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第27話 醜さ
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それから私は最初母が亡くなった頃から始まり、そして裏切られたこの場所に捨てられるまでをアルフォートへと語った。
「……そんな、ことが」
私の話が終わった時、アルフォートの顔には隠しきれない怒りが浮かんでいた。
私はそのアルフォートの姿に、夢だとわかりつつ他人が、いや、他でも無いアルフォートが自分のために怒りを抱いてくれるということに私は喜びを抱く。
「……いえ、私はそうなって当然の人間だったのだと思います」
……けれども、話し終えた私の胸にあるのは家族への怒りでも、恵まれない自分の境遇への嘆きでも無い、虚無感だった。
アルフォートに自身の身に降りかかったことを語るという行為は、私にも自身の行動を再確認させるものだった。
そしてその結果、私はあることに気づいてしまったのだ。
それはあまりにも醜い私の本性。
絶対に他人には告げられないような、そんな真実。
「アルフォート様、私は……」
けれども、夢の中であるということが私の口を滑らかにする。
「……私は貴方を利用していました」
「……は?」
私が告げた言葉に、アルフォートの顔が驚愕に染まった。
◇◆◇
私は家族に裏切られてから、人間不信に陥っていた。
毎日悪夢を見た上、今まで味方だった貴族達に会うことさえ躊躇するほどなのだからそれは決して生半可なものでは無いだろう。
……けれども、何故か私は最初からアルフォートに対して拒絶感を抱いていなかった。
それは明らかにおかしかった。
何せアルフォートはここで初めてあったようなにんげんで、さらに異性なのだ。
ふつうに考えれば二人きりで家に居ることなど出来るはずもない。
だったら何故私は唯一アルフォートに心を許していたのか。
……それは自分とアルフォートが同類であることを理解していたからだった。
アルフォートはその巨大すぎる地下はゆえに人々に疎まれ、この家で孤独に過ごしていた。
そしてその孤独に気づき、私はアルフォートが自分と同じく孤独を抱えていることに気づいたのだ。
人の暖かみを望みながら、孤独から抜け出せないそんな人間であると。
……そしてそのことに気づいたから私はアルフォートの元に残ることに決めたのだ。
孤独を嫌いながらも、孤独でいるしか無いアルフォートならばもう自分を裏切ることなんてないんじゃ無いかと。
だから私は部屋を掃除した時のアルフォートの拒絶に、彼はもう孤独に慣れてしまったのかと絶望して、彼からそのことを謝罪された時には喜びが隠せなかった。
謝罪したアルフォートの姿に、徐々にアルフォートが私に心を許してくれてきていることに気づいたから。
アルフォートの側にずっといれば、アルフォートが私の存在に依存していくことを理解していたから。
ーーー そう私は、アルフォートの孤独を、その苦しさを理解した上を利用したのだ。
「私だって孤独の苦しみを知っていたのに!」
叫ぶ私の頭に浮かんだのは常に拒絶されてきたクラッスター家での生活だった。
あの時、私はあの最悪の肉親達に依存していた。
彼らが私のことなんて何も思っていないことを知っていたのにもかかわらず。
それほどまでに孤独は私にとって辛いものだったのだ。
誰でもいいから、自分を必要としてほしいそう思ってしまうほどに。
けれども、その苦しみをアルフォートが抱えていることを知って私が最初に思ったのは、アルフォートを利用できるなんていう、そんな醜い考えだった。
「私なんて、あの家族と何も変わらない……」
その行動は決して意識しての行動ではなかった。
傷ついたアルフォートを利用するというのはそれは無意識にもう人に拒絶されたく無いと考えた上での行動。
「私の本性は、あの人達と何も変わらない!」
ーーー だからこそ、より一層私の心は痛むのだ。
人々から拒絶され、絶望したアルフォートを見て彼を利用できるなんて考えた自分の心が無意識だったということが、自分の本性の醜さを表しているように思えて。
「本当に、申し訳………」
そのことに打ちのめされながら、それでも私はアルフォートへと頭を下げる。
ここは夢の中で、現実のアルフォートは何も知らない。
それでも、ここで頭を下げずにはいられなかったのだ。
「……んぐ!?」
…….けれども私の謝罪の言葉は口を手で塞がれるというやや強引な方法で中断されることになった。
突然の出来事に何が起きたわからず私は一瞬戸惑う。
「レシアス、本当に君は馬鹿だな」
「…………え?」
そして何が起きたか理解する暇もなく、私の身体に何か温かい物が被さり、私の耳元でアルフォートの声が響いた……
「……そんな、ことが」
私の話が終わった時、アルフォートの顔には隠しきれない怒りが浮かんでいた。
私はそのアルフォートの姿に、夢だとわかりつつ他人が、いや、他でも無いアルフォートが自分のために怒りを抱いてくれるということに私は喜びを抱く。
「……いえ、私はそうなって当然の人間だったのだと思います」
……けれども、話し終えた私の胸にあるのは家族への怒りでも、恵まれない自分の境遇への嘆きでも無い、虚無感だった。
アルフォートに自身の身に降りかかったことを語るという行為は、私にも自身の行動を再確認させるものだった。
そしてその結果、私はあることに気づいてしまったのだ。
それはあまりにも醜い私の本性。
絶対に他人には告げられないような、そんな真実。
「アルフォート様、私は……」
けれども、夢の中であるということが私の口を滑らかにする。
「……私は貴方を利用していました」
「……は?」
私が告げた言葉に、アルフォートの顔が驚愕に染まった。
◇◆◇
私は家族に裏切られてから、人間不信に陥っていた。
毎日悪夢を見た上、今まで味方だった貴族達に会うことさえ躊躇するほどなのだからそれは決して生半可なものでは無いだろう。
……けれども、何故か私は最初からアルフォートに対して拒絶感を抱いていなかった。
それは明らかにおかしかった。
何せアルフォートはここで初めてあったようなにんげんで、さらに異性なのだ。
ふつうに考えれば二人きりで家に居ることなど出来るはずもない。
だったら何故私は唯一アルフォートに心を許していたのか。
……それは自分とアルフォートが同類であることを理解していたからだった。
アルフォートはその巨大すぎる地下はゆえに人々に疎まれ、この家で孤独に過ごしていた。
そしてその孤独に気づき、私はアルフォートが自分と同じく孤独を抱えていることに気づいたのだ。
人の暖かみを望みながら、孤独から抜け出せないそんな人間であると。
……そしてそのことに気づいたから私はアルフォートの元に残ることに決めたのだ。
孤独を嫌いながらも、孤独でいるしか無いアルフォートならばもう自分を裏切ることなんてないんじゃ無いかと。
だから私は部屋を掃除した時のアルフォートの拒絶に、彼はもう孤独に慣れてしまったのかと絶望して、彼からそのことを謝罪された時には喜びが隠せなかった。
謝罪したアルフォートの姿に、徐々にアルフォートが私に心を許してくれてきていることに気づいたから。
アルフォートの側にずっといれば、アルフォートが私の存在に依存していくことを理解していたから。
ーーー そう私は、アルフォートの孤独を、その苦しさを理解した上を利用したのだ。
「私だって孤独の苦しみを知っていたのに!」
叫ぶ私の頭に浮かんだのは常に拒絶されてきたクラッスター家での生活だった。
あの時、私はあの最悪の肉親達に依存していた。
彼らが私のことなんて何も思っていないことを知っていたのにもかかわらず。
それほどまでに孤独は私にとって辛いものだったのだ。
誰でもいいから、自分を必要としてほしいそう思ってしまうほどに。
けれども、その苦しみをアルフォートが抱えていることを知って私が最初に思ったのは、アルフォートを利用できるなんていう、そんな醜い考えだった。
「私なんて、あの家族と何も変わらない……」
その行動は決して意識しての行動ではなかった。
傷ついたアルフォートを利用するというのはそれは無意識にもう人に拒絶されたく無いと考えた上での行動。
「私の本性は、あの人達と何も変わらない!」
ーーー だからこそ、より一層私の心は痛むのだ。
人々から拒絶され、絶望したアルフォートを見て彼を利用できるなんて考えた自分の心が無意識だったということが、自分の本性の醜さを表しているように思えて。
「本当に、申し訳………」
そのことに打ちのめされながら、それでも私はアルフォートへと頭を下げる。
ここは夢の中で、現実のアルフォートは何も知らない。
それでも、ここで頭を下げずにはいられなかったのだ。
「……んぐ!?」
…….けれども私の謝罪の言葉は口を手で塞がれるというやや強引な方法で中断されることになった。
突然の出来事に何が起きたわからず私は一瞬戸惑う。
「レシアス、本当に君は馬鹿だな」
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