CREATED WORLD

猫手水晶

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第3話

第3話 出発 (32)

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リディグという男が去った後、私はただ立ち尽くしていた。
なぜ彼は負傷したドクディスを背負ってどこかへ行ったのか、そもそも彼の目的は何だったのか、私には何がなんだかわからないでいた。
黒い影を落とした、怪しげな黒い髪の男だった。彼はとても冷静そうな口調で話していて、こんな状況にもかかわらず、顔には微笑みをうつしていた。
その姿は不気味ではあったものの、なぜかそれには信頼感があり、私達はドクディスを彼に預ける事にしたのだ。
リディグはザックに対して、去り際にこう言っていた。
「私からひとつだけ交換条件を出させてください。こんな世界では無償で何かするなんてことできませんからね。」
彼は一息ついてから、意味ありげにゆっくりと口を開く。

「あなたは仲間を呼んでください。」

彼はそう言ってから、「あなたにはそれだけ言えばすべて理解できるでしょう。」と続けて言いながら、そのままこの場から去ってしまった。
私達はコントロールルームから出て、歩き続けながらザックと先程の事について話していた。
「さっきの男は何者だったんだろう...?」
「さあな...俺にもわからねえ。だが、彼は色々な事を知ってるっていうのは確かかもしれねえな...」
すると、遠くから地響きが鳴るのを感じる。
時間がないみたいだ。ここから脱出するまでは気を抜く事は許されないのかもしれない。
「ヤバいな...とりあえず走るぞ!」
私達は足取りを速め、走りながら話を続けた。
「おそらく...俺はワンチャン連絡手段を確保する事が可能だって事をリディグっていう男は知っているんだろうな...」
だが、彼は依然として悩み続けている様子だった。
「だが、それがどんな方法かっていうのはわからないな...この要塞にその仕組みはあるっていうのは確かで、距離的にもここら辺に研究者達のキャラバンがあるから、ハッキングをすれば可能かもしれない...だが、それがこの要塞のどこに仕組まれていて、その機器がどんなものかっていうのはわからないな...」

そんな事を話していると、後ろから大きな音が聞こえた。
爆発音だ。
後ろを振り向くと、私達が走っている橋が後ろから燃え、崩れ始めていた。
「まずい!このまま飛び降りよう!」
ザックは私にそう言った。
私達は共に飛び降り、2メートル下にあるパイプに飛び乗るが、それもたちまち崩れ始めてしまうので、またその3メートル下にある空間の歪みへと跳ぶ。

私達は受け身をとり、次の空間の床へと受け身をして、そのまま走り出した。
そこは囚人達がいる広場で、そこかしこで軍人との争いが起こっていた。
私達はそのいざこざに紛れながら、これからの作戦を話しあった。
「さっきの男が言っていた、『仲間を呼べ』ってのは、おそらくそのための装置がここにあるってのは確かだ。だから手探りではあるがここを走り回りながらそれを見つけ、助けを呼べってことなんだろうな...」
「だけど、なんで助けを呼ぶこと前提なの...?それだけヤバい状況ってこと...?」
私はこわくなって、ザックにそう言った。さっき橋で起こった不可解な爆発といい、クレッチュマー博士の機械の体を止めるために起こした爆発や、それにより起こった身体への影響といい...心当たりが多すぎるよ...
リディグという男が「助けを呼べ」というのであれば、もう私達が危機的状況にあるのは察しがつく。
もしかしたら私達がやられちゃう可能性もあるのかな...
「大丈夫だ、俺はここからお前を出すよう最善を尽くすよ。お互い生存の為に最善を尽くそう。」
私がつぶやいていると、ザックは私が不安を抱えている事を察してか、微笑みながらそう言った。
そうだ。こんな世界で生きていくためには、最善を尽くすために希望を捨てちゃいけないんだ。
どんな状況になろうとも、息がある限り生存を諦めてはいけないんだ。誰かを守りたいって思うならなおさらだ。
「わかった、絶対ここから生きて出よう!」
私は走りながらザックに微笑み返した。
すると、再び背後から光の後に轟音が鳴り響き、そのあとに激しく床を揺らした。
ここも安全じゃないみたいだ。
おそらく何か危険な飛翔物がここ向かって飛んできているのだろう。多分それはミサイルだと思う。
それなら振り向いている暇も無いし、走り続けていなきゃ爆発に巻き込まれてしまう。
私達はただひたすらに走り続けた。
「つかまれ!」
ザックは私に向かってそう叫んだ。
私はザックにおぶられ、そのまま私達は広場の端にある崖へとさしかかった。
ザックはためらうことなく崖へと飛び込む。
そしてザックは布を取り出し、崖から5メートルほど下方の空中にあったパイプにその布をかけて体重をのせ、そのままぶら下がった状態でスピードを上げながら滑り降りていく。
そしてそのパイプが上に曲がっているところにさしかかり、私は恐怖に駆られた。
パイプが曲がった所で私達が止まってしまうのは確かだが、その先には足場も空間の歪みもないのだ。
止まってしまうのはまだいいものの、私達2人の体重を支えている布きれがちぎれ、そのまま真っ逆さまに落ちてしまう事だって考えられる。どちらにせよ詰んでしまう。
だが、ザックは依然として冷静さを失っていなかった。
機械のランプのものと思われる光があるほうへザックは銃弾を放ち、その機器を破壊する。
すると、先に何もなかったのに、それが嘘だったかのごとく空間が彎曲し、歪みが生まれた。
私達は更に勢いをつけパイプを滑り降りていく。
そしてパイプが曲がった所にさしかかった時、ザックは私を抱えたまま、空中ブランコみたいに滑った勢いを生かして空中へと跳ぶ。
そして空間の歪みへと飛び込んだ。
その先はまた橋の上であった。
ミサイルと思われる飛翔体の飛ぶ音が四方八方からうるさく聞こえていた。
「おそらくここも危険だろう...だが、俺はだいたいここの空間についてわかった事がある。」
ザックは走りながら話し続けた。
「ここの空間は、コントロールできるんだ。」
私はその事がよくわかんなくて、きょとんとしてしまったが、ザックはその事を察してか、手短にかつ、かいつまんで教えてくれた。
ここの空間はさっきの爆発によって歪みに歪みまくっていてめちゃくちゃになっている。だけどその反面先程は強固だった空間の制御機能のセキュリティも脆弱になっているんだ。
だから、ハッキングもしやすいし、機器を壊してしまえば、空間の歪みも起こしやすいのだ。
だけど、その反面、時空を歪ませる度に、それによる身体への影響もでやすくなるのであまり多くは使えないとの事だった。
それに、すでに空間が歪んでいることもあり、私達が動くことのできる残り時間はあと5分しかないとの事だった。
「ここを走り抜けて、ある場所にあるシステムから、助けを呼べばいいってことなんだね!」
私はだいたい理解できた気がした。
「そういう事さ、だから、君には俺の手助けをしてほしい。撃てと言ったときに見えた機械のランプの光へと銃弾を放つんだ。細かいハッキング作業は走りながら俺がやる。うまくこの空間を操作できれば、最短距離で連絡可能な機械へと辿り着くことも可能かもしれない。」
ザックはそう言って走り出した。
私もそれについていく。
私達が走り出した瞬間、私の身体に異変が現れ始めている事に気付いた。
一瞬頭がぼーっとした後、軽いめまいが現れた。
先程ザックが言っていた身体への影響とはこの事であると、私は察した。
こうなったらなおさら急がなくちゃいけない。私はそうさとった。
私達が橋の上を走っていると、また後ろからミサイルの音が聞こえてきた。
もうミサイルは目前であり、その音は鼓膜を激しく揺らした。
「飛び降りて!!!」
私はザックに対してそう言い、幸運にも発見することができた3メートル下方にあるパイプへと飛び降りた。
ザックは機器を操作するのに集中しており、またミサイルの数も多いため音が紛れていた。なので気付いていない様子であったが、私の叫びが聞こえたのか、無事にパイプまで飛び降りる事ができていた。
だが、そんな安心が続く事もなく、パイプはさっきミサイルが当たり着火した火が燃え移り、後ろから爆煙が押し迫ってきている。
ザックと私は頷きあった後、私達は下の見えない崖へと飛び降りた。
50メートルほど真っ逆さまに落ちていった後、頭上に床が見え始めた。
私はその時ザックへの疑念と命が終わる恐怖心でせめぎあい始めていた。
ザックは心中をはかっているのかな...?きっとおかしくなっちゃったんだ...
そんな思いがよぎり始めていた。
だが、床から20メートルほどの位置にさしかかったその時、ザックの声が横から聞こえた。
「左方30メートルほどの位置にある光を撃て!!!」
私はすかさず銃口を、彼方先の光に向ける。スナイパーを使うほどでもない、今私のもっているハンドガンでも届く射程ではあるが、普段銃を使ったことがない私にとって、それは困難なものであった。
地上からこの距離だと、落下までの時間的に撃てるのは1発だろう。
私は呼吸を整え、対象を慎重に補足した後、引き金を引いた。
私達の身体が床からたった2メートルにさしかかったとき、空間がゆがみ、その床はぽっかりと穴が開いた。
物理的に開いたのではなく、その場に新たな空間が生成され、私達の空間とつながり穴が生じたといったほうが正しい感じがした。
私達は穴にそのまま落ちていく。
私は落下時の衝撃でやられるのではないかという恐怖があったけど、私達が下に落ちていた方向とは重力が逆だったのか、穴を通りすぎた後は、落ちた勢いのまま上へ放り出された。
私達はそのまま穴から上方3メートルほどにあるパイプにつかまり、そのまま飛び乗る。
すると、また忌々しいミサイルの音が背後から聞こえた後、間もなく爆音が聞こえてきた。
私達は急いでパイプの右方2メートルにあるパイプへと飛び、つかまったまま10メートルほど下の床へと滑り降りていった。
下の床は囚人達と軍人達が相変わらず乱闘を繰り広げていた。
私達がそのどさくさに紛れて逃げようとした時、上のスピーカーから嫌な言葉が聞こえてきた。

ー逃走者を3人発見した。彼らを捕まえた囚人には我が軍に入る権利を与える。よって釈放が決まることになる。ー
アナウンスは続く
ーまた、補足として、逃走者である囚人に関わった人物も同義として対象にする。彼らの特徴は...ー
その後に続いていたのは、明らかに私達のものだった。
ー黒髪のオーバーオールを着た女性、そして先程述べた女性と共に行動している、白衣を着た男性の姿を、逃走者と共に行動しているのを発見した。もう1人のサイボーグ男の行方は、いまだ我々も特定できていない。ー

囚人達は一斉に私達に向かって飛びかかる。
私はなんとかジャンプによって囚人の体を跳び越えようとするも、足首を囚人のひとりにつかまれてしまった。
私は急いで私の足をつかみ、引き寄せようとするその手に向かって銃弾を放つ。
その手からは出血し、力を失ったまま私の足首を放した。
私はその囚人の肩を足場に、高くジャンプして着地する。ザックもなんとか跳び越えることができていたのか、私を先導し走っていた。
囚人達は私達めがけてどっと一斉に走り始める。
その勢いはすさまじいもので、長時間この状態が続けばおそらく追いつかれてしまいそうだった。
すると、後ろからドンという音が聞こえ、私の髪を銃弾がかすり、髪を揺らした。
銃をもっている囚人もいるという事だ。
このままでは流れ弾にあたっちゃう。こんなにも多くの囚人に追いかけられ、かつ銃弾の雨が降り注いでいる中ではなおさらだ。
「わっ!」
突然銃弾が飛んできて、髪をかすったのに驚いたのか、思わず声を出してしまった。
「大丈夫だ、このまま50メートル走った先、真っ正面にまたランプのついた機械がある。そこは行き止まりだがそこに銃弾を撃ち込んでくれ。俺は今からハッキングを進めるから。30メートル走った地点で銃弾を撃ってくれ!その時に合図する!遅れたら爆発に巻き込まれる危険性があるから撃たないでくれ、その際は別の策を考える。」
「わかった!」
とにかく、少し走ったら真ん前にある機械に銃弾を撃ち込めばいいってことだ。失敗したらこれ以上に困難な状況になっちゃうかもしれない。
後ろでミサイルの落ちる音や、囚人達の叫び声が聞こえる。
「今だ!撃て!」
その中でひとつ、ザックの叫び声が聞こえた。
私は引き金を引き、なんとか命中するのを祈った。
すると先程まで狙っていた機械に銃弾が当たったのか、爆煙を散らし、バチバチと電流を放出していた。
そして、そこに時空の歪みが現れ、再び空間に穴が開いた。
私達はそのまま一直線にそこに向かって突っ込んだ。
するとそこには、私達を待ち構えていたかのごとく、2メートル下の橋で囚人と軍人がいた。
私は囚人の頬に銃弾を放ち、痛みによって錯乱させる。そしてザックは囚人とは反対方向にいる軍人に対して跳び蹴りをかます。蹴りは肩に命中し、なんとか2人とも一時的にひるませることができた。
だが、他の囚人や軍人達も追ってきているため、私達は逃げ始めた。
「やばいな...残り時間はあと1分しかない...ここから一気にいこう!」
ザックは走りながらそう言った。
すると、また背後からミサイルが飛んでくる。
私達は再び2メートル先にある他の橋へと飛び移る。
だが、そこには軍人が待ち構えていたのか、私達をおさえつけようと走りかかってくる。
ザックは軍人に対し銃弾を放ち、私を抱えたまま飛び降りた。
「怖い思いをさせてすまない...!また俺の合図で右方にある光に銃弾を撃ち込んでくれ!」
私達はまた、下の見えない空間を真っ逆さまに落ちていく。
20メートル程下に落ちたとき、また右20メートルほど先に機械のランプが見えた。
「今だ!撃て!」
私は再び引き金を引く。
なんとかまた命中したのか、下方3メートル先に先程までなかったパイプが現れた。
ザックはそれにつかまり、また再び空中ブランコの要領で私達の体を宙へと投げる。

そして前方5メートル、上方3メートルにあるリフトへと飛び乗った。
リフトは動く床のようになっており、四方を柵に囲まれている長方形の床になっていた。その端には、リフトを管理しているであろう機器があった。機器の画面にはノイズが埋め尽くされており、ザックがすでにハッキングしたか、爆発によって機器がおかしくなってしまったかのどっちかである事を伺う事ができた。
そしてリフトの下は車輪型のレールがあるであろうくぼみの線が続いており、その上を1つの車輪が通るであろう仕組みになっていた。リフトは斜めに45度ほど傾いている坂を登るようにできており、上まで続いていた。
ザックはそこのシステムをハッキングしていたのか、リフトはおのずと動き出した。
リフトは少しづつスピードを上げていく。
するとリフトの上になにか飛び降りてきたのか、ドンという鈍い音の後に声が聞こえた。
「ただいま侵入者とみられる者を確認シマシタ、標準への攻撃を開始シマス」
小型のセキュリティロボットが四台、私達を包囲するように飛び降りてきた。
私は飛んできた銃弾をかわし、一体目のロボットに銃弾を放ち、命中した。
そして二体目のロボットが私を狙ってまた銃弾を放った。
私はそれを飛んで避け、そのままロボットへと跳び蹴りをかました。
ていうか私自身もとっさにこんなにも動けるなんて驚いていた。
ザックは他2体のロボットの対処をしてくれていた。
ザックは銃弾を避けた後、一体のロボットに銃弾を放ち、そしてまたザックに向けられ放たれた銃弾をまたかわしてから、すぐにザック自身ももう一体のロボットへと銃弾を命中させ、故障させるのに成功していた。ザックの動きは素早く、単独でこの世界を生きている者の実力はやっぱりすごいなー...って私は思っていた。

リフトの上ですべてのロボットを倒し、一息つこうとしたその時、私達は異変を感じた。
先程までロボットの相手をしていて気付かなかったが、リフトの速さがありえない程早くなっているのだ。
周りの景色は速さのあまりものすごい速さで過ぎていき、リフトの下の車輪は火花を散らし、その下のレールは炎上しはじめようとしていた。
すると私は、けたたましい轟音と迫り来る影から、後ろから迫ってくる何かが飛んでくるのを感じた。
振り向くと、ミサイルが目の前まで迫ってこようとしているのが見えた。
このままでは正面衝突してしまう。
「つかまれ!!!」
ザックは私に対してそう言い、私を抱えると、そのままリフトの柵へと飛び乗った。
ザックは飛び上がろうとしているのか、その場で構えをとりはじめていた。
そして、リフトの後ろの坂にミサイルが衝突し、激しい爆風はリフトをも飛ばした。
なんとか正面衝突は避けられたものの、脱線し空中へと放り投げられたリフトは、爆風によってものすごい速さで空中を舞っていた。
すると、10メートル程上方に、ガラス張りの部屋が巨大な壁に張り付いているのが見えた。
おそらくザックはそこを目指そうとしているのだ。
そして、その部屋が上方3メートル、前方3メートルの地点へとさしかかった時、上方へと向かっていたリフトの運動エネルギーが消え、今にも下へと落ちようとしたとき、ザックは柵を蹴り、ジャンプをしてガラス張りの部屋へと突っ込んだ。

なんとか危機をしのぎ、部屋までたどり着く事ができた事に安心したけど、私が横を向くとザックに異変が生じているのに気付いた。
彼は意識を失ったまま、ガラスの破片と共に床に倒れている。
「カンフィナ...君に頼みがある...あのボタンを押して...そのままその先にある脱出ポットへと...急いでくれ...俺は動けそうにない...すまねえ...後...俺の事は...置いていっていい...」
彼はなんとか目を開け、絶え絶えの息でそう言っていた。
そうして間もなく、私の身体へも異変が起き始めているのがわかった。
何にも当たっていないのに、全身に衝撃が走ったような震動が私の三半規管を狂わせ、めまいはいっそう激しくなり、周りの光景がぼやける。
おそらくザックは同じものにやられているのだ。空間の歪みを自ら生じさせ、そして身体的にも私以上に動いている彼の体は私よりも悲鳴をあげていたんだ。
私の事を助けてくれた彼を私は見捨てられなかった。
私は彼を担ぎ、ふらつく足で歩き始めた。
ザックは細身とはいえ、私よりも背が高く、私の背中にはどっしりとした重さがかかっていた。
周りの光景は彎曲し、ぐにゃぐにゃし始める。
だけど、私にはなんとか前が見えている。
そうだ、希望は捨てちゃいけないんだ。
3メートル前方にある大きなボタンへと、できるだけ大股で歩きながら、転ばないよう確実に歩を進めた。おそらくこの状態で転んでしまえばもう動けなくなっちゃう。
そして一歩、一歩と左右によろけながらもなんとかボタンまで辿り着き、私はボタンによりかかり、体重をのせるような形でボタンを押した。

ー緊急信号ボタンの作動を感知シマシタ!!!緊急信号ボタンの作動を感知シマシタ!!!ー

ワーン!ワーン!というけたたましいサイレンと共に、とてつもない音量の機械アナウンスが部屋中に鳴り響き、私達の鼓膜をうるさく揺らした。
ーただいま緊急の無差別信号を外部の空間へと発しました!!!直ちに脱出ポットへとご移動ください!!!そしてこの信号は無差別の暗号信号となりますので、他派閥からの盗聴に関しては責任を負いかねます!!!ー
そんなにもうるさいのに、私には「脱出ポットへと向かえ」という言葉だけが聞こえた。それどころじゃないし、それに薄れゆく意識の中では、長い言葉は聞き取ることができない。

私は、先程まで体重をかけていたボタンから手を放し、なんとか立ち上がろうとする。
すると立っただけでふらつき、ザックをおぶった私の体は傾きそうになった。
なんとか片足に力を入れる事で倒れる事は避けられたが、時間がないのは身をもってわかった。
私の症状は悪化しつつあるのだ。
周りの空間はさらに彎曲し、だんだんと元ある形を崩しはじめる。
急がなきゃ上も下も前も後ろもわからなくなっちゃう...!!!
そんな恐怖を私は抱えていたが、だからといって焦って倒れてしまっても立ち上がれなくなってしまうのは事実であった。

すると、彎曲する空間の中、前方5メートルの所に、光が見えた。
おそらく脱出ポットの位置を示すものだろう。扉らしき形もぐにゃぐにゃしていつつもかろうじて認識できた。
私は残った力を振り絞り、また、一歩、一歩と歩を進める。
あと5メートルなのに、その5メートルは、今の私にとって、とてつもなく遠くに思えた。

あと3メートルの地点にさしかかった時、私は恐怖した。
私はつまづいたのだ。

いや、ここであきらめてしまえばもう私達はここで終わっちゃう...
いっそのこと、このままこの転ぶ勢いでポットまで辿り着いてみせる...
2人でここを生きて出るって約束したんだもん...!

私はなんとか床に片足をつき、転びそうになる勢いのまま一気に開いた扉へと走った。
そして、私は倒れるように扉をくぐって、脱出ポットへと滑り込んだ。
もう起き上がれそうにない。
私は薄れゆく意識の中、かすかに脱出ポットの扉が閉まるのを見た。
それは、ポットの内側から見たものだったんだ。
私は、なんとか間に合ったことに安堵しながら、そのまま眠りに落ちていった。
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