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序章
4.魔法覚醒
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「うぅ、グズ……」
その夜、僕は少女と共に獣人の男を埋葬した。
男は即死だった。
痛みも感じることはなかっただろう。
ーーー だが少女の心には消えることのない傷が深々と付けられていた。
「お兄ちゃん……こめんなざいっ!ひぐっ、わ、わだじの所為で!」
僕は埋葬の途中に少女の名はマイルで男はカイ、二人は兄妹であることを聞いた。
そしてそのことを聞いた僕には兄の墓の前で泣きわめく彼女に何も声をかけることが出来なかった。
「くそっ!」
獣人、または魔族、それらには一切人権が認められていない。
それが人間の中で常識であることを僕はこれまでに嫌という程思い知らされていた。
何せそれが国教で認められているのだ。
人間という種族自体が魔族や獣人を見下すのは当たり前の風潮かもしれない。
ーーー だが、それでもマイルを目の前のか弱い少女を泣かせたユースは絶対に許すことはできない。
「お兄ちゃん……」
しかし今どれだけそう僕が怒りを覚えても目の前の少女が泣き止むことはないのだ。
そのことを僕は未だ兄の墓の上でなく少女を見て悟る。
「っ!」
そしてその少女の姿に僕はある魔族の姿を思い出した……
彼女は唯一僕がこの世界で心を許した存在だった。
どうしようもない現状に泣きわめくことしかできなかった僕の唯一の味方で、
ーーー そして僕が最終的に守りきれなかった存在だった。
守りたい、そう願い最後は逆に守られて彼女を僕は失った。
何度後悔したかなんてもう僕には数えられない。
それは忘れてはいけない記憶で、
「絶対に僕が現状を変えてみせる!」
「え、?」
その記憶がマイルの姿に思い出された時、僕はそう叫んでいた。
「そうできる方法を僕は知っているから!」
その言葉は決して嘘なんかではない。
本当に僕は今の現状を覆すかもしれない力の存在を知っていて、その力を知ったその時から必死にその力を得ようとしてきた。
だが、その話は未だ誰にもしたことのない話だった。
その理由は簡単だ。
その力は確かに有用ではあるが、人間の世界では異端のものとして扱われているのだ。
だから僕は今まで誰にも自身の取り組みを教えたことはなかった。
そう、例えどれだけ仲良くなった人間や獣人がいても。
「その力を得れば僕らは自由になれる!」
だが、その時僕の頭にはもう少女にその話を教えないという選択肢はなかった。
ただ、少しでも少女に希望を持ってもらうそのために僕は彼女に全てを打ち明けることを決意した……
◇◆◇
僕がこの状況を打開できる、そう確信している力の名は魔法。
それは紋章と呼ばれる媒体に魔力を込めることで発動する超常の力魔術とよく勘違いされるが、待った別の力。
そもそも魔法は魔力を必要としないのだ。
つまり魔術の存在しない獣人ですら発動できる可能性はある。
しかし、魔法は魔術よりも才能が必要になる力で誰しもが扱える力ではない。
そして、その力を最も使えていた存在こそが魔族と呼ばれる種族だった。
それが人間が魔族を滅ぼそうとした理由。
魔族は人間に比べ酷く数が少ない。
けれども魔法という超常の力が扱える上に保有する魔力の量も多く、そして身体能力も獣人には及ばないがかなり高い。
そしてその明らかに格上の存在が人間は認められなかったのだ。
だから争いなど一切求めていなかった魔族に勇者を召喚して襲い掛かった。
それが僕の呼び出された理由。
最悪で最低で、どうしようもないクソみたいな理由。
だが僕はそれに抗うことできなく、魔族を殺し、魔王を殺した。
それは決して許されることではない。
だけど、それでも今は僕はその罪を償う前に助けないといけない人々がいる、そう自分に言い聞かせてマイル魔法という超常の存在について僕は説明を続けた。
「そんな、ものが……」
そして話を聞いたマイルは突飛すぎるその話に呆然としていた。
当たり前だろう。
魔法は全てが強力な力ではないが、強力なものでは人外の力を得る。
そしてその危険性に獣人の王ですらその存在を隠そうとしていたのだから。
「でも本当に魔法はある。実際に魔族は使っていたしね」
「あっ、すいません……疑うみたいな感じになってしまって……」
「いや、別にそれが当然の反応だから気にしないで。まぁ、ともかく魔法というのは本当にある。それでその魔法が使えれば僕達はこれを外せる」
僕は謝ってくるマインに気にしないでと笑いかけ、そして奴隷紋を指しながら話を続ける。
「っ!」
そしてその僕の言葉にマインは再度驚愕する。
獣人族にとって魔術とは恐怖の対象である最強の力だ。
しかし僕はそんな価値観を持っている彼らの前でありながら自信満々に魔術を破れる、そう断言してみせる。
そしてそれは決して嘘ではない。
魔術とは強力な代わりに汎用性がない。
強力ではあるかま、効果は1つだけだ。
ーーー だが、その効果はその人間が一番強く願っていることに基づいて発症する。
魔族以外にも魔法の素養を持っている人間はいる。
だが彼らが魔法を発症するとは限らない。
けれどもその力が発症する時、それは彼らの願いに基づいた力となる。
僕は伊達に勇者ではない。
魔法に関する素養もあると魔法の本家である魔族に認められている。
そしてもし僕の思い通り、奴隷紋の効果を消す魔法が得られたとすれば、僕は今は奴隷紋に抑制されている勇者本来の力を取り戻し、単身で人間達に対抗できる力を得る。
「僕は魔法の素養があってもう少しで奴隷紋を壊せる。だから、安心していいから。絶対に僕が獣人族を助けてみせる」
ーーー だが、これは嘘だった。
いや、嘘と呼べるほどのことではないかもしれない。
確かに僕が魔法の素養を持っていることも、そして獣人族を助けようと思っていることも確かだ。
けれども未だ僕は魔法を使えない。
日々、地獄のような中僕は魔法を望む。
そしてもう十分魔法が発動していいほど苦しんだはずなのに僕は未だ魔法が発症していないのだ。
僕には素養があるとそう告げた魔族は魔法の専門家だ。
嘘を言うとは思えない。
だけど本当に僕が魔法を使えるかどうかはわからない。
「そう、ですか……」
そしていくら励ますためだとは言え、嘘を言ってしまった僕は罪悪感で顔を俯かせる。
全部は嘘ではないが、本当にこんな気休めを言ってしまって良かったのか、そう唇を噛みしめる。
「だったら、私邪魔になる訳にはいきませんね」
「なっー」
ーーー だから、今度も致命的に遅れた。
突然胸に衝撃を感じ、いきなり突き飛ばされた僕は何事かと転がりながらマインに文句を言おうと顔を上げる。
「えっ、マイン?」
「足手まといはここで消えます。獣人族の未来をお願いします」
そして、食事用のナイフを自身の首に突きつけたマインの姿に僕は言葉を失った。
だが直ぐに僕は悟る。
自分が何をしでかしてしまったのか、その致命的な失敗を。
「やめろ!やめてくれ!」
ーーー 僕は死にたがっていながらも、兄の死を無駄にしない為に生きようとしていた少女に、死ぬ理由を作ってしまったのだと。
僕は必死に叫ぶが笑顔で僕を見るマインには届かない。
「さようなら」
「っ!」
そして彼女はなんの躊躇もなくナイフを自身の首に押し込んだ。
血が溢れ、マインの顔が痛みに歪む。
けれど、その小さなナイフは幾らか弱い少女であれど命を奪うにはあまりにも小さかった。
血の量からナイフの傷が致命傷とならなかったことを悟った僕はなんとか少女を救う為に、立ち上がる。
ナイフを自分に刺すと言うのは想像以上に覚悟のいる行為だ。
次に刺すまでにマインを助ける、そう決意して僕は足を踏み出し、
「えっ?」
ーーー だが僕がマインのもとに行く前にマインはは躊躇することなく同じ場所にナイフを突き立てた。
「ぐっ!」
血が溢れ、辺りを赤く染める。
「あ、あぁぁぁぁあ!」
そしてその傷は誤魔化し用のない致命傷で、そのことを悟った僕の口からよく分からない叫び声が溢れ出す。
僕は最後まで見誤っていたのだ。
マインの兄に対する愛情を、兄を失ったことによる失望を、
そして彼女の抱えた絶望の重さを。
「何で!」
僕は地面に倒れる前にマインのその軽い身体を受け止める。
だがその時にはもう彼女はただの物体に成り下がっていた。
「おい、嘘だろ?」
僕はそれでも彼女の身体を揺する。
はじめは軽く、そしてどんどん強く。
「巫山戯るな!目を覚ませよ!覚まして、くれよ……」
だが、その声に少女の亡骸が答えることはなかった。そんなこと、あるはずがなかった。
しかしそれでも僕は事務的な動きで彼女の身体を揺する。
自分が何をしたかったのか、何をしようとしていたのか、その全てが曖昧になって自分が誰であるのかさえも分からなくなってくる。
その時、僕は正気を失おうとしていた。
どうすることもできない現実に全てを失い、楽になろうとそう考えて、
「えっ、まほう?」
ーーー だが身体に感じる新たな力が僕を現実に引きずり戻した。
それは僕が常に欲しいと願っていたものだった。
早く発症しろと、気が狂わないばかりに望んだはずのもの。
「なんで、今何だよぉ!」
ーーー だが、実際に手に入れた僕の第一声に込められていたのは絶望だった。
もう全てを捨てて楽になりたくて、
ー 獣人族の未来をお願いします。
「くそがぁぁぁぁぁあ!」
だが耳に蘇る声が僕の正気を縛り付ける。
僕はその苦しみに耐えきれず、何度も何度も地面を壁を殴りつける。
「あははははははっ!」
ーーー そして最後僕は、いや俺は壊れた。
狂ったように俺は笑う。
少女の死体を前にして腹を抱えて笑う。
「おい!何事……っ!」
「どうした何が……お、お前!」
俺の笑声に釣られ、ようやく人間達が集まり始める。
人間達は死体を前にして笑う俺を見て恐怖浮かべる。
だが俺は騒がしくなりはじめる周りを気にせず笑い続ける。
そしてその日1人の勇者が生まれ変わった。
理不尽に、絶望に、悪意に、狂気に、陰謀に、耐えて耐えて耐えて、そして勇者は捻れた。
ここから始まるのは新たな力を手にした勇者による、成り上がり。
耐えることをやめ、反抗することを覚えた勇者の物語。
そして笑い続ける勇者には今までの心優しい青年の面影は存在しなかった……
その夜、僕は少女と共に獣人の男を埋葬した。
男は即死だった。
痛みも感じることはなかっただろう。
ーーー だが少女の心には消えることのない傷が深々と付けられていた。
「お兄ちゃん……こめんなざいっ!ひぐっ、わ、わだじの所為で!」
僕は埋葬の途中に少女の名はマイルで男はカイ、二人は兄妹であることを聞いた。
そしてそのことを聞いた僕には兄の墓の前で泣きわめく彼女に何も声をかけることが出来なかった。
「くそっ!」
獣人、または魔族、それらには一切人権が認められていない。
それが人間の中で常識であることを僕はこれまでに嫌という程思い知らされていた。
何せそれが国教で認められているのだ。
人間という種族自体が魔族や獣人を見下すのは当たり前の風潮かもしれない。
ーーー だが、それでもマイルを目の前のか弱い少女を泣かせたユースは絶対に許すことはできない。
「お兄ちゃん……」
しかし今どれだけそう僕が怒りを覚えても目の前の少女が泣き止むことはないのだ。
そのことを僕は未だ兄の墓の上でなく少女を見て悟る。
「っ!」
そしてその少女の姿に僕はある魔族の姿を思い出した……
彼女は唯一僕がこの世界で心を許した存在だった。
どうしようもない現状に泣きわめくことしかできなかった僕の唯一の味方で、
ーーー そして僕が最終的に守りきれなかった存在だった。
守りたい、そう願い最後は逆に守られて彼女を僕は失った。
何度後悔したかなんてもう僕には数えられない。
それは忘れてはいけない記憶で、
「絶対に僕が現状を変えてみせる!」
「え、?」
その記憶がマイルの姿に思い出された時、僕はそう叫んでいた。
「そうできる方法を僕は知っているから!」
その言葉は決して嘘なんかではない。
本当に僕は今の現状を覆すかもしれない力の存在を知っていて、その力を知ったその時から必死にその力を得ようとしてきた。
だが、その話は未だ誰にもしたことのない話だった。
その理由は簡単だ。
その力は確かに有用ではあるが、人間の世界では異端のものとして扱われているのだ。
だから僕は今まで誰にも自身の取り組みを教えたことはなかった。
そう、例えどれだけ仲良くなった人間や獣人がいても。
「その力を得れば僕らは自由になれる!」
だが、その時僕の頭にはもう少女にその話を教えないという選択肢はなかった。
ただ、少しでも少女に希望を持ってもらうそのために僕は彼女に全てを打ち明けることを決意した……
◇◆◇
僕がこの状況を打開できる、そう確信している力の名は魔法。
それは紋章と呼ばれる媒体に魔力を込めることで発動する超常の力魔術とよく勘違いされるが、待った別の力。
そもそも魔法は魔力を必要としないのだ。
つまり魔術の存在しない獣人ですら発動できる可能性はある。
しかし、魔法は魔術よりも才能が必要になる力で誰しもが扱える力ではない。
そして、その力を最も使えていた存在こそが魔族と呼ばれる種族だった。
それが人間が魔族を滅ぼそうとした理由。
魔族は人間に比べ酷く数が少ない。
けれども魔法という超常の力が扱える上に保有する魔力の量も多く、そして身体能力も獣人には及ばないがかなり高い。
そしてその明らかに格上の存在が人間は認められなかったのだ。
だから争いなど一切求めていなかった魔族に勇者を召喚して襲い掛かった。
それが僕の呼び出された理由。
最悪で最低で、どうしようもないクソみたいな理由。
だが僕はそれに抗うことできなく、魔族を殺し、魔王を殺した。
それは決して許されることではない。
だけど、それでも今は僕はその罪を償う前に助けないといけない人々がいる、そう自分に言い聞かせてマイル魔法という超常の存在について僕は説明を続けた。
「そんな、ものが……」
そして話を聞いたマイルは突飛すぎるその話に呆然としていた。
当たり前だろう。
魔法は全てが強力な力ではないが、強力なものでは人外の力を得る。
そしてその危険性に獣人の王ですらその存在を隠そうとしていたのだから。
「でも本当に魔法はある。実際に魔族は使っていたしね」
「あっ、すいません……疑うみたいな感じになってしまって……」
「いや、別にそれが当然の反応だから気にしないで。まぁ、ともかく魔法というのは本当にある。それでその魔法が使えれば僕達はこれを外せる」
僕は謝ってくるマインに気にしないでと笑いかけ、そして奴隷紋を指しながら話を続ける。
「っ!」
そしてその僕の言葉にマインは再度驚愕する。
獣人族にとって魔術とは恐怖の対象である最強の力だ。
しかし僕はそんな価値観を持っている彼らの前でありながら自信満々に魔術を破れる、そう断言してみせる。
そしてそれは決して嘘ではない。
魔術とは強力な代わりに汎用性がない。
強力ではあるかま、効果は1つだけだ。
ーーー だが、その効果はその人間が一番強く願っていることに基づいて発症する。
魔族以外にも魔法の素養を持っている人間はいる。
だが彼らが魔法を発症するとは限らない。
けれどもその力が発症する時、それは彼らの願いに基づいた力となる。
僕は伊達に勇者ではない。
魔法に関する素養もあると魔法の本家である魔族に認められている。
そしてもし僕の思い通り、奴隷紋の効果を消す魔法が得られたとすれば、僕は今は奴隷紋に抑制されている勇者本来の力を取り戻し、単身で人間達に対抗できる力を得る。
「僕は魔法の素養があってもう少しで奴隷紋を壊せる。だから、安心していいから。絶対に僕が獣人族を助けてみせる」
ーーー だが、これは嘘だった。
いや、嘘と呼べるほどのことではないかもしれない。
確かに僕が魔法の素養を持っていることも、そして獣人族を助けようと思っていることも確かだ。
けれども未だ僕は魔法を使えない。
日々、地獄のような中僕は魔法を望む。
そしてもう十分魔法が発動していいほど苦しんだはずなのに僕は未だ魔法が発症していないのだ。
僕には素養があるとそう告げた魔族は魔法の専門家だ。
嘘を言うとは思えない。
だけど本当に僕が魔法を使えるかどうかはわからない。
「そう、ですか……」
そしていくら励ますためだとは言え、嘘を言ってしまった僕は罪悪感で顔を俯かせる。
全部は嘘ではないが、本当にこんな気休めを言ってしまって良かったのか、そう唇を噛みしめる。
「だったら、私邪魔になる訳にはいきませんね」
「なっー」
ーーー だから、今度も致命的に遅れた。
突然胸に衝撃を感じ、いきなり突き飛ばされた僕は何事かと転がりながらマインに文句を言おうと顔を上げる。
「えっ、マイン?」
「足手まといはここで消えます。獣人族の未来をお願いします」
そして、食事用のナイフを自身の首に突きつけたマインの姿に僕は言葉を失った。
だが直ぐに僕は悟る。
自分が何をしでかしてしまったのか、その致命的な失敗を。
「やめろ!やめてくれ!」
ーーー 僕は死にたがっていながらも、兄の死を無駄にしない為に生きようとしていた少女に、死ぬ理由を作ってしまったのだと。
僕は必死に叫ぶが笑顔で僕を見るマインには届かない。
「さようなら」
「っ!」
そして彼女はなんの躊躇もなくナイフを自身の首に押し込んだ。
血が溢れ、マインの顔が痛みに歪む。
けれど、その小さなナイフは幾らか弱い少女であれど命を奪うにはあまりにも小さかった。
血の量からナイフの傷が致命傷とならなかったことを悟った僕はなんとか少女を救う為に、立ち上がる。
ナイフを自分に刺すと言うのは想像以上に覚悟のいる行為だ。
次に刺すまでにマインを助ける、そう決意して僕は足を踏み出し、
「えっ?」
ーーー だが僕がマインのもとに行く前にマインはは躊躇することなく同じ場所にナイフを突き立てた。
「ぐっ!」
血が溢れ、辺りを赤く染める。
「あ、あぁぁぁぁあ!」
そしてその傷は誤魔化し用のない致命傷で、そのことを悟った僕の口からよく分からない叫び声が溢れ出す。
僕は最後まで見誤っていたのだ。
マインの兄に対する愛情を、兄を失ったことによる失望を、
そして彼女の抱えた絶望の重さを。
「何で!」
僕は地面に倒れる前にマインのその軽い身体を受け止める。
だがその時にはもう彼女はただの物体に成り下がっていた。
「おい、嘘だろ?」
僕はそれでも彼女の身体を揺する。
はじめは軽く、そしてどんどん強く。
「巫山戯るな!目を覚ませよ!覚まして、くれよ……」
だが、その声に少女の亡骸が答えることはなかった。そんなこと、あるはずがなかった。
しかしそれでも僕は事務的な動きで彼女の身体を揺する。
自分が何をしたかったのか、何をしようとしていたのか、その全てが曖昧になって自分が誰であるのかさえも分からなくなってくる。
その時、僕は正気を失おうとしていた。
どうすることもできない現実に全てを失い、楽になろうとそう考えて、
「えっ、まほう?」
ーーー だが身体に感じる新たな力が僕を現実に引きずり戻した。
それは僕が常に欲しいと願っていたものだった。
早く発症しろと、気が狂わないばかりに望んだはずのもの。
「なんで、今何だよぉ!」
ーーー だが、実際に手に入れた僕の第一声に込められていたのは絶望だった。
もう全てを捨てて楽になりたくて、
ー 獣人族の未来をお願いします。
「くそがぁぁぁぁぁあ!」
だが耳に蘇る声が僕の正気を縛り付ける。
僕はその苦しみに耐えきれず、何度も何度も地面を壁を殴りつける。
「あははははははっ!」
ーーー そして最後僕は、いや俺は壊れた。
狂ったように俺は笑う。
少女の死体を前にして腹を抱えて笑う。
「おい!何事……っ!」
「どうした何が……お、お前!」
俺の笑声に釣られ、ようやく人間達が集まり始める。
人間達は死体を前にして笑う俺を見て恐怖浮かべる。
だが俺は騒がしくなりはじめる周りを気にせず笑い続ける。
そしてその日1人の勇者が生まれ変わった。
理不尽に、絶望に、悪意に、狂気に、陰謀に、耐えて耐えて耐えて、そして勇者は捻れた。
ここから始まるのは新たな力を手にした勇者による、成り上がり。
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