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第十六話
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「……これで許可は取れたわね」
それから二日後、私は戻ってきた手紙を前にそうつぶやいていた。
私の手にあるのは、国王陛下と公爵家当主の手紙だった。
そこには数多くの心配の言葉が書かれていて、私は思わず苦笑してしまう。
こうして心配してくれる人がいるというのはありがたいことだと。
この心配の言葉は、私がしてきたことをその人達が見てくれたという何よりの証明なのだから。
「……本当に私が認めて欲しかった人には、何も届かなかったけど」
そうつぶやいて私は苦笑する。
本当にどうしてこんなことになってしまったのか、と。
しかし、すぐに私はそんな考えを頭から振り払う。
今は浸っている場合などではないと。
許可は下りた。
なら、今は動くだけでいい。
後悔も反省も、その後でいい。
私は無言でどんどんと書類をまとめていく。
その全ては、様々な他家から寄せられた招待状。
その量を見ながら私は思う。
やはり、自分の名前は大きくなりすぎたのだろうと。
……ソルタスが、伯爵家当主になれるなど思いこんでしまう程に。
上位貴族たる伯爵家になると、与えられる権限も名誉も子爵家とは比較にならない。
何せ、過去の栄光で存続している私の実家の伯爵家でさえ、以前は王妃を輩出したことがあるのだから。
だから、ソルタスが伯爵家を目指すのも決しておかしな話ではないのかもしれない。
ただ、私が望んでいたのは自分とソルタス、そして生まれてくる子供や使用人が飢えない生活でしかなかった。
そのすれ違いが起きた時点で、私とソルタスの生活というのはおしまいだったのだろう。
いや、すれ違いで終わるのではない。
ソルタスがそのすれ違いを埋めようとせず、その姿に私が修復することをあきらめたから、私達の溝は決定的になったのだろう。
それを知った上で、ソルタスだけが悪いと言うつもりは私にはなかった。
だから、思う。
せめて、責任を持って子爵家を徹底的につぶそうと。
──次の瞬間、私は集めていた書類を燃えさかる焼却炉へと投げ込んだ。
めらめらと、書類が燃えていく。
それを見ながら、私は小さく告げる。
「……さて、これでどれだけ過剰になった子爵家の名声を落とせるかしら?」
どんどんと、書類は灰に変わっていく。
私の背後、こちらにせわしない足音が響いてきたのは、ちょうどその時だった。
「奥様、こんなところに……!」
次の瞬間、私の目の前に現れたのは、満面の笑みを浮かべた使用人だった。
その手に握られているのは、大量の書類。
それを差し出しながら、その使用人は告げる。
「奥様、命じられていた手紙。他家からの招待状になります!」
そういいながら、その使用人の顔に浮かぶのは満面の笑みだった。
「まさか、ここまで奥様がやる気を出して下さるとは。これをもう少し、早く見せて下されば、ソルタス様もあそこまで追いつめられることはなかったでしょうに!」
それは普段なら間違いなく勘に障っていた言葉。
しかし、今の私はただにっこりと笑う。
「……ごめんなさい。私も思うところはあるのよ。だから、もっと招待状を持ってきてくれないかしら?」
そう告げる私の視線の先、そこにあるのは今も燃えさかる焼却炉だった。
それから二日後、私は戻ってきた手紙を前にそうつぶやいていた。
私の手にあるのは、国王陛下と公爵家当主の手紙だった。
そこには数多くの心配の言葉が書かれていて、私は思わず苦笑してしまう。
こうして心配してくれる人がいるというのはありがたいことだと。
この心配の言葉は、私がしてきたことをその人達が見てくれたという何よりの証明なのだから。
「……本当に私が認めて欲しかった人には、何も届かなかったけど」
そうつぶやいて私は苦笑する。
本当にどうしてこんなことになってしまったのか、と。
しかし、すぐに私はそんな考えを頭から振り払う。
今は浸っている場合などではないと。
許可は下りた。
なら、今は動くだけでいい。
後悔も反省も、その後でいい。
私は無言でどんどんと書類をまとめていく。
その全ては、様々な他家から寄せられた招待状。
その量を見ながら私は思う。
やはり、自分の名前は大きくなりすぎたのだろうと。
……ソルタスが、伯爵家当主になれるなど思いこんでしまう程に。
上位貴族たる伯爵家になると、与えられる権限も名誉も子爵家とは比較にならない。
何せ、過去の栄光で存続している私の実家の伯爵家でさえ、以前は王妃を輩出したことがあるのだから。
だから、ソルタスが伯爵家を目指すのも決しておかしな話ではないのかもしれない。
ただ、私が望んでいたのは自分とソルタス、そして生まれてくる子供や使用人が飢えない生活でしかなかった。
そのすれ違いが起きた時点で、私とソルタスの生活というのはおしまいだったのだろう。
いや、すれ違いで終わるのではない。
ソルタスがそのすれ違いを埋めようとせず、その姿に私が修復することをあきらめたから、私達の溝は決定的になったのだろう。
それを知った上で、ソルタスだけが悪いと言うつもりは私にはなかった。
だから、思う。
せめて、責任を持って子爵家を徹底的につぶそうと。
──次の瞬間、私は集めていた書類を燃えさかる焼却炉へと投げ込んだ。
めらめらと、書類が燃えていく。
それを見ながら、私は小さく告げる。
「……さて、これでどれだけ過剰になった子爵家の名声を落とせるかしら?」
どんどんと、書類は灰に変わっていく。
私の背後、こちらにせわしない足音が響いてきたのは、ちょうどその時だった。
「奥様、こんなところに……!」
次の瞬間、私の目の前に現れたのは、満面の笑みを浮かべた使用人だった。
その手に握られているのは、大量の書類。
それを差し出しながら、その使用人は告げる。
「奥様、命じられていた手紙。他家からの招待状になります!」
そういいながら、その使用人の顔に浮かぶのは満面の笑みだった。
「まさか、ここまで奥様がやる気を出して下さるとは。これをもう少し、早く見せて下されば、ソルタス様もあそこまで追いつめられることはなかったでしょうに!」
それは普段なら間違いなく勘に障っていた言葉。
しかし、今の私はただにっこりと笑う。
「……ごめんなさい。私も思うところはあるのよ。だから、もっと招待状を持ってきてくれないかしら?」
そう告げる私の視線の先、そこにあるのは今も燃えさかる焼却炉だった。
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