腐っている侍女

桃井すもも

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栗毛の腐令嬢

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てっきり、伯爵令嬢なのだと思った。

社交シーズンのファイナルの夜会で見掛けた令嬢。
栗毛色の髪に翠がかった榛色の瞳。
貴族にあっては落ち着いた色を纏った令嬢。

しかし、彼女は公爵家の令嬢であった。

リッチモンド公爵家に果たして令嬢は居たであろうか。
記憶を辿るも思い当たらない。

それもその筈である。
彼女はデビュタントの直前に母君が生家より相続した爵位を受け継いだと云う。
そうして、この一年を伯爵領で過ごしていた。
彼女こそが伯爵領の女領主であった。

爵位を継承してからは領地に赴き、代官と管財人に付いて領地経営を学び、領地の風土と産業、地域振興に注力する一年を過ごしていたらしい。

社交シーズンに合わせて一旦王都に戻ったらしく、父公爵の人脈を伝って、伯爵領での産業に於ける事業提携について、貴族達との交流を図っていたようだ。

その際は、公爵令嬢ではなくボールドウィン女伯爵を名乗っていたのだから、彼女と公爵令嬢を同一人物と分からなかったのも無理のない事だろう。

家族と極僅かな親しい者たちのみが、彼女の現状を知っていた。

そして、父王もその一人であった。

自分と同じ栗毛色の、良く似た名前の牝馬を駆けて領地を回る。

爵位継承から日が浅く、経営手腕は途上にあったが、若き乙女領主が民に心を寄せるのは、領民達に好意的に受け入れられていたらしい。
何より彼女の背景には、公爵家が控えているのであるから、領地の未来は安定が約束されている。

彼女が仮に他家へ嫁いだとしても、爵位は彼女の元にあり、後に彼女の子孫が受け継ぐ。
嫁ぐもよし、婿を迎えるもよし、彼女の進む道を公爵夫妻は彼女自身の選択に委ねた。どの道を選ぶにしても、領地領民は彼女の血筋が護るのだ。

そこまで聞いて、父王から「彼女を望むか」と聞かれ、欲しいと思った。そうしてそれは願いとなった。
彼女が欲しいと願った。

どうしてそれ程までに望んだのか。高位貴族の令嬢らしからぬ、彼女の貴族としての姿勢に惹かれたのか。
それとも、彼女から向けられるあの奈落のような視線に焦がされたか。

側に侍らせてみれば、垂涎の眼差しで覗き視ては悦に入る。それ程までに望まれて愛を向けられて、元よりこちらが欲っしたものを乞い願わずにはいられない。

陥落したのは、多分、僕のほう。



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