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【9】番外編 Side R&G
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「フランシス、お母様はどちらかしら。」
「グレース様は本日、王妃様とのお茶会へお出掛けです。」
「まあ、貴方を置いて?」
「クリスを連れて行かれましたから。」
「そう..。仕方が無いわね。」
ローゼリアは十七歳。学園ではこの春二年生になった。
父に良く似た漆黒の髪。瞳は深海を覗き込んだ様な濃いビリジアン。色白な為に唇は紅を塗らずとも紅色に見えている。
容姿ばかりでなく、上背があるのも父親に似たらしく、貴族令嬢にしては幾分背が高い。そこに母親似のほっそりとした柳腰であったから、友人からは舞台女優の様であるとか男装の令嬢が似合うとか勝手なことを言われている。
「なんだ、私では駄目なのかな?」
「そうではないのよ、お父様。ただ、これはお母様と一緒にデザインしたから...」
「ん?首飾りかい?」
「ええ。ほら、ここ。解けてしまいそうなの。ミーシャが悪戯をして。」
ミーシャとは猫である。アーバンノット伯爵家のアイドル、猫のミーシャである。
「ああ、これは酷いな。なんでミーシャの手の届く所に置いたんだ?」
「お父様、ご存知でしょう?ミーシャは名探偵なのよ。どんな所に隠しても探し出してしまうのよ。」
「ははっ、確かに。で、どうするんだ?これを。」
そこでローゼリアは瞳をきらりんと輝かせた。
「それなの。ここを補修しながら新しいパーツを併せてみたくて。」
「それでグレースにアイデアを貰おうとしたのかな?」
「御名答よ、お父様。お父様も名探偵の仲間入りね。」
「ミーシャの仲間か...」
今日から猫の仲間になったロバートは、そこから素早く立ち直る。経営者には切り替えが必須能力であるから。
「では、ローゼリア。君の好きにデザインしてみたらいいだろう。マリーに相談してご覧。彼女が知恵を貸してくれるさ。一層、グレースには内緒で二人でデザインしても面白いんじゃないかな。完成したらグレースにお披露目するといい。」
「まあ!お父様!それってとても素敵なアイデアだわ。お父様は名探偵ではなくて賢者ね!じゃあ、早速マリーに相談しなくちゃ。ぼやぼやしていてはお母様が戻って来てしまうわ。」
スカートの裾を翻す勢いで工房へ向かうローゼリア。
マリーは工房の職人で、R&G商会が発足した当時から勤めている。グレースは彼女を信頼して大切にしていた。
現在、職人頭として工房の職人達を纏めている彼女なら、ローゼリアの相談にも乗って良いアイデアを齎してくれるだろう。
ミーシャのお仲間から賢者へと昇格したロバートは、娘の背中を見つめながら目を細める。
一人娘のローゼリアはアーバンノット伯爵家の嫡子として、将来伯爵家と商会を受け継ぐ事になる。
あの薄い身体に重い荷を背負わせているのだが、ローゼリア自身はそれを幼い頃から自然と受け入れているらしく、こうして商会へも我が庭の様に自由に訪れ、平民の職人達とも良く馴染んでいる。
工房は幼いローゼリアにとっては遊び場であった。パーツはどれも繊細で貴重なものばかりである。例えば、爪の先より小さなアンティークビーズは薄いガラスで出来た吹きガラスであったから、乱暴な扱いをしたなら直ぐに砕けてしまう。そうして二度と手に入らない。ビーズを生み出した古い技術は既に失われて、目の前にある小さなビーズは経年と云う月日が育てた遠い過去の遺物なのである。
そんな貴重な材料の価値を教えてくれたのはマリーであった。悪戯心が疼く年頃にも、これを集めるためにお父様とお母様が苦労なさったのだとか、これは隣国からジョージ様が見付けて下さったのだとか、針が特別細いのは古いビーズの穴にはこれでなければ通らないのだとか、触れて良いもの駄目なものをその理由と共に教えてくれたのもマリーである。
そうして、職人達が巧みな技法で生み出す装飾品の数々を、幼い目に瞳に焼き付けながらローゼリアは育ってきた。
国王陛下が王太子時代に自身の名付け親となってくれたのは知っている。
デヴュタントの際にも、「やあやあ、私のローゼリア。いよいよ素晴らしいレディになったね。良い機会だから王城へ遊びに来ないか。」と、とんでも無いお誘いを受けた。隣のテレシア王妃がうんうんと頷くものだから、少しばかり困った記憶がある。
テレシア王妃は母のグレースを姉の様に慕っているらしく、母は今日の様に度々お茶に誘われている。いつもはフランシスが伴に付くのが、今日はクリスが付いていった行ったと聞いて、ローゼリアは気落ちする自身の心に気が付いている。
クリスはフランシスの長男である。
父親を倣ってアーバンノット伯爵家に仕えるために寄宿制の学校に進んだ後も帝国大学で学んでいたのを、この春、卒業と共にR&G商会へ入社した。
五歳年上のクリスはローゼリアの兄の様な存在である。生まれた時から側にいて、ローゼリアを騎士の様に守ってくれた。
自身の心にある感情に気付いたのは彼が寄宿学校に入った時だった。離れてしまう寂しさの中に、幼馴染以上の離れ難さを覚えた。それから七年、その感情を心の奥底で育てて来た。
実を言えば、今日も彼に会いたかった。
商会には学園が終わったその足で毎日通っているのだから、今日会えずとも明日会える。そう思う先から寂しさが込み上げるのだから仕方が無い。
フランシスに良く似た甘い顔立ち。薄い金の髪に淡い翠の瞳。少しばかり癖のある緩い巻き毛も優しげに見えて彼らしい。
背ばかりは高くて、上背のあるローゼリアも見上げる程で、初めてのダンスのお相手はクリスだった。
「ローゼリア、お帰りなさい。」
「お母様!お戻りになったのね。」
「ええ。テレシア様が貴女の顔を見たいと仰っていらしたわ。そうそう、お土産を頂戴したの。」
工房から戻ればグレースが帰っていた。グレースは、学園から真っ直ぐ商会に来るローゼリアにいつもお帰りなさいと言う。
ローゼリアが来た事が分かってグレースが薄い箱を取り出す。
「まあ、なんて素敵なのかしら。」
「レース編みは公国の名産なのよ。」
レース編みの手袋である。
細く柔らかな糸が繊細な技法で編み込まれ、薄いのにしなやかな触り心地が素晴らしい。公国は王妃の生国で元々同じ一つの国であったから、王国との交流も深い。
「今度、貴女をお茶会にお誘いしたいそうよ。その時に着けて行くと良いわね。」
「嬉しいわ。こんな素敵なものを頂戴出来て。でも、お母様。そのお茶会とは真逆陛下もご一緒なのでは?」
「まあ、あのお方は神出鬼没な方ですから。どれほどお忙しくても貴女が登城したなら必ず嗅ぎ付けてやって来るでしょうね。」
「ふうん、そうか。ならそのお茶会とやら、私もお邪魔しようかな。」
「えっ、お父様、ご招待もされていないのに?」
「大丈夫だろう。従者としてなら。護衛としてと云うのも格好良いな。いいなそれ。」
いいなそれと繰り返すロバートに呆れていると、
「旦那様。お嬢様の従者は私です。」
クリスが割って言う。
「ご安心下さい。陛下からは私がローゼリア様をお守りしますから。」
何故だか本人不在のまま悪者にされたアレックス。それも仕方が無いだろう。アレックスはローゼリアを虎視眈々と狙っている。なんならテレシアも狙っている。あの夫婦はローゼリアを欲しいが為に第一王子の婚約者に据えそうな気配をぷんぷん漂わせている。
ローゼリアは心が温かくなる。
クリスが守ると言ってくれた。喩えそれが彼の務めだとしても、そんなの知ったこっちゃない。
クリスが一緒なら勇気が出る。
クリスが一緒なら怖い物無し。
クリスが一緒なら、この胸が熱くなってとくとくと鼓動が強くなって、恋する心が喜んでしまう。
薄っすらと頬を染めるローゼリアをグレースが目を細めて見つめる。
祖父達に鍛え抜かれたローゼリアである。きっと彼女は、伯爵家当主として商会会頭として立派に立てる事だろう。
その見目から清廉な印象を与えて、同じ年頃の令嬢よりも随分と落ち着いて見られるローゼリアであるが、その内は初穂の様に初々しい柔らかな心を持っている。
世界は広い。磨くほど輝く宝石の様な娘である。広い世の中を見て知って、そうして眩しく輝いて、いつか愛する男性に磨かれ美しい花にも蝶にもなるだろう。
ローゼリアに向けていた視線を夫に移せば、ロバートもまた目を細めて娘を見つめていた。壮年を迎えて目尻に細かいものが増えて来た。それはお互い様であるのだが、彼ばかりは加齢すら渋い魅力となって、熟成された上質の蒸留酒の様に深い味わいとなっている。
グレースは幸せな時を噛み締める。
一日一日、日々は過ぎて、気が付けば守りたいものが増えていった。守ってくれるのは常に夫だ。孤独な最初の婚姻から始まったのが、いつの間にかこんなに豊かな日々へと繋がった。いつからなんて分からない。確かなのは、あの馬車の中でロバートから婚姻の申し込みを受けた瞬間から、道が大きく開けたのだった。
窓の外を見れば、茜に染まる夕焼けの空が広がっている。初夏の夕暮れは淡い桃色が茜に混じって、これから迎える夏の盛の気配を感じさせる。
ローゼリアの未来に新たな息吹を感じて、娘の進む道が大きく舵を取って開ける事を願いながら、大海原に乗り出す船を見送る様にグレースは広がる空を眺めた。
完
✻番外編はこれにて完結となります。お読み頂きました皆様へ心より感謝を申し上げます。本編と併せてお楽しみ頂けましたら幸いです。
「グレース様は本日、王妃様とのお茶会へお出掛けです。」
「まあ、貴方を置いて?」
「クリスを連れて行かれましたから。」
「そう..。仕方が無いわね。」
ローゼリアは十七歳。学園ではこの春二年生になった。
父に良く似た漆黒の髪。瞳は深海を覗き込んだ様な濃いビリジアン。色白な為に唇は紅を塗らずとも紅色に見えている。
容姿ばかりでなく、上背があるのも父親に似たらしく、貴族令嬢にしては幾分背が高い。そこに母親似のほっそりとした柳腰であったから、友人からは舞台女優の様であるとか男装の令嬢が似合うとか勝手なことを言われている。
「なんだ、私では駄目なのかな?」
「そうではないのよ、お父様。ただ、これはお母様と一緒にデザインしたから...」
「ん?首飾りかい?」
「ええ。ほら、ここ。解けてしまいそうなの。ミーシャが悪戯をして。」
ミーシャとは猫である。アーバンノット伯爵家のアイドル、猫のミーシャである。
「ああ、これは酷いな。なんでミーシャの手の届く所に置いたんだ?」
「お父様、ご存知でしょう?ミーシャは名探偵なのよ。どんな所に隠しても探し出してしまうのよ。」
「ははっ、確かに。で、どうするんだ?これを。」
そこでローゼリアは瞳をきらりんと輝かせた。
「それなの。ここを補修しながら新しいパーツを併せてみたくて。」
「それでグレースにアイデアを貰おうとしたのかな?」
「御名答よ、お父様。お父様も名探偵の仲間入りね。」
「ミーシャの仲間か...」
今日から猫の仲間になったロバートは、そこから素早く立ち直る。経営者には切り替えが必須能力であるから。
「では、ローゼリア。君の好きにデザインしてみたらいいだろう。マリーに相談してご覧。彼女が知恵を貸してくれるさ。一層、グレースには内緒で二人でデザインしても面白いんじゃないかな。完成したらグレースにお披露目するといい。」
「まあ!お父様!それってとても素敵なアイデアだわ。お父様は名探偵ではなくて賢者ね!じゃあ、早速マリーに相談しなくちゃ。ぼやぼやしていてはお母様が戻って来てしまうわ。」
スカートの裾を翻す勢いで工房へ向かうローゼリア。
マリーは工房の職人で、R&G商会が発足した当時から勤めている。グレースは彼女を信頼して大切にしていた。
現在、職人頭として工房の職人達を纏めている彼女なら、ローゼリアの相談にも乗って良いアイデアを齎してくれるだろう。
ミーシャのお仲間から賢者へと昇格したロバートは、娘の背中を見つめながら目を細める。
一人娘のローゼリアはアーバンノット伯爵家の嫡子として、将来伯爵家と商会を受け継ぐ事になる。
あの薄い身体に重い荷を背負わせているのだが、ローゼリア自身はそれを幼い頃から自然と受け入れているらしく、こうして商会へも我が庭の様に自由に訪れ、平民の職人達とも良く馴染んでいる。
工房は幼いローゼリアにとっては遊び場であった。パーツはどれも繊細で貴重なものばかりである。例えば、爪の先より小さなアンティークビーズは薄いガラスで出来た吹きガラスであったから、乱暴な扱いをしたなら直ぐに砕けてしまう。そうして二度と手に入らない。ビーズを生み出した古い技術は既に失われて、目の前にある小さなビーズは経年と云う月日が育てた遠い過去の遺物なのである。
そんな貴重な材料の価値を教えてくれたのはマリーであった。悪戯心が疼く年頃にも、これを集めるためにお父様とお母様が苦労なさったのだとか、これは隣国からジョージ様が見付けて下さったのだとか、針が特別細いのは古いビーズの穴にはこれでなければ通らないのだとか、触れて良いもの駄目なものをその理由と共に教えてくれたのもマリーである。
そうして、職人達が巧みな技法で生み出す装飾品の数々を、幼い目に瞳に焼き付けながらローゼリアは育ってきた。
国王陛下が王太子時代に自身の名付け親となってくれたのは知っている。
デヴュタントの際にも、「やあやあ、私のローゼリア。いよいよ素晴らしいレディになったね。良い機会だから王城へ遊びに来ないか。」と、とんでも無いお誘いを受けた。隣のテレシア王妃がうんうんと頷くものだから、少しばかり困った記憶がある。
テレシア王妃は母のグレースを姉の様に慕っているらしく、母は今日の様に度々お茶に誘われている。いつもはフランシスが伴に付くのが、今日はクリスが付いていった行ったと聞いて、ローゼリアは気落ちする自身の心に気が付いている。
クリスはフランシスの長男である。
父親を倣ってアーバンノット伯爵家に仕えるために寄宿制の学校に進んだ後も帝国大学で学んでいたのを、この春、卒業と共にR&G商会へ入社した。
五歳年上のクリスはローゼリアの兄の様な存在である。生まれた時から側にいて、ローゼリアを騎士の様に守ってくれた。
自身の心にある感情に気付いたのは彼が寄宿学校に入った時だった。離れてしまう寂しさの中に、幼馴染以上の離れ難さを覚えた。それから七年、その感情を心の奥底で育てて来た。
実を言えば、今日も彼に会いたかった。
商会には学園が終わったその足で毎日通っているのだから、今日会えずとも明日会える。そう思う先から寂しさが込み上げるのだから仕方が無い。
フランシスに良く似た甘い顔立ち。薄い金の髪に淡い翠の瞳。少しばかり癖のある緩い巻き毛も優しげに見えて彼らしい。
背ばかりは高くて、上背のあるローゼリアも見上げる程で、初めてのダンスのお相手はクリスだった。
「ローゼリア、お帰りなさい。」
「お母様!お戻りになったのね。」
「ええ。テレシア様が貴女の顔を見たいと仰っていらしたわ。そうそう、お土産を頂戴したの。」
工房から戻ればグレースが帰っていた。グレースは、学園から真っ直ぐ商会に来るローゼリアにいつもお帰りなさいと言う。
ローゼリアが来た事が分かってグレースが薄い箱を取り出す。
「まあ、なんて素敵なのかしら。」
「レース編みは公国の名産なのよ。」
レース編みの手袋である。
細く柔らかな糸が繊細な技法で編み込まれ、薄いのにしなやかな触り心地が素晴らしい。公国は王妃の生国で元々同じ一つの国であったから、王国との交流も深い。
「今度、貴女をお茶会にお誘いしたいそうよ。その時に着けて行くと良いわね。」
「嬉しいわ。こんな素敵なものを頂戴出来て。でも、お母様。そのお茶会とは真逆陛下もご一緒なのでは?」
「まあ、あのお方は神出鬼没な方ですから。どれほどお忙しくても貴女が登城したなら必ず嗅ぎ付けてやって来るでしょうね。」
「ふうん、そうか。ならそのお茶会とやら、私もお邪魔しようかな。」
「えっ、お父様、ご招待もされていないのに?」
「大丈夫だろう。従者としてなら。護衛としてと云うのも格好良いな。いいなそれ。」
いいなそれと繰り返すロバートに呆れていると、
「旦那様。お嬢様の従者は私です。」
クリスが割って言う。
「ご安心下さい。陛下からは私がローゼリア様をお守りしますから。」
何故だか本人不在のまま悪者にされたアレックス。それも仕方が無いだろう。アレックスはローゼリアを虎視眈々と狙っている。なんならテレシアも狙っている。あの夫婦はローゼリアを欲しいが為に第一王子の婚約者に据えそうな気配をぷんぷん漂わせている。
ローゼリアは心が温かくなる。
クリスが守ると言ってくれた。喩えそれが彼の務めだとしても、そんなの知ったこっちゃない。
クリスが一緒なら勇気が出る。
クリスが一緒なら怖い物無し。
クリスが一緒なら、この胸が熱くなってとくとくと鼓動が強くなって、恋する心が喜んでしまう。
薄っすらと頬を染めるローゼリアをグレースが目を細めて見つめる。
祖父達に鍛え抜かれたローゼリアである。きっと彼女は、伯爵家当主として商会会頭として立派に立てる事だろう。
その見目から清廉な印象を与えて、同じ年頃の令嬢よりも随分と落ち着いて見られるローゼリアであるが、その内は初穂の様に初々しい柔らかな心を持っている。
世界は広い。磨くほど輝く宝石の様な娘である。広い世の中を見て知って、そうして眩しく輝いて、いつか愛する男性に磨かれ美しい花にも蝶にもなるだろう。
ローゼリアに向けていた視線を夫に移せば、ロバートもまた目を細めて娘を見つめていた。壮年を迎えて目尻に細かいものが増えて来た。それはお互い様であるのだが、彼ばかりは加齢すら渋い魅力となって、熟成された上質の蒸留酒の様に深い味わいとなっている。
グレースは幸せな時を噛み締める。
一日一日、日々は過ぎて、気が付けば守りたいものが増えていった。守ってくれるのは常に夫だ。孤独な最初の婚姻から始まったのが、いつの間にかこんなに豊かな日々へと繋がった。いつからなんて分からない。確かなのは、あの馬車の中でロバートから婚姻の申し込みを受けた瞬間から、道が大きく開けたのだった。
窓の外を見れば、茜に染まる夕焼けの空が広がっている。初夏の夕暮れは淡い桃色が茜に混じって、これから迎える夏の盛の気配を感じさせる。
ローゼリアの未来に新たな息吹を感じて、娘の進む道が大きく舵を取って開ける事を願いながら、大海原に乗り出す船を見送る様にグレースは広がる空を眺めた。
完
✻番外編はこれにて完結となります。お読み頂きました皆様へ心より感謝を申し上げます。本編と併せてお楽しみ頂けましたら幸いです。
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※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
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