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【47】
「あー、お二人とも、気を付けて頂きたい。未来の国王夫妻が我が領内で溺死だなんて洒落にならない。」
国を乱したいのか?と辺境伯は眉を顰めた。
「私に泳ぎを伝授したのは伯爵であろう。その私が溺れる訳が無いだろう。」
「まあ、殿下はそうでしょうな。ですがアテーシア嬢は金槌なんです。あれほど注意してほしいと申したのに。」
辺境伯は、もう!とぷりぷりしながら、
「お二人とも、すっかりバレちゃったね。」と呆れ顔で言った。
辺境伯の言葉にアテーシアは申し訳なく思った。アンドリューの婚約者であるにも関わらず、身分を偽り騎士に混じるアテーシアを、辺境伯夫妻は快く受け入れてくれた。加えて、やはりこちらも身分を偽る王太子殿下を同時に受け入れていたのだから、アンドリューとアテーシアの都合に振り回されたに違い無い。
「私も妻も、このままアテーシア嬢をお預かりするのも吝かではなかったのだ。残念でならないが、まあ、お二人が、ええっと、そのお~、仲良くなったから良いのかな。」
絶対、知ってる。アンドリューに濃厚な口付けで襲われたのを辺境伯は知っている。
アテーシアは絶望した。品行方正が取り柄であった筈なのに、敬愛する辺境伯に不埒な娘と思われただろう。泣きたい。
「アテーシア嬢、泣かなくて良いんだぞ。嫌になったらいつでも此処へおいで。王城なんて窮屈なだけだろう。泳ぎも教えてあげるから、なんなら養女にして「ああ伯爵、心配には及ばない。アテーシアは生涯私の側を離れないし、当然ながら嫌になる事など無いからね。泳ぎなら私が毎日浴槽で教えるから大丈夫だ。全く年寄りとは心配症だね、はははは。」
アンドリューが話しに割り込み何気に辺境伯を年寄り呼ばわりした。そうして呆れ顔の辺境伯を他所に、さあアテーシア帰ろうと、手を差し伸べて来た。帰るって、辺境伯邸ですよね、閣下をジジイ呼ばわりして失礼ですよ。
「ああ、アテーシア嬢、殿下は私をジジイとまでは言ってないよ。」
心の声が漏れちゃったアテーシアに、辺境伯はやんわり抗議した。
突然転がり込んだずぶ濡れの二人を受け入れて、子爵家は余程慌てただろうと思いきや、子爵夫妻はそれほど驚いてはいない様だった。子爵家では、過去にも湖で溺れた者を受け入れていたらしい。
その理由をアテーシアは後々知る事になるのだが、子爵家はあの湖を護りながら、同時に水難者の保護を担って来たのだと言う。
真逆、王太子とその婚約者を保護する日が来るなんて思いもしない事だったろうが、何故か子爵は「やはりあの湖とは、不思議な縁を呼ぶのですな」と、漸く心を通わせた恋人達を感慨深げに見るのであった。
翌朝の朝餉の席は、異様な様子を呈していた。
夫人が昨日から塞ぎ込んでいる。アテーシアをとうとう王家に奪われると、意気消沈しているのだと言う。どうやら夫人は、アンドリューとの婚約を解かれたアテーシアを本気で養女に望んでいたらしく、それらしい事をモールバラ公爵家に打診していたのはアテーシアが王都に戻ってから知った。
そうして問題はもう一つあった。
アテーシアがしくしく泣いている。
スープを一匙掬う度、パンを一切れ千切る度、しくしくしくしく泣いている。
昨晩、アテーシアの愛馬メリーの懐妊が発覚した。晩餐の後、その事実を知らされたアテーシアは呆然として、朝まで一睡も出来なかった。どうやらメリーは、辺境伯領の厩で出会ったナイスな牡馬と恋仲になってしまったらしい。
朝餉の席でも悲しみが止まらない。でも辺境伯夫妻と迎える最後の朝餉を欠席したくはなかったから、しくしく涙を零しながらはむはむパンを食んでいる。
「アテーシア、泣かなくて良いんだよ。どうしてそんなに悲しむ?」
アンドリューが尋ねれば、
「だってメリーと離れ離れになってしまいます。」
アテーシアは涙ながらに答えた。
一晩中泣き続けたのか、瞼がぽってり腫れている。朝一番でアテーシアを見た辺境伯は、そのぽってりお目々を可哀想に思いながら笑ってしまった。
「大丈夫だよ、アテーシア。メリーはここで幸せになるんだよ。そうして沢山仔馬を産むんだ。そうだ、メリーの仔を1頭譲ってもらおう。王城の厩で大切に育てよう。」
アンドリューは食事はそっちのけでアテーシアの肩を抱き寄せ、涙を流しながらパンを食むアテーシアを覗き込んで優しく諭した。
「本当に?」
「ああ、本当だよ。私は君に偽りを言った事があったかな?」
えーと、いっつも嘘つきチュッ
まあ、お話しの最中にく、く、口付けするだなんて!はっ!辺境伯ご夫妻に見られちゃった!何してんのよ馬鹿王子!
「君があんまり可愛いからさ。
さあさあ、もう心配は無いだろう?メリーはここで愛されて沢山仔馬を産むんだよ。」
またまた心の声が漏れていたアテーシアに、アンドリューが甘やかな笑みで答えた。
「だから君はメリーに負けないくらい私の子を沢山産むんだ、解ったね?」
そう言って、うっそりと笑みを漏らすアンドリューに、辺境伯夫妻はすっかり呆れ果ててアテーシアの前途を案じるのだった。
国を乱したいのか?と辺境伯は眉を顰めた。
「私に泳ぎを伝授したのは伯爵であろう。その私が溺れる訳が無いだろう。」
「まあ、殿下はそうでしょうな。ですがアテーシア嬢は金槌なんです。あれほど注意してほしいと申したのに。」
辺境伯は、もう!とぷりぷりしながら、
「お二人とも、すっかりバレちゃったね。」と呆れ顔で言った。
辺境伯の言葉にアテーシアは申し訳なく思った。アンドリューの婚約者であるにも関わらず、身分を偽り騎士に混じるアテーシアを、辺境伯夫妻は快く受け入れてくれた。加えて、やはりこちらも身分を偽る王太子殿下を同時に受け入れていたのだから、アンドリューとアテーシアの都合に振り回されたに違い無い。
「私も妻も、このままアテーシア嬢をお預かりするのも吝かではなかったのだ。残念でならないが、まあ、お二人が、ええっと、そのお~、仲良くなったから良いのかな。」
絶対、知ってる。アンドリューに濃厚な口付けで襲われたのを辺境伯は知っている。
アテーシアは絶望した。品行方正が取り柄であった筈なのに、敬愛する辺境伯に不埒な娘と思われただろう。泣きたい。
「アテーシア嬢、泣かなくて良いんだぞ。嫌になったらいつでも此処へおいで。王城なんて窮屈なだけだろう。泳ぎも教えてあげるから、なんなら養女にして「ああ伯爵、心配には及ばない。アテーシアは生涯私の側を離れないし、当然ながら嫌になる事など無いからね。泳ぎなら私が毎日浴槽で教えるから大丈夫だ。全く年寄りとは心配症だね、はははは。」
アンドリューが話しに割り込み何気に辺境伯を年寄り呼ばわりした。そうして呆れ顔の辺境伯を他所に、さあアテーシア帰ろうと、手を差し伸べて来た。帰るって、辺境伯邸ですよね、閣下をジジイ呼ばわりして失礼ですよ。
「ああ、アテーシア嬢、殿下は私をジジイとまでは言ってないよ。」
心の声が漏れちゃったアテーシアに、辺境伯はやんわり抗議した。
突然転がり込んだずぶ濡れの二人を受け入れて、子爵家は余程慌てただろうと思いきや、子爵夫妻はそれほど驚いてはいない様だった。子爵家では、過去にも湖で溺れた者を受け入れていたらしい。
その理由をアテーシアは後々知る事になるのだが、子爵家はあの湖を護りながら、同時に水難者の保護を担って来たのだと言う。
真逆、王太子とその婚約者を保護する日が来るなんて思いもしない事だったろうが、何故か子爵は「やはりあの湖とは、不思議な縁を呼ぶのですな」と、漸く心を通わせた恋人達を感慨深げに見るのであった。
翌朝の朝餉の席は、異様な様子を呈していた。
夫人が昨日から塞ぎ込んでいる。アテーシアをとうとう王家に奪われると、意気消沈しているのだと言う。どうやら夫人は、アンドリューとの婚約を解かれたアテーシアを本気で養女に望んでいたらしく、それらしい事をモールバラ公爵家に打診していたのはアテーシアが王都に戻ってから知った。
そうして問題はもう一つあった。
アテーシアがしくしく泣いている。
スープを一匙掬う度、パンを一切れ千切る度、しくしくしくしく泣いている。
昨晩、アテーシアの愛馬メリーの懐妊が発覚した。晩餐の後、その事実を知らされたアテーシアは呆然として、朝まで一睡も出来なかった。どうやらメリーは、辺境伯領の厩で出会ったナイスな牡馬と恋仲になってしまったらしい。
朝餉の席でも悲しみが止まらない。でも辺境伯夫妻と迎える最後の朝餉を欠席したくはなかったから、しくしく涙を零しながらはむはむパンを食んでいる。
「アテーシア、泣かなくて良いんだよ。どうしてそんなに悲しむ?」
アンドリューが尋ねれば、
「だってメリーと離れ離れになってしまいます。」
アテーシアは涙ながらに答えた。
一晩中泣き続けたのか、瞼がぽってり腫れている。朝一番でアテーシアを見た辺境伯は、そのぽってりお目々を可哀想に思いながら笑ってしまった。
「大丈夫だよ、アテーシア。メリーはここで幸せになるんだよ。そうして沢山仔馬を産むんだ。そうだ、メリーの仔を1頭譲ってもらおう。王城の厩で大切に育てよう。」
アンドリューは食事はそっちのけでアテーシアの肩を抱き寄せ、涙を流しながらパンを食むアテーシアを覗き込んで優しく諭した。
「本当に?」
「ああ、本当だよ。私は君に偽りを言った事があったかな?」
えーと、いっつも嘘つきチュッ
まあ、お話しの最中にく、く、口付けするだなんて!はっ!辺境伯ご夫妻に見られちゃった!何してんのよ馬鹿王子!
「君があんまり可愛いからさ。
さあさあ、もう心配は無いだろう?メリーはここで愛されて沢山仔馬を産むんだよ。」
またまた心の声が漏れていたアテーシアに、アンドリューが甘やかな笑みで答えた。
「だから君はメリーに負けないくらい私の子を沢山産むんだ、解ったね?」
そう言って、うっそりと笑みを漏らすアンドリューに、辺境伯夫妻はすっかり呆れ果ててアテーシアの前途を案じるのだった。
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