4 / 10
第4話 血肉の花弁【里香】Ⅱ
しおりを挟む
10分ほど歩き、自宅のマンションへと辿り付く。
俺が部屋の鍵を開けるとともに里香は遠慮も無く玄関に上がり込む。
「お邪魔しまーす!」
「散らかってるけど文句言うなよ。それと、部屋の物はイジるな」
里香は靴を脱ぎ捨て、ふらふらと部屋の奥へ進む。
もはや泥酔だ。恐らく自分が今どこにいるのかすら分かっていない。
「なんかこの部屋……臭くない? 換気してんの?」
「ああ、昨日ちょっと……解体するものがあってな」
俺の返答に里香は大した反応も示さなかった。
きっと魚か何かを料理で解体したくらいにしか思っていないだろう。
実際は、俺は昨日……真衣をこの部屋で、この手で解体したというのに。
「ねー水とないの? 気利かないなぁ!」
昨日の記憶に浸っている俺を、真衣の下品な声が呼びつける。
すると、真衣は部屋の一番奥にある冷蔵庫に手を掛けていた。
「触るなッ!」
俺は喉が焼けるくらいの勢いで怒鳴りつけたが、既に冷蔵庫の扉は半分ほど開かれていた。
そこは聖域だ。穢れのない、崇高な「真衣」が眠る聖域なのだ。お前などが……お前などが触れて良い場所ではない。
しかし、俺の怒鳴り声を無視して泥酔した里香は勢いよく冷蔵庫の扉は開ける。
そして、その冷蔵庫の中の「聖域」を目にし、茫然と立ち尽くす。
「……は、なに……これ。なんなの」
里香は目の前の現実が受け入れられず、何度も瞬きを繰り返していた。
その衝撃は、既に里香の酔いすら吹き飛ばしていた。
「……真衣、さん? コレ、真衣さん?」
里香がコレと指差す先には……真衣の首が置かれている。
目を静かに閉じた真衣の首が鎮座して眠っている……まさに穢れなき聖域。
「聖域を土足で踏み荒らし、挙句に真衣をコレ扱いか……里香、お前はつくづくアイドル失格の屑だよ」
俺は静かだが、きっと恐ろしい声を出していたんだと思う。
「……っひ!」
俺の声を聞いた里香は真っ先に玄関へと走り出していた。
しかし、酔いか恐怖のせいか足が絡まり、すぐに転倒する。
「たすけっ……! いや……」
里香の細い脚はがくがくと震えていた。
そして、俺はキッチンに備え付けてある包丁を手に持ちながら里香へゆっくりと近付く。
「全く、最後の最後まで手間のかかる奴だよお前は……」
「いやっ……帰して……誰にも、誰にも言わないから」
里香は目に涙を溜め、消え入りそうな声で懇願する。
普段、あんな気の強い里香が恐怖に顔を歪め、震えている。
「心配するな、お前もちゃんと俺がプロデュースしてやる。俺にはその責任があるからな」
震える里香を俺は優しく抱きしめた。
そうだ、俺はこいつのプロデューサーだ。どんなロクでなしの、手間のかかるアイドルだったとしても、俺のアイドルだ。
俺にはお前をプロデュースする責任がある。
「お前もすぐに花になれる。だから、殺されてくれないか」
「……がァっ!」
俺は里香の腹部に包丁を突き刺した。鮮血が飛び散り、里香が痛みに喘ぐ。
「おいおい、あまり暴れないでくれ。お前のその自慢の手足は傷付けたくないんだ」
そう、里香の手足は重要な「パーツ」であり「花弁」だ。傷を付けるような事があってはならない。
人それぞれには重要なパーツがある。それが里香にとっての長く、美しく、しなやかな「手足」なのだ。
「お前はアイドル失格の屑だ。口も素行も悪ければ、アイドルとしての責任感も無い。本来ならお前など俺のプロデュースされる価値もない。だがな、お前はパーツ、花弁としては価値がある事を誇っていい」
里香は確かにアイドルとしては屑だ。
だが、お前の手足だけは重要かつ不可欠な「血肉の花弁」となり、やがては美しい花の一部となる。
だからこそ、俺はお前を「プロデュース」する。
「いた、い……助けて、いままで……ごめんなさ、い。本当に……ご、め」
何かを言いかける里香の口に、容赦なく包丁を柄の部分まで押し込む。
「がっ……ああああああああああ!」
里香は手足さえ残れば良い。それ以外……つまり顔も必要ない。
俺は包丁を柄の部分まで飲み込んだ里香が息絶えたのを確認し、包丁を引き抜く。
「光栄に思え、お前のその手足は花弁だ。血肉の花弁だ。美しい花を咲かせるための花弁の1枚として、お前は選ばれたんだよ」
ズタズタになった口内から噴水の様に血を漏らす里香には、既に俺の言葉は届いていなかった。
俺が部屋の鍵を開けるとともに里香は遠慮も無く玄関に上がり込む。
「お邪魔しまーす!」
「散らかってるけど文句言うなよ。それと、部屋の物はイジるな」
里香は靴を脱ぎ捨て、ふらふらと部屋の奥へ進む。
もはや泥酔だ。恐らく自分が今どこにいるのかすら分かっていない。
「なんかこの部屋……臭くない? 換気してんの?」
「ああ、昨日ちょっと……解体するものがあってな」
俺の返答に里香は大した反応も示さなかった。
きっと魚か何かを料理で解体したくらいにしか思っていないだろう。
実際は、俺は昨日……真衣をこの部屋で、この手で解体したというのに。
「ねー水とないの? 気利かないなぁ!」
昨日の記憶に浸っている俺を、真衣の下品な声が呼びつける。
すると、真衣は部屋の一番奥にある冷蔵庫に手を掛けていた。
「触るなッ!」
俺は喉が焼けるくらいの勢いで怒鳴りつけたが、既に冷蔵庫の扉は半分ほど開かれていた。
そこは聖域だ。穢れのない、崇高な「真衣」が眠る聖域なのだ。お前などが……お前などが触れて良い場所ではない。
しかし、俺の怒鳴り声を無視して泥酔した里香は勢いよく冷蔵庫の扉は開ける。
そして、その冷蔵庫の中の「聖域」を目にし、茫然と立ち尽くす。
「……は、なに……これ。なんなの」
里香は目の前の現実が受け入れられず、何度も瞬きを繰り返していた。
その衝撃は、既に里香の酔いすら吹き飛ばしていた。
「……真衣、さん? コレ、真衣さん?」
里香がコレと指差す先には……真衣の首が置かれている。
目を静かに閉じた真衣の首が鎮座して眠っている……まさに穢れなき聖域。
「聖域を土足で踏み荒らし、挙句に真衣をコレ扱いか……里香、お前はつくづくアイドル失格の屑だよ」
俺は静かだが、きっと恐ろしい声を出していたんだと思う。
「……っひ!」
俺の声を聞いた里香は真っ先に玄関へと走り出していた。
しかし、酔いか恐怖のせいか足が絡まり、すぐに転倒する。
「たすけっ……! いや……」
里香の細い脚はがくがくと震えていた。
そして、俺はキッチンに備え付けてある包丁を手に持ちながら里香へゆっくりと近付く。
「全く、最後の最後まで手間のかかる奴だよお前は……」
「いやっ……帰して……誰にも、誰にも言わないから」
里香は目に涙を溜め、消え入りそうな声で懇願する。
普段、あんな気の強い里香が恐怖に顔を歪め、震えている。
「心配するな、お前もちゃんと俺がプロデュースしてやる。俺にはその責任があるからな」
震える里香を俺は優しく抱きしめた。
そうだ、俺はこいつのプロデューサーだ。どんなロクでなしの、手間のかかるアイドルだったとしても、俺のアイドルだ。
俺にはお前をプロデュースする責任がある。
「お前もすぐに花になれる。だから、殺されてくれないか」
「……がァっ!」
俺は里香の腹部に包丁を突き刺した。鮮血が飛び散り、里香が痛みに喘ぐ。
「おいおい、あまり暴れないでくれ。お前のその自慢の手足は傷付けたくないんだ」
そう、里香の手足は重要な「パーツ」であり「花弁」だ。傷を付けるような事があってはならない。
人それぞれには重要なパーツがある。それが里香にとっての長く、美しく、しなやかな「手足」なのだ。
「お前はアイドル失格の屑だ。口も素行も悪ければ、アイドルとしての責任感も無い。本来ならお前など俺のプロデュースされる価値もない。だがな、お前はパーツ、花弁としては価値がある事を誇っていい」
里香は確かにアイドルとしては屑だ。
だが、お前の手足だけは重要かつ不可欠な「血肉の花弁」となり、やがては美しい花の一部となる。
だからこそ、俺はお前を「プロデュース」する。
「いた、い……助けて、いままで……ごめんなさ、い。本当に……ご、め」
何かを言いかける里香の口に、容赦なく包丁を柄の部分まで押し込む。
「がっ……ああああああああああ!」
里香は手足さえ残れば良い。それ以外……つまり顔も必要ない。
俺は包丁を柄の部分まで飲み込んだ里香が息絶えたのを確認し、包丁を引き抜く。
「光栄に思え、お前のその手足は花弁だ。血肉の花弁だ。美しい花を咲かせるための花弁の1枚として、お前は選ばれたんだよ」
ズタズタになった口内から噴水の様に血を漏らす里香には、既に俺の言葉は届いていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる