータス"と叫んでいた。
 肌に感じる少しジメッとしたような風やら、人間の倍はあらうかという大きなキノコやら、そう言った現実離れした光景にも多少の興味は惹かれたけれども、なぜか私はその言葉を叫んでいた。
 すると、私の目の前には……ステータス画面とやらが現れていた。


=====
名前;ソラハ・テンジョウイン
職業;【勇者】 【妖狐】の勇者
保有スキル;獣化 魔術の才能 雷魔術 探知 《魔術カスタム》
筋力;E
耐久力;F
敏捷性;B
魔力;S++
=====


「……【妖狐】の勇者?」

 その答えはすぐに分かった。
 私が降り立った異世界の場所はどこかの森の中みたいで、近くには私の全身を映す鏡としては十分すぎるくらいの、大きな湖があったから。
 その水面を覗きこむと、そこには今の私の姿が映っていたが、その姿は今までとは違っていた。

 黒くて肩辺りで乱雑に切り揃えられた髪は綺麗な金色に色づいて腰近くまで伸びる三つ編みへと変わっており――――頭には金色の狐耳が2つぴょこんと立っており、同じ色の尻尾が2本ひょこっと生えていた。
 意識しているつもりはなかったが、私が動くと共に頭の獣耳はゆっくりと動いていた。

 そして気になったのは、ステータスの中のスキルで唯一カッコ付きでくくられていた、《魔術カスタム》というスキル。
 ……もしかして、これが私に対して神様から与えられたチートスキルと言う奴だろうか?

「けれども私って魔術をコントロールしたり、カスタムする事が好きだっけ?」

 神様はあの時に私達の心の奥底から望んでいる願望、その夢をチート能力として作り上げたと言っていた。その言葉を信じるとするならば、つまり私が心の奥底に望んでいる結果がこの《魔術カスタム》というスキルを作り上げたのだろう。
 けれども、なんとなく違うなと思った。
 確かに魔法に憧れはあった、けれどもそれはあくまでも漠然としたちょっと良いな程度の話である。心の奥底からの願望と言われてしまうとどうしても納得しかねる一面があった。だから私は信じられないのだ、これが心の奥底からの願望だというのが。まぁ、私が思っていないだけで本当はそうなのかもしれないのだけれども……。

「まぁ、良いとしてここはどこなんだろう? どこかの森の中なのは確かなんだろうけれども……。
 あっ……! そう言えば探知のスキルってあったよね! あれを使えば何か分かるかも!」

 そこで私は何気なく探知のスキルを使い、そして――――森の奥で私と同じように転移した来栖君の死を知ったのだ。

「えっ……?」

 そして、さらにそれが行ったのがどんな姿かは分からなかったけど、魔王であるという事も分かった。
 いくらあまり喋った事がなくて、デブで、ヲタクな、正直あまりお近づきになりたくない存在だとはしても、死んでいいはずの道理はなかった。それに、同じ勇者を殺している所から見ても、魔王というのはヤバい存在だと感じた。

(もしかしたら、私もやられる?
 いや、そうだ。あの神様は出来れば魔王を倒して欲しいと言っていた。私の《魔術カスタム》がどれほどの能力かは分からないけれども、少なくともチート能力……なんだと思う)

 チートと言うと、異世界転生ものでは他に相手にならないほどの理不尽な力として描かれている場合が多く、私が読んでいた小説の多くもそんな感じであった。
 そんなチート能力があるんだ、大丈夫。

 私はそう思い、やられる前にやるという意思の元――――魔王討伐に向けて駆けだしていた。
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