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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

11:魔法発動

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 修行を始めてもう半年が経過した。俺は相変わらず死んでは生き返っているし、エリィもひたすら魔力布衣を磨き続けている。
 以前よりもエリィの魔力量は増え続けており、最近では昼からの狩りでも最後まで魔力切れする事なくついてこれるようになった。

 魔力布衣に関しても成長している。以前は足に溜めるまで時間がかかっていたり、自分が思ってる以上に魔力を動かしてしまったりと、細かい制御は苦手としていた。
 だが今では魔力の移動もスムーズになり、完璧とは言えなくても魔力量の調整も出来ている。身体強化を使い続けた肉体も成長を続けており、努力した成果は確実に実りとなっているのだ。

 以前発見したダンジョンは俺がちょくちょく様子を見に行っている。濃い魔素により多くの魔物が徘徊しているのかと思ったが、実際はなんて事のない雑魚の群ればかりだ。
 魔素によって魔獣と化した小動物がメインで、場所によっては虫などもいた。まだ3階層ぐらいまでしか調べてないが、多分初心者に優しいダンジョンなんだろう。
 エリィの修行が順調に進めば、あのダンジョンに潜らせてもいいかもしれない。
 1人で行う修行と、敵を相手する実践では得られる経験も別だからな。

 そういえばアジトもだいぶ進化している。以前は湖に直接そのまま汗を流しに入っていたが、簡易的な風呂を作る事にも成功した。
 湖の一部を改良し、周りの木を切り倒して板にする。それを隙間なく並べてなど、時間はかかったが立派な風呂になった。
 脱衣所も完備しており、湖側はあえて壁を作らずに広げてある。風呂に入るときは俺が魔法を使って湖から水を掬い上げ温度を上げて湯を沸かし、2人とも入り終われば浄化魔法で綺麗にしてから湖に流す。
 綺麗な湖を汚すのはよくないとエリィにも言われてしまったからな。

 さらに木の根の間のアジトも、今では倉庫がわりになっている。その隣に2人で住めるぐらいの家を建築し、そっちに引っ越したのだ。
 家と言っても伐採した木の板を組み合わせた簡易的な四角い家で、中は広めのベットぐらいしかない。
 毎日魔力回路のマッサージは継続しており、その際に使うベットを広くした結果2人とも同じベットに寝る事になったのだ。

 そして雨対策に家の隣に簡易的な屋根も作った。ご飯を食べたり休む時にも使えるように簡単な椅子も作ってあり、外に出かけられないときはそこで修行をしたりなど。
 ここで暮らすのも快適になってきている。

 今日も朝ご飯を食べた後の修行の時間が始まる。いつもとはちょっと違う内容だけどな。

「さてエリィ、今日はとうとう「魔法ですか!?」」

 俺が話終わるよりも前にエリィが被せてきた。魔力布衣をはじめとした魔力操作にも慣れ、保有する魔力量も増えてきているので魔法に着手する時期が来たのだ。
 嬉しそうに目を輝かせるエリィの頭をポンポンと優しく撫でると、俺は咳払いをして口を開いた。

「そうだ、魔法だ。毎日魔法を使うイメージだけはしていろと言ったが、ちゃんと行っていたかな?」
「はい師匠! もうイメージだけなら大魔法使いです!」
「ははは。それはいい」

 イメージは非常に大事だ。確固たるイメージをちゃんと持てれば、魔法はどんな状態であれ発動する事ができる。
 俺はまず見本を見せるところから始めた。

「魔力の流れをよく見ていろ」

 まずは分かりやすく魔法の発動までをゆっくりと行う。体にある魔力を練り込むようにして集めた後に、ゆっくりと腕の方へと移動させていく。その魔力が手へ伝わっていき魔力が手を包み込むようにして滞留する。
 そこまで持ってきてから、俺はイメージしていた魔法名を唱えた。

「ウォーター……ボール」

 無色だった魔力が一気に属性色に染まり、手のひらの上に水が浮かび始める。あえて魔法名をゆっくり発音したのはこの変化を見て欲しいからだ。
 ボールと発言した時には水が球体へと変化しており、そのまま手のひらの上でぷかぷかと浮いた状態になった。

「こ、これが本当の魔法発動……!!」
「そうだ。今の魔力の流れがエリィには見えているはずだ。今度はエリィが得意な風魔法もやってみよう。今度はあっちの木に当てるから、もう一度よく見ておくといい」
「はい! 師匠!」

 俺はさっきと同じように魔力の流れをゆっくりとエリィに見せながら魔法を発動させる。手に溜まった魔力をイメージしてある魔法へと変化させ、さらにそれを遠くの対象に向けて発動させる。

「ウィンドバレット」

 手から放たれた魔法がまっすぐ飛んでいくと、木の幹にあたりバチンと大きな音が鳴った。むやみやたら木を傷つけたいわけではないので込めた魔力量は少なくしたが、どうやら想像以上に威力が高かったらしい。
 木の幹は音が鳴ると同時に当たった場所が弾け飛び、木の幹は大きな音を立てながら地面へ倒れた。
 その衝撃にエリィの目もまんまるだ。

「あー……、このように魔力の込める量によっては思いがけない威力が出る場合がある。だから魔法は繊細に扱わなければ「凄いです師匠ー!! さすが師匠……さすししょです!」」

 またも言い終わらないうちにエリィが目を輝かせながら俺の胸に飛び込んできた。最近どうもエリィは俺のことを男だと思ってなさそうな節がある。スキンシップが前よりも増えており、この前は一緒に風呂に入ろうなどと言い始めたのだ。前世がある分、エリィは娘にしか見えないのだがな。

 そんな困っている俺にお構いなしでエリィは俺に話しかけてくる。

「師匠! 私もやっていいですか!? いいですか!?!?」
「あーわかったわかった。とりあえずやってみよう、な? ウィンドカッターは危ないから、まずはウィンドバレットからだ」
「はい師匠!!」

 俺は地面から壁を作り出してマトに仕立てる。エリィの魔法イメージ次第だが、さすがにこの分厚い壁を崩すほどの威力は出ないだろう。
 まずは何も考えずに魔法を発動させ、そこに込める魔力の量を調整して威力を上げたり下げたりの感覚も掴んでもらう。
 魔法の発動は今まで行ってきた物の集大成であり、そこにイメージの力が働いて発動ができるので、イメージの中ではすでに大魔法使いなのだから問題はないだろう。

 そうこうしているうちに、エリィの魔力が動き始めた。基礎通り魔力を腹部で感じ、ゆっくりと腕の方へと動かしていく。そこから手のひらの先に魔力を布衣させ、魔法名を発現すれば魔法の発動だ。

「ウインドバレット!!」

 成功した。一瞬でそう思わせるぐらいに魔法操作が完璧だった。エリィの手をを包み込んでいた魔力が風属性へと変化し、土壁に向かってウィンドバレットが飛び出す。
 勢いよく飛び出したウィンドバレットは、俺の予想を超えており軽々と土壁を破壊した。
 そうだ、エリィは天才だったな……俺がこのレベルになるまでどれだけ練習したことか……。
 そんな俺の考えなぞお構いなしに、エリィが満面の笑みで抱きついてきた。

「ししょー!! 出ましたよ! 魔法が出ましたよ!!」
「おう! よくやったぞエリィ」
「えへへへへー」

 俺が頭を撫でると、本当に嬉しそうな笑顔になる。何も考えずに発動した魔法がこの威力だとすると、今後はもっと大きくなる可能性が高い。
 その後も何度か試してみたが、魔法は毎回ちゃんと発動し続けた。その度にエリィが感動して嬉しそうに俺を見つめてくるのがまた可愛い。
 今までは3回に1回しか成功しなかったのが100%成功するようになったんだ。そりゃ嬉しいのだろう。教え子が感動している場面は何度見てもいいものだ。
 そう教え子……だ。もうあんな事にはならないだろう。俺の立場も世界も状況も今は違う。

 エリィは元々風属性が得意なのもあったのだろう、ウィンドバレットにウィンドカッターなど、風属性の初球と中級は大体覚える事ができた。上級以上は魔素も必要になるので、もうちょっと魔力布衣の大きさと硬さの練度があがってからだな。
 しかしこれでやっと魔法の一歩目を踏み出す事が出来たのだ。ここからが修行の正念場よ。
 威力、場所、レール、並列などまだまだやる事はいっぱいあるんだ。くふふふふ、どんどん楽しくなっていくなぁ??

「さてエリィ……っておぉい!」

 エリィは嬉しくなりすぎて魔法を連発し、魔力を使い切ってぶっ倒れていた。気持ちはわからなくもないが、これでは午後の修行に支障が出るではないか。
 ……まぁ今日ぐらいは許してやるか。半年間の基礎訓練から、やっと魔法が発動できたんだ。大変なのはここからだが、俺も精一杯教えていくことにしよう。
 午後は回復した魔力の操作を中心とし、その日もエリィは泥のように眠りについた。
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