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「では早速本日の逃避行場所を決めましょう。」
アメリアはすっかりノリノリ乗り気である。一緒に昼食を摂っているから、彼女の賛同を得られたのは心強い事だった。
「手始めは例の場所にしましょう。」
「え、行き成り?」
「最初の関門は難関でなくては舐められてしまうわ。」
そうなのか?そう云うものなのか?
本日の昼食場所は秒で決まった。
程なくして、デイヴィッド殿下に伴われてシャーロットが教室に入って来た。その後ろには、デイヴィッド殿下の側付きを務めるクリストファーとアダムが付き従っている。
クリストファーはマグレイブ侯爵家の三男、アダムはキャンディッシュ伯爵家の次男で、それぞれの兄達は王太子殿下の側近である。
流石に二日目は生徒達も幾分落ち着きを取り戻しているが、シャーロットの姿を目の当たりにすると気も漫ろになってしまう。大半が挨拶をした後も四人が席に着くまで目で追っている。
そんな生徒達を目で追っていたステファニアだったが、席に着いたシャーロットに視線を移せば、彼女の姿はやはり美しかった。
清廉な美しさを湛えて、美しいが故に近寄り難くも見えた。
ステファニアが抱いた小さな違和感。
街の通りをエルリックと歩くシャーロットは、一言で言えば「可憐」であった。
飾り気のないワンピースを纏って黒い艶髪をそのまま背に流し、エルリックと肩を並べ歩く様子は可憐な乙女の姿であった。
乙女の印象とは些細な事で違って見える。可憐も清楚も美しいも、全てシャーロットを形容するのに当て嵌まるのだから、ほんの一瞬目にしただけの印象にそれほど囚われる必要は無いだろう。
けれども小さな違和感とは、魚の小骨の様に記憶の奥に刺さっていつまでも残る。
不思議な事に、親しげに肩を並べていたエルリックとシャーロットが、この教室では一切の関わりを持たない。見る限り、会釈程度の挨拶以外は言葉を交わす事も無かった。
シャーロットがエルリックへ振り返る姿も、エルリックがシャーロットに視線をやる姿も、ステファニアはそのどちらも見掛けることは無かった。
見落としているだけかも知れない。だが、ステファニアはエルリックの直ぐ後ろの席であったから、仮にシャーロットが振り向いてこちらを見たなら気が付くだろう。
辺境伯領で発見されたシャーロットが、王家に保護をされている事が関係しているのか。
義兄は多分、そこのところを知っているのだろう。それは父も。だから父は、あの日、ステファニアが街で二人の姿を見た事を話した際に、シャーロットと一緒にいたのがエルリックであったことを確認したのだろう。
義兄がステファニアに警告をするのは余程の事があるからで、それも何某かの事態が急変するか様相を変えるかしたからなのではなかろうか。
ステファニアが聖女の噂を耳にした頃、聖女とは何ぞやと云うステファニアの素朴な疑問を姉と義兄に話した事がある。三人の考察は「越境者若しくは密入国者」で満場一致であった。あの時の義兄は、聖女について噂以上の事は知らない様に見えた。
あれは前々回のニコラスとの茶会の辺りであったから、丁度半月前の事である。
僅か半月の間に、聖女は子爵家の養女となり、王都へ移り学園に編入した。
王城の一室を住まいと与えられ、学園には第三王子が付き添っている。
「全く訳が解らないわね。」
ステファニアは頭の中で状況整理をしてみたが、それはするだけ無駄な事であると思った。
全然さっぱり解らない。義兄はステファニアを案じている。君子危うきに近寄らず。しかしステファニアは君子などではないから、きっと多分絶対危うきに近付いてしまうだろう。義兄に言わせれば「巻き込まれる」らしい。
「一体、どうやって?」
シャーロットはがっちりと王族と高位貴族の令息達に護られている。王子を護衛する近衛騎士にも護られている。護られすぎて息苦しいほどだろう。
そんな彼女とステファニアが関わるなんて、教室や廊下で擦れ違うくらいしか思い付かない。
「擦れ違うだけで巻き込まれるだなんて、そんな事ってあるかしら。」
ステファニアのクラスは生徒の人数が奇数である。向こう側から二人ずつの席が続いて、最後尾のステファニアは奇跡の一人席であった。最高ポジションを獲得しているステファニアは、絶賛おひとり様満喫中で独り言は言い放題であったから、ついつい頭の中の考察をお口に出して話してしまう。
前の席の男子生徒が、それを聞いているだなんで思いもしないのであった。
「え、」「まあ。」
昼休み、早速アメリアと共に目指す昼食場所へ行ってみれば、そこにはまさかの先客がいた。
いつもは廊下の混雑が治まるのを待ってから、ゆっくり移動をするのだが、狼青年ニコラスに捕まらない為に、授業が終るや否や教室を出た。
多分、クラスの中でも最速で教室を出てきた筈であるのに、それより先に居るだなんて、空でも飛んで来たのだろうか。
何より此処は穴場も穴場、学園の隠れ家的な場所No.1である。こんなところがあるなんて、知らない生徒の方が多いだろう。だからアメリアは、絶対ニコラスに見つからないと踏んで、本日の逃避行場所にここを選んだのである。
「ご機嫌よう、エルリック様。先程ぶりね。」
アメリアがにこりと笑って挨拶する。
部屋の中には、白銀の王子、エルリック・グラハム・ノーマンがサンドウィッチを頬張っていた。
アメリアはすっかりノリノリ乗り気である。一緒に昼食を摂っているから、彼女の賛同を得られたのは心強い事だった。
「手始めは例の場所にしましょう。」
「え、行き成り?」
「最初の関門は難関でなくては舐められてしまうわ。」
そうなのか?そう云うものなのか?
本日の昼食場所は秒で決まった。
程なくして、デイヴィッド殿下に伴われてシャーロットが教室に入って来た。その後ろには、デイヴィッド殿下の側付きを務めるクリストファーとアダムが付き従っている。
クリストファーはマグレイブ侯爵家の三男、アダムはキャンディッシュ伯爵家の次男で、それぞれの兄達は王太子殿下の側近である。
流石に二日目は生徒達も幾分落ち着きを取り戻しているが、シャーロットの姿を目の当たりにすると気も漫ろになってしまう。大半が挨拶をした後も四人が席に着くまで目で追っている。
そんな生徒達を目で追っていたステファニアだったが、席に着いたシャーロットに視線を移せば、彼女の姿はやはり美しかった。
清廉な美しさを湛えて、美しいが故に近寄り難くも見えた。
ステファニアが抱いた小さな違和感。
街の通りをエルリックと歩くシャーロットは、一言で言えば「可憐」であった。
飾り気のないワンピースを纏って黒い艶髪をそのまま背に流し、エルリックと肩を並べ歩く様子は可憐な乙女の姿であった。
乙女の印象とは些細な事で違って見える。可憐も清楚も美しいも、全てシャーロットを形容するのに当て嵌まるのだから、ほんの一瞬目にしただけの印象にそれほど囚われる必要は無いだろう。
けれども小さな違和感とは、魚の小骨の様に記憶の奥に刺さっていつまでも残る。
不思議な事に、親しげに肩を並べていたエルリックとシャーロットが、この教室では一切の関わりを持たない。見る限り、会釈程度の挨拶以外は言葉を交わす事も無かった。
シャーロットがエルリックへ振り返る姿も、エルリックがシャーロットに視線をやる姿も、ステファニアはそのどちらも見掛けることは無かった。
見落としているだけかも知れない。だが、ステファニアはエルリックの直ぐ後ろの席であったから、仮にシャーロットが振り向いてこちらを見たなら気が付くだろう。
辺境伯領で発見されたシャーロットが、王家に保護をされている事が関係しているのか。
義兄は多分、そこのところを知っているのだろう。それは父も。だから父は、あの日、ステファニアが街で二人の姿を見た事を話した際に、シャーロットと一緒にいたのがエルリックであったことを確認したのだろう。
義兄がステファニアに警告をするのは余程の事があるからで、それも何某かの事態が急変するか様相を変えるかしたからなのではなかろうか。
ステファニアが聖女の噂を耳にした頃、聖女とは何ぞやと云うステファニアの素朴な疑問を姉と義兄に話した事がある。三人の考察は「越境者若しくは密入国者」で満場一致であった。あの時の義兄は、聖女について噂以上の事は知らない様に見えた。
あれは前々回のニコラスとの茶会の辺りであったから、丁度半月前の事である。
僅か半月の間に、聖女は子爵家の養女となり、王都へ移り学園に編入した。
王城の一室を住まいと与えられ、学園には第三王子が付き添っている。
「全く訳が解らないわね。」
ステファニアは頭の中で状況整理をしてみたが、それはするだけ無駄な事であると思った。
全然さっぱり解らない。義兄はステファニアを案じている。君子危うきに近寄らず。しかしステファニアは君子などではないから、きっと多分絶対危うきに近付いてしまうだろう。義兄に言わせれば「巻き込まれる」らしい。
「一体、どうやって?」
シャーロットはがっちりと王族と高位貴族の令息達に護られている。王子を護衛する近衛騎士にも護られている。護られすぎて息苦しいほどだろう。
そんな彼女とステファニアが関わるなんて、教室や廊下で擦れ違うくらいしか思い付かない。
「擦れ違うだけで巻き込まれるだなんて、そんな事ってあるかしら。」
ステファニアのクラスは生徒の人数が奇数である。向こう側から二人ずつの席が続いて、最後尾のステファニアは奇跡の一人席であった。最高ポジションを獲得しているステファニアは、絶賛おひとり様満喫中で独り言は言い放題であったから、ついつい頭の中の考察をお口に出して話してしまう。
前の席の男子生徒が、それを聞いているだなんで思いもしないのであった。
「え、」「まあ。」
昼休み、早速アメリアと共に目指す昼食場所へ行ってみれば、そこにはまさかの先客がいた。
いつもは廊下の混雑が治まるのを待ってから、ゆっくり移動をするのだが、狼青年ニコラスに捕まらない為に、授業が終るや否や教室を出た。
多分、クラスの中でも最速で教室を出てきた筈であるのに、それより先に居るだなんて、空でも飛んで来たのだろうか。
何より此処は穴場も穴場、学園の隠れ家的な場所No.1である。こんなところがあるなんて、知らない生徒の方が多いだろう。だからアメリアは、絶対ニコラスに見つからないと踏んで、本日の逃避行場所にここを選んだのである。
「ご機嫌よう、エルリック様。先程ぶりね。」
アメリアがにこりと笑って挨拶する。
部屋の中には、白銀の王子、エルリック・グラハム・ノーマンがサンドウィッチを頬張っていた。
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