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お飾り王妃の食宅
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尼僧、もとい王妃ブリジットは粗食である。
それは幼い頃からの習慣で、別に東の国にいる、「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベる」という吟遊詩人に影響されたのではない。
極少量のライ麦パンと塩味のスープに温野菜は、元より彼女の好物であったし、公爵家でも王城でも幼い頃からこのメニューが基本であった。
勿論、賓客を招く晩餐の席では相手の国の特産物を献立に盛り込み、和やかな歓談で饗すし、ちゃんと美味しいものは美味だと感じている。
唯、粗食が好きなだけなのである。
それが最近、食の好みに変化が見られるようになった。
飯が旨い。育ち盛りの男子のような台詞であるが、朝から食事が楽しみになった。
「今日は何かしら」
それまでは、ミルク多めの紅茶のほかは、朝は果実をつまむくらいで済ませていた。
それが今では、先立って国王に即位した隣国元王太子より贈られた『Newふわふわ最高級羽毛布団Autumn』にくるまって、朝から忍び寄る夫の不埒なお手々をガードしながら、
「今日は何が出るのかしら」
と、朝のメニューを考える。
お腹ぺこぺこ。何かな?何かな?
「最近、食事の量が増えたね」
「ええ、涼しくなってから量をほんのちょっと増やしたつもりが、何だかとっても美味しいのよ」
「良いじゃないか。今まで食が細すぎたのさ」
そういう夫は朝はブラックコーヒーのみである。
甘いマスクで苦味ばしった珈琲って全然似合わないけれど、彼は甘いものが苦手であった。
「羽毛布団のお蔭かしら。それとも、ミシェルの薬草茶かしら」
夏でも冷えた身体であったのが、秋口のこの時期に、それを感じずにいる。
気が付いたら久しく「冷える」という感覚をしばらく感じていない。指先も足先もお腹もぽかぽかしている。
そして兎に角、飯が旨い。
それほど好んで食することのなかった肉も魚も貝類も、量こそ少ないけれど全て美味しく食べられる。
そんな絶好の機会を見逃さない料理長がすかさず献立を変えて、毎食肉やら魚やら、これまでの分を取り返すように品目を増やして御自慢の料理を作ってくれる。
まず、温かな湯気に立ち上る香りを楽しむ。もう食欲を唆られるぅ。
ひとくち含んでゆっくり噛む。
美味しい(しみじみ)。
シンプルな素材の滋味であったり、料理人達が腕に縒りをかけたソースの複雑な味わいであったり、残ったソースまでも惜しくてライ麦パンで拭って食す。
勿論、ミシェルの煎じた薬草茶も欠かさない。
「ありがとう。今日もとても美味しかったわ。料理長にそう伝えてね」
配膳の者に言うのも毎度のことである。
なんだかそうなると力が湧いてくるし、力が湧けば動きたくなる。
自称「役立たずのお飾り王妃」であるが、普通に公務を熟しているブリジットである。それまで使用人に任せていた連絡事も自ずから訪ったり届けてみたり。城内をアクティブに動きまわるようになった。
お腹の大きなメリーが心配で、ちょいちょい厩舎まで様子を見にいくのは日課となった。
それまで王城サーチは耳と目から入る情報であったのを、直に赴くことが増えていった。
サーチ中にいつも「あったらいいな」と思う『念力』であるが、そんな能力などないのだから、気になることは直接に話そうとばかりに現場へ出向く。
鷹揚なのは態度ばかりで、本質が尼僧であるブリジットは、傲慢でもなければ無理難題をふっ掛けることもない。素直に傾聴出来る王妃なのだ。
結果、良く動き・人と接し・良く話すのが功を奏して、お食事時にはすっかりお腹はぺこぺこで、旨い~ともりもり食べる。
「ん?」
なんだかキツいわね。
最近、ドレスがキツくなった。
「ドレスを作り直すなんて無駄遣いはできないわ」
「そうでもないさ。君が落とす金は市井に流れる。散財とばかりは言えないよ」
「でもぉ」
「サイズが変わらずとも、予算を組んで年度ごとに新調するものはあるだろう?先に作ったと思えば良いよ。今年度の予算はまだ残ってるだろう」
そうなのである。
王も王妃も、当然被服費は計上されている。
反物代も、仕立てのお針子たちや刺繍職人といった人件費も、結果そこから給金やらを生み出している。
そうして王侯貴族達の装いは流行の源であるのだから、民へも絶大なる影響を与えている。
年の初めにお披露目されるロビンとブリジットの絵姿であったが、着用しているジャケットやドレスは、商会がレプリカを製作してはショーウィンドウに飾り、手頃な価格の模倣品として売出しては、その年必ず流行るのであった。
「それに、ブリジット」
そう言いながらロビンがさわさわと胸元に手を伸ばす。
「君、触り心地が凄くいい。ここも」
むにむにとお胸を揉む不埒なお手々。
「ちょっとロビン!」
いいだろう?僕の楽しみはこれだけなんだ、と全然可愛くないことを可愛い感じで言う夫。
寝不足だけは解消されないブリジットなのであった。
それは幼い頃からの習慣で、別に東の国にいる、「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベる」という吟遊詩人に影響されたのではない。
極少量のライ麦パンと塩味のスープに温野菜は、元より彼女の好物であったし、公爵家でも王城でも幼い頃からこのメニューが基本であった。
勿論、賓客を招く晩餐の席では相手の国の特産物を献立に盛り込み、和やかな歓談で饗すし、ちゃんと美味しいものは美味だと感じている。
唯、粗食が好きなだけなのである。
それが最近、食の好みに変化が見られるようになった。
飯が旨い。育ち盛りの男子のような台詞であるが、朝から食事が楽しみになった。
「今日は何かしら」
それまでは、ミルク多めの紅茶のほかは、朝は果実をつまむくらいで済ませていた。
それが今では、先立って国王に即位した隣国元王太子より贈られた『Newふわふわ最高級羽毛布団Autumn』にくるまって、朝から忍び寄る夫の不埒なお手々をガードしながら、
「今日は何が出るのかしら」
と、朝のメニューを考える。
お腹ぺこぺこ。何かな?何かな?
「最近、食事の量が増えたね」
「ええ、涼しくなってから量をほんのちょっと増やしたつもりが、何だかとっても美味しいのよ」
「良いじゃないか。今まで食が細すぎたのさ」
そういう夫は朝はブラックコーヒーのみである。
甘いマスクで苦味ばしった珈琲って全然似合わないけれど、彼は甘いものが苦手であった。
「羽毛布団のお蔭かしら。それとも、ミシェルの薬草茶かしら」
夏でも冷えた身体であったのが、秋口のこの時期に、それを感じずにいる。
気が付いたら久しく「冷える」という感覚をしばらく感じていない。指先も足先もお腹もぽかぽかしている。
そして兎に角、飯が旨い。
それほど好んで食することのなかった肉も魚も貝類も、量こそ少ないけれど全て美味しく食べられる。
そんな絶好の機会を見逃さない料理長がすかさず献立を変えて、毎食肉やら魚やら、これまでの分を取り返すように品目を増やして御自慢の料理を作ってくれる。
まず、温かな湯気に立ち上る香りを楽しむ。もう食欲を唆られるぅ。
ひとくち含んでゆっくり噛む。
美味しい(しみじみ)。
シンプルな素材の滋味であったり、料理人達が腕に縒りをかけたソースの複雑な味わいであったり、残ったソースまでも惜しくてライ麦パンで拭って食す。
勿論、ミシェルの煎じた薬草茶も欠かさない。
「ありがとう。今日もとても美味しかったわ。料理長にそう伝えてね」
配膳の者に言うのも毎度のことである。
なんだかそうなると力が湧いてくるし、力が湧けば動きたくなる。
自称「役立たずのお飾り王妃」であるが、普通に公務を熟しているブリジットである。それまで使用人に任せていた連絡事も自ずから訪ったり届けてみたり。城内をアクティブに動きまわるようになった。
お腹の大きなメリーが心配で、ちょいちょい厩舎まで様子を見にいくのは日課となった。
それまで王城サーチは耳と目から入る情報であったのを、直に赴くことが増えていった。
サーチ中にいつも「あったらいいな」と思う『念力』であるが、そんな能力などないのだから、気になることは直接に話そうとばかりに現場へ出向く。
鷹揚なのは態度ばかりで、本質が尼僧であるブリジットは、傲慢でもなければ無理難題をふっ掛けることもない。素直に傾聴出来る王妃なのだ。
結果、良く動き・人と接し・良く話すのが功を奏して、お食事時にはすっかりお腹はぺこぺこで、旨い~ともりもり食べる。
「ん?」
なんだかキツいわね。
最近、ドレスがキツくなった。
「ドレスを作り直すなんて無駄遣いはできないわ」
「そうでもないさ。君が落とす金は市井に流れる。散財とばかりは言えないよ」
「でもぉ」
「サイズが変わらずとも、予算を組んで年度ごとに新調するものはあるだろう?先に作ったと思えば良いよ。今年度の予算はまだ残ってるだろう」
そうなのである。
王も王妃も、当然被服費は計上されている。
反物代も、仕立てのお針子たちや刺繍職人といった人件費も、結果そこから給金やらを生み出している。
そうして王侯貴族達の装いは流行の源であるのだから、民へも絶大なる影響を与えている。
年の初めにお披露目されるロビンとブリジットの絵姿であったが、着用しているジャケットやドレスは、商会がレプリカを製作してはショーウィンドウに飾り、手頃な価格の模倣品として売出しては、その年必ず流行るのであった。
「それに、ブリジット」
そう言いながらロビンがさわさわと胸元に手を伸ばす。
「君、触り心地が凄くいい。ここも」
むにむにとお胸を揉む不埒なお手々。
「ちょっとロビン!」
いいだろう?僕の楽しみはこれだけなんだ、と全然可愛くないことを可愛い感じで言う夫。
寝不足だけは解消されないブリジットなのであった。
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