追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸

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捨てられた日 III

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 叫んだ人間、それはルースだった。
 目に激怒を浮かべ、周りで私に石を投げていた人間を黙らせるほどの大声をあげたのだ。

 「なん、で……」

 そして最初何故ルースがそんな風に叫んだのか私には分からなかった。
 もう私は罪人で、庇ったとしてももう民衆達の暮らしをよくすることはできないのに。

 「お前らだって知っているだろうが!どれだけこの人が俺たちの生活を良くするために駆けずりまわっていたのか!」

 だが、そんな私の疑問を他所にルースが止まることは無かった。
 まるで周囲に噛み付くようにそう叫ぶ。
 そしてそのルースの声に民衆達は罪悪感を顔に浮かべた。
 それは決して民衆達も私を本当に恨んではいないことを示していた。
 少なくとも端金で私を売ったと言うそのことに罪悪感を抱く程度には。
 だが、今から自身の行動を改めるにはもう時が経ち過ぎていた。

「うるせぇな!餓鬼が!悪いのは全てその女だろうが!その女が竜退治を邪魔したのが悪いんだろうが!」
 
 「がっ!」

 民衆達は叫んできたルースを思いっきり殴った。
 そう、まるで都合の悪いことを叫ぶルースの口を閉ざすように。

 「ルース!」

 そしてその攻撃に対してルースはなんの反応も出来ずに吹き飛ばされ、私は思わず声をあげる。
 恐らく真っ直ぐなルースはまさか正しいことを言っているのに民衆に殴られるなんて思っていなかったのだろう。
 全くなんの備えも取れていなかったルースは壁にぶつかり、一瞬動きを止める。

 「いてぇなぁ!くそが!」

 だが、それでも直ぐにルースは起き上がった。
 頭をぶつけたのか額から血を流し、足はふらついている。
 
 「だからって俺らが助けて貰った事実が変わるわけがないだろうが!」

 ーーー だが、それでもその目に宿る怒りは一切揺るがなかった。
 
 「っ!この餓鬼ぃ!」

 「ぐっ!」

 そしてルースに一瞬民衆達は気圧される。
 だがそれでも彼の言葉を認めることは無かった。
 認めてしまえばもう、言い訳など出来ないから民衆達はルースを黙らせようと殴るばかりでその言葉を聞こうとはしなかった。
 私を擁護してくれているのはルースただ1人。
 そのほかの人間はその話が正しいと分かりながら、それでもリースを殴りつける。

 「ぅぁ、」

 ーーー だが、何故かその光景に私の粉々になっていたはずの心が再生し始めていた。

 リース1人がいくら叫んだとしても状況など一切変わらない。
 それどころか、逆に意識しまいとした民衆達にリースはぼろぼろにされていっている。
 いわばただ1人を除いてこの王国全体の人間が私を敵視しているのだ。

 なのに、ただ1人ルースが私のことを信じているそれが嬉しくて、今はあれほど感じていた孤独を私は忘れていた。

 「ふざけるなぁ!竜退治の妨害?そんなことラスト様がする訳が無いだろうが!

 ーーー 俺の愛した人が、そんなことをする訳が無いだろうが!」

「っ!」

 何時も、私に照れながら愛の告白をしにきていたルース。
 私は彼の言葉が決して嘘では無いだろうが、それでも本当のものだと信じていなかった。
 それは自分がリースブルク家の無能であることを隠してきたからで……

 今、ようやく私は悟る。
 リースのあの愛の告白、それは嘘偽りの無い心からのものだったことを。

 「っ!」

 その瞬間、私の胸はかつて無い程ときめいて。

 ーーー そして私は人生初めての恋にその時落ちた。

 その瞬間、私の人生は変わった……
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