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父親が欲しい王女と、父親嫌いの少女

第5話 アイリスにとっての『理想の父親』

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 カモミーユの警告から----2週間後。

 私はアイリス王女の事など忘れて、王立エクラ女学院で学生生活を謳歌していた。

 学生生活、満喫ぅ!!



「それで、どうして私の事を避けていたのかしら?」

 はい、満喫タイム、終了~。

 昼食を食べようとした私は、アイリス王女に詰め寄られていました。
 もう、壁に詰め寄られて、どぉんって形で。

 ヒノモトから来た勇者達の言葉曰く、『壁ドン』というものですね、これ。

「私、ちゃーんと待っていたのよ。『考えさせてほしい』って言われたから、ちゃーんと、ね。
 でも、催促はしても良いですよね? そういう権利は、ここまで待てば発生して然るべき、ですよね?」
「うぐっ……」

 意図的にアイリス王女の事を忘却してた節がある私は、何も言い返せなかった。
 王女様の事を意図的に無視してたし、不敬罪とかでヤバイ罪、背負わされるかなぁーと思っていたら、

「はぁ~。まぁ、事情はだいたい想像つきますがね」

 意外にも、アイリス王女がしたのは同情を含んだ溜め息でした。

「カモミーユ・アドバーシティー。彼女があなたに警告したんでしょ?」
「それは……」
「否定しなくても、大丈夫だよ。それくらい分かるから」

 ニコッと、何故か寒気がする笑顔を見せるアイリス王女。

「私がこの理想の家族について語った相手の中で、あなたに突撃するような人物なんて、彼女以外考えられませんもの。
 父親嫌いで有名な公爵令嬢、カモミーユ・アドバーシティーその人しか」
「えぇ、まぁ。ですね」

 彼女、相当に"父親"という存在が嫌いだと豪語してたもの。
 確か、生まれたその日に浮気がバレて、家を飛び出して行ったーとかなんとか。

「ところで、あなたは姉妹制度が尊いと言っていましたね?」
「えぇ、そりゃあまぁ」

 それ目的でこの学院に来たと言っても、過言じゃないくらいだし。
 残念ながら話すくらいにはなっても、姉妹として受け入れてくれる人はまだ見つかってないけど。
 あと、同室のヴェルベーヌさんは、未だに一回も家に勝ってないけど。


「その気持ちは変わらない? 例えその姉妹制度が、"カモミーユちゃんを救えない"としても?」


 ニコッと、アイリス王女はそう言う。

「どういう意味ですか、それは?」

 姉妹制度では、カモミーユ・アドバーシティーは救えない?
 アイリス王女はなんでそんな、具体的に言い切る? いや、何故そんなはっきりと言い切れる?

「それはね。姉妹制度は、あくまでも姉妹として、互いに友好的になるのが目的の制度だからね。
 姉妹の絆ってのはお互いに別の家に嫁いでも支え合おうという目的であって、それは友人の延長線上に過ぎない。つまりは、"本当にヤバイ事"に踏み込む制度ではない」

 ----本当に、ヤバい事?
 というか、姉妹の絆って、そんな薄情な制度ではなかったような?

「(なんかアイリス王女って、姉妹に希望を抱いていないよりかは、父親に幻想を抱きすぎている感じがするんだけど……)」

 王族の姉妹仲ってそんなに悪いんだろうかなぁ、と思っていると、「カリカちゃん、聞いてる?」と問いかけられた。

「そう言えば、カリカちゃん。カリカちゃんは、カモミーユちゃんから父親について聞いてる? どういう人物なのかって」
「えっと、自身が生まれた日に浮気がバレて家を出て行ったクソ野郎、だと」

 うん、自分で言っててもそう思う。
 カモミーユの父親は、クソ野郎だなーと。

「私も彼の男はカモミーユを見捨てたクソ野郎ではあると思う。だけど、浮気がバレて、というのは後付けの理由だよ」
「後付け?」
「そう、その方が体裁が良いし。"本当の理由"なんて、それこそ言うものじゃないからね」

 本当の、理由?
 カモミーユの父親が、出て行ったのは、浮気がバレたからじゃない?

 グルグルと頭を回転させて悩み始めた私に、「ところで----」とアイリス王女が無理やり話題を変えて来る。

「そう言えば、父親になって欲しいとお願いしたけれども、私にとっての理想の父親像を、あなたと共有してなかったわよね」
「まぁ、"パパになって!"と言われただけですし」

 そもそも、断固拒否勢だから、聞きたくなかったというか。

「私にとっての理想の母親はね、『子供達を正しい方向に導く人』なの。子供達に正しい道を進ませるために、家庭教師やらを雇ったり、音楽鑑賞のために行ったり。
 そして、私にとっての理想の父親はね、『子供達に正しい方向を示す人』なの」
「それって、ほとんど同じ意味なのでは?」

 『導く』と『示す』って、もう一緒の意味として認識されていても不思議ではないのかと思うんですけれども。

「いいや、全然違うよ。それこそ、天と地ほどに、ね」

 どういう意味なのか、本気で尋ねようとしたその時である。


 ----どっごぉぉぉぉぉぉんんんっっっ!!


「なっ、なにっ?!」
「あーあ、"持たなかった・・・・・・"か」


 激しく響き渡る、強烈な音。
 私を含めて、多くの生徒達がびっくりする中。

 ただ1人、アイリス王女だけは訳知り顔という感じで、納得していたのが印象的だった。

「ほら、カリカちゃん。あれ、見てよ」

 と、アイリス王女が指差す先。


 そこには、天高く伸びる、青白い炎の柱。


「あなたが信じる姉妹制度ってのは、あんな風になった妹でも、支えてくれる制度だったりするのかな?」



(※)姉妹制度
 王立エクラ女学院独自の、互いを姉妹として支え合う制度
 それは困難や愚痴を言い合って慰め合って、気持ちを切り替える制度ではあっても、その人の根本的な問題を、家族にしか話せないような問題を解決する制度ではない
 少なくとも、アイリス・A・ロイヤル第三王女はそう考える
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