追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸

文字の大きさ
1 / 4

捨てられた日

しおりを挟む
 「この、人でなし!」

 「魔女!」

 そんな怒りの声とともに子供の拳ほどの石が飛んで来て私、ラストの頭に当たる。
 そしてそのせいで私の頭が揺れ、何処かが切れたのか流血する。
 だけど、もう私はその石に痛みを感じることはなかった。
 もう全身が傷だらけで、酷い痛みが先程まで身体を襲っていたが今は熱を全身に感じるだけで痛みは感じられない。

 「っ、なんれ……」

 ーーー だが、心に感じる痛みは一切変わることはなかった。

 私に憎しみの視線を注ぎ、罵りながら石を投げてくる民衆達、彼らは今まで唯一の私の理解者であったはずの存在だった。
 
 そう、リースブルク家に生まれながら聖女の才能を持たず、爪弾きにされて来たこの国の中で唯一。

 だから私も民衆などただの捨て駒だとそう笑う貴族達の中にいて、唯一彼らの生活の向上のために必死に動いて来た。
 その為に必死にしたくもなかった王子の婚約まで受け入れて必死に頑張って来たのだ。

 だが、その結果が今の現状だった。

 簡単なことだ。
 私は家の思惑を超えて必死に民衆達に尽くして頑張っているつもりだった。
 だが、それはただの勘違いでしか無かったのだ。
 ただ、私はリースブルク家の掌で踊っていたに過ぎなかったのだ。
 リースブルク家は好き勝手に動く私を快くなど思っていなかった。
 いや、それ以前に聖女の才能を持たない私を最初から認めていなかったのだ。

 そして王国内に突然現れた竜を倒せなかったその責任、その全てを私に押し付けて追放した。

 それはあまりにもおかしな話だった。
 私は確かに王子の婚約者ではある。
 だがそれは本当にただリースブルク家と王家の繋がりを強めるだけで、それ以外の意味は一切なかった。
 だが王家は私が聖女の才能さえ持たない癖に驕り高ぶり好き勝手を働き、そのせいで竜を討伐することが出来なかったと王国に発表したのだ。
 そんなこと、あり得るわけが無かった。
 聖女の才能を持たない時点で貴族社会での私の存在はあってないようなものだった。
 そしてそんな私にリースブルク家が手を貸そうとすることなんて無かった。
 それどころか、積極的に他家と協力して私を迫害して来て、そんな私に竜の討伐を妨げるようなことなど出来るはずが無かった。

ーーー だが、その全てを民衆達は信じ込んだ。

 今まで私が必死に盛り立てていた領内の国民は、王国から貰った僅かな金で私を売った。
 そして今まで私の改革のお陰で生活がマシになっていたはずの民衆達もあっさりと掌を返した。
 
 竜という、そんな天災とも称される存在に対して溜まった王国中の不満は全て私へと向けられ、

ーーー 私は最悪の魔女として、国外に追放されることになった。

 そしてその結果が、国中の民衆に石を投げられるこの状態だった。
 私はその中で涙を流しながら笑う。
 何故私は死刑じゃ無かった時に、誰か私のことを庇ってくれたのだと思ったのだろうか?
 そんなことあり得るわけが無かったのに。
 全ては追放という言い訳で民衆達に私へと不満をぶつける場を作り、全ての不満を私に押し付けようとする王国の企みでしか無かったのに。

 私に待っていたのは、最悪の地獄でしか無かったのに………

 「あぁぁぁぁあ!」

 私があげた悲鳴、だがそれは民衆のあげる怒りの声にあっさりと打ち消されていった……
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

冤罪で処刑されることになりましたが、聖女の力で逆に断罪してあげます

霜月琥珀
恋愛
一話で完結します。

聖女が醜くて臭いのは王子がクズだからです~隣国で善人イケメンに拾われたら美貌と良い匂いを取り戻しました~

サイコちゃん
恋愛
汚物――そう呼ばれるのはこの国の聖女ルシアナだ。彼女はネガティブなものを体に取り込んで国を守る聖女である。しかし悪臭に耐えきれなくなった王子がルシアナを森へ捨ててしまう。捨てられたルシアナは隣国の美しき薬師に拾われ、助かる。彼に甲斐甲斐しく世話をされているうちに元々の美貌が戻ってきて――

悪『役』令嬢ってなんですの?私は悪『の』令嬢ですわ。悪役の役者と一緒にしないで………ね?

naturalsoft
恋愛
「悪役令嬢である貴様との婚約を破棄させてもらう!」 目の前には私の婚約者だった者が叫んでいる。私は深いため息を付いて、手に持った扇を上げた。 すると、周囲にいた近衛兵達が婚約者殿を組み従えた。 「貴様ら!何をする!?」 地面に押さえ付けられている婚約者殿に言ってやりました。 「貴方に本物の悪の令嬢というものを見せてあげますわ♪」 それはとても素晴らしい笑顔で言ってやりましたとも。

聖女は魔女の濡れ衣を被せられ、魔女裁判に掛けられる。が、しかし──

naturalsoft
ファンタジー
聖女シオンはヒーリング聖王国に遥か昔から仕えて、聖女を輩出しているセイント伯爵家の当代の聖女である。 昔から政治には関与せず、国の結界を張り、周辺地域へ祈りの巡礼を日々行っていた。 そんな中、聖女を擁護するはずの教会から魔女裁判を宣告されたのだった。 そこには教会が腐敗し、邪魔になった聖女を退けて、教会の用意した従順な女を聖女にさせようと画策したのがきっかけだった。

【完結】聖女が世界を呪う時

リオール
恋愛
【聖女が世界を呪う時】 国にいいように使われている聖女が、突如いわれなき罪で処刑を言い渡される その時聖女は終わりを与える神に感謝し、自分に冷たい世界を呪う ※約一万文字のショートショートです ※他サイトでも掲載中

国王ごときが聖女に逆らうとは何様だ?

naturalsoft
恋愛
バーン王国は代々聖女の張る結界に守られて繁栄していた。しかし、当代の国王は聖女に支払う多額の報酬を減らせないかと、画策したことで国を滅亡へと招いてしまうのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ゆるふわ設定です。 連載の息抜きに書いたので、余り深く考えずにお読み下さい。

妹に婚約者を取られてしまいましたが、あまりにも身勝手なのであなたに差し上げます

hikari
恋愛
ハワード王国の第二王子セレドニオと婚約をした聖女リディア。しかし、背が高く、魔法も使える妹のマルティナに婚約者を奪われてしまう。 セレドニオはこれまで許嫁の隣国の王女や幼馴染と婚約を破棄していたが、自分の母方祖母の腰痛を1発で治したリディアに惚れ込む。しかし、妹のマルティナにセレドニオを奪われてしまう。 その後、家族会議を得てリディアは家を追い出されてしまう。 そして、隣国ユカタン王国へ。 一部修正しました。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

処理中です...