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猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (22)

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「突然だが、囚人諸君!これから我々は、お前達に重要な事を伝える!!!」

広場で剛健な見た目をした看守が、集まった囚人達にそう告げた。
看守は一息おいてから、再び口を開いた

「これから諸君には、戦場に赴いてもらう!!!」

看守がその言葉を放ってすぐ、どっと鼓膜が震えるような大勢の囚人達の大声が鳴り響いた。
あまりに突然の事であったので、戸惑いうろたえている者、そんな事聞いていなかったと怒り狂う者、恐ろしさと絶望のあまり頭を抱えている者もいた。中には、これから戦いがある事に喜びを覚え、歓喜し興奮する恐ろしい囚人もいた。
一方、事前にその事を知っていた私達は依然として冷静であり、リディグは微笑んですらいた。
さっき話した作戦を実行すれば、きっとうまくいくという信頼感が、私達にはあるのだ。
看守は、囚人達にもわかるよう、短く、簡潔ではあるが、力強く、大声で言葉を続ける。

「お前達には我らの敵国、コルートの兵士達と戦ってもらう!もちろんロボットもいる、敵対している兵士もいる!命の保証はない!だがこの戦で功績を残した囚人は釈放され、我らの軍に配属する!自由がほしければこの戦を制せよ!ここで団結し我らと協力して、我らに貢献するのだ!!!」

その言葉により、囚人達の士気は一気に上がった。
なにせこの監獄から出て、軍人として経済的に安定した生活が与えられるチャンスが全ての囚人達に平等に分け与えられたのだ。おそろしい猟奇的な囚人や、罪の軽い囚人、私のような理不尽な事で捕まってしまった囚人であっても、全員にそのチャンスがあるのだ。
「ヘッヘッヘエ!!!これで俺は自由だぜえ!!!暴れまくってやるよお!!!」
「ここから出られたとしても、どうせ軍でこき使われるんだろ...?しかも危ない外地でよお...」
「俺達のチームは絶対にこんなとこ出てやるぞ!いくぜお前ら!」
「ここから出たラ...!もっト...!フッフッフ...!ヒトのイノチウバウ...!!!フッヘッヘッヘッへェ...!!!」
「俺ははお前のチームに取引をしたい、大金を用意するから今は俺と協力してくれないか...?」
囚人達は様々な事を言っていた。救いようのない野蛮な事な言葉を発する者、これから起こる惨状に恐れどうしようもなく泣きながら言葉を発する者、私達と同じように団結し、仲間達を奮いたたせようとしている言葉、もはや同情の余地もない、おそろしい猟奇的な言葉、他の者と取引を試みる囚人の言葉が広場で飛び交っていた。

そんな中、私達は、ただ冷静にアイコンタクトで互いを見つめ、頷き決意を共にしていた。
大丈夫、きっとこれでカンフィナの元にも戻れるし、無法者のリーダーという重荷を背負っているイリーアのことも、この監獄から救う事ができる。
私の中には、そんな根拠はないが、きっとそれは可能な事だと信じる事だと思えた。いや、可能かどうかではない、自らの力で成功させなければいけないのだ。

私はそう決意し、仲間達と共に、囚人用の護送車に乗り込んだ。



その要塞は、とても巨大ではあったが、不思議とひとつの形にとどまっておらず、これが建物だといいきれるのかすらわからない、不思議なものであった。
まるでこの空間にエラー、もしくはバグが起こり、その要塞を不定形なものにさせているようであった。
その形は、画面に表示された画像の形が、表示されては消えたり、また違うエラー画面がその上に重なったりしているような、よく機械の画面に表示されているその形が、いびつに変わっているのを、現実世界にそのまま立体化して無理やり実在させたかのようであった。
私は先程、時の狭間に行くための嫌な感じがする予防接種をうち、窮屈な囚人用の護送車から降りた所であった。
だが、その建物を見た途端、本当にここから脱出できるのかといった不安が私を襲った。
この要塞は、空間が歪んでいおり、危険な時の狭間の中に、あえて建てられた見たこともない不気味なものであり、その迫力は、私を圧倒した。
いや、きっと大丈夫だ。この場面を1回経験したリディグもついているし、何よりリーダーであるイリーアは強い。
何より私は、ここから出て、カンフィナと再会したいのだ。
彼女は明るく優しい、魅力的な人物であった。私も彼女にいつも元気づけられているし、私も彼女のために何かできることはないか探っていた。
だが、無力にも監獄に囚われてしまい、彼女を危険な外の世界に置き去りにしてしまっている。
私は監獄の中で何もしないままでいるなんてできなかった。ここから出て、少しでもカンフィナのために何か私にできる事をしたかったのだ。

私はこれからここを出て、君にまた会いに行くよ。

私は心の中でそうカンフィナに誓った。


要塞に入ると、先に着いていた他の囚人達が、銃を持ってバイクに乗っていたり、戦車を走らせていたりと、まるで無秩序という言葉をそのまま形にしたような光景が広がっていた。
なぜか利害の不一致からなのか、同じ囚人同士でドンパチを繰り広げていたりと本当になんでもありだった。
その向こうには、先程看守が戦えと言っていた、敵兵達の姿や戦車、昔研究所で見たような大型戦闘用ロボットが対峙していた。
しかも、それは平面的に向こうだけから来ているというわけではなく、不定型な要塞の形に合わせて、上や下にできた壁や床に合わせて、360度に展開されており、できた上の空間から爆撃が囚人達を襲ったり、突然下から銃弾が飛んできたりと、凄惨でおそろしい光景であった。しかも要塞は常に形を変えているので、いつ敵兵がこの空間に突然上や下、右や左、いや、もはや物理的な現象すら無視してありえない所から襲ってきてもおかしくなかった。
いくら罪を犯した人物とはいえ、こんな戦場に送られていいのだろうか。こんな所で罪を償わずして命を落としていいのだろうか。罪の大きさも人それぞれであり、軽い罪の囚人もいるというのに。こんなのはもはや罪を償わせているのではなく戦争に都合良く利用しているだけなのではないか?
数々の囚人達が私達の周りで命を落とすのを見て、私はそんな事を思いながら、イリーアと共にこの空間を駆け抜けていた。
すると突然銃弾が私の頭の後ろをかすり、私は正気に戻った。
そんな事を考えている時間はないのだ。私は今この時を生き延びなければいけない。

私達は全速力で、ただこの空間を走っていた。

突然出てきた塀を飛び越え、ロボットのマシンガンから撃たれる残像をかわし、突然下の空間から跳んできた敵兵をなぎ倒す。

上から降る銃弾をかわしたが、その後すぐに爆弾が飛んできた。
だが、走るのをやめず、堀に飛び込み、その爆弾を飛ばした相手にイリーアは蹴りを食らわせる。

するとまたその敵兵の仲間が発砲しようとしてきたので、そうする前にイリーアは蹴りを食らわせ、奪った銃をまた敵兵に向けて発砲し、命を奪った。

まさにその光景は戦場であり、手を汚すのを躊躇すれば自分の命は無い、本当に恐ろしく、一瞬の油断も許されない空間であった。

私達は堀から出て、また走り出した。

堀の外に待ち構えていた敵兵の足に私は発砲し、敵兵を動けなくした。だが敵兵は助けを呼んだらしく、また敵兵がやってきた。だがイリーアはかれらに跳び蹴りを食らわせ、一毛打陣にする。

すると突然空間がゆがみ、先の空間が一階分陥没してしまったので、私達は飛び降り、受け身をとってまた再び走り出す。

「そこをまっすぐ抜ければまもなく他の棟にたどりつきます!どうかご無事で...!」

一本道の金網でできた道の前に私達がたどりつくと、発信器であるリストバンドからリディグの声が聞こえた。
発信器に画面はついておらずこの光景は見えていないが、おそらくリディグは私達の走る速さと、ここまでの距離を考慮してこの事を伝えているのだろう。
そこには立ち入り禁止と書かれた看板と、ブザーの音と共にゆっくりとしまりゆく厚い鉄のシャッターがあった。

私達は全速力でそこまで走り、閉まりゆく戸にかけこんだ。

「お前は先に行け!」

イリーアは私を押して先に私を戸の外に放り込んだ。その後にイリーアは、姿勢をできる限り低くしてスライディングをし、戸とイリーアの頭がスレスレの間一髪のところで、イリーアは戸の向こうに滑り込み、そしてまもなくドン!という音と共に重い戸が閉まった。
もし入れなかったらという事はとても考えたくなかったが、なんとか二人ともここまで生きて来れた。
私達はつかの間の安堵を得た。

「おかげで助かったよ...イリーアさん...ありがとう。」
「リーダーとして当然の事をしたまでだぜー...そんなこたぁねえさー...」

二人ともとてつもない疲れで虫の息であった。
ゼーゼーと急いで酸素を確保しようとする荒い呼吸が止まらない。
やはりイリーアは良い人物であり、助けなくてはならないと決心がついた気がする。こんな土壇場の命がかかった状況で仲間のことを優先できる彼女は、生きていないといけないし、ここで私が守ってあげないといけないのだ。
なぜなら、彼女は、無法者のリーダーというとてつもなく大きなプレッシャーを負いながらここまで歩んできたのだろうし、私は彼女が頑張りすぎているように見えたからだ。

一息ついた後、私達は再び出発した。
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