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第五話
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勘当されるまで、本当に長かった。
内心、私はそう強く思う。
なぜなら私は、両親にとって利用価値のある人間になってしまったのだから。
すりより始め、今までのことがなかったように接し始めたのはいったいいつの頃だったか。
このまま頼んでも、逃げられないことは私には容易に想像できた。
だから私は、今まで必死にお膳立てしていたのだ。
内心反吐を吐きながら、すりより勘当だけはいやだと訴え、伯爵家の中には私の指示通り、両親をそそのかす人間を送り。
そして、最後にカルバスの隙をついて私は伯爵家から離れることに成功したのだ。
私がその勘当手続きの書類を出した、そう知ったら両親どんな反応をするだろうか。
今からその時の姿を想像するだけで楽しくてたまらない。
しかし、今の私には真っ先にやることがあった。
そう、今回の功労者へとお礼をするという。
心からの感謝を胸に、私はカルバスに笑いかける。
「ありがとね。間抜けさん?」
その私の言葉に、もう怒りの声はなかった。
ただ呆然と、カルバスは私の方を見上げている。
それは何より雄弁にカルバスの内心を語っていた。
すなわち、カルバスももう立場は逆転していると認めたことを。
「貴族を、やめる?」
弱々しいソルバスの声が聞こえる。
私のことを呆然と見つめるソルバスには、信じられないという色が浮かんでいた。
「カーナリア、何を考えている? お前は貴族をやめてどうするのだ!」
「商会にこないか、そう言われているわ」
「そんなことを話しているのではない!」
突然ソルバスが出した大声に私は思わず目を見開く。
しかし、そんな私を見ても一切止まることなく叫ぶ。
「お前は子爵夫人でありながら、社交界の華と言われる人間なのだぞ! どうしてその名声を軽々と捨てられる!」
「……っ」
想像もしない言葉に、私は一瞬言葉に詰まる。
しかし、それは少しの間だった。
すぐに私の中の驚愕は怒りに変わる。
「名声? ソルバス、貴方は何を言ってるの?」
「それはこちらのセリフだ。それがどれだけ名誉なことか……」
「私がいつ、名誉を求めたの?」
感情的はならないと決めていた。
……いや、なりたくなかった。
でも、もう私は止まらなかった。
「私はそんなこと求めてない! 名声なんて私はいらなかった。私はただ」
──以前の貴方がそばにいてくれさえすれば、それでよかった。
そう言い掛けて私は唇をかみしめる。
もう言ってもどうしようもないことだって、理解しているから。
代わりに、私はその書類を指さす。
「その書類の最後、そこにはお義母様の遺書があるわ」
一瞬怪訝そうな顔をしたソルバスだが、書類を見てすぐに顔色を変える。
「っ!」
私が望む時にこの屋敷を離れていい、そうお義母様の筆跡でかかれた書類を見つけて
「……これを使う日なんて来てほしくはなかったわ」
それだけ言うと、私はソルバスに背中を向ける。
どんな表情でもわからないように。
「明日には、私はここを出るわ。だから、さようなら」
それだけ言い残し、私は扉をでる。
最後まで、ソルバスの声はなかった。
内心、私はそう強く思う。
なぜなら私は、両親にとって利用価値のある人間になってしまったのだから。
すりより始め、今までのことがなかったように接し始めたのはいったいいつの頃だったか。
このまま頼んでも、逃げられないことは私には容易に想像できた。
だから私は、今まで必死にお膳立てしていたのだ。
内心反吐を吐きながら、すりより勘当だけはいやだと訴え、伯爵家の中には私の指示通り、両親をそそのかす人間を送り。
そして、最後にカルバスの隙をついて私は伯爵家から離れることに成功したのだ。
私がその勘当手続きの書類を出した、そう知ったら両親どんな反応をするだろうか。
今からその時の姿を想像するだけで楽しくてたまらない。
しかし、今の私には真っ先にやることがあった。
そう、今回の功労者へとお礼をするという。
心からの感謝を胸に、私はカルバスに笑いかける。
「ありがとね。間抜けさん?」
その私の言葉に、もう怒りの声はなかった。
ただ呆然と、カルバスは私の方を見上げている。
それは何より雄弁にカルバスの内心を語っていた。
すなわち、カルバスももう立場は逆転していると認めたことを。
「貴族を、やめる?」
弱々しいソルバスの声が聞こえる。
私のことを呆然と見つめるソルバスには、信じられないという色が浮かんでいた。
「カーナリア、何を考えている? お前は貴族をやめてどうするのだ!」
「商会にこないか、そう言われているわ」
「そんなことを話しているのではない!」
突然ソルバスが出した大声に私は思わず目を見開く。
しかし、そんな私を見ても一切止まることなく叫ぶ。
「お前は子爵夫人でありながら、社交界の華と言われる人間なのだぞ! どうしてその名声を軽々と捨てられる!」
「……っ」
想像もしない言葉に、私は一瞬言葉に詰まる。
しかし、それは少しの間だった。
すぐに私の中の驚愕は怒りに変わる。
「名声? ソルバス、貴方は何を言ってるの?」
「それはこちらのセリフだ。それがどれだけ名誉なことか……」
「私がいつ、名誉を求めたの?」
感情的はならないと決めていた。
……いや、なりたくなかった。
でも、もう私は止まらなかった。
「私はそんなこと求めてない! 名声なんて私はいらなかった。私はただ」
──以前の貴方がそばにいてくれさえすれば、それでよかった。
そう言い掛けて私は唇をかみしめる。
もう言ってもどうしようもないことだって、理解しているから。
代わりに、私はその書類を指さす。
「その書類の最後、そこにはお義母様の遺書があるわ」
一瞬怪訝そうな顔をしたソルバスだが、書類を見てすぐに顔色を変える。
「っ!」
私が望む時にこの屋敷を離れていい、そうお義母様の筆跡でかかれた書類を見つけて
「……これを使う日なんて来てほしくはなかったわ」
それだけ言うと、私はソルバスに背中を向ける。
どんな表情でもわからないように。
「明日には、私はここを出るわ。だから、さようなら」
それだけ言い残し、私は扉をでる。
最後まで、ソルバスの声はなかった。
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