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先生の気持ち、僕のこれから

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「ということがあったんですよ。弥衣さん?聞いてます?」
「『天使様の話聞かないはずがないじゃない!でも誘拐の背景は小夜さんから聞いていたからなんとも言えないわ』」

 弥衣さんに家の固定電話から電話をかける。
 弥衣さんは先生から聞いていたのか。知らないのは僕だけ。

「『じゃあ、話していいのかわからないけれど、私がこの話を知っているのはこの時のためと思って話すね。小夜さん、貴方の先生はなにを考えて貴方を育てたのか』」
「それ、直接じゃダメですか?ちょっと整理したいです」
「『天使様が私に会いたいなら!そうしようかな!』」
「はい、会いたいですよ」
「『良きかな良きかな~』」

 いつ会えるのか聞こうとすると、インターホンが鳴る。

 いずねぇが反応して機械に話しかける。

「「『あの!天使様に会いにきました!』」」

 電話とインターホン越し両方から弥衣さんの声が聞こえる。

 いずねぇがすごい嫌そうな顔しているが僕の知り合いだと知って中へ招き入れた。

「仕事で付近に待機してたんですよね」
「この人は弥衣さんです。記者をしている人で先生の家へよく訪ねてきてくれてました」
「ふーーん」
「マスコミとしてうちの近くに待機してるなんて零梛と知り合いと言ってたけど利用したいだけじゃないの~?」

 いずねぇも母もすごく警戒しているようだ。

「そんなことないですよ。3年ほど前に出会ったのですが僕のこと誰にも話さないでいてくれたんです」
「零梛を独占できる機会を棒に振る馬鹿はいません」
「お母さんの言う通りです」

 さすがの弥衣さんもちょっと呆気に取られた顔をしている。

「じゃあ二人には立ち会ってもらわなくていいです。弥衣さん他のところへ行きましょう」
「はいっ!天使様が望むならどこまでも…///」
「集合。私が悪かった」

 結局四人で座って弥衣さんの話を聞く。

「貴女のお姉さん。稜梛さんが小夜さんを頼って誘拐をしたっていうのはもう聞いた?」
「はい、ついさっき」
「そう。私が小夜さんと初めて会った日。信用も勝ち取る前の私に話してくれたんです。小夜さんが願いは何か」

 僕が聞きたいと思ったことだ。そうなんだ、そうなんだけど、僕はなんだか聞いてはいけないような。聞いてしまうのはなにか違うような。そんな気がしてしまう。

「あ、あの…やっぱり僕は聞かないでおきます。お母さんといずねぇで聞いてください」
「本当にいいの?」
「はい、僕には先生の声を聞く覚悟が足りません。随分臆病になったみたいです」

 身体は冷たく心臓の鼓動が痛い。先生の意思は僕の心の拠り所となる思い出を素晴らしいものにも、地の底まで落とすことも容易にできてしまう。であるならば僕は現状維持を望む。

 貴女の育てた僕は勇ましくはなれませんでした。

 僕は荷物を持って僕の部屋だと指された部屋へ移動する。整理したら、キッチンを借りてコーヒーでも淹れよう。




 しばらく時間が経って、キッチンに移動してコーヒーをちょうど淹れ終わった頃に母が呼びにくる。話が終わったんだろう。三人の元へ移動するとどこか思い詰めた表情を向けられる。

「話聞いたの。貴方の聞かないという判断は尊重する。その上で聞かせてほしいことがあるの」

 母は真剣な目で僕を見る。

「今日会ったばかりかもしれないけど母親であるあたしと稜梛と信頼している弥衣に言って見て?」


「貴方は鷲倉小夜をどう思っているの?」





「どう…って…そりゃ…大好きで、信頼していて、愛しています」

「じゃあ鷲倉小夜を犯罪者になるよう頼んだ稜梛のことは?原因を作ったあたしのことは?」

「正直なところは…なんとも…運命が噛み合って僕は先生との時間を獲得できたのだと思ってますから」

「なら、今世間に鷲倉小夜が犯罪者であると言われている現状は?」

「悔しいです。先生は法を犯していたとしても過ちは犯していません。断言します」

「それを認めさせる策があるとしたら?」

「やります。先生の側に堂々と居られるよう正真正銘、全力でやります」

「そう。母親としては他の女にそんなに入れ込んで複雑だけれどよくわかったわ」

「鷲倉小夜は貴方を犯罪をきっかけに育てることになりました。その貴方が幸せで素晴らしい人間に育ったんだと、周りが、世界が認めたとしたら…鷲倉小夜は零梛といられると思わない?」


 それが叶うのならどんなに嬉しいか。目的もなく外へ放り出されて、自発的に出たんだと言い聞かせても拭えない過去への未練があった。それが先生との未来のために、僕の未来のために、出来たのなら素晴らしいじゃないか。

 この案が理想論だとして、絶対に叶うとは限らないとして、それでも僕が前は目を向けるきっかけには十分な話だった。

「詳しく聞きます」



ーーーー

「と言った具合なんです。零梛くんが女性に嫌悪感を示さないことも小夜さんの狙い通りで、意図して仕向けられたことなんです」
「素晴らしいと思うけど他人の息子でやること?」
「まぁ、都合が良かったのと、小夜さんの発想の原点である零梛くんだからこそ気持ちが入ってたのもあるんでしょう」
「過去のことは置いといて、いい子に育ったので美味しいところはお姉ちゃんがもらっていくことにするので私的にはまだ勝ちの範囲」
「最初の搾精は私がやりましたけどね」

「「は?」」

 こっちの話も盛り上がったのは零梛は知らない。
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