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11.思い出
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「がぁっ!」
背中がまるで炎に炙られているように熱くなり、息がとまり涙が溢れる。
恐怖、そして痛みが頭を支配し、目の前が突然黒色に染まる。
「なに、が……」
突然の視界の暗転に一瞬パニックに陥るが、頬に触れている土の感触に自分がいつの間にか地面にうつ伏せで倒れていることに気づく。
ー 圧倒的だった。
「うぁ、」
頭に先程のサイクロプスの攻撃がよぎり悲鳴とも呻き声とも判断がつかない声が口から漏れだす。
衝撃が身体を突き抜けたのはサイクロプスと目が合ったと、そう感じた次の瞬間だった。
殴られた、そう感じる前に背後に全力で跳んだはずなのにそれでも間に合わず僕の身体は背後の壁に叩きつけられた。
反射的に受け身のような物を取ったのは覚えている。
だが、そんなものでは何の意味もなかった。
「いてぇ………」
手の甲の骨のヒビが軽傷に思える程の痛みが全身に絶えず走っている。
何処かの骨にひびが、いや、折れている。
そしてその痛みを感じながら、ようやく僕は気づく。
「Gyaaa……」
「っ!」
目の前に立つ1つ目の巨人は、化け物でそんなものに勝てる筈が無かったのだということを………
ー やばいやばい!
全身の傷が痛みを訴える中、僕の頭を恐怖が埋め尽くす。
確かに僕は最強と断言できるスキルを得て大抵のことが起きてもやり直しが効くかもしれない。
だが、自分が死んでしまってはもう取り返しはつかない。
当たり前だ。死んでからスキルを発動することなどできるはずが無いのだ。
だから目の前のサイクロプスに勝てないと分かった以上、切り札を切ってでも僕はこの場所から逃げるべきで、
「まだ、僕は戦える……」
だが、そう知りながらも僕は立ち上がっていた。
身体を動かす度に、灼熱の痛みが走り涙が溢れ出す。
立つだけで死にそうなのに、剣を振ることなどできるはずがない。
そもそも、今生きているのだってスキルで延命しているだけかも知れないのだ。
「まだ、その手段を取るわけにはいかないんだよ!」
だが、それでも僕は身体から発せられる悲鳴を無視して剣を構える。
「Gya……」
僕を見るサイクロプスにはまるで勝利を確信したような、僕を憐れむような視線を感じる。
そしてその視線を浴びただけで僕の心に恐怖が溢れ出す。
「うわぁぁぁあっ!」
だが、僕はその恐怖を抑え込むように悲鳴とも雄叫びとも取れる叫びを上げながら全力で踏み出して行った………
走る僕の頭によぎるのは昔のことだった。
それは召喚されるよりもっと前の思い出。
僕は幼い頃、小学生の頃に両親を交通事故亡くした。
そしてその時の僕は両親を亡くしたということで心に深い傷を抱える程には成長していた。
学校を不登校になることはなかったものの、集団に入られない人間へとなってしまったのだ。
ー メソメソするな。
そしてそんな僕の様子を見かねて僕に強制的に武術の鍛錬を施したのは、僕を引き取ってくれた祖父だった。
不器用で、直接僕に言葉をかけて慰めるなんてことが出来ない人だった。
だけど、常に僕のことを思いやってくれてその好意に僕は救われてきた。
だから、無条件に与えてくれる好意を受け取ることしかできない人間が学校でまともな人間関係を構築できなくなるのは当然のことだった。
しかし小学校、中学校と僕のそばには祖父がいてくれた。
僕はそのことに安心して学校での孤独を受け入れ、
そして祖父の死後本当の孤独になった。
僕は居場所を失い、孤独に嘆きながら一人になった。
ただ与えられる愛を貪ることしか知らない僕はその孤独から抜け出す術を知らなくて、
そしてその手を引っ張ってくれたのが、慎二と幼馴染の白川舞、赤城芽衣の三人だった……
幼馴染と言っても白川と赤木はまだ小学生の本当に小さかった頃に仲が良かっただけで、彼女達との関係はただ学校が高校まで同じだったというだけのものだった。
更に慎二に至っては本当に初対面の人間でしかなかった。
だが、彼等は孤独に怯えながら前に踏み出す勇気が無かったどうしようもない僕に居場所を作ってくれた。
そしてクラスメイト達はその場所に僕がいるということを認めてくれたのだ。
「まだいける」
だから僕は目の前に立つ巨人を見て、無理やり口角を吊り上げてそう宣言する。
サイクロプスは本当に恐ろしい化け物で、僕は勝てずに死んでしまうかもしれない。
でも、そんな時でもあの時クラスメイトに受け入れて貰った瞬間の喜びが、
ー 気にするなよ、クラスメイトスキル、絆が反応しただけだよ。
冗談めかせてそう僕に笑いかけてくれた慎二の言葉が未だ頭に色鮮やかに残っているのだ。
「皆にはそんなこと、って笑われるかもしれないけど、」
その瞬間、僕は本当に助けられたのだ。
そして僕はその時にクラスメイトに、慎二達にいつの日か恩を返すと誓ったのだ。
「だから僕はここを切り抜ける!」
もしクラスメイトが僕を嘲るならば、結果を出して認めてもらう。
もしクラスメイトの誰かが僕を殺したいほどに憎んでいるのならば、その理由を知り協力し合えるよう話し合う。
そして最終的に僕はクラスメイトが欠けることなく国王の魔手から逃れたいのだ。
それから皆で話し合い、また先のことを決める。
「はは、」
いつの間にか、僕の頬には自然な笑みが張り付いていた。
そしてその笑みを顔に浮かべたまま、僕は目の前に立つ化け物、サイクロプスを睨み付ける。
「確かに絶望的な状況かもしれないけども、それでもまだ僕は耐えられる」
僕がそう告げてもサイクロプスの顔に浮かぶ僕に対する嘲りの色は変わらない。
だが、もうそんなものなど僕にはどうでもよかった。
絶対に生きて戻るという思いが、絶望に屈しかけていたはずの胸に熱を灯す。
「まだ、この程度の絶望ならば僕の心は折れない!」
「Gyaaa!」
サイクロプスが余裕を持った動きで僕に手を振り落とし、僕はそのままの勢いで突撃する。
そして最後の戦闘が始まった。
背中がまるで炎に炙られているように熱くなり、息がとまり涙が溢れる。
恐怖、そして痛みが頭を支配し、目の前が突然黒色に染まる。
「なに、が……」
突然の視界の暗転に一瞬パニックに陥るが、頬に触れている土の感触に自分がいつの間にか地面にうつ伏せで倒れていることに気づく。
ー 圧倒的だった。
「うぁ、」
頭に先程のサイクロプスの攻撃がよぎり悲鳴とも呻き声とも判断がつかない声が口から漏れだす。
衝撃が身体を突き抜けたのはサイクロプスと目が合ったと、そう感じた次の瞬間だった。
殴られた、そう感じる前に背後に全力で跳んだはずなのにそれでも間に合わず僕の身体は背後の壁に叩きつけられた。
反射的に受け身のような物を取ったのは覚えている。
だが、そんなものでは何の意味もなかった。
「いてぇ………」
手の甲の骨のヒビが軽傷に思える程の痛みが全身に絶えず走っている。
何処かの骨にひびが、いや、折れている。
そしてその痛みを感じながら、ようやく僕は気づく。
「Gyaaa……」
「っ!」
目の前に立つ1つ目の巨人は、化け物でそんなものに勝てる筈が無かったのだということを………
ー やばいやばい!
全身の傷が痛みを訴える中、僕の頭を恐怖が埋め尽くす。
確かに僕は最強と断言できるスキルを得て大抵のことが起きてもやり直しが効くかもしれない。
だが、自分が死んでしまってはもう取り返しはつかない。
当たり前だ。死んでからスキルを発動することなどできるはずが無いのだ。
だから目の前のサイクロプスに勝てないと分かった以上、切り札を切ってでも僕はこの場所から逃げるべきで、
「まだ、僕は戦える……」
だが、そう知りながらも僕は立ち上がっていた。
身体を動かす度に、灼熱の痛みが走り涙が溢れ出す。
立つだけで死にそうなのに、剣を振ることなどできるはずがない。
そもそも、今生きているのだってスキルで延命しているだけかも知れないのだ。
「まだ、その手段を取るわけにはいかないんだよ!」
だが、それでも僕は身体から発せられる悲鳴を無視して剣を構える。
「Gya……」
僕を見るサイクロプスにはまるで勝利を確信したような、僕を憐れむような視線を感じる。
そしてその視線を浴びただけで僕の心に恐怖が溢れ出す。
「うわぁぁぁあっ!」
だが、僕はその恐怖を抑え込むように悲鳴とも雄叫びとも取れる叫びを上げながら全力で踏み出して行った………
走る僕の頭によぎるのは昔のことだった。
それは召喚されるよりもっと前の思い出。
僕は幼い頃、小学生の頃に両親を交通事故亡くした。
そしてその時の僕は両親を亡くしたということで心に深い傷を抱える程には成長していた。
学校を不登校になることはなかったものの、集団に入られない人間へとなってしまったのだ。
ー メソメソするな。
そしてそんな僕の様子を見かねて僕に強制的に武術の鍛錬を施したのは、僕を引き取ってくれた祖父だった。
不器用で、直接僕に言葉をかけて慰めるなんてことが出来ない人だった。
だけど、常に僕のことを思いやってくれてその好意に僕は救われてきた。
だから、無条件に与えてくれる好意を受け取ることしかできない人間が学校でまともな人間関係を構築できなくなるのは当然のことだった。
しかし小学校、中学校と僕のそばには祖父がいてくれた。
僕はそのことに安心して学校での孤独を受け入れ、
そして祖父の死後本当の孤独になった。
僕は居場所を失い、孤独に嘆きながら一人になった。
ただ与えられる愛を貪ることしか知らない僕はその孤独から抜け出す術を知らなくて、
そしてその手を引っ張ってくれたのが、慎二と幼馴染の白川舞、赤城芽衣の三人だった……
幼馴染と言っても白川と赤木はまだ小学生の本当に小さかった頃に仲が良かっただけで、彼女達との関係はただ学校が高校まで同じだったというだけのものだった。
更に慎二に至っては本当に初対面の人間でしかなかった。
だが、彼等は孤独に怯えながら前に踏み出す勇気が無かったどうしようもない僕に居場所を作ってくれた。
そしてクラスメイト達はその場所に僕がいるということを認めてくれたのだ。
「まだいける」
だから僕は目の前に立つ巨人を見て、無理やり口角を吊り上げてそう宣言する。
サイクロプスは本当に恐ろしい化け物で、僕は勝てずに死んでしまうかもしれない。
でも、そんな時でもあの時クラスメイトに受け入れて貰った瞬間の喜びが、
ー 気にするなよ、クラスメイトスキル、絆が反応しただけだよ。
冗談めかせてそう僕に笑いかけてくれた慎二の言葉が未だ頭に色鮮やかに残っているのだ。
「皆にはそんなこと、って笑われるかもしれないけど、」
その瞬間、僕は本当に助けられたのだ。
そして僕はその時にクラスメイトに、慎二達にいつの日か恩を返すと誓ったのだ。
「だから僕はここを切り抜ける!」
もしクラスメイトが僕を嘲るならば、結果を出して認めてもらう。
もしクラスメイトの誰かが僕を殺したいほどに憎んでいるのならば、その理由を知り協力し合えるよう話し合う。
そして最終的に僕はクラスメイトが欠けることなく国王の魔手から逃れたいのだ。
それから皆で話し合い、また先のことを決める。
「はは、」
いつの間にか、僕の頬には自然な笑みが張り付いていた。
そしてその笑みを顔に浮かべたまま、僕は目の前に立つ化け物、サイクロプスを睨み付ける。
「確かに絶望的な状況かもしれないけども、それでもまだ僕は耐えられる」
僕がそう告げてもサイクロプスの顔に浮かぶ僕に対する嘲りの色は変わらない。
だが、もうそんなものなど僕にはどうでもよかった。
絶対に生きて戻るという思いが、絶望に屈しかけていたはずの胸に熱を灯す。
「まだ、この程度の絶望ならば僕の心は折れない!」
「Gyaaa!」
サイクロプスが余裕を持った動きで僕に手を振り落とし、僕はそのままの勢いで突撃する。
そして最後の戦闘が始まった。
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