自称ヒロインに婚約者を……奪われませんでした

影茸

文字の大きさ
20 / 77

第19話 (ライルハート目線)

 そのあと、俺は兄貴と少し言葉を交わして自室へと戻った。
 兄貴は公務で、あと少しで城を後にすることになっており、あれ以上留まることはできなかったのだ。

「……そうか、明日から兄貴は城からいなくなるのか」

 そう呟いた俺は、自分がそのことを寂しく感じていることに気づき、苦笑する。

 「我ながら、兄離れできていないな。……一時はもう近づかないとさえ思っていたのに」

 貴族たちは、役立たずの俺と優秀な王太子の仲が悪いと思い込んでいる。
 だが、それは貴族たちの思い込みでしかない。
 俺と兄貴はお互い唯一の家族と思っている。
 俺は別に王位などまるで狙ってなどいないのだから。
 それどころか兄貴の陣営として動いているし、そのことを本人もしっている。
 そのことを抜きにしても、兄貴は俺に対して最初から優しかった。
 そんな兄貴の王位を狙う気など俺にあるわけがなく、それで十分だと思っていた。

 ……それだけで話は終わらない。

 貴族達にとって、本人の意志などどうだっていい。
 その事に俺が気づいたのは何時だったか。
 貴族は甘い蜜を吸うことしか考えていない。
 そして、そんな貴族達に取って優秀な第二王子は利用するための道具でしかなく、放っておく訳がなかったのだ。
 しかし、当時の俺がその事に気づいたのは全てが手遅れになる直前だった。

 ……兄貴に、償いきれないことをしてしまうところだった。

 その経験が俺が兄貴に近づかないと決めた理由だった。
 もう兄貴に迷惑はかけない。
 いや、兄貴どころか親しい人間を傍におかないと俺は決意していた。

 ……そんな時に俺に手を伸ばし続けてくれたのが、アイリスだった。

 その当時、俺のアイリスへの態度は最悪だった。
 八つ当たりを繰り返し、アイリスの人格を詰った。
 そんな八つ当たりにアイリスはずっと謝罪を続け、そして俺の為に泣いていた。
 そのアイリスが唯一、俺に反抗した言葉を思い出す。

 ──ライルハート様を悪く言うのは本人でも許しません!

 八つ当たりで責めてくる相手に対して、アイリスが唯一怒った言葉。
 アイリスのお節介度合いを俺が知ったのはその時だった。
 ……恐らくアイリスに恋心を抱いたのも。

 どうしようもなく情けなかった俺を見捨てなかったアイリス。
 俺は今もそんな彼女に感謝し、そして恋をしている。

 だからこそ、アイリスに何があろうと守りきると決めていて……あることに俺が気づいたのは、そう改めて覚悟を決めていたときだった。

 「……最終的に、アイリスにどう接すればいいのか、兄貴に教えてもらってない」

 衝撃の事実に気づき、俺の顔から血の気がひく。
 もう、兄貴は城にもおらず、自分でどうにか考えなければならない。
 その現実の前に、俺は呆然と口を動かす。

 「嘘、だろ……」

 夜会は、あと二日のところまで迫っていた……。
感想 106

あなたにおすすめの小説

何やってんのヒロイン

ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。 自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。 始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・ それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。 そんな中とうとうヒロインが入学する年に。 ・・・え、ヒロイン何してくれてんの? ※本編・番外編完結。小話待ち。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。