ヴィオレットの夢

桃井すもも

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婚約者1

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デイビッドとの婚約が整ってから直ぐ、ヴィオレットはデイビッドと話しをする機会を得た。

二人の余所余所しい空気を察した兄が、妹への言付けをデイビッドに託した。
託した体で、会話を交わす機会を与えた。


そろそろ春も終わりを迎える。
初夏の風が窓から吹き込んでくる。

庭園に香りの良い花が植えられているのだろう。
微かに甘い香りが風に乗って香る。


「ヴィオレット王女殿下」

「ヴィオレットと。」

「...」

自分から呼んでおいて、敬称を外せと云うと黙り込んでしまった。

「ノーフォーク小公爵」

「デイビッドと」

「...」

だから、ヴィオレットも敬称で呼ぶと、デイビッドは名で呼べと云う。

暫しの間、お互い何と呼ぶのか決定しないまま、お茶を含む。

ああ、もう!

気楽な学園生活に馴染み切っていたヴィオレットは、今やなんちゃって王女だと自負している。

王侯貴族に付きものの、やんわりふんわり回りくどい物言いに焦れて来た。

それに、この機会に確認しなければならない事がある。

折角兄が機会を与えてくれたのだ。
時間は有限である。

「では、デイビッド。」

ヴィオレットが名を呼ぶと、面を上げたデイビッドがはっとした表情をする。

この男、まさかこの場でお茶を堪能していたのだわ。

とんでもない男だと、心中ぷりぷりしながらヴィオレットは本題に突入する。

「貴方はこの婚姻を受け入れているのですか?」

聞いた所で、今更反故に出来よう筈も無いのだが、それでも聞いておきたかった。

ディビッドが本心この婚姻関係を望んでいないのであれば、自分達の結婚生活への覚悟を持たなければならない。

「貴女は?」 
この男、質問に質問で返してきたわ。
ヴィオレットは再び心中ぷりぷりする。


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