CREATED WORLD

猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (19)

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「逆にチャンスではありませんか」
他の仲間達が私の言葉に言葉を失い驚いている中、彼は一人ほほえんでそう言った。
これから戦場に赴くことにまるのに何がチャンスなのだろう。彼は私達があっけにとられている中、冷静に話を続けた。
「この機会を逆に利用するのです、私実はこれから赴く事になる要塞について知っているんですよ。」
彼は小声で看守に見つからないようにそう言った。やはりこれから赴く要塞については、かつて生還した者でも口外してはならないものなのだろう。私も昨日何度も軍人に釘を刺させるように言われた。恐ろしくて言えたものではない。下手すると命はないだろう。
今考える事ではないかもしれないが、なんでさっきから彼は敬語で話しているのだろうか、同じ無法者どうしで、かつフィシャ以外あまり上下関係のようなものは見られていない。
「あー、言ってなかったなーっ。リディグはうちの情報屋兼スパイなんだよー。よく他の派閥とかオレらみてーな無法者のチームの調査をしてもらってんだ。だからよく取引とかでも敬語使うし、あいつそれで癖になってるんだとよー。」
意外と無法者にも、物理的な力による実力行使だけではなく言葉での対話や、そのためのコミュニケーションの技術も必要なのかと私は理解した。彼は、無法者のチームだけでなく、他の国や組織に潜入したりもするので、敬語はおそらくそのなまりなのだろう。
「あはは、そういうことです。昨日まで敬語言ってなかったのはわざとで、実はこっちの方が話しやすいんです。」
リディグは笑ってそう言った。
彼は親しみやすそうな性格をしているように見えたが、それ以上に、その話術に吸い込まれ、つい彼の意見に同調し、操られてしまいそうな、そんな不気味な感覚すら覚えた。
だが、今は彼の意見も合理的だし、最善策ではある気がしたので、彼に賛同することにした。
「あはは、変わってるんだな。」
私は愛想笑いをし、イリーアに怒られないよう、最小限の言葉を返した。
リディグは話を続ける。
「私、実は前ヘマをして捕まってしまい、皆さんより前からこの監獄にいたんです。ですが、私は何もしていなかったという訳ではないのです。以前1回この監獄を管理する軍人によって、私は戦場に駆り出されました。さすがの私もそれには驚きました、ですが私はその騒ぎにかまけて争いを抜け出し、要塞の有力な情報を手に入れたのです。」
「お前がヘマするなんて珍しいな、有力な情報って一体なんなんだ?」
ドクディスがリディグにそう聞いた。
「私がヘマした理由については後ほど説明しますよ、朝食の時間も短いですのでこれだけは話しますね。」
リディグは紙とペンを取り出し、説明を始める。
その程度のものなら禁制品ではないので持っているだけなら大丈夫だが、ここの食堂では看守が巡回し見張りを行っている。紙に書いてある情報から彼が要塞の情報を知っているとばれたらどうするのだろうか。
「わかりずらかったらすみません、バレたらまずいので最低限のことだけ書きますね。」
リディグがそう言って紙に三つの矢印を書いた。その矢印は分かれ、それぞれ別の方向に向いている。
リディグが図を書いているたった今思い出したのだが、私が昨日軍人に説明されていた事を言うのを忘れていた。
「書いている所突然すまない、私実は軍人に監視されている状態で動く事になる。」
私は慌ててそう言った。とてつもなく申し訳ない気持ちになったが、彼にはそれも想定内だったらしく、微笑んだままの顔を変えることなく話を続けた。
「ああ、それなら想定内です、ギリギリまでバレないようにいたしますよ。それにイリーアさんは戦闘力に関してもとても頼もしいですからね。戦闘になる可能性も高いですがいざとなれば戦えますよ。」
やはり彼は頭がきれていて、頼もしい。イリーアが情報面についてリディグに頼っているのにも頷ける気がした。

「まずこの要塞は『時の狭間』にあり、時空の歪みの中にあるため、要塞自体が度々形を変えており、不定形なのです。ですが、その変化は管理が可能な程度で抑えられているので、変化に規則性があるんですよ。ですが管理者が形を管理できるので、バレてしまうと行き止まりに閉じ込められ一発アウトです。」
私は疑問に感じる点があった。
要塞自体が形を変えるのならば、規則性があっても、この朝食の時間内でそれを全部説明するのは無理があるのではないか?
「すまねーが今難しい話してる時間ねーんだ。もうすぐ朝食の時間終わっちまうぜー。」
イリーアがそう言って、リディグを急かした。
「そ...そうですね...!では手短に説明いたしますよっ...!」
リディグは微笑みながらも冷や汗をかきながらそう言った。やはり無法者のリーダーとしてのイリーアは睨んでなくとも威圧感を感じてしまうのだろう。だが、そんなイリーアの顔には確かな美しさも感じた。睨まずとも静かに威圧感を与える様は、まさにクールビューティーという言葉に尽きた。
「私達はまず、三手に分かれて行動します。イリーアさんとミサさん、ドクディスさん、私とフィシャさんで行動します。イリーアさんとミサさんは、ロボット、CeLEr-003スィラーゼロゼロスリーを引きつけ、ドクディスさんは、私達を妨害する他チームの有無の確認と単独脱出、私とフィシャさんは要塞のシステム停止をお願いします。」
「わかったぜー、オレは簡単な説明だけでいい。オレつえーし。よほど素早いロボットとか、強力なサイボーグとかがいなけりゃなんとかなるぜー。」
イリーアの事を知らない人が聞けば、考え無しで失敗する人間の言葉に聞こえるかもしれない。だが、イリーアの言葉には理論ではない、経験によって積み重ねられた重みがあり、信憑性が大いにあった。
おそらくこのチームは、力と人を引きつけるカリスマ性はイリーア、頭脳はリディグといった関係で成り立っているのだろう。

「ですが、いるのですよ。」

え?

私は戸惑いを隠せず、思わず心の中でそう思ったっきり、思考停止してしまった。

「その、CeLEr-003というロボットは、恐ろしく素早く、時間を遅くしない限り人間には到底かないません。ですが、私はシステム管理室にさえ到達し、そこを制圧できれば、時間を遅くし、要塞から逃げる事ができます。」

「わかったぜー、もう朝食の時間終わるけど大丈夫かー?」
やはりイリーアは難しい話は苦手なようだった。だが、もうすでに朝食時間が終わりに迫っているのも事実であった
だが、そんなタイミングよく時間の速度を遅くするなんて可能だろうか?
私がそんな事を思っているとそれをさっしてかリディグは話しを続けた。

「大丈夫です、この通信機は、あまり長い時間は持たず、通信可能時間はせいぜい15分程でしょう。ですが、その時間は全員とつながっており、確実に通信可能です、これを持っていてください。」
彼は一見リストバンドに見えるそれを3つ取り出した。アクセサリーのようになっており、禁制品である通信機には到底見えなかった。小型なのもあり、通信可能時間も短いのだろう。

「間もなく朝食の時間は終わりだ、広場で話があるので、準備し皆ついてくるように。」
看守が囚人達にそう呼びかけた。
「おそらくこの後、私達は戦場に赴くことになります、準備はいいですね?」
あまりに突然で戸惑い、リディグがその事を知っている事にも戸惑いを覚えたが、今はそんな事を考えている暇はない。

私達は頷き合い、決意を共にして出発した。
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