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第3話
第3話 出発 (21)
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「私達はこれから、とある要塞に向かいます。」
クレッチュマー博士の口調には緊張感があり、突然それを言われた私とザックは唖然とした。
「親父...突然何の目的で要塞に行こうって話になったんだ...?」
ザックはぽかんとした顔のままそう言った。突然そんな事を言われてしまっては驚くのも当然の反応だろう。自分のいる国の要塞なら入っても安全だが、クレッチュマー博士の緊張感のある口調からは、これから行く「要塞」が、敵対している国のものというのは確かな気がした。
この「人工の新天地」では、度々資源や利害の対立で国どうしが争いを起こすのも珍しくないため、他国に攻められないようし、市民への被害を最小限に抑えたり、自分達で作った要塞を戦場にする事によって敵戦力より優位に立つといった目的のため、要塞を作って争いに備えている国も多い。なので敵対している国の要塞に入るなんて事は、何らかの策がない限り、自ら命を投げ出しているのと変わらない。
なんでわざわざそんな危険な場所に向かう必要があるんだろう...?
聡明なクレッチュマー博士の言うことなので信頼感はあったが、私はその疑問を拭うことができなかった。
「大丈夫ですよ、私にはちゃんと考えがあります。」
クレッチュマー博士が私のきょとんとした顔を見てそう言った。
「あなたの相棒、ミサさんは、きっとこの要塞にいます。そして、私がこれまでに調べていた、コルート管轄の通信装置についての答えがそこにある可能性があるんです。」
「というと...?」
私は話を続けた。いくらクレッチュマー博士といえど突然結論から言われては、信憑性に欠ける気がした。
「実は私達が拠点としている機械の国、マーキナとあなたの所属するコルートという国は共に同盟関係にあり、その首相であるミサさんの情報に関して、技術班が追っているのですよ。私も実はそれに協力しており、ミサさんの位置情報を、可能な限り特定できるよう尽力しているのです。一国の首相が突然行方不明となってしまっては、その国は大混乱におちいってしまいますからね。」
クレッチュマー博士によると、この「人工の新天地」は、時空の歪みの都合で通信技術や位置情報の特定が難しいのもあって、同盟国が協力し、それぞれの技術を出しあって、ミサの事を探しているらしい。
確かにそうだ。一国のリーダーであるミサが突然いなくなってしまっては、リーダーを失った国民は混乱してしまう。政治に疎い私にとっても理解できる事であった。
ミサ自身も、外交や国内の政治に疎く、話し合いを苦手としているが、その分カリスマ性が高い。
過去に研究所で働かされていた、クライイング職員を導き、研究所からの脱出に成功したという栄光があり、その元職員達が団結し、この「人工の新天地」ができた。そんな功績から、彼女は、英雄のような扱いを受けており、実際の政治は元クライイング職員の、リーシャが行っているらしい。
ミサは政治が苦手な分、自らすすんで危険な国外の工場の大地での資源探しや、コルートの軍人と共に国内を無法者やロボットから守る自衛を行っている。
国民も、国のリーダーであるにも関わらず、国民に寄り添い、国民と共に国を作っているその姿を尊敬し、彼女についていっている関係が成り立っている。
私はミサの事を尊敬しているし、なにより彼女はとても優しく、私も彼女の魅力に惹かれている。だが、彼女はなんだか無理をしすぎている気がするのだ。ミサは、市民のためを考えてか、一人で問題を抱えこんでしまう癖がある。
私は相棒としてミサの事を助けてあげることができるのかな...
「わかった、一緒にミサを助けよう。」
そんな事を思っていると、気づけばクレッチュマー博士に対して、同意の言葉を返していた。私も今できることでミサの力になりたい。そして何より彼女がいない日々はとても寂しく心もとないものだった。
「ところで親父、通信装置の事ってのは何なんだ?まぁ俺は親父の事が心配だしついてくるのは当然なんだが、それは聞いておきたい。ついこの前まで自室にこもって何かを調べている様子だったしな。」
ザックはクレッチュマー博士にそう問いかけた。
「実は私、この要塞が私のこれまで調べていた通信装置と管理先が同じという事を特定するのに成功したのです。何らかの組織が同じ管理者で、この要塞を管轄している事がわかりました。きっとそこには手がかりがあるはずです。ですが実際に行かないとわからない事も多いのですよ。」
「わかった、親父は俺が守る。」
ザックはそう応え、身支度をした。
クレッチュマー博士はうなずき、最初から私達がついてくるのをわかっていたように、出発の準備を整えていた。
「こちらの注射の接種をお願いします。時の狭間は生身の人間には危険ですから。」
クレッチュマー博士は、青い液体が入った注射器を私達に渡した。
これチクッとして少しの間刺したとこがヒリヒリ痛むから嫌なんだよなあ...
だが命には代えられないので、私は渋々腕に注射を刺した。
「こちらです。マーキナから車の手配もできているので、行きましょうか。」
テントの入り口の向こうには、おあつらえ向きにトラックがあった。
ザックはテントや、テントの中でパンを作っているのに使ったと見られる機械の数々をトラックの荷台に乗せていった。荷台は露天になっているタイプで、その上に乗ったら面白そうなんて思いもしたが、荷物でぎゅうぎゅうになっており、これから危険な時の狭間に向かう事もあって、それは諦めることにした。
私達は車に乗り込み、私は車に揺られながら考えていた。
なんか事がうまく進みすぎてる...怪しい...
クレッチュマー博士は賢く、信頼できる人物だ。だが、帰ってきた博士はなんだかいつもと違う雰囲気を漂わせている。
だが、とてつもなく広いこの人工の新天地では、そんな事も言ってられなかった。
情報もなくてはどれだけ膨大な時間がかかるかわからないし、何より相棒のミサがいないのが寂しいし、心配だ。
待ってて!私が今から助けに行くよ!!!
私はどこにいるのかもわからないミサに対して、心の中でそう言った。
クレッチュマー博士の口調には緊張感があり、突然それを言われた私とザックは唖然とした。
「親父...突然何の目的で要塞に行こうって話になったんだ...?」
ザックはぽかんとした顔のままそう言った。突然そんな事を言われてしまっては驚くのも当然の反応だろう。自分のいる国の要塞なら入っても安全だが、クレッチュマー博士の緊張感のある口調からは、これから行く「要塞」が、敵対している国のものというのは確かな気がした。
この「人工の新天地」では、度々資源や利害の対立で国どうしが争いを起こすのも珍しくないため、他国に攻められないようし、市民への被害を最小限に抑えたり、自分達で作った要塞を戦場にする事によって敵戦力より優位に立つといった目的のため、要塞を作って争いに備えている国も多い。なので敵対している国の要塞に入るなんて事は、何らかの策がない限り、自ら命を投げ出しているのと変わらない。
なんでわざわざそんな危険な場所に向かう必要があるんだろう...?
聡明なクレッチュマー博士の言うことなので信頼感はあったが、私はその疑問を拭うことができなかった。
「大丈夫ですよ、私にはちゃんと考えがあります。」
クレッチュマー博士が私のきょとんとした顔を見てそう言った。
「あなたの相棒、ミサさんは、きっとこの要塞にいます。そして、私がこれまでに調べていた、コルート管轄の通信装置についての答えがそこにある可能性があるんです。」
「というと...?」
私は話を続けた。いくらクレッチュマー博士といえど突然結論から言われては、信憑性に欠ける気がした。
「実は私達が拠点としている機械の国、マーキナとあなたの所属するコルートという国は共に同盟関係にあり、その首相であるミサさんの情報に関して、技術班が追っているのですよ。私も実はそれに協力しており、ミサさんの位置情報を、可能な限り特定できるよう尽力しているのです。一国の首相が突然行方不明となってしまっては、その国は大混乱におちいってしまいますからね。」
クレッチュマー博士によると、この「人工の新天地」は、時空の歪みの都合で通信技術や位置情報の特定が難しいのもあって、同盟国が協力し、それぞれの技術を出しあって、ミサの事を探しているらしい。
確かにそうだ。一国のリーダーであるミサが突然いなくなってしまっては、リーダーを失った国民は混乱してしまう。政治に疎い私にとっても理解できる事であった。
ミサ自身も、外交や国内の政治に疎く、話し合いを苦手としているが、その分カリスマ性が高い。
過去に研究所で働かされていた、クライイング職員を導き、研究所からの脱出に成功したという栄光があり、その元職員達が団結し、この「人工の新天地」ができた。そんな功績から、彼女は、英雄のような扱いを受けており、実際の政治は元クライイング職員の、リーシャが行っているらしい。
ミサは政治が苦手な分、自らすすんで危険な国外の工場の大地での資源探しや、コルートの軍人と共に国内を無法者やロボットから守る自衛を行っている。
国民も、国のリーダーであるにも関わらず、国民に寄り添い、国民と共に国を作っているその姿を尊敬し、彼女についていっている関係が成り立っている。
私はミサの事を尊敬しているし、なにより彼女はとても優しく、私も彼女の魅力に惹かれている。だが、彼女はなんだか無理をしすぎている気がするのだ。ミサは、市民のためを考えてか、一人で問題を抱えこんでしまう癖がある。
私は相棒としてミサの事を助けてあげることができるのかな...
「わかった、一緒にミサを助けよう。」
そんな事を思っていると、気づけばクレッチュマー博士に対して、同意の言葉を返していた。私も今できることでミサの力になりたい。そして何より彼女がいない日々はとても寂しく心もとないものだった。
「ところで親父、通信装置の事ってのは何なんだ?まぁ俺は親父の事が心配だしついてくるのは当然なんだが、それは聞いておきたい。ついこの前まで自室にこもって何かを調べている様子だったしな。」
ザックはクレッチュマー博士にそう問いかけた。
「実は私、この要塞が私のこれまで調べていた通信装置と管理先が同じという事を特定するのに成功したのです。何らかの組織が同じ管理者で、この要塞を管轄している事がわかりました。きっとそこには手がかりがあるはずです。ですが実際に行かないとわからない事も多いのですよ。」
「わかった、親父は俺が守る。」
ザックはそう応え、身支度をした。
クレッチュマー博士はうなずき、最初から私達がついてくるのをわかっていたように、出発の準備を整えていた。
「こちらの注射の接種をお願いします。時の狭間は生身の人間には危険ですから。」
クレッチュマー博士は、青い液体が入った注射器を私達に渡した。
これチクッとして少しの間刺したとこがヒリヒリ痛むから嫌なんだよなあ...
だが命には代えられないので、私は渋々腕に注射を刺した。
「こちらです。マーキナから車の手配もできているので、行きましょうか。」
テントの入り口の向こうには、おあつらえ向きにトラックがあった。
ザックはテントや、テントの中でパンを作っているのに使ったと見られる機械の数々をトラックの荷台に乗せていった。荷台は露天になっているタイプで、その上に乗ったら面白そうなんて思いもしたが、荷物でぎゅうぎゅうになっており、これから危険な時の狭間に向かう事もあって、それは諦めることにした。
私達は車に乗り込み、私は車に揺られながら考えていた。
なんか事がうまく進みすぎてる...怪しい...
クレッチュマー博士は賢く、信頼できる人物だ。だが、帰ってきた博士はなんだかいつもと違う雰囲気を漂わせている。
だが、とてつもなく広いこの人工の新天地では、そんな事も言ってられなかった。
情報もなくてはどれだけ膨大な時間がかかるかわからないし、何より相棒のミサがいないのが寂しいし、心配だ。
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