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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

16:珍客-1

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 ーー原初の森。
 この大陸に人族達が住み始める以前からずっと存在し続ける森であり、その広さから人族は全てを調査し終わっていない。そこは人の手が入っておらず、動物や草花が自由に生息している。
 古くからの言い伝えには、森の奥には大きな湖があり、そこには水龍が住んでいると考えられていた。森の奥まで出向き、悪ささえしなければ安全な森だとも。
 森の入り口付近では薬草が取れたりするので、安全面からも駆け出しの冒険者が採取クエストを行いにくる場所でもあった。

 中心の湖は全長40kmもありそうなほど大きな湖で、真ん中には小さな小島がある。小島は湖の底まで伸びている山の一部で、最新部には洞穴ほらあながある。
 その洞穴には、伝承の水龍が住んでいた。

(……ん? これは……魔力かな?)

 水龍は大きな魔力を感じて目が覚めた。普段は数年に一度腹が減った時に短時間起きるぐらいで、その辺にいる魚を食べたらすぐに寝てしまう。
 数百年前にも同じように大きな魔力で目覚めた時があり、その時は森を荒らしにきた人族を追い払った時だ。
 あの時は勇者と呼ばれる存在が森の主を倒そうと湖までやってきて、龍の怒りに触れて追い出されたこという逸話がある。

(むぅ。前回と同じように脅せばいなくなるかな?)

 前回も姿を見せて脅したところ、やってきた人族は全員尻尾を巻いて逃げていった。その話がどんどん曲解されていき、原初の森で悪さをすると水流の怒りに触れて大きな災害が起こると伝わっている。
 洞穴から久し振りに外に出て水面を見上げると、うっすらと月明かりが見えるぐらい暗く夜だと感じた。あくびをしながら、なまった体をゆっくりと伸ばす。
 背中に生える折り畳まれた翼もピンと伸ばし、両手と胴体に繋がった尻尾も一緒に伸ばしてひさびさに動く実感を得た。大きさは軽く4mにもなるだろうか。
 全身を伸ばし終わると、水をかき分けながら水面を目指して移動する。

(魔力の感じだと、この前来た人達と比べられないぐらい大きい……。僕の姿に驚いて帰ってくれるかなぁ……)

 水面に到着すると、音を立てないようにそっと顔を出す。魔力の根本を探そうと周りをキョロキョロ見ていると、遠くの方に人間がいるのが見えた。
 気付かれないように水の中へ潜ると、人間がいる方へと水をかき分けながら進んでいく。その途中、また大きな魔力が発動するのを感じた。

(うっ……こ、これは……怖い怖い怖い……!!)

 水龍が感じたのは闇魔法だ。しかも生ある命を刈り取り無にする魔法。そんな魔法が使える人間など聞いたことがない。
 だが森のぬしとして、この森を守る者としては対峙せねばならない。水龍は圧倒的な魔力と恐ろしい闇魔法の持ち主へ、森を荒らさぬように言い付けるために顔を出した。最悪戦うこととなれば全力で相手をする。全力を出したとして勝てない可能性の方が高くても、主としての役目を果たすために。

「……貴公がこの森を荒らす根源か」

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