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凍えきった表情 (ソシリア視点)

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「……やけに遅かったな」

 ようやく会議室に行くと、そこではあきれ顔のアルフォードが待っていた。
 なかなかこない私達に暇を持て余していたのか、その手には半分ほど開かれた書類が握られている。
 しかし、そうしてアルフォードが気の抜けた姿をさらしていたのは、わずかな時間だった。

「まあいい。とにかく、伯爵家についてだ」

 次の瞬間、そう立ち上がったアルフォードは、ピリピリとした緊張感をまとっていた。
 その緊張感に影響されるように、私達も無言で用意されたいすに座る。
 それを確認して、アルフォードは口を開く。

「まず、はじめに言っておくが、明日明後日には伯爵家に攻撃を仕掛ける」

「……なっ!」

 その言葉には、マルクとリーリアだけではなく、私も衝撃を隠すことができなかった。

「待て、準備は……」

「言っただろう、待っていたと。マーク達以外の準備はもうすでに終わっている」

「そ、ソシリア?」

「……ええ、アルフォードの言っていることは本当よ」

 私は、困惑したリーリアにそう断言する。
 昨日、ほとんど会議せずに解散したのも、やることがほとんどなかったからにすぎない。

 ……だが、そう事情を知っている私も、アルフォードの言葉には、衝撃を隠すことができなかった。

 そう、確かに不可能ではないのだ。
 やろうと思えば、問題なく伯爵家をつぶせる準備を私達は整えてきた。
 それでも、余りに急な決定ではないかと、私でさえ思わずにはいられない。
 そんな私達の内心を見抜いたように、アルフォードは口を開く。

「今伯爵家をつぶしておかないといけない。……あいつらが、またサーシャリアに関わろうとする前に」

「……っ!」

 私の目が覚めたのは、その瞬間だった。
 そうだ、あの伯爵家はいつかサーシャリアにまた関わろうとする。
 その前に、つぶさなければならない。
 私と同じように、リーリアもその表情に決意をみなぎらせている。
 マルクが遠慮がちに口を開いたのは、そのときだった。

「待ってくれ、サーシャリアには伝えないままいくのか?」

 ……私が、あることを共有し忘れていたことに気づいたのは、そのときだった。
 そう、偽装婚約ともう一つアルフォードが認めないことがあったことを。
 私はとっさになにか言おうとするが、その前にアルフォードが口を開いた。

「だめだ、サーシャリアには絶対に伝えない」

 ──表情が消え去った凍えるような目で。
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