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第一章

レベルを上げよう!

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ある日俺はクラリスを連れて、レベルを上げるために草原にやってきていた。

「ねぇ、そんな気の遠くなるようなこと本当にするつもり?」

俺の後ろからついて来ているクラリスは口を尖らせて言ってきた。

「うるせぇな、お前が言ったんだろ、部屋に泊める代わりに何でもするって」

俺は睨み返してそう言った。

「う、確かに言ったけどさ…」

そうコイツはずっと馬小屋で暮らしていて、昨日俺に『もう馬小屋で寝るのはもう嫌なの!お願い!何でもするから!』とか言ってせがんで来たのだ。俺は最初断ったが、一歩も引かないので仕方なく認めてやった。

「でもまさかスライム狩りして地道にレベルアップなんて、地味で時間のかかることをするとは思わないじゃない」

「しょうがないだろ、俺はレベル1で、しかも体力が4しかないんだぞ。そんなんでクエストなんて受けられるか」

「それはそうだけどさー」

クラリスは、むー、としてなんだか不満げだ。

「なんだよ、なんか言いたいのか?」

「だってしんどいじゃんそれ!日が暮れるよ!?」

クラリスはかなり嫌そうにしている。だが俺にそんなものはない。RPGと同じで自分を強くするためのレベリングは全く苦とは感じないのだ。逆に隣にやる気のないやつがいる方が集中を削がれてしまう。

「あー、もう分かった。じゃあお前はそこで見ててくれ。お前は俺が死んだ時教会に連れて行く係だ」

「はいはい、じゃあ私は好きにしてていいのね?」

「おう、あ、でもあんまり離れすぎないでくれよ?」

そうして一応の役割ができたところに、ちょうどスライムのよく出る丘に到着した。

○●○

約一時間後

「クラリス!助けて!ヘルプ!ヘールプ!」

俺はとても慎重にスライムを一体ずつ倒していたせいで、スライム達が集まり、巨大化してしまい、手がつけられなくなっていた。

「全く、何やってんの、よ!」

そして横からやってきたクラリスに魔法杖でぶっ叩いてもらった。よし、これで安心ー

「あ、あれ?」

巨大化した影響なのか、スライムは防御力がかなり上がっていた。しかも効いているという感じもせず、そのままどんどん迫ってきていた。

「に、逃げろぉぉ!!」

俺たちにはもう打つ手がなく、全力で逃げ出した。だが巨大スライムは大きくジャンプをして、俺たちの前に着地した。コイツは動きは遅いが行動範囲は広いようだ。

(くそ、逃げられねぇのか、だったら、やるしかねぇか!)

俺はふところからナイフを取り出し、うぉぉ、と叫びながらスライムへと向かっていった。

しかし、レベル3の俺ではまだまだ非力だったのか、俺の攻撃はバイン、と弾かれ、逆に俺にダメージが入る。

リョウは力尽きた。

「リョウーーーー!!」

やはりダメだった。クラリス、あとは頼んだー

「ったく本当何やってんのよアンタは!」

クラリスは俺を背負って巨大スライムから逃げ出す。だがスライムは先程と同じようにジャンプをして先回りをされてしまう。

「くっ…」

そしてクラリスは再び逆向きに走り出す。スライムもそれに応じて、大きくジャンプをした。

そしてそのタイミングと同時にクラリスは振り返って走り出した。

「はっはっはっ!騙されたわね!そんな姑息な手に三度も引っかかるもんですか!」

そうしてクラリスは捨て台詞を吐き、スライムの丘から抜け出すー

よりも前にスライムに追いつかれてしまった。

「うそ!?そんなジャンプできるもんなの!?」

流石に追いつけないと思っていたのか、クラリスは驚いた表情を浮かべた。しかし、スライムはそんなことなど気にせずに近づいてくる。

「ちょっと待ってよ、逃げられないし攻撃効かないとか…そんなの無理じゃん!!」

クラリスは人1人背負って全力で走っていたので、もう走る体力もなく、その場に座り込んでしまった。もうダメかと思ったが、その時、

「ライトニングブラスト!」

と、どこからかそんな声が聞こえてきた、刹那、巨大スライムに落雷が落ち、スライムが消失した。

「え?」

どれもが突然起こったことで、最初は何が起きたか理解できなかった。

「大丈夫?ケガとかはない?」

後ろから誰かの声が聞こえ、その方向を向くと、赤銅色のローブを羽織った男性が立っていた。

○●○

「ってゆうことがあったのよ!」

クラリスは俺を教会に連れていって復活した後、ギルドへ戻る帰り道、俺が瀕死に陥ってしまったあと、謎の男性に巨大スライムから助けてくれた、というストーリーを長々と話していた。

「それにしてもすごかったなぁ…ローブで顔はあんまり見えなかったけど、きっとカッコいい人なんだろうなぁ……」

そしてそんな話には飽き足らず、妄想までしだす始末である。俺がはぁ、とため息をついていると、

「あ、そういえばあの人からこんなの貰ったんだけど」

そんなことを言って、クラリスは一枚の紙を俺に見せてきた。

「…これは、クエストの紙?」

「うん、『君たちお金に困ってるならこういうのはどうだい?クエストもそんな難易度高くないし報酬もまあまあ良いからぴったりだと思うよ』って言って渡してくれたんだけど、私はお金全然ないし、リョウももうすぐ無くなるでしょ?ちょうどいいかなって」

そしてクラリスは、本当いい人だよねー、とか言っている。だが俺は違い、

「なぁ、それ、怪しくねえか?」

いかにも詐欺とかセールスとかがやってきそうな手口じゃねえのか、といった疑念を感じていた。

「いや、そんなことはないんじゃない?あの人のことだし!」

俺は、お前はその人の何を知ってるってんだ、と言いたかったが、クラリスはその人のことを完全に信じきっていた。もはやここまでくると好きとかそういう感情を超えて、信仰心とかその辺じゃねえのかと思えてくる。

「いや、明らかに怪しいだろ、そんなクエストの紙を持ち歩いてるってこと自体怪しいし、話を聞く限りだと、そんな強い魔法を使える奴がそんな簡単なクエストを持ってるってことも怪しい」

「何よ!リョウはあの人の何を知ってるってゆうの!」

こっちの台詞だ馬鹿野郎。

俺は、コイツはもうダメだと思い、持っていたクエストの紙を破り、

「とりあえずこんな怪しい話は無しだ。ほら、もう帰るぞ」

そう言って後ろを振り返ると、クラリスはなぜか下に俯いていた。

「おい、どうしたクラリス」

「なんで………のよ」

「は?」

「なんでアンタはそんなに人を疑うのよ」

「逆にお前は信じすぎだ。いいか、世の中はいい人ばっかじゃねぇんだよ」

そう言ってさっさと歩くが、クラリスは動く様子はない。

「お前なんなんだよ!さっきからおかしいこと言って!」

「うるさい!そっちこそなんなのよ、すぐ死んで迷惑かけるくせにそんな高圧的な態度で!」

「はあ!?俺は今そんな話してねぇし、それを言うんだったらお前だって役にたってなかったろ!剣士とかに転職してればこんなことにはならなかったわ!」

「それはアンタが昨日認めてくれたじゃない!」

「うるせぇ!文句があんなら魔法の一発でも撃ってみろよ!」

「う、うぅ~!…バカ!!」

クラリスは目に涙を溜めて、赤くなりながら走っていってしまった。

…パーティ始めて1日目なのに、もう前途多難そうです。
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