鬼畜の城-昭和残酷惨劇録-

柘榴

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第4話 同居人

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 零時前、池田と共に事務所で世間話をしていた時、突然玄関の戸が勢いよく開けられました。
 勢いよくと言うか、力の加減ができていないという印象の方が強かったかもしれません。
 しばらくすると、玄関のほうから足音が聞こえてきます。それはやがて、事務所の方へ近づいてきていました。 
「……ァ」
 扉を開けたのは中年の男でした。そして、その男は私の顔を見て妙な声を漏らしました。
 声と言うか、動物の鳴き声のような、獰猛なものでした。
「オウ、和。戻ったんならはよこっち来い! お前に紹介する奴おんねん」
 池田に手招きされ、動物のようにそれに従う男の名は「和」と言いました。
 この男は言動、挙動の至る所が異様だった。年齢は……四十代くらいだったでしょうか。
「は、初めまして」
「……ゥ」
 私の挨拶に、小さなうなり声で返答する和。正直に言うと、無礼というか、不気味というのが彼の第一印象でした。
「気悪くせんでな、こいつ和っちゅうんやけど、頭がちょっとパーでの、うまくしゃべれんのや」
 池田は小声で私に耳打ちしました。詳しく聞くと、和は元々は健常者だったらしいのですが、徴兵で戦場に駆り出され、そこで頭に大きな怪我を負ってから脳に欠陥が生じ、うまく意思疎通ができなくなってしまったらしいのです。

 戦争の被害者であり、知的障害を負った彼を、同じく戦争の被害者である池田が引き取り、現場の働き口を与えたという成り行きだったそうです。
「そうですか……それは何と言っていいか、大変ですね」
「こいつもあんたと一緒でな、放っておけんかったんや。やからここで住み込みで働きながら一生懸命に生きとる。頑張っとる奴を放っておけん性分での」
 池田は幼い娘を失った経験から、生きていれば娘と同世代だった私たち若者を放っておけないと語っていました。
 当時、無知な田舎者の私は池田の言葉を鵜呑みにしていました。疑う気持ちなど、微塵も無かったのです。
 ただ、池田が親切で優しい男だと信じ切っていたのです。 
「そこでや、あんたもここでしばらくやってみんか? なぁに、腰掛でかまへんかまへ ん。あんたみたいな優秀なべっぴんやったらすぐに次の仕事も決まるやろうし。ちょっと事務の仕事やってもらえれば大助かりや。それに、儂もそれなりに顔が広い。手伝ってくれんのなら、良い紹介もできるかもしれへんよ?」
 池田を信じ切っていた私に、断る理由などありませんでした。当面の働き口と住処が確保でき、さらにこの池田の下で働ける喜び。
 私は早速、翌日からこの『池田昭和建設』事務の手伝いをすることを決意しました。
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