65 / 77
第64話 (ライルハート目線)
俺の言葉を、アリミナは剣幕を変えて否定した。
「違う! 私は知らなかった! お父様があんなことを企んでいたなんて! お父様は私を自慢の娘だと言ってくれてたはずで……」
その言葉の途中で、顔を暗くして俯くアリミナ。
その姿を見て、俺の記憶に甦ったのはかつての自分の姿、神童と呼ばれた忌むべき記憶だった。
転生してまだ10年も立っていなかったあの時、俺はまだ自分の知識や力の恐ろしさなど欠片も理解していなかった。
ただ、自分の知識や力を見せる度に喜び、褒めてくれる貴族達を見て馬鹿みたいに調子に乗っていた。
自分の力はこうして周りの人を喜ばせるためにあるんだと、なんの疑いもせずに信じて、神童と煽てられるままに知識を、そして力を振るっていた。
……その自分の行動がどれだけ馬鹿なことだったのか、俺がようやく理解したのは、貴族達が自分を王太子に持ち上げようとしていると気づいた時だった。
俺が知識を披露し、この国を豊かにしようと奮闘するのを見て、貴族達が浮かべていた笑みの裏にあったのは、俺を持ち上げれば自分達の権力を強くできるかもしれないなんていう打算だけだった。
貴族達は、覇王に自分達の権力を削られたのをよく思っていなかった。
だから俺を利用しようとした。
俺を煽てて自分達の傀儡にし、権限を取り戻そうとした。
貴族達の甘い顔に騙されていた俺はそんなことに気づかなかった。
自分の力ならみんなが笑って暮らせる世界を作れるなんて、馬鹿みたいな考えを抱いていたから、そんなこと考えもしなかった。
俺が正しいことをしようとすれば、みんな着いてきてくれると思い込んでいて。
──結果、そんな馬鹿な俺が作り出したのは、唯一家族と思っている兄貴を殺そうとする最悪の集団だった。
それが俺の忌むべき過去。
この知識と力が、過ぎたる力であることに気づかず暴走した結果。
そしてその過去の俺と、今のアリミナの状況はよく似ていた。
過程から結果までも。
……認めたくはない。
しかし、認めざるを得なかった。
貴族の甘言に騙されたことも、貴族が自分を利用していることに気づかなかったのも、その結果最悪の事態を引き起こしたのも、全て俺と全く同じだ。
──ただ一つだけ、アリミナと俺には決定的に違うところがあった。
「私はお姉様にここまでする気なんてなかった! 本当よ! ただ、私に文句ばかり言うお姉様はもう少し困るべきだと思っただけで……」
俺の慈悲をえようと、必死に言葉を重ねるアリミナ。
だが、そのアリミナの思惑とは反し、俺の目は冷ややかになっていった。
アリミナと俺の違い。
それはたった一つ。
けれどそれは致命的で決して違えてはならない違いだった。
それにアリミナは気づいてさえいなかった。
貴族達に裏切られたことを知った俺は、当時影響力が大きすぎた公爵家以外の主犯格の貴族を自らの手で潰し、それから一人部屋に引きこもった。
家族てある兄貴には申し訳なくて顔が合わせず、それ以外の人間は信じることが出来なかった。
そんな中、どれだけ拒絶されようが俺に歩みよってくれたのがアイリスだった。
あの時の俺は荒れていて、かなりアイリスにひどいことをした。
アイリスが唯一潰せなかった公爵家の人間だったことを言い訳に、八つ当たりをしたのだ。
それでもアイリスは俺を見捨てなかった。
アイリスだけは、俺の味方でいてくれた。
そんなアイリスのお陰で今の俺がいる。
……だが、アリミナはその救いの手に気づかなかったどころか、踏みにじったのだ。
「本当に私はここまでするつもりは無かったんです!」
「……どうしようもなく愚かだな」
「え……?」
そのことに未だ気づきもせず言い訳しているアリミナの姿に、俺の口から思わずそんな言葉が漏れる。
アリミナの顔に、俺の言葉に対する疑問が溢れるが、もはや俺はアリミナと会話する気も起きず、その場から背を向けた。
アレスルージュを身内で処理すると決めた今、アリミナには重くても爵位剥奪程度の罰しか与えられないだろう。
公爵令嬢には、爵位を剥奪されても王宮で働けることを考えれば、一見重くない罰に感じる。
だが、俺はこれ以上アリミナに関して手を出すつもりはなかった。
自分の力の恐ろしさも知らないアリミナにこの先何が待っているのか、理解出来ていたからだ。
その恐ろしさを理解出来た時、ようやくアリミナは気づくだろう。
自分が、一体どれだけ守られてきたか。
……そして、その庇護はもうないことを。
「違う! 私は知らなかった! お父様があんなことを企んでいたなんて! お父様は私を自慢の娘だと言ってくれてたはずで……」
その言葉の途中で、顔を暗くして俯くアリミナ。
その姿を見て、俺の記憶に甦ったのはかつての自分の姿、神童と呼ばれた忌むべき記憶だった。
転生してまだ10年も立っていなかったあの時、俺はまだ自分の知識や力の恐ろしさなど欠片も理解していなかった。
ただ、自分の知識や力を見せる度に喜び、褒めてくれる貴族達を見て馬鹿みたいに調子に乗っていた。
自分の力はこうして周りの人を喜ばせるためにあるんだと、なんの疑いもせずに信じて、神童と煽てられるままに知識を、そして力を振るっていた。
……その自分の行動がどれだけ馬鹿なことだったのか、俺がようやく理解したのは、貴族達が自分を王太子に持ち上げようとしていると気づいた時だった。
俺が知識を披露し、この国を豊かにしようと奮闘するのを見て、貴族達が浮かべていた笑みの裏にあったのは、俺を持ち上げれば自分達の権力を強くできるかもしれないなんていう打算だけだった。
貴族達は、覇王に自分達の権力を削られたのをよく思っていなかった。
だから俺を利用しようとした。
俺を煽てて自分達の傀儡にし、権限を取り戻そうとした。
貴族達の甘い顔に騙されていた俺はそんなことに気づかなかった。
自分の力ならみんなが笑って暮らせる世界を作れるなんて、馬鹿みたいな考えを抱いていたから、そんなこと考えもしなかった。
俺が正しいことをしようとすれば、みんな着いてきてくれると思い込んでいて。
──結果、そんな馬鹿な俺が作り出したのは、唯一家族と思っている兄貴を殺そうとする最悪の集団だった。
それが俺の忌むべき過去。
この知識と力が、過ぎたる力であることに気づかず暴走した結果。
そしてその過去の俺と、今のアリミナの状況はよく似ていた。
過程から結果までも。
……認めたくはない。
しかし、認めざるを得なかった。
貴族の甘言に騙されたことも、貴族が自分を利用していることに気づかなかったのも、その結果最悪の事態を引き起こしたのも、全て俺と全く同じだ。
──ただ一つだけ、アリミナと俺には決定的に違うところがあった。
「私はお姉様にここまでする気なんてなかった! 本当よ! ただ、私に文句ばかり言うお姉様はもう少し困るべきだと思っただけで……」
俺の慈悲をえようと、必死に言葉を重ねるアリミナ。
だが、そのアリミナの思惑とは反し、俺の目は冷ややかになっていった。
アリミナと俺の違い。
それはたった一つ。
けれどそれは致命的で決して違えてはならない違いだった。
それにアリミナは気づいてさえいなかった。
貴族達に裏切られたことを知った俺は、当時影響力が大きすぎた公爵家以外の主犯格の貴族を自らの手で潰し、それから一人部屋に引きこもった。
家族てある兄貴には申し訳なくて顔が合わせず、それ以外の人間は信じることが出来なかった。
そんな中、どれだけ拒絶されようが俺に歩みよってくれたのがアイリスだった。
あの時の俺は荒れていて、かなりアイリスにひどいことをした。
アイリスが唯一潰せなかった公爵家の人間だったことを言い訳に、八つ当たりをしたのだ。
それでもアイリスは俺を見捨てなかった。
アイリスだけは、俺の味方でいてくれた。
そんなアイリスのお陰で今の俺がいる。
……だが、アリミナはその救いの手に気づかなかったどころか、踏みにじったのだ。
「本当に私はここまでするつもりは無かったんです!」
「……どうしようもなく愚かだな」
「え……?」
そのことに未だ気づきもせず言い訳しているアリミナの姿に、俺の口から思わずそんな言葉が漏れる。
アリミナの顔に、俺の言葉に対する疑問が溢れるが、もはや俺はアリミナと会話する気も起きず、その場から背を向けた。
アレスルージュを身内で処理すると決めた今、アリミナには重くても爵位剥奪程度の罰しか与えられないだろう。
公爵令嬢には、爵位を剥奪されても王宮で働けることを考えれば、一見重くない罰に感じる。
だが、俺はこれ以上アリミナに関して手を出すつもりはなかった。
自分の力の恐ろしさも知らないアリミナにこの先何が待っているのか、理解出来ていたからだ。
その恐ろしさを理解出来た時、ようやくアリミナは気づくだろう。
自分が、一体どれだけ守られてきたか。
……そして、その庇護はもうないことを。
あなたにおすすめの小説
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
知らぬはヒロインだけ
ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。
告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。
しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。
そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。
しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。
※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。