32 / 58
第3話
第3話 出発 (14)
しおりを挟む
「今日はここに泊まっていくといいです。外も『時の狭間』が近く、ロボットが来ることもありますからね。何か危ない事があったら私がここを守ります。なので今日1日はここでごゆっくりしてってください。」
クレッチュマー博士は私にそう言った。
彼はサイボーグで堅剛な見た目とは裏腹に、穏やかで友好的な性格のようだ。
今日1日はここでお世話になる事にしようと思った。
「え、いいんですか!?ありがとうございます!!」
私はすかさずそう応えた。
その後、彼らはとっていなかった夕食を食べていた。
倒れていて意識もまばらだったので覚えていなかったが、もうそんな時間だったのか。
先程私が頬張ったパンは夕食だったのだ。
クレッチュマー博士はかぶり物を脱がずにかぶり物の下に腕をくぐらせ、顔を見せないようにして食べていた。
彼はなぜ顔を出せないのだろうか...?
彼らは私達が飽きるほど食べている人工の固形食を口にしていた。
「ザックさん、パンは食べないの...?」
私はおそるおそるザックに聞いた。
客人の私だけがパンにありつけるのは申し訳なかった。
「パンは来客用だからな、パンを作るのは難しいし、工場のパイプを流れる液体から、人間が食べることのできる物質を抽出することはできるものの、その量は限られているしな。」
ザックはそう答えた。
それもそのこと、この世界ではやはり食料が不足しており、自然由来の食べ物なんてものは、もはや昔の時代について書かれた本やデータの文章や、画像でしか見ることのできないものになっていて、それを食べるなんて夢のまた夢の話だった。
そういえば、クレッチュマー博士は、なぜザックよりも食べる量が少なく、人工の固形食を半分しか食べていないんだろう。
「ああ、私ですか、私は体が機械でできている部分が多いですから、食事は他の人の半分で事足りるんです。ですが、代わりに体の機械を動かすための燃料や電気が必要になりますね。」
私がクレッチュマー博士の事を見てると、彼は私の考えを読んでいるようにそう答えた。
私はもう一つ疑問に思っている事があった。
クレッチュマー博士なら何か知っているかもしれない。
「そういえば、私、一瞬の間だったけど、ものすごく早く動いていた車があって、その車に乗っていた人に相棒が捕まっちゃったんだ...その車ってどうしてあんなに早く走れたんだろう...この世界燃費のいい車も残されていないし...」
あれは相棒のミサが捕まってしまった時に、ミサを捕まえた謎の集団が乗っていた車についての事だった。
「ああ、それはですね、一時的に燃料などのエネルギーの消費量を一気に上げる事で、周りの時間の流れだけを遅くする事ができるのです。詳しく言うと自分にかかる重力だけを極端に弱くして、自分の時間の流れだけを早くしてしまうんです。」
クレッチュマー博士はそう答えた。
「すごい...!そんな事もわかるのですね...!」
私は思わずそう答えた。さすが『博士』と呼ばれている人物だ。
ザックは自分の事のように得意気な顔をした。
ザックさん、きっと私の前ではかっこつけていたけど、案外かわいらしい部分もあるんだね...
私はザックに対してそう思った。
クレッチュマー博士は話を進めた。
「実はこの世界もこの『時空の歪み』の性質を利用しているのですが、重力や空間、時間の流れがめちゃくちゃになってしまっているんですよ。そのせいで人間にとっては危険な『時の狭間』という空間はできるし、その空間には何かしらの影響で攻撃的なロボットもいるんです。まだ確認されていませんが、重力が強すぎて、下手すると『時の狭間』にブラックホールのようなものができてもおかしくないですね...」
「ん?じゃあその世界ってかなりヤバいんじゃ...?」
私はクレッチュマー博士の説明を聞いてそう言った。私にとって難しい話ではあったが、それだけははっきりと認識できた。
「そうです。私達が生きているこの『人工の新天地』という世界は、かなりヤバいんです。」
クレッチュマー博士はそう言った。
「それでは、食事も済んだ事ですし、私は一旦燃料補給の為に機械の国に戻ります。ザック、ここに長居せず、危険を感じたらすぐ撤収してくださいね。では私はこれで。」
クレッチュマー博士はそう言うと、すぐテントを出ていってしまった。
「おい親父!燃料の残りは大丈夫か!?無理するんじゃねぇぞ!」
ザックは去って行くクレッチュマー博士に対して大きな声でそう言ったが、クレッチュマー博士は少し手を上げて合図をするだけで、そのまま行ってしまった。
ザックは父親を心配しているようだった。
「仲がいいんだね!お父さんと!」
「まぁな...尊敬してるよ。」
ザックは照れくさそうにそう言った。
「だけどなんか嫌な予感がする...親父...どうか無事でいてくれよ...」
ザックはそう言った。やはり彼は父親やこの世界の人々の事を考えたり、心配できるいい人なんだなと思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はテントを去り、もう一度「時の狭間」に入り、その先にある機械の国を目指していた。
その時、私にとって一番恐れていた事が起こってしまった。
機械でできた四肢が突然外れ、四肢のない体になってしまった私は、たちまち倒れ、四肢と胴体がバラバラになったまま、横たわる事しかできなかった。
私は絶望感を覚えたが、そんな危機的状況で、自分がサイボーグである事に安堵すらしてしまった。
もし私がサイボーグでなかったら命はなかったし、もし意識を保っていたとしても、グロテスクすぎる自分の有様にショックを受けていただろう。
だが私の体は機械でできているので、外れただけで体を見たことによる精神的ショックは小さいし、その程度で私の致命傷にはならない。
だが、そんな安堵もつかの間、倒れている私の元に人物が現れた。
その人物は私を見下ろしていた。
強い恐怖が全身を駆け巡り、寒気がした。
クレッチュマー博士は私にそう言った。
彼はサイボーグで堅剛な見た目とは裏腹に、穏やかで友好的な性格のようだ。
今日1日はここでお世話になる事にしようと思った。
「え、いいんですか!?ありがとうございます!!」
私はすかさずそう応えた。
その後、彼らはとっていなかった夕食を食べていた。
倒れていて意識もまばらだったので覚えていなかったが、もうそんな時間だったのか。
先程私が頬張ったパンは夕食だったのだ。
クレッチュマー博士はかぶり物を脱がずにかぶり物の下に腕をくぐらせ、顔を見せないようにして食べていた。
彼はなぜ顔を出せないのだろうか...?
彼らは私達が飽きるほど食べている人工の固形食を口にしていた。
「ザックさん、パンは食べないの...?」
私はおそるおそるザックに聞いた。
客人の私だけがパンにありつけるのは申し訳なかった。
「パンは来客用だからな、パンを作るのは難しいし、工場のパイプを流れる液体から、人間が食べることのできる物質を抽出することはできるものの、その量は限られているしな。」
ザックはそう答えた。
それもそのこと、この世界ではやはり食料が不足しており、自然由来の食べ物なんてものは、もはや昔の時代について書かれた本やデータの文章や、画像でしか見ることのできないものになっていて、それを食べるなんて夢のまた夢の話だった。
そういえば、クレッチュマー博士は、なぜザックよりも食べる量が少なく、人工の固形食を半分しか食べていないんだろう。
「ああ、私ですか、私は体が機械でできている部分が多いですから、食事は他の人の半分で事足りるんです。ですが、代わりに体の機械を動かすための燃料や電気が必要になりますね。」
私がクレッチュマー博士の事を見てると、彼は私の考えを読んでいるようにそう答えた。
私はもう一つ疑問に思っている事があった。
クレッチュマー博士なら何か知っているかもしれない。
「そういえば、私、一瞬の間だったけど、ものすごく早く動いていた車があって、その車に乗っていた人に相棒が捕まっちゃったんだ...その車ってどうしてあんなに早く走れたんだろう...この世界燃費のいい車も残されていないし...」
あれは相棒のミサが捕まってしまった時に、ミサを捕まえた謎の集団が乗っていた車についての事だった。
「ああ、それはですね、一時的に燃料などのエネルギーの消費量を一気に上げる事で、周りの時間の流れだけを遅くする事ができるのです。詳しく言うと自分にかかる重力だけを極端に弱くして、自分の時間の流れだけを早くしてしまうんです。」
クレッチュマー博士はそう答えた。
「すごい...!そんな事もわかるのですね...!」
私は思わずそう答えた。さすが『博士』と呼ばれている人物だ。
ザックは自分の事のように得意気な顔をした。
ザックさん、きっと私の前ではかっこつけていたけど、案外かわいらしい部分もあるんだね...
私はザックに対してそう思った。
クレッチュマー博士は話を進めた。
「実はこの世界もこの『時空の歪み』の性質を利用しているのですが、重力や空間、時間の流れがめちゃくちゃになってしまっているんですよ。そのせいで人間にとっては危険な『時の狭間』という空間はできるし、その空間には何かしらの影響で攻撃的なロボットもいるんです。まだ確認されていませんが、重力が強すぎて、下手すると『時の狭間』にブラックホールのようなものができてもおかしくないですね...」
「ん?じゃあその世界ってかなりヤバいんじゃ...?」
私はクレッチュマー博士の説明を聞いてそう言った。私にとって難しい話ではあったが、それだけははっきりと認識できた。
「そうです。私達が生きているこの『人工の新天地』という世界は、かなりヤバいんです。」
クレッチュマー博士はそう言った。
「それでは、食事も済んだ事ですし、私は一旦燃料補給の為に機械の国に戻ります。ザック、ここに長居せず、危険を感じたらすぐ撤収してくださいね。では私はこれで。」
クレッチュマー博士はそう言うと、すぐテントを出ていってしまった。
「おい親父!燃料の残りは大丈夫か!?無理するんじゃねぇぞ!」
ザックは去って行くクレッチュマー博士に対して大きな声でそう言ったが、クレッチュマー博士は少し手を上げて合図をするだけで、そのまま行ってしまった。
ザックは父親を心配しているようだった。
「仲がいいんだね!お父さんと!」
「まぁな...尊敬してるよ。」
ザックは照れくさそうにそう言った。
「だけどなんか嫌な予感がする...親父...どうか無事でいてくれよ...」
ザックはそう言った。やはり彼は父親やこの世界の人々の事を考えたり、心配できるいい人なんだなと思った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はテントを去り、もう一度「時の狭間」に入り、その先にある機械の国を目指していた。
その時、私にとって一番恐れていた事が起こってしまった。
機械でできた四肢が突然外れ、四肢のない体になってしまった私は、たちまち倒れ、四肢と胴体がバラバラになったまま、横たわる事しかできなかった。
私は絶望感を覚えたが、そんな危機的状況で、自分がサイボーグである事に安堵すらしてしまった。
もし私がサイボーグでなかったら命はなかったし、もし意識を保っていたとしても、グロテスクすぎる自分の有様にショックを受けていただろう。
だが私の体は機械でできているので、外れただけで体を見たことによる精神的ショックは小さいし、その程度で私の致命傷にはならない。
だが、そんな安堵もつかの間、倒れている私の元に人物が現れた。
その人物は私を見下ろしていた。
強い恐怖が全身を駆け巡り、寒気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる