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一章
プロローグ
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「平民が!貴族になれたからといって調子に乗るなよ!」
それは、私サーマリアを罵倒する時に他人がよく使う言葉だった。
どうやら、元平民でありながら身分的には上である私のことが気に入らないらしい。
……けれども、身分的に下の人間からそんなことが言われても咎めることさえ出来ない私には、彼らの言葉は皮肉にしか感じなかった。
何せ私は今まで一度たりとして貴族になりたいなど思ったことは無いのだから。
家族、その言葉に私が思い出すのは遠い記憶。
平民の父と、そして母が笑い合いながら食事屋を営んでいて、その両親に可愛がられて過ごした4歳までの記憶。
……けれども、その暖かい日常は母の持っていたある力によって狂っていった。
母は、精霊と言葉を交わすことが出来る精霊の巫女だったのだ。
もちろん巫女は精霊と契約を結んだ人間とは比にならない程力の弱い存在だ。
………けれども精霊と会話でき、頼みごとができるようになるその力と、母の類まれな美貌は貴族にとって喉から手が出るほど欲しいものだった。
そう、一つの平民の家族を潰しても手にしたいと思うほどに。
その結果、私の父は不慮の事故という名の暗殺にあい、食事屋は外部の圧力によりたたまざるを得なくなった。
そして路頭に迷った母を救うという名目で問答無用で妾にしたのが、私の養父となるカールマン・アストレッド伯爵だった。
………そしてその日から、私と母の地獄は始まることとなった。
◇◆◇
「ごめんなさい、サーマリア。私が、私がこんな忌々しい力を持ってしまったせいで……」
母の最後、それは私への謝罪だった。
母は私を守るために巫女と、アストレッド家の家名を盾に貴族達にも負けることなく応戦していた。
けれども、心優しかった母は心労が祟り私が10歳の冬、ひっそりと息を引き取った。
その母の最後に私は涙を流した。
ーーー そして、その涙の中私はある決意を固めた。
「お前は一人ではない。我がいる。これからはお前の母の分まで、我がお前を守ってやる」
目を真っ赤に充血させた私の頭を撫でる人間離れした美貌を誇る一人の男性。
私にへと掛けられた彼の言葉には溢れんばかりの慈愛が込められていた。
「ううん。私はまだアルセラーンとの契約を隠すわ」
「なっ!?」
………しかし私は彼、私の契約精霊である大精霊アルセラーンの言葉を拒否した。
私の言葉にアルセラーンの顔に隠しきれない驚愕と、私へと心配が浮かぶ。
私への貴族の態度は今でさえ、酷いとしか言いようがないものだった。
そして、これからもますます酷いものとなっていくだろう。
それなのに私はアルセラーンの庇護を断ったのだ。
「しかし、このままでは……」
だから、アルセラーンは私を説得しようと口を開く。
「このままでは私は母と同じ運命を辿ることになる」
「っ!」
……けれども、私の言葉にアルセラーンはその口を閉ざした。
精霊の契約者、その重要度は精霊の巫女の比ではない。
だからこそ私と母は今までそのことを隠していた。
たしかに今の私ならばアストレッド家どころか、公爵家が歯向かって来てもどうにかなるだろう。
それだけの力をアルセラーンは有している。
………けれども、このハルマート王国に目をつけられればどうすることもできない。
「だから私はアルセラーンの大精霊としての力が十全に発揮できるようになる15歳まで、契約のことを隠そうと思う」
だから、その時私は決意した。
これからは愚鈍で何も考えられない愚者を装おうと。
他人から言われたことをこなすだけ人間だと周囲に思い込ませるのだ。
そう、私自身が母のような人生を歩まないために……
それは、私サーマリアを罵倒する時に他人がよく使う言葉だった。
どうやら、元平民でありながら身分的には上である私のことが気に入らないらしい。
……けれども、身分的に下の人間からそんなことが言われても咎めることさえ出来ない私には、彼らの言葉は皮肉にしか感じなかった。
何せ私は今まで一度たりとして貴族になりたいなど思ったことは無いのだから。
家族、その言葉に私が思い出すのは遠い記憶。
平民の父と、そして母が笑い合いながら食事屋を営んでいて、その両親に可愛がられて過ごした4歳までの記憶。
……けれども、その暖かい日常は母の持っていたある力によって狂っていった。
母は、精霊と言葉を交わすことが出来る精霊の巫女だったのだ。
もちろん巫女は精霊と契約を結んだ人間とは比にならない程力の弱い存在だ。
………けれども精霊と会話でき、頼みごとができるようになるその力と、母の類まれな美貌は貴族にとって喉から手が出るほど欲しいものだった。
そう、一つの平民の家族を潰しても手にしたいと思うほどに。
その結果、私の父は不慮の事故という名の暗殺にあい、食事屋は外部の圧力によりたたまざるを得なくなった。
そして路頭に迷った母を救うという名目で問答無用で妾にしたのが、私の養父となるカールマン・アストレッド伯爵だった。
………そしてその日から、私と母の地獄は始まることとなった。
◇◆◇
「ごめんなさい、サーマリア。私が、私がこんな忌々しい力を持ってしまったせいで……」
母の最後、それは私への謝罪だった。
母は私を守るために巫女と、アストレッド家の家名を盾に貴族達にも負けることなく応戦していた。
けれども、心優しかった母は心労が祟り私が10歳の冬、ひっそりと息を引き取った。
その母の最後に私は涙を流した。
ーーー そして、その涙の中私はある決意を固めた。
「お前は一人ではない。我がいる。これからはお前の母の分まで、我がお前を守ってやる」
目を真っ赤に充血させた私の頭を撫でる人間離れした美貌を誇る一人の男性。
私にへと掛けられた彼の言葉には溢れんばかりの慈愛が込められていた。
「ううん。私はまだアルセラーンとの契約を隠すわ」
「なっ!?」
………しかし私は彼、私の契約精霊である大精霊アルセラーンの言葉を拒否した。
私の言葉にアルセラーンの顔に隠しきれない驚愕と、私へと心配が浮かぶ。
私への貴族の態度は今でさえ、酷いとしか言いようがないものだった。
そして、これからもますます酷いものとなっていくだろう。
それなのに私はアルセラーンの庇護を断ったのだ。
「しかし、このままでは……」
だから、アルセラーンは私を説得しようと口を開く。
「このままでは私は母と同じ運命を辿ることになる」
「っ!」
……けれども、私の言葉にアルセラーンはその口を閉ざした。
精霊の契約者、その重要度は精霊の巫女の比ではない。
だからこそ私と母は今までそのことを隠していた。
たしかに今の私ならばアストレッド家どころか、公爵家が歯向かって来てもどうにかなるだろう。
それだけの力をアルセラーンは有している。
………けれども、このハルマート王国に目をつけられればどうすることもできない。
「だから私はアルセラーンの大精霊としての力が十全に発揮できるようになる15歳まで、契約のことを隠そうと思う」
だから、その時私は決意した。
これからは愚鈍で何も考えられない愚者を装おうと。
他人から言われたことをこなすだけ人間だと周囲に思い込ませるのだ。
そう、私自身が母のような人生を歩まないために……
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