24 / 33
不実side T
しおりを挟む
クレアが入学してからも、婚約者だからと言って、学園で二人で会うことは出来なかった。
お昼休みも、中には婚約者同士一緒に過ごす者も多いのに、僕達はそのようなことが出来なかった。
傍から見れば、他人同然。こちらから婚約者だと言わなければ、誰にも分からなかった事だろう。
それまでも学園が忙しいから、と親交を重ねられずにいた。
婚約者に会うために、月に一ニ度程度も邸を訪えずにいた。
唯一度の交わりが、僕を縛った。
僕だけではない。
マリアンネは、父と母をも縛った。
低位貴族の令嬢の何を恐れるのだと言われるだろうが、婚約者を得ながら他家の令嬢を汚した事実は重かった。
官吏である父にとっても、こう云う類の醜聞は最も避けなければならない事であったろう。
困窮する子爵家の娘と侮った父は愚かであったと思う。そんな娘に騙された僕同様に。
結果、僕の側にはいつもマリアンネが侍るように付いていた。
当然、クレアの邸を訪問するなど出来なかった。何処で聞きつけるのか、その度にマリアンネが押しかけ騒ぐのだ。父にも祖父にも、関わり合いのある貴族家に言ってやる、貴方に汚されたのだと。
マリアンネは僕達の過ちを子爵家には明かしていないらしかった。
それが脅しに更に力を持たせたのだと思う。
クレアが学園に入学してからもそうだった。
僕の隣は常にマリアンネで、朝も昼も放課後も、マリアンネは僕を離さない。
「クレア様が何を言っても私から離れては駄目よ。」
そんな事を耳元で囁く。
婚約以来、御座なりな交流しか持てずにいたが、流石に卒業の夜会にはクレアと共に出席したかった。
けれどもそれさえマリアンネは許さなかった。そして我が邸で猛烈に騒いだ。
クレアの家から同伴を確認する文が届いた時にも、断りを入れなければならない程に。
どうなっているのかと伺いを立てた来たクレアの父に、両親は何と言い訳をしたのか。
結局僕はマリアンネを伴って夜会に出た。
卒業生達の目がある中、二人で会場に入り、共にダンスを踊り友人たちと互いの門出を祝い合って、それから賑わう会場を後にした。二度ある事は三度ある。
一度の過ちには二度目があった。
卒業式の翌日、クレアの子爵家から婚約の解消の願いを受けた。
絶望した。
もう過ちはマリアンネだけの責任では無いところまで深く滲むように広がっていた。
僕も父も母も、マリアンネの縒った蜘蛛の糸に体中絡め取られて身動出来なかった。
卒業の夜会には、卒業生の親も参加していた。僕とマリアンネは、彼等の目の前で婚約者気取りで過ごした二人として、社交界においてもそう見なされて可怪しく無いだろう。
こんな巫山戯た事を、クレアの両親も不満に思うのは当然であった筈だ。
本来であれば、僕らの不貞を掲げ破棄出来ようところを、爵位の低い家からの申し出であるから穏便に解消という体(てい)を取ったものであった。
伯爵家は官吏の家系だ。
代々王城に勤め仕えて来た。
官吏らしく質素倹約に努めて、父も母も実直な人柄で知られていた。
その評判をかなぐり捨てて、厚顔と思われようとも、クレアの卒業と同時に婚姻すると譲らなかったのは、伯爵家の将来を鑑みての事であったろう。
けれども僕には分かる。
父も母も、過ちを犯しながらも僕がクレアを慕っているのを、彼女と共に生きたいと願っているのを知っていたのだろう。
単(ひとえ)に僕の為に頭を下げて、この婚約を守ってくれたのだ。
クレアの卒業と同時に僕と婚姻させると、解消を願う子爵家に対して決して譲らなかった。
お昼休みも、中には婚約者同士一緒に過ごす者も多いのに、僕達はそのようなことが出来なかった。
傍から見れば、他人同然。こちらから婚約者だと言わなければ、誰にも分からなかった事だろう。
それまでも学園が忙しいから、と親交を重ねられずにいた。
婚約者に会うために、月に一ニ度程度も邸を訪えずにいた。
唯一度の交わりが、僕を縛った。
僕だけではない。
マリアンネは、父と母をも縛った。
低位貴族の令嬢の何を恐れるのだと言われるだろうが、婚約者を得ながら他家の令嬢を汚した事実は重かった。
官吏である父にとっても、こう云う類の醜聞は最も避けなければならない事であったろう。
困窮する子爵家の娘と侮った父は愚かであったと思う。そんな娘に騙された僕同様に。
結果、僕の側にはいつもマリアンネが侍るように付いていた。
当然、クレアの邸を訪問するなど出来なかった。何処で聞きつけるのか、その度にマリアンネが押しかけ騒ぐのだ。父にも祖父にも、関わり合いのある貴族家に言ってやる、貴方に汚されたのだと。
マリアンネは僕達の過ちを子爵家には明かしていないらしかった。
それが脅しに更に力を持たせたのだと思う。
クレアが学園に入学してからもそうだった。
僕の隣は常にマリアンネで、朝も昼も放課後も、マリアンネは僕を離さない。
「クレア様が何を言っても私から離れては駄目よ。」
そんな事を耳元で囁く。
婚約以来、御座なりな交流しか持てずにいたが、流石に卒業の夜会にはクレアと共に出席したかった。
けれどもそれさえマリアンネは許さなかった。そして我が邸で猛烈に騒いだ。
クレアの家から同伴を確認する文が届いた時にも、断りを入れなければならない程に。
どうなっているのかと伺いを立てた来たクレアの父に、両親は何と言い訳をしたのか。
結局僕はマリアンネを伴って夜会に出た。
卒業生達の目がある中、二人で会場に入り、共にダンスを踊り友人たちと互いの門出を祝い合って、それから賑わう会場を後にした。二度ある事は三度ある。
一度の過ちには二度目があった。
卒業式の翌日、クレアの子爵家から婚約の解消の願いを受けた。
絶望した。
もう過ちはマリアンネだけの責任では無いところまで深く滲むように広がっていた。
僕も父も母も、マリアンネの縒った蜘蛛の糸に体中絡め取られて身動出来なかった。
卒業の夜会には、卒業生の親も参加していた。僕とマリアンネは、彼等の目の前で婚約者気取りで過ごした二人として、社交界においてもそう見なされて可怪しく無いだろう。
こんな巫山戯た事を、クレアの両親も不満に思うのは当然であった筈だ。
本来であれば、僕らの不貞を掲げ破棄出来ようところを、爵位の低い家からの申し出であるから穏便に解消という体(てい)を取ったものであった。
伯爵家は官吏の家系だ。
代々王城に勤め仕えて来た。
官吏らしく質素倹約に努めて、父も母も実直な人柄で知られていた。
その評判をかなぐり捨てて、厚顔と思われようとも、クレアの卒業と同時に婚姻すると譲らなかったのは、伯爵家の将来を鑑みての事であったろう。
けれども僕には分かる。
父も母も、過ちを犯しながらも僕がクレアを慕っているのを、彼女と共に生きたいと願っているのを知っていたのだろう。
単(ひとえ)に僕の為に頭を下げて、この婚約を守ってくれたのだ。
クレアの卒業と同時に僕と婚姻させると、解消を願う子爵家に対して決して譲らなかった。
2,267
あなたにおすすめの小説
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
殿下の御心のままに。
cyaru
恋愛
王太子アルフレッドは呟くようにアンカソン公爵家の令嬢ツェツィーリアに告げた。
アルフレッドの側近カレドウス(宰相子息)が婚姻の礼を目前に令嬢側から婚約破棄されてしまった。
「運命の出会い」をしたという平民女性に傾倒した挙句、子を成したという。
激怒した宰相はカレドウスを廃嫡。だがカレドウスは「幸せだ」と言った。
身分を棄てることも厭わないと思えるほどの激情はアルフレッドは経験した事がなかった。
その日からアルフレッドは思う事があったのだと告げた。
「恋をしてみたい。運命の出会いと言うのは生涯に一度あるかないかと聞く。だから――」
ツェツィーリアは一瞬、貴族の仮面が取れた。しかし直ぐに微笑んだ。
※後半は騎士がデレますがイラっとする展開もあります。
※シリアスな話っぽいですが気のせいです。
※エグくてゲロいざまぁはないと思いますが作者判断ですのでご留意ください
(基本血は出ないと思いますが鼻血は出るかも知れません)
※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる