Delution;Days-電脳の地獄-

柘榴

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最終話 現の地獄

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 そして午前0時、全ユーザーの定期ログアウトが完了し、事態は収束した。
 無法地帯と化した3時間の間、私のように発覚していない場合を除けばDD内では大きな問題は生じなかったという。
 
 ログアウトが完了し、現実の自分が目を覚ました時、私の心は確かに軽くなっていた。
 あの連中が苦しむ姿、それがたとえ幻であったとしても、現実ではなんの傷も負っていないにしても。
 現実とは完全に隔絶されている点もDDの魅力であった。あちらの世界での事象はこちらには一切反映されない。だからこそ、DDでは本当の自分をさらけ出せる。
 そして私はDDで復讐を遂げた。この復讐こそが、私の本来望んでいる願いだったのだろう。

 私は何か月ぶりだろうか、学校へ登校した。
 相変わらずこちらの世界では車椅子でしか私は生きられない。学校までは両親に送ってもらい、そこから教室までは自力で移動した。
 数か月ぶりに私を物珍しそうに見るクラスメイト達には興味は無かった。私は木村、工藤、桐ケ谷の現状を確認したくてわざわざ登校をしたのだ。
 
 昼休み、私はまず木村の様子を見に行くため教室を出る。
 移動を誰かに手伝ってもらおうかと思ったが、過去にそれが原因であんな目に遭ったのだ。もう誰かを信頼してするつもりもなかった。

 昼休みが終わる直前になってようやく木村の所属するクラスの教室にたどり着く。
 中を覗くと、教室の隅で弁当を突く木村の姿が目に入った。
「木村君、意外と小食なんだ」
「あ、あ……うっ!」
 木村は私の顔を見るなり、口元を抑えながら教室を逃げ出した。
 
 木村が向かった先はトイレだった。
 しばらく待っていると、顔を真っ青にした木村が出てくる。
「急に出ていく事もないじゃない。びっくりしちゃった」
「……あの日から、飯もほとんど食えなくなった。好きで少食になったわけじゃない」
「良かったじゃない、良いダイエットになるわ。それにあれは電脳世界での出来事でしょ? 夢と何ら変わらない。そんな気にする必要もないのに」
 私の言葉に、木村は諦めたようにため息をついた。
「何度も、夢だって思い込んだ。けど、脳が覚えているんだ。あの時の感触、臭いに至るまで全て」
 木村の手足はガキガクと震えていた。あの日の記憶は、木村と言う存在そのものに染みついている。
 例え、身体に外傷は無くても心はとっくに傷だらけになっていた。
「工藤や桐ケ谷も同じさ。2人とも学校にも来れずにずっとあの日の出来事に苦しまされてる。工藤は自分が消化されて糞になった感覚が忘れられず、僕と同じ……いや、僕よりずっと酷い拒食症になった。桐ケ谷は今でも自分が汚物に塗れていると錯覚してて、1日中風呂の浴槽に浸かってるらしい」
「……だって、たかがDDの中の話じゃない。ちょっと悪い夢を見ただけ……それなのに」
 私はここでようやくことの重要性に気付いた。
 DDで負った傷は現実には反映されない。だがそれは目に見える外傷の話だ。
 負った心の傷は、どこまでも付きまとう。
 それは私自身が1番知っていたはずだ、殴られ、首を絞められた痕が身体から消えても、心に負った傷は癒えることは無かった。
「さっきも言っただろ、脳は全部覚えているんだって。いくら夢だと言い聞かせてもあの日の鮮明な記憶には嘘は付けない」
 恐怖は3人の存在そのものに刻まれていた。
 その傷はどこまででも付きまとい、3人の心を蝕み続けるだろう。
「君は……悪魔だ」
 木村は、光のない目で畏怖を込めたように私を見て言った。
 それは私が強姦され、家の前に無残に捨てられた時に吐き捨てた台詞と同じだった。
「私が……」
 私は被害者として3人に復讐する権利があると思っていた。
 そして、私は復讐を遂げ、私と同じ境遇の人間を3人増やすことができた。確かに心は晴れた。
 しかし、それは自分の受けた苦しみを押し広げるだけの残酷な行為だった。

 目を覚ました時、心が軽くなった気がした。
 けれど、それは心から汚れが浄化されたわけじゃない。
 きっと、私の心が人としての大事な「何か」を失ったから、軽く感じるだけなんだろう。

 私は、知らぬ間にあの3人の悪魔と同類になっていたんだ。
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