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第十四章
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男性なのに長い指が綺麗だと思う。
その指に髪を梳かれながら、サフィリアはその胸元に抱き締められていた。
真っ裸で。
真っ昼間に。
何故なのか、突然夫は帰ってきた。
朝、いつも通りに登城した筈なのに、昼過ぎに帰ってきた。
丁度サフィリアは離縁に向けて絶賛身辺整理中だったのだが、そこをルクスに踏み込まれた。
前もって用意していた離縁誓約書はビリビリに裂かれて千切られて、終いには足でギュッギュッと踏みつけにされた。
それからツカツカツカと歩み寄ってきた夫となんだかんだの後に、怪しく瞳を輝かせた夫によって寝台に引き摺り込まれた。
あんなことやこんなこと、筆舌に尽くしがたい手法で身も心も蕩かされ、今はすっかりスッキリした夫に髪を梳かれている。
「君を願ったのは、私だ」
「へ?」
何を願ったのだろう。離縁?それなら離縁誓約書がもう一枚ある。書き損じに備えて二枚もらっていたから。
「何?どれ、それを寄こしなさい。ビリビリのバリバリに引き千切ってやる」
器用な夫は、サフィリアの髪を指先で梳きながら、離縁誓約書(予備)を寄こせと迫ってきた。
結局、ヘッドボードの中に仕舞っていたのを見つけられて、あろうことが二枚目の離縁誓約書(予備)は蝋燭の炎で焼かれた。
「地獄に堕ちろ、この離縁誓約書め」
夫が何やら呟いたが、背中を向けられていたサフィリアには聞こえなかった。代わりに、ぎゃあぁぁぁという断末魔の叫び声が離縁誓約書から聞こえたような気がした。
「サフィリア」
誓約書を燃やし終えた夫がサフィリアへと振り返った。その前になんか着てほしい。真っ裸で凄まれても、ちょっと。
「君の提出する書類に惚れた」
「へ?」
「誤解しないでほしい。惚れたのは飽くまでも君にだ」
「ええっと」
腑に落ちないサフィリアに、ルクスは打ち明けた。
サフィリアは学園を卒業してから、姉の執務を手伝っていた。姉は、父よりも夫よりも妹の方が遥かに有能であるのを認めていた。サフィリアを側に置き執務のあれこれを任せていた。
そうしてサフィリアが手掛けた書類は王城に提出されて、それを目にしたのがルクスだった。
最初はサフィリアの姉が記した書類だと思った。だが、直ぐにそうではないとわかった。
ある日、所用で登城したサフィリアの姉と話す機会を得た。
「ああ、それは妹ですの。妹は優秀でして、私の権限で任せている仕事がありますのよ。貴方がご覧になった書類とは、妹が書き起こして私がサインしたものですわ」
癖のない誠実な女性らしさが窺われる美しい筆跡。
何より正確に記載された書類は読みやすくわかりやすい。王城に提出するものだから当然ではあるが、それでも彼女の作成した書類は文官であるルクスでさえ認めてしまうものだった。
それから、サフィリアの生家、モーランド伯爵家から提出される書類を目にするのが楽しみになった。
ルクスは、サフィリアがしたためた書類を通して、サフィリアに恋をした。恋心を書類を受け取る度に募らせた。その恋心はとうとう、隠しようもないほどルクスの心を揺さぶった。
ある日、サフィリアは姉のお供として城にきた。その姿を目にした途端、ルクスはバーンと何かに撃ち抜かれた。
それはキューピッドにより、恋の矢で胸を撃ち抜かれた音だった。
その指に髪を梳かれながら、サフィリアはその胸元に抱き締められていた。
真っ裸で。
真っ昼間に。
何故なのか、突然夫は帰ってきた。
朝、いつも通りに登城した筈なのに、昼過ぎに帰ってきた。
丁度サフィリアは離縁に向けて絶賛身辺整理中だったのだが、そこをルクスに踏み込まれた。
前もって用意していた離縁誓約書はビリビリに裂かれて千切られて、終いには足でギュッギュッと踏みつけにされた。
それからツカツカツカと歩み寄ってきた夫となんだかんだの後に、怪しく瞳を輝かせた夫によって寝台に引き摺り込まれた。
あんなことやこんなこと、筆舌に尽くしがたい手法で身も心も蕩かされ、今はすっかりスッキリした夫に髪を梳かれている。
「君を願ったのは、私だ」
「へ?」
何を願ったのだろう。離縁?それなら離縁誓約書がもう一枚ある。書き損じに備えて二枚もらっていたから。
「何?どれ、それを寄こしなさい。ビリビリのバリバリに引き千切ってやる」
器用な夫は、サフィリアの髪を指先で梳きながら、離縁誓約書(予備)を寄こせと迫ってきた。
結局、ヘッドボードの中に仕舞っていたのを見つけられて、あろうことが二枚目の離縁誓約書(予備)は蝋燭の炎で焼かれた。
「地獄に堕ちろ、この離縁誓約書め」
夫が何やら呟いたが、背中を向けられていたサフィリアには聞こえなかった。代わりに、ぎゃあぁぁぁという断末魔の叫び声が離縁誓約書から聞こえたような気がした。
「サフィリア」
誓約書を燃やし終えた夫がサフィリアへと振り返った。その前になんか着てほしい。真っ裸で凄まれても、ちょっと。
「君の提出する書類に惚れた」
「へ?」
「誤解しないでほしい。惚れたのは飽くまでも君にだ」
「ええっと」
腑に落ちないサフィリアに、ルクスは打ち明けた。
サフィリアは学園を卒業してから、姉の執務を手伝っていた。姉は、父よりも夫よりも妹の方が遥かに有能であるのを認めていた。サフィリアを側に置き執務のあれこれを任せていた。
そうしてサフィリアが手掛けた書類は王城に提出されて、それを目にしたのがルクスだった。
最初はサフィリアの姉が記した書類だと思った。だが、直ぐにそうではないとわかった。
ある日、所用で登城したサフィリアの姉と話す機会を得た。
「ああ、それは妹ですの。妹は優秀でして、私の権限で任せている仕事がありますのよ。貴方がご覧になった書類とは、妹が書き起こして私がサインしたものですわ」
癖のない誠実な女性らしさが窺われる美しい筆跡。
何より正確に記載された書類は読みやすくわかりやすい。王城に提出するものだから当然ではあるが、それでも彼女の作成した書類は文官であるルクスでさえ認めてしまうものだった。
それから、サフィリアの生家、モーランド伯爵家から提出される書類を目にするのが楽しみになった。
ルクスは、サフィリアがしたためた書類を通して、サフィリアに恋をした。恋心を書類を受け取る度に募らせた。その恋心はとうとう、隠しようもないほどルクスの心を揺さぶった。
ある日、サフィリアは姉のお供として城にきた。その姿を目にした途端、ルクスはバーンと何かに撃ち抜かれた。
それはキューピッドにより、恋の矢で胸を撃ち抜かれた音だった。
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