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第3話
第3話 出発 (15)
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「お前は一体何者なんだー?」
イリーアは女性に銃口を向けて言った。
私は先程まで、逃げ場のない監獄のトイレの隅で、囚人の女性に銃を向けられ脅されていた。
そこにイリーアが後ろから跳び蹴りをして、女性を一旦気絶させた後、看守の目を盗んで、トイレの横の使われなくなった部屋に女性を運び、拘束して情報を聞き出そうとしている。
イリーアの顔は、美しくも恐ろしい、影を帯びていた。
それは睨んでいるというものではなく、ただ真顔で女性を見つめている。
だが、それこそが恐ろしいのだ。
だが、イリーアが静かな怒りを露わにしているその横顔に美しさを覚えるのだ。
バン!!!
部屋に銃声が鳴り響く。
イリーアはただ静かに女性を見下し、銃弾を女性の横の床に向かって放った。
それはどんな怒号よりも威圧的で、静かで、しかし強大な怒りを感じた。
「・・・・・」
女性はうつむいたまま何も言おうとせず、震えながら絶望の表情を浮かべ、彼女の頬には涙がつたっている。
あまりの恐ろしさに気が動転しているのだろう。
私はその女性の被害にあった側だが、今ばかりは彼女の気持ちがわかった気がした。
私がその女性側で、イリーアに問い詰められている側だと思うと、恐ろしさのあまり気を失ってしまうかもしれない。
だが、無法者達の世界は、どんな危ない事でも起こりうる事であり、その事は絶対に誰にも保障されないし、誰にも守られない。
もし自分達が、その女性の拘束を甘くしてしまうと、逃げられてしまったり、最悪の場合、武器を奪われ、私達が命の危険にたたされるかもしれない。
下手に出て穏やかに話を進めれば、かえってこちらが相手側にだまされたり、相手の話にのせられ、自分達が不利な話になる事もある。
決してその女性になめられるような態度はとってはいけないし、上下関係をはっきりとさせないと、自分や仲間達の命すらも危うい状況にしてしまう恐れすらあるのだ。
イリーアは今、そんな状況の中で、女性に向かって尋問をしているのだ。
イリーアの頬には一粒の汗がつたっている。
イリーア自身もとてつもない緊張感を感じているのだろう。
だから私は、イリーアに問い詰められている女性の恐ろしさを感じる気持ちもわかるし、自分や仲間達の命がかかった、とてつもない緊張感を感じるイリーアの気持ちもわかる。
「もし答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
女性は何も答えない。
「はぁーっ・・・わぁったよー・・・きっとお前その事言ったらお前の事使ってる奴とか、お前の所属する派閥とかチームに裏切りだと思われるんだろー?」
イリーアは女性の顔を伺いながら話を続ける。
おそらく彼女は何かの勢力に所属していて、誰かの指示によって、私の事を脅したのだろう。もしそうだとしたら、話せば元いた勢力の裏切り者になってしまう。
「オレにいい考えがあるぜー、もしお前がちゃーんとオレの質問に答えたらよーっ、オレのチームの一員にしてやってもいいぜー...だが...今までお前が所属していた勢力とはオサラバになるなー...」
「だが、答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
イリーアは女性に銃口を向け続けている。
女性は息を飲み、しばらくの間沈黙した。
ただならぬ緊張感が、この部屋に満ち、私にまで押し寄せてくるように感じた。
「わ...私は...」
女性は口を開いてそう言いかけた。
「私はフィシャ...ヴォルフに所属する一員だ...」
また少しの時間が経ってから、彼女は自身の事を打ち明けた。
「ヴォルフって...あのヴォルフなのか...?」
イリーアは彼女自身の伸びた語尾すらも忘れてそう言った。
「ヴォルフって...ゲガスのチームの一員じゃねえかよ...マジかよ...」
ゲガスという者の事は、私も知っている。
彼は私達が研究所を逃げ出そうとしている時、私の事を撃った男だ。
イリーアは女性に銃口を向けて言った。
私は先程まで、逃げ場のない監獄のトイレの隅で、囚人の女性に銃を向けられ脅されていた。
そこにイリーアが後ろから跳び蹴りをして、女性を一旦気絶させた後、看守の目を盗んで、トイレの横の使われなくなった部屋に女性を運び、拘束して情報を聞き出そうとしている。
イリーアの顔は、美しくも恐ろしい、影を帯びていた。
それは睨んでいるというものではなく、ただ真顔で女性を見つめている。
だが、それこそが恐ろしいのだ。
だが、イリーアが静かな怒りを露わにしているその横顔に美しさを覚えるのだ。
バン!!!
部屋に銃声が鳴り響く。
イリーアはただ静かに女性を見下し、銃弾を女性の横の床に向かって放った。
それはどんな怒号よりも威圧的で、静かで、しかし強大な怒りを感じた。
「・・・・・」
女性はうつむいたまま何も言おうとせず、震えながら絶望の表情を浮かべ、彼女の頬には涙がつたっている。
あまりの恐ろしさに気が動転しているのだろう。
私はその女性の被害にあった側だが、今ばかりは彼女の気持ちがわかった気がした。
私がその女性側で、イリーアに問い詰められている側だと思うと、恐ろしさのあまり気を失ってしまうかもしれない。
だが、無法者達の世界は、どんな危ない事でも起こりうる事であり、その事は絶対に誰にも保障されないし、誰にも守られない。
もし自分達が、その女性の拘束を甘くしてしまうと、逃げられてしまったり、最悪の場合、武器を奪われ、私達が命の危険にたたされるかもしれない。
下手に出て穏やかに話を進めれば、かえってこちらが相手側にだまされたり、相手の話にのせられ、自分達が不利な話になる事もある。
決してその女性になめられるような態度はとってはいけないし、上下関係をはっきりとさせないと、自分や仲間達の命すらも危うい状況にしてしまう恐れすらあるのだ。
イリーアは今、そんな状況の中で、女性に向かって尋問をしているのだ。
イリーアの頬には一粒の汗がつたっている。
イリーア自身もとてつもない緊張感を感じているのだろう。
だから私は、イリーアに問い詰められている女性の恐ろしさを感じる気持ちもわかるし、自分や仲間達の命がかかった、とてつもない緊張感を感じるイリーアの気持ちもわかる。
「もし答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
女性は何も答えない。
「はぁーっ・・・わぁったよー・・・きっとお前その事言ったらお前の事使ってる奴とか、お前の所属する派閥とかチームに裏切りだと思われるんだろー?」
イリーアは女性の顔を伺いながら話を続ける。
おそらく彼女は何かの勢力に所属していて、誰かの指示によって、私の事を脅したのだろう。もしそうだとしたら、話せば元いた勢力の裏切り者になってしまう。
「オレにいい考えがあるぜー、もしお前がちゃーんとオレの質問に答えたらよーっ、オレのチームの一員にしてやってもいいぜー...だが...今までお前が所属していた勢力とはオサラバになるなー...」
「だが、答えなかったらお前の命はないぜー・・・」
イリーアは女性に銃口を向け続けている。
女性は息を飲み、しばらくの間沈黙した。
ただならぬ緊張感が、この部屋に満ち、私にまで押し寄せてくるように感じた。
「わ...私は...」
女性は口を開いてそう言いかけた。
「私はフィシャ...ヴォルフに所属する一員だ...」
また少しの時間が経ってから、彼女は自身の事を打ち明けた。
「ヴォルフって...あのヴォルフなのか...?」
イリーアは彼女自身の伸びた語尾すらも忘れてそう言った。
「ヴォルフって...ゲガスのチームの一員じゃねえかよ...マジかよ...」
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