混色の元ダンジョンマスター様。

摂政

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元ダンジョンマスター、【混色能力】を使う。

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 ダンジョンと一言で言えども、その種類は様々だ。
 例えば水の中に沈んでいるために探索を困難にして冒険者から身を守るダンジョン、力自慢の魔物を階層ごとに配置して力試しをさせる塔の形のダンジョン、迷宮のように複雑に作られた洞窟のような薄暗いダンジョン、自然と一体化して天然の要塞を利用するダンジョン、地下深くに作られた墓地代わりのダンジョン、常に雷雲が轟く黒雲の中にある城のダンジョン。
 変わり種で言えば、人間と共存する形で交流を行う幼女好きなダンジョンマスターの治めるダンジョンだったり、絵の中という異次元の中に作られたダンジョンだったり……。

 強さに自信があるダンジョンマスターのダンジョンは強い者と戦うための広場が多かったり、あるいは知恵比べをしたいダンジョンマスターのダンジョンには意地汚い問題を幾つも作っている。
 大切なのはダンジョンというのは、そのダンジョンマスターによってその傾向が変わって来る。

「そんな中で知恵が秀でている訳でも、戦いたくもない俺が、ダンジョンマスターだった時に極めようとしたのが、"ダンジョントラップ"だよ」

 よっ、とそんな安堵から出た溜め息を吐いて、俺はすり鉢状に作られたダンジョントラップの中へと降りる。上から、トラップの中心でとりもちに捕まえられた狐の獣人の女勇者と喋るのも良いかもしれないが、今回はそれを止めといた。
 殺すつもりだったらもう既に殺している。殺していないのは、他に目的が――――こうやって話すという目的があるからである。

 ダンジョンで野生の魔物や冒険者に対して、ダンジョン側からそいつらを排除する手段は主に2つある。1つは勿論、雇っている魔物達に戦ってもらう。そしてもう1つが、ダンジョントラップという罠の事である。
 壁に触れていると針が飛び出して来たり、捉えて逃がさないためにトラばさみで挟んだり、踏むと同時に縄で吊るされて逆さ吊りにされたり……。
 一見、簡単そうに見えるかもしれないが、そこはダンジョンのトラップ。子供がお遊び程度に作ったものとは違い、その道のプロが作り上げた撃退用のトラップとでは、練度も、それにそれにかける想いも違う。
 長いダンジョンマスターとしての勤務の中で、倒されないようにと血と汗と無い知恵を振り絞って積み重ねてきたダンジョントラップ。それは確かに俺の経験となり、こうして狐の女勇者を捕まえてくれたという訳だ。

「――――くっ! 逃げられないっ!」

「振りほどこうとしても無駄だってば。そのとりもちは、そんな簡単に逃げられる奴じゃないから」

 今、彼女を捕まえている白いとりもちは、俺の配下であるマッスルスライム達がその身から流れ落ちる血沸き流れる汗水を使って作り上げた特製のトラップである。具体的に言えば、彼らのたくましく鍛え上げられた身体から流れる、ぬるりとしたしめりけのある体液から作り上げたもの。そこからは、どことなく男臭い香りがしてくる。さらには魔術や魔法といったものの発動を阻害するように作ったこのトラップからは、容易に逃げられない。
 特製の、と言うよりもマッチョスライム達に命じて逃がさないようにお願いしているから、今の彼女はどんなに頑張っても逃げられない。

「まぁ、その辺は良いとしますかね。今は関係ない話ですから」

「ねぇっ、ちょっとぉ!? この体液はどこかイカ臭い気がしますけれども!? 本当に大丈夫なのこれ?!」

 なんだか大袈裟に慌てている気もするが、気のせいだと思いましょう。

「……で、ここからが問題なんだけど今、あなたの取れる選択肢は2つ。
 1つは俺達はどこかに行くからこのまま頑張る。この白いとりもちは12時間ほどで自然消滅するからそれまで待つ。もしくはちょっとした実験につきあって貰う。まぁ、そっちの場合ならすぐさまそのとりもちから外してあげますが?」

「実験……?」

 そう言うと、どこかキョトンとした顔になる彼女。

 そう、彼女をこのような即死ではないトラップで捕まえたのはこのため。
 誰かで実験をしたかったからである。

「俺はね、今ちょっとした能力を手に入れたんだけれどもそれは自分に対しては使えないというタイプの能力だったの。だから、それを行うための相手が欲しかったの」

 俺はあのデブい勇者を倒した(?)結果、"【混色】の魔王"という称号を手に入れた。それによって、ちょっとばかり特殊なスキルを得たのである。それが"配下の者に対して色を与える"というスキル。
 実際問題どう使うのか、またどういう効果が得られるのかと言った事がスキルの説明からでは判断できず、実際のところ使って見ないと分からない。

 さて、問題となるのは使う相手だ。

 スライム達に使って、もしそれが例えば"制限時間後に対象を消滅させる"などという馬鹿げたスキルだった場合、ただの試しで貴重な部下を1体失う事となる。そんな事はないと思うのだが、なにかやばい副作用があるかもしれない。
 また、この森に居る別の魔物を試しに配下にして行うという方法も却下である。このスキルをたかがそこいらの魔物に試して、俺より強くなったら困る。もしかしたら殺されるかもしれないからだ。

 だから、彼女が良い。
 彼女ならば多少の副作用程度ならば勇者補正――――勇者にはある程度の副作用を抑制するという補正効果があるため大丈夫だろう。また、もし仮に彼女が強くなりすぎた場合だとしても、話が通じる以上はそこいらの他所の魔物に試すよりかはよっぽどマシである。

「死ぬ事は絶対にないんだけれども、どのような効果が起きるか分からないスキルがあってね。これを試したいんだけれども、それにあなたの力を借りたいんだ」

「私の……?」

 と、そこで俺は彼女に内容を説明して行く。
 スキルを使いたいんだけれども、容易には使えないという理由を。


 数分後。
 ようやく説明し終える頃には彼女はとりもちを取っても逃げようとしなかったし、俺のナイスな顔を見ても怯えるという不自然な行動はなくなった。

「……とりあえず、本当に危険はないんですね?」

 2本の尻尾をゆっくりと動かしながら、彼女は怯えて聞いて来たが俺の答えは変わらない。

「あぁ、もしその危険が見られた場合は俺の秘伝の蘇生薬を使って生き返らせると約束する。俺は約束は破らない男だ」

 蘇生薬ってのは、1回だけ生物を復活させるという禁断の薬品。俺が持っている中でもかなりレア度が高いアイテムである。アイテムボックスではなく、いざという時のために隠し持っていたもの。
 この"1回だけ"というのが厄介で、もし仮にこの薬を使った場合はもう二度と使えない。俺はとある出来事でこの蘇生薬を自身に使ってしまったために、この薬は使えない。貴重な薬品ではあるが、彼女の不安を取り除く事を考えたら大したことではない。
 いざという時に売りさばこうと思って1本だけ持っていたが、こういう機会に使う方がこの薬も本来の役割を果たして良いだろう。

 彼女はその薬を見て、ようやく覚悟を決めてくれたようである。まぁ、命の危険がないとはいえ、復活のための薬があると聞いた方が気持ちの整理もしやすいだろう。

「おーけー、それじゃあまずはこの書類にサインしてくれないかな」

 と、俺が差し出した書類に対して彼女はキョトンとしていた。

「これは……?」

「俺のこの能力は配下にしか効かないらしくてさ、発動する前に一回あなたを配下にしなければならない。そのための書類だよ。
 本来なら血とかの儀式とか、魔力とかを使うんだけれども、書類なら破けば契約を白紙に出来るから」

 これはダンジョンマスターだった時に覚えた事の1つである。ダンジョンには直属の配下の魔物以外に、雇い入れるタイプの魔物も居るのだがそういう魔物にはこの書類にサインさせる。そして一時的に自分の配下として、契約が終わる時や問題が起きた際に紙を破いてすぐさま契約を破棄できるという方法である。
 勿論、スライム達はこれからも一緒に頑張って欲しいからこの方法は使っていないが、彼女とはその場限りの関係。それならばこういった紙の方が、お互いに後腐れなく出来るだろう。

「【週休は3日、病気などになった際にはこちらで治療の準備を進めます】、【業務内容について不確かな部分を作らず、一緒になって成長出来るようにコミュニケーションはかかしません】、【給料に関しては出来高制、もしくは即物支給性のどちらかを取りますので要相談です】……。
 これは……えっと、あなたの配下になるための契約書類よね?」

「そうですよ……? まぁ、ぶっちゃけ変えるのが面倒だからダンジョンマスター時代のままだけど……」

 この条件は他のダンジョンマスターに比べるとかなり甘い、と言うかあまりにも甘すぎて「本当に大丈夫なのか!?」と怒鳴り付けられたくらいである。けれども、俺としてはこの条件にはそれぞれ意味がある。

 週休3日。普通のダンジョンならば休みなどほとんどなく、戦い続けろとか、異常がないか巡回しろとか言うんだけれども、俺は自分自身だったら嫌だと思ってこの条件にした。ぶっちゃけ自分も同じように休みが欲しかったからで作った条件だったが、魔物達に休みは与えられても、自分には休みは出なかった。つらかった。
 治療に関しても同じようなもの。ふざけて出来た傷にまで干渉していられないが、ダンジョンでは身体が資本。そのために出来る限りの治療はかかさなかった。だって彼らが死んだら自分も死ぬ可能性が増えるんだよ? だったら出来る限り、頑張って貰うような体調管理は重要だろう。
 コミュニケーションは主に知恵を貸してもらうため。これを書いておくことによって、ダンジョンマスターの方から堂々と「この罠、どう思う?」なんて事が聞けるようになるのだ。ぶっちゃけ頭が良い魔物達に何度も聞くためにも、この条件は必須だった。
 出来高制と即物支給のどちらかにしたのは、お金を必要とする種族と必要としない種族が居たから。この辺は他の方も真似する人も多かった。

 多分、俺の後釜の奴はやってないだろうな。
 魔物達からは嬉しがられたが、元上司からは「もっと厳しくして貰わないと困るよぉ~。こっちだってさ、魔王として畏れ、敬われたいのに配下がこれじゃあいけないよね? と言う訳で休みなしという厳しい現状を与えるので、あんたもほどほどに厳しくしてな」と怒られたぐらいだ。
 ……今考えても泣けてくる。部下に優しくして、それでどうして俺の休みが減らなくちゃならないんだ。

「はいっ、書けました」

 と、そんな昔の事を思い浮かべている間に彼女は紙に自身の名前を書いてくれた。
 【ソラハ・テンジョウイン】という文字を見て、その後確認のために自身のステータスを確認する。

=====
名前;マスティス・タウスト
職業;元ダンジョンマスター 【混色】の魔王 魔王(仮)
保有スキル;魔物使役 剣術Lv.2 猛毒耐性 混色能力
評価;D-(最大Sー最低F)

配下;マッチョスライム×10 【妖狐】の勇者ソラハ・テンジョウイン
=====

 前まで『配下』と言う項目はなかったはずだが、これもまたステータスさんが気をきかせてくれた結果だろう。本当に、どんどん優秀になって俺、嬉しい。

=====
【混色】の魔王 レベル1の条件を満たしております。
【妖狐】の勇者ソラハ・テンジョウインに対して能力を使用できます
=====

 条件もクリアできたと確認したところで、俺は「【混色】の魔王」と呟くと、俺の手に1本の筆が現れる。

 軽くて、持ちやすい、だけれどもしっかりとした存在感を放つというその筆は筆先になんの色もなかったが、試しに「赤」を思い浮かべると筆の先が赤色に染まり、「青」を思い浮かべると今度は青色に染まった。
 ……なるほど、これで塗れと言う事か。

「じゃあ、ソラハさん。最初の契約通りに、あなたの2本ある尻尾のうちの1本に対して青色を塗る。
 効果が現れようとも、現れなかったとしても、終わった後に書類を破く。以上でよろしいでしょうか?」

 黄色は彼女の身体がほどんど黄色だったから効果がないから行わなかった、残りは赤か青か。
 青色にしたのは、単に彼女の趣味である。夕焼け空よりかは青空の方が好きらしく、だから出来るなら青色が良いとの事。尻尾にしたのも、彼女の希望である。

「じゃあ、行くよ」

 ゆっくり、だけれども他の部分に色が付かないように慎重に筆を動かす。

 ぽちょん、と尻尾に毛先が当たった瞬間、

「んっ……!」

 という、こそばゆいけれども我慢しなければという彼女の声と、

「すらっ……!」

 横でどのポーズが一番カッコいいかと頭を悩ますスライム達の声が同時に聞こえる。


「んっ……、これ、癖になっちゃう……かもぉ……」
「すらっ……? すらっ?」

「いやっ……やめっ……」
「ぷよっ……ふっ……」

「こそばゆい……だけど……奥に……」
「すらすらっ……すっ……」


 ……うん、何故かいかがわしさを感じたが気のせいだったらしい。

 けれども、スキルの効果はあった。
 彼女の鮮やかで綺麗だった黄色の尻尾は、どこまでも透き通って濁りない青色へと変わり。
 何故か彼女の右の瞳も、それに応じるかのように澄み渡る青色の瞳へとその姿を様変わりさせていた。
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