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第2話 一輪の花Ⅱ
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そして、とうとう真衣は引退を迎えた。
最後のステージであっても、「いつも通り」の様子であった。
だが、最後のステージを終えた彼女はこれまでにないくらいに輝いて見えた。
「……お疲れさま。そして今までありがとう」
俺は真衣の頭にタオルを被せる。
「こっちのセリフ。今までありがとうねプロデューサー。それと、ごめんね。いつまでも売れない駄目アイドルで」
真衣は目に涙を浮かべながら俺をまっすぐ見つめてくる。
彼女は十分美しい。真面目で、少し子供らしいところが残ったあどけなさが、彼女の最大の魅力である。
けれど、彼女は売れなかった。それが突き付けられた現実だった。
「馬鹿言うなよ。お前は最高のアイドルだった。最後まで全力で駆け抜けた……それだけで十分だよ」
そうは言ったが、その現実は残酷だった。
それは真衣自身が一番分かっていることだろう。だからこそ、彼女は引退を決意した。
「……終わっちゃったんだ。私のステージ」
「ああ、けどお前の人生はこれからだろ? 実家に帰ってゆっくりこれからを考えればいいさ」
俺は真衣の頭を軽く撫で、そう言った。
「うん……花嫁修業、とか」
「お、良い相手でもいるのか。もうアイドルじゃないからな、恋愛も自由だぞ」
それを聞いて、真衣は少しむくれる。
「……馬鹿。良い相手なんて……鈍感」
「……真衣?」
悪気は無かったのだが、真衣を怒らせてしまったようだ。
彼女も女だ、きっと気になる男の1人や2人はいるんだろう。
「何でもない! 私が引退しても、事務所は頼むよ! 里香ちゃんとか栞ちゃんとか、期待の新人を育てる責任がプロデューサーにはあるんだからね」
真衣は何かを誤魔化すように大きな声で叫びながら俺の背中を叩いた。
最後まで他人の心配かと少し呆れてしまう。
「ああ、任せろ」
「あ、引退したことだし飲み行こうよ! もちろんプロデューサーの奢りで」
「……分かってるよ。全く……」
彼女はきっとステージを去るのが辛かったはずだ。
けれど、俺にそれを悟られないようにと必死に笑顔で感情を塗りつぶしている。
だがもうそんな必要はない。
真衣、お前はこれから俺の最高のプロデュースを受けて永遠に輝き続けるのだから。
会場を後にし、俺たちは外で軽く飲んだ。
そして、真衣は酔っているのか俺の部屋に行きたいと言い始めた。
「いいじゃん、最後くらいさ。実家に帰る前に……思い出が欲しいし」
真衣は酒のせいか頬が少し赤くなっていたが、俺は気付かないフリをした。
きっと顔が赤いのは酒のせいだけではないはずだ。
「仕方ないな……散らかってるけど、文句言うなよ」
結局、俺は真衣を自宅に招き入れることにした。
「わぁ、ここがプロデューサーの部屋かぁ……」
マンションの一室である俺の自宅に入ると、真衣は子供の様にはしゃぎ始めた。
そんな珍しい部屋でもないが、彼女にとっては俺の部屋だというだけで意味があるのだろう。
目を輝かせて部屋中を見渡す真衣は、純粋な子供そのものだった。
そんな彼女に見とれそうになるが、俺は真衣の肩に触れながら真剣な表情で彼女に囁いた。
「真衣、話があるんだ」
「……うん」
俺の真剣さを感じ取ったのか、真衣は落ち着きを取り戻してこちらに向き直る。
「俺は、最後にプロデューサーとしてお前を輝かせる責任がある。だから、俺の最後のプロデュース、受けてくれないか」
それを聞いた真衣は、驚いたかと思うとすぐに笑顔を浮かべ、こう答えた。
「……うん、もちろん。今までプロデューサーのプロデュースが間違ってたことなんてないもん。どんなプロデュースであっても……私はあなたを信じて、それを受け入れるよ」
まだ内容も話していないのに、真衣は何の疑いも無く俺を受け入れると言い、静かに目を閉じた。
彼女は……俺を本当に信頼してくれていたんだ。
そんな現実に、俺は例えようのないほどの幸福を感じていた。
「……ああ、ありがとう」
俺は静かに感謝を述べ、目を閉じる彼女の首に手を掛ける。
ここから、彼女を……真衣を未来永劫輝き続ける存在へと昇華させるためのプロデュースが始まる。
「そして、さようならだ」
君は僕にとって、一輪の美しい花だ。
花の茎のように細い真衣の首に、俺の手がどんどん食い込んでいく。
そして俺は……彼女をこの手で絞め殺した。
最後のステージであっても、「いつも通り」の様子であった。
だが、最後のステージを終えた彼女はこれまでにないくらいに輝いて見えた。
「……お疲れさま。そして今までありがとう」
俺は真衣の頭にタオルを被せる。
「こっちのセリフ。今までありがとうねプロデューサー。それと、ごめんね。いつまでも売れない駄目アイドルで」
真衣は目に涙を浮かべながら俺をまっすぐ見つめてくる。
彼女は十分美しい。真面目で、少し子供らしいところが残ったあどけなさが、彼女の最大の魅力である。
けれど、彼女は売れなかった。それが突き付けられた現実だった。
「馬鹿言うなよ。お前は最高のアイドルだった。最後まで全力で駆け抜けた……それだけで十分だよ」
そうは言ったが、その現実は残酷だった。
それは真衣自身が一番分かっていることだろう。だからこそ、彼女は引退を決意した。
「……終わっちゃったんだ。私のステージ」
「ああ、けどお前の人生はこれからだろ? 実家に帰ってゆっくりこれからを考えればいいさ」
俺は真衣の頭を軽く撫で、そう言った。
「うん……花嫁修業、とか」
「お、良い相手でもいるのか。もうアイドルじゃないからな、恋愛も自由だぞ」
それを聞いて、真衣は少しむくれる。
「……馬鹿。良い相手なんて……鈍感」
「……真衣?」
悪気は無かったのだが、真衣を怒らせてしまったようだ。
彼女も女だ、きっと気になる男の1人や2人はいるんだろう。
「何でもない! 私が引退しても、事務所は頼むよ! 里香ちゃんとか栞ちゃんとか、期待の新人を育てる責任がプロデューサーにはあるんだからね」
真衣は何かを誤魔化すように大きな声で叫びながら俺の背中を叩いた。
最後まで他人の心配かと少し呆れてしまう。
「ああ、任せろ」
「あ、引退したことだし飲み行こうよ! もちろんプロデューサーの奢りで」
「……分かってるよ。全く……」
彼女はきっとステージを去るのが辛かったはずだ。
けれど、俺にそれを悟られないようにと必死に笑顔で感情を塗りつぶしている。
だがもうそんな必要はない。
真衣、お前はこれから俺の最高のプロデュースを受けて永遠に輝き続けるのだから。
会場を後にし、俺たちは外で軽く飲んだ。
そして、真衣は酔っているのか俺の部屋に行きたいと言い始めた。
「いいじゃん、最後くらいさ。実家に帰る前に……思い出が欲しいし」
真衣は酒のせいか頬が少し赤くなっていたが、俺は気付かないフリをした。
きっと顔が赤いのは酒のせいだけではないはずだ。
「仕方ないな……散らかってるけど、文句言うなよ」
結局、俺は真衣を自宅に招き入れることにした。
「わぁ、ここがプロデューサーの部屋かぁ……」
マンションの一室である俺の自宅に入ると、真衣は子供の様にはしゃぎ始めた。
そんな珍しい部屋でもないが、彼女にとっては俺の部屋だというだけで意味があるのだろう。
目を輝かせて部屋中を見渡す真衣は、純粋な子供そのものだった。
そんな彼女に見とれそうになるが、俺は真衣の肩に触れながら真剣な表情で彼女に囁いた。
「真衣、話があるんだ」
「……うん」
俺の真剣さを感じ取ったのか、真衣は落ち着きを取り戻してこちらに向き直る。
「俺は、最後にプロデューサーとしてお前を輝かせる責任がある。だから、俺の最後のプロデュース、受けてくれないか」
それを聞いた真衣は、驚いたかと思うとすぐに笑顔を浮かべ、こう答えた。
「……うん、もちろん。今までプロデューサーのプロデュースが間違ってたことなんてないもん。どんなプロデュースであっても……私はあなたを信じて、それを受け入れるよ」
まだ内容も話していないのに、真衣は何の疑いも無く俺を受け入れると言い、静かに目を閉じた。
彼女は……俺を本当に信頼してくれていたんだ。
そんな現実に、俺は例えようのないほどの幸福を感じていた。
「……ああ、ありがとう」
俺は静かに感謝を述べ、目を閉じる彼女の首に手を掛ける。
ここから、彼女を……真衣を未来永劫輝き続ける存在へと昇華させるためのプロデュースが始まる。
「そして、さようならだ」
君は僕にとって、一輪の美しい花だ。
花の茎のように細い真衣の首に、俺の手がどんどん食い込んでいく。
そして俺は……彼女をこの手で絞め殺した。
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