お飾り王妃の日常

桃井すもも

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お飾り王妃の寝所

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 ああ、今日も暇だったわ。
 本日も平和なり。外は曇天なり。

 ん?違ったわ。本日は悲しい事件あり。結局あの厨房の見習い坊やは、塩と砂糖を間違えたのだったわ。

 駄目ね、サーチは出来るけど念力は使えないから、重大情報を坊やに伝えられなかった。      
 可哀想に、料理長に叱られてたわね。
 だってそのスープ、私のだもの。

 むむ?足音。
 弾む足音、奴の足音だわ。
 何で毎晩毎晩、私の寝所に来るのかしら。ひょっこりはんしてないで、さっさと扉を閉めて!

「隣国から取り寄せた羽布団が君に合っているか確かめるのさ」

 毎晩?

「そう、毎晩」

 もう!そう言ってお布団に入ってこないで!

「いい具合だね」

 勿論ですとも。流石隣国。布団のレベルが違うわ。レベチ!

「それ、僕への当てつけかな?」

 いいえ、とんでもない。ちょっと隣国に憧れがあるのよ。旅などしてみたいのよ。

「愛する妻の願いだけど、それは無理かな」

 もう、ケチはあちらへ行って頂戴。
 眠いのよ!一人にして!

「それも無理かな」

 毎晩毎晩あんな事やこんな事を、私に、し、し、仕掛けてくるなんて。もう!

「君を愛してるからね」

 嘘も大概になさいませ。
 ぷい。ぎゃっ!
 なんて所を触るの?そこはダメっていつも言ってるでしょっ!もう~!

 今夜もやっぱり眠れない。
 折角、隣国から最高級羽毛布団を仕入れたのに。ええ、勿論あの侍従がお試しした方ではなくてよ。

 あ奴の邪な企みをサーチしたわたくし、私の布団は侍女に見張らせておきましたもの。

 ふふん、あ奴の悔しそうな顔!
 悔し紛れに王の布団に寝てたわね。
 お下がりされた王の布団ってどう?
 私はお飾り王妃だけれど、
 貴方はお下がり布団王ね!

 ぷふっ、笑えてきちゃう。ぎゃっ、何処触ってるの?
 もう、毎晩毎晩、どうして王は私にこんな事やあんな事をするのかしら。

 まるでそれでは愛のある夫婦みたい。
 ええ、そうよ。
 私、お飾りの王妃ですもの。愛されている訳じゃないのよ。
 これはお仕事。職業王妃よ。
 愛の無い夫婦なんですのよ、私達。

 ああ、今夜も寝かせてもらえない。
 まあ良いわ。昼間寝るから。
 王妃の椅子に座って居眠りするから。してやるから。

 うとうと微睡めば、それはもう王城サーチの始まり。王妃の間から一歩も出ずして王城内を知り尽くす。

 これってアレね、スパイ小説みたい。
 隣国から取り寄せた小説みたい。
 流石、隣国!小説も面白いわね。
 ぎゃー、どこ揉んでるの!
 そこは駄目って言ったじゃない!
 そこも駄目よ!
 私、弱い部位が多いのよ!

 ほらぁ、もう夜明けの鳥の囀りが聴こえるわ?
 朝が来ちゃった。
「ちぅ」
 だからそれも要らないんだってば。
 キスは心を通わせあった者同士がするものよ。

 貴方。王は王だけど、愛まで国に捧げなくても良いのよ。
 貴方の愛する人を愛しても良いのよ、ロビン。





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