アリアドネが見た長い夢

桃井すもも

文字の大きさ
2 / 65

【2】

アリアドネが熱を出した日に参加していた茶会とは、ハデスが仕える王太子殿下の婚約者、公爵令嬢アンネマリーの邸で催された茶会であった。

未だ学生であるアリアドネ達に、貴族婦人の様な公の社交は殆ど無い。
母に連れられて出席する茶会か、王家主催の夜会が出番と言えば出番であって、後はこうして令嬢同士が互いに招き合って茶会を開いている。

それも社交のデモンストレーションである。身近な所から交流を図って、そうして茶会の流儀を身に付けていく。

しかしアリアドネの場合は様相が異なっていた。

アリアドネが呼ばれる先は高位貴族の最上階級に位置する公爵家の邸で、その令嬢アンネマリーはあと数年で王席に入る準王族である。
他に呼ばれる令嬢も皆、ハデスと同じ側近候補の婚約者であるから、同年代の高位貴族令嬢が集まる会となる。

アリアドネの他には、ウォーター侯爵家令嬢のパトリシア。彼女は宰相を務めるランド侯爵家嫡男ブライアンの婚約者である。

もう一人、騎士団長であるレイノルズ伯爵の嫡男ギルバートの婚約者が、マグレイブ伯爵令嬢のヴィクトリアであった。


王太子に仕える三人の子息、そしてその婚約者であるアンネマリーと三人の令嬢達。彼らが未来の王制に関わる事は、その背後の生家が今現在、国内で権勢を振るっていると言うことを意味していた。


王都にある学園は、国内最大の貴族学園である。近年では新興貴族や平民の富裕層が台頭しており、身分を超えた入学が認められる様になって、彼等の子女らも学園には多くいた。

身分の垣根は父の代と比べても随分と低くなり、平民であっても能力のある者もいるのを貴族子女らも認めていたから、学園でもそれなりの交流が図られていた。

けれども、王太子殿下を筆頭に彼に侍る側近候補とその婚約者達は別格である。

彼等の耳目はその親達にも通じているし、下手に関わって面倒な事に巻き込まれるのは御免とばかりに、アリアドネ達は学園の中にあっても何処か遠巻きに見られていた。

言い方を変えるなら「憧れの高貴な集団」なのであった。

しかしそれは平民や低位貴族の考えで、高位貴族の子女らは、学園で共に学ぶこの機会にお近付きになりたいと願っているのは真実だろう。

学園は貴族の社交の縮図である。
卒業してしまえば遠く離れた領地に帰る者は多い。何の為に遥々王都の学園に通うのか。家の為、己の将来の為であるから、アリアドネ達の様な高貴な集団は遠巻きにされながら、機会があるなら繋がりを持ちたいと虎視眈々と狙われる地位でもあった。


その日の茶会の話題も確か、とアリアドネは熱で浮かれた頭で思い出す。
確か、そんな風に高貴な集団に近付かんと行動力を発揮する子女等の話しであった。
そうそう、例えば見目の可憐な令嬢の話し。何と言ったかしら、ふ、ふ、ファニー、そうだわ確かファニーと云う名の令嬢だった。

モンド子爵令嬢ファニー。
ふわふわのミルクティーブラウンの髪に翠色の大きな瞳。何となく覚えがある。
確かに可憐な見目であった。可愛らしい令嬢だったと思う。

茶会の話題の大半は、ファニー子爵令嬢の話しであった。
低位貴族でありながら高位貴族にも、逆に平民の子息らにも幅広い人気を持つのだと言う。

そうだわ、そこでアンネマリー様が「見苦しい」と仰ったのだわ。


アリアドネは記憶を辿る内に、長い夢を見る前の現実、朧げだった記憶が鮮明に思い出されて来た。





あなたにおすすめの小説

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。