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12.打開策
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「っ!」
振り下ろされたサイクロプスの拳を僕は出来る限り最小限の動きで避ける。
だがそれでも身体に鋭い痛みが走る。
そして身体が限界であることを示しているのはその痛みだけではなかった。
自分が今本当に走れているのか、時折そんなことさえも痛みで朦朧とし始めた頭は分からなくなる。
「はぁ、はぁ、」
身体はまるで鉛のように重く、そして息もすぐに切れる。
だが、そんな状態でもサイクロプスに勝つため、僕は必死に頭を動かしていた。
「Gyaaa!」
「っ!」
意識を思考にさくことで、サイクロプスの攻撃がさらに避けにくくなる。
サイクロプスの攻撃はかするだけでも今の僕では戦闘不能になってしまうだけの威力を有している。
そんな極限の状態の中、僕は必死にサイクロプスの攻撃を避けるが、それだけでは勝負は決まらない。
サイクロプスのあの鋼鉄の皮膚を切り裂き、戦闘不能にしないとならないのだ。
だがそれは今の僕に関してはあまりにも酷な条件だった。
僕が今手に持っている剣、正直真剣の良し悪しはあまり分からないが、サイクロプスの皮膚を切り裂いてなお、刃こぼれも見当たらないというのは中々の業物なのだろう。
幸いにもいくら無能であれ、勇者になまくらを持たせる程王国も非常では無かったらしい。
「はぁ、はぁ、」
だが、幾ら剣が業物で折れることが無かったしとしても、今の僕には喜ぶ余裕はなかった。
確かに武器がなくなることは今の状況では致命的だろう。
しかし、今の僕ではサイクロプスの皮膚を斬り裂ける斬撃はあと数回しか放てない。
さらに、この調子で逃げ回っていれば斬撃の回数は更に減る。
つまり幾ら剣が丈夫でも長期戦が出来るわけではないのだ。
しかしこのサイクロプス相手に短期戦で勝負が決められるか、と言われれば全くその方法は思い浮かばない。
「Gya!」
「っ!」
いつの間にか思考に意識を割きすぎていたのか、サイクロプスの攻撃に対して回避がワンテンポ遅れる。
何とかかすることもなく避けることには成功したが、思いっきり体勢が崩れる。
「Gyaaa!」
「ぐっ!」
そしてその隙をサイクロプスが見逃す訳がなかった。
僕は迫る拳に最悪の未来を頭に浮かべながら、それでも全力で地面に転がりながらサイクロプスの攻撃から逃げる。
転がったことで、傷口に土がつき炎に炙られたような痛みが全身に走る。
「っあ!」
だがそれでも何とか僕はサイクロプスの攻撃を避けることに成功する。
素早く立ち上がるとそこは丁度直ぐには攻撃できないサイクロプスの膝裏で、僕は少し息を吐く。
「あれ?」
そして直ぐに動こうとして、僕の目にあるものが目に入る。
それは唯一僕がサイクロプスに付けた膝裏の傷だった………
最初に僕がサイクロプスに付けた傷、それは隠密という切り札を切って付けた傷だった。
しかし、サイクロプスが隠密を見破られないというのはブラフで僕はサイクロプスの攻撃の直撃を受けた。
それから僕はサイクロプスには隠密が効かないのだとそう思っていたが、
「だったら、何故態々切りつけられた?」
目の前の傷口を見て、サイクロプスは隠密を見破られるという考えがおかしいということに気づく。
本当にサイクロプスは隠密が効かないのか?
しかしだとすれば何故傷を受けた?
それも明らかに切り落とされれば行動力を失う場所への傷を。
切りつけられる前に攻撃してしまえば傷を受けることなど無かったのに。
そして僕は薄い笑みを顔に浮かべる。
「試してみる価値は、あるか」
「Gyaa!」
その瞬間、身体を捻りサイクロプスが放った拳が地面を抉り僕の姿は消えた。
「Gya!?」
僕の油断を突き、振り落とされた拳。
だが、サイクロプスの顔に浮かんだのは戸惑いだった。
まるで避けられたと思ったのに、相手の姿が無いというかのような。
そしてその姿に、僕は自分の推測が正しかったことを悟る。
確かにサイクロプスの目は正確なレーダーのようなものだ。
だがその精度は完璧では無い。
そう、例えば
「一度目を離してしまえば、隠密にかかってしまう程度」
僕はそう僕を倒したとでも思ったのか、顔に歓喜の表情を浮かべるサイクロプスを嘲笑する。
そして、大きく剣を振りかぶり、
膝裏の最初僕が付けた傷口と全く同じ場所に、全力で剣を振り落とした。
「Gyaaa!」
サイクロプスは迷宮の壁さえも震わせる悲鳴を上げ、僕はその声に耳が使えなくなる。
「はっ、」
だが僕はそんなことを気にせず傷口に剣を突き立て抉る。
2度も全力の斬撃で切りつけた傷口はぱっくりと開き、白い骨まで見えていて、抉られるたびにサイクロプスは叫ぶ。
「あははっ!」
そしてその様子を目で確かめ、僕はサイクロプスを嘲るよう笑う。
「Gya!」
サイクロプスは馬鹿にされたことが分かったのか、再度僕に向かって拳を繰り出す。
「遅い!」
「Gyaa!」
だが無理な体勢からのその拳は当然僕に当たることなく、あっさりと避けられる。
そしてそのことに更にサイクロプスは熱くなったように、何度も何度も僕に拳を振り下ろしてくる。
だが、それらの攻撃は全て僕に避けられる。
「あははは!」
「Gyaaa!」
そして焦ったくなってきたのか、サイクロプスは僕に目掛けて全力で拳を振り落とした。
その攻撃を僕がずっと待っていたことにも気づかず。
轟音と共に地面が砕け、また砂埃が立ち隠密を発動した僕の姿はサイクロプスの視界から消える。
「Gya!?」
そしてその時になってようやくサイクロプスは僕の狙いを悟る。
つまり、僕は再度隠密を成功させる為にサイクロプスを挑発し、サイクロプスの視界から姿を消した。
そのまま、サイクロプスの視界外から傷口を切りつけ、足を奪うことが僕の狙い………
「Gya、」
「っ!」
だが、その時サイクロプスは微かな笑みを口元に浮かべた。
その笑みに僕は背に悪寒が走るのが分かる。
まるでサイクロプスは僕の狙いを悟っていたかのような、そんな悪寒。
「Gyaaa!」
そしてそんな僕の予測を裏付けるように、サイクロプスは迷うことなく拳を振り落とした。
その目は僕を捉えていない。
だがサイクロプスは確信を持って、
ーーーそして、僕が何度も切りつけ大きくした自分の膝裏の傷口へと、拳を振り落とした。
「Gyaaa!」
痛みにサイクロプスは叫び、拳を叩きつけた傷口は見るも無残な状態になっている。
だが、サイクロプスの顔には達成感が溢れていた。
僕を殺したことを確信して。
そして実際にサイクロプスの傷口に人間が立って居たとすればあの拳を避けることはできなかっただろう。
そう、例え僕であったとしても。
ーーーもし、サイクロプスの傷口の近くに僕が立って居たとしたら。
「うぉぉぉぉおおお!」
「Gyaaa!?」
サイクロプスが完全に油断し、拳を地面に打ち付けた状態で動きを止めていることを確認して、僕は雄叫びを上げながら飛び出した。
そして死んで居た、そう確信して居たサイクロプスは突然現れ、近寄ってくる僕に対応できない。
僕は身体が触れ合うほどの近さになっても未だサイクロプスが反応できないのを確認して、
「Gya!?」
そしてサイクロプスの腕の上を走り出した。
振り下ろされたサイクロプスの拳を僕は出来る限り最小限の動きで避ける。
だがそれでも身体に鋭い痛みが走る。
そして身体が限界であることを示しているのはその痛みだけではなかった。
自分が今本当に走れているのか、時折そんなことさえも痛みで朦朧とし始めた頭は分からなくなる。
「はぁ、はぁ、」
身体はまるで鉛のように重く、そして息もすぐに切れる。
だが、そんな状態でもサイクロプスに勝つため、僕は必死に頭を動かしていた。
「Gyaaa!」
「っ!」
意識を思考にさくことで、サイクロプスの攻撃がさらに避けにくくなる。
サイクロプスの攻撃はかするだけでも今の僕では戦闘不能になってしまうだけの威力を有している。
そんな極限の状態の中、僕は必死にサイクロプスの攻撃を避けるが、それだけでは勝負は決まらない。
サイクロプスのあの鋼鉄の皮膚を切り裂き、戦闘不能にしないとならないのだ。
だがそれは今の僕に関してはあまりにも酷な条件だった。
僕が今手に持っている剣、正直真剣の良し悪しはあまり分からないが、サイクロプスの皮膚を切り裂いてなお、刃こぼれも見当たらないというのは中々の業物なのだろう。
幸いにもいくら無能であれ、勇者になまくらを持たせる程王国も非常では無かったらしい。
「はぁ、はぁ、」
だが、幾ら剣が業物で折れることが無かったしとしても、今の僕には喜ぶ余裕はなかった。
確かに武器がなくなることは今の状況では致命的だろう。
しかし、今の僕ではサイクロプスの皮膚を斬り裂ける斬撃はあと数回しか放てない。
さらに、この調子で逃げ回っていれば斬撃の回数は更に減る。
つまり幾ら剣が丈夫でも長期戦が出来るわけではないのだ。
しかしこのサイクロプス相手に短期戦で勝負が決められるか、と言われれば全くその方法は思い浮かばない。
「Gya!」
「っ!」
いつの間にか思考に意識を割きすぎていたのか、サイクロプスの攻撃に対して回避がワンテンポ遅れる。
何とかかすることもなく避けることには成功したが、思いっきり体勢が崩れる。
「Gyaaa!」
「ぐっ!」
そしてその隙をサイクロプスが見逃す訳がなかった。
僕は迫る拳に最悪の未来を頭に浮かべながら、それでも全力で地面に転がりながらサイクロプスの攻撃から逃げる。
転がったことで、傷口に土がつき炎に炙られたような痛みが全身に走る。
「っあ!」
だがそれでも何とか僕はサイクロプスの攻撃を避けることに成功する。
素早く立ち上がるとそこは丁度直ぐには攻撃できないサイクロプスの膝裏で、僕は少し息を吐く。
「あれ?」
そして直ぐに動こうとして、僕の目にあるものが目に入る。
それは唯一僕がサイクロプスに付けた膝裏の傷だった………
最初に僕がサイクロプスに付けた傷、それは隠密という切り札を切って付けた傷だった。
しかし、サイクロプスが隠密を見破られないというのはブラフで僕はサイクロプスの攻撃の直撃を受けた。
それから僕はサイクロプスには隠密が効かないのだとそう思っていたが、
「だったら、何故態々切りつけられた?」
目の前の傷口を見て、サイクロプスは隠密を見破られるという考えがおかしいということに気づく。
本当にサイクロプスは隠密が効かないのか?
しかしだとすれば何故傷を受けた?
それも明らかに切り落とされれば行動力を失う場所への傷を。
切りつけられる前に攻撃してしまえば傷を受けることなど無かったのに。
そして僕は薄い笑みを顔に浮かべる。
「試してみる価値は、あるか」
「Gyaa!」
その瞬間、身体を捻りサイクロプスが放った拳が地面を抉り僕の姿は消えた。
「Gya!?」
僕の油断を突き、振り落とされた拳。
だが、サイクロプスの顔に浮かんだのは戸惑いだった。
まるで避けられたと思ったのに、相手の姿が無いというかのような。
そしてその姿に、僕は自分の推測が正しかったことを悟る。
確かにサイクロプスの目は正確なレーダーのようなものだ。
だがその精度は完璧では無い。
そう、例えば
「一度目を離してしまえば、隠密にかかってしまう程度」
僕はそう僕を倒したとでも思ったのか、顔に歓喜の表情を浮かべるサイクロプスを嘲笑する。
そして、大きく剣を振りかぶり、
膝裏の最初僕が付けた傷口と全く同じ場所に、全力で剣を振り落とした。
「Gyaaa!」
サイクロプスは迷宮の壁さえも震わせる悲鳴を上げ、僕はその声に耳が使えなくなる。
「はっ、」
だが僕はそんなことを気にせず傷口に剣を突き立て抉る。
2度も全力の斬撃で切りつけた傷口はぱっくりと開き、白い骨まで見えていて、抉られるたびにサイクロプスは叫ぶ。
「あははっ!」
そしてその様子を目で確かめ、僕はサイクロプスを嘲るよう笑う。
「Gya!」
サイクロプスは馬鹿にされたことが分かったのか、再度僕に向かって拳を繰り出す。
「遅い!」
「Gyaa!」
だが無理な体勢からのその拳は当然僕に当たることなく、あっさりと避けられる。
そしてそのことに更にサイクロプスは熱くなったように、何度も何度も僕に拳を振り下ろしてくる。
だが、それらの攻撃は全て僕に避けられる。
「あははは!」
「Gyaaa!」
そして焦ったくなってきたのか、サイクロプスは僕に目掛けて全力で拳を振り落とした。
その攻撃を僕がずっと待っていたことにも気づかず。
轟音と共に地面が砕け、また砂埃が立ち隠密を発動した僕の姿はサイクロプスの視界から消える。
「Gya!?」
そしてその時になってようやくサイクロプスは僕の狙いを悟る。
つまり、僕は再度隠密を成功させる為にサイクロプスを挑発し、サイクロプスの視界から姿を消した。
そのまま、サイクロプスの視界外から傷口を切りつけ、足を奪うことが僕の狙い………
「Gya、」
「っ!」
だが、その時サイクロプスは微かな笑みを口元に浮かべた。
その笑みに僕は背に悪寒が走るのが分かる。
まるでサイクロプスは僕の狙いを悟っていたかのような、そんな悪寒。
「Gyaaa!」
そしてそんな僕の予測を裏付けるように、サイクロプスは迷うことなく拳を振り落とした。
その目は僕を捉えていない。
だがサイクロプスは確信を持って、
ーーーそして、僕が何度も切りつけ大きくした自分の膝裏の傷口へと、拳を振り落とした。
「Gyaaa!」
痛みにサイクロプスは叫び、拳を叩きつけた傷口は見るも無残な状態になっている。
だが、サイクロプスの顔には達成感が溢れていた。
僕を殺したことを確信して。
そして実際にサイクロプスの傷口に人間が立って居たとすればあの拳を避けることはできなかっただろう。
そう、例え僕であったとしても。
ーーーもし、サイクロプスの傷口の近くに僕が立って居たとしたら。
「うぉぉぉぉおおお!」
「Gyaaa!?」
サイクロプスが完全に油断し、拳を地面に打ち付けた状態で動きを止めていることを確認して、僕は雄叫びを上げながら飛び出した。
そして死んで居た、そう確信して居たサイクロプスは突然現れ、近寄ってくる僕に対応できない。
僕は身体が触れ合うほどの近さになっても未だサイクロプスが反応できないのを確認して、
「Gya!?」
そしてサイクロプスの腕の上を走り出した。
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